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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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私の自分かわいさには果てがない。



四年近くもの間、二段ベッドが置かれた六畳間ひとつの古く陰気な借家で同居している
三十歳間近の“兄”こと英則と、“妹”、奈々瀬。
奈々瀬は上下灰色のスェットにだて眼鏡姿で家に籠もり
「あの日」から笑顔を見せなくなった英則のために日々“笑い”のネタを考えている。
保健所で犬の殺処分の仕事をしている英則は一年前、
天井板の一角に隙間を発見したのをきっかけに、帰宅後、屋根裏に潜り込んでは
“妹”を覗く、という行為を繰り返しているのだった……。

***

〝大勢の人をちょっとずつ不快にしてもされた側はいずれ忘れる、
けれど一人の人間を思い切り怒らせたら半永久的に恨まれる〟
こんな簡単な真理さえわからずに人に媚びまくり自分を作りまくり一人勝手に疲れている、
それが本作の主人公。
その癖無意識にか半ば計算か結構小賢しいところもあり、
現実にいたら殴りたくなること請け合いなのに読んでいるぶんにはなぜか愛しい。
それもまた本作の主人公。

人間の複雑な心理をどうしてこうも明快かつあっけらかんと書けてしまうのか、
本谷さんの作品を読むたびに感銘を受けつつ不思議でならない。

この物語に登場する〝きょうだい〟はひと言で言ってしまえば単なる共依存の関係
なんだろうけど、互いの相手の縛り方が普通の共依存者(て表現も何か変だけど)に比べて
個性的に歪んでいて面白い。

さーデートだ買い物映画遊園地ー
クリスマスには二人でディナー年が明けたら初詣ー
誕生日にはプレゼント交換夏は海冬はイルミネーションー
というマニュアル極まりない恋愛関係に鳥肌が立ってしまう性質の私としては
(他人は勝手にやってればいい。自分がやるのが心底苦手)
こういうひねくれにひねくれまくった男女関係は正直死ぬほど羨ましい。

それにしても本作の〝天井裏覗き〟には
江戸川乱歩の〝人間椅子〟に匹敵するインモラルなエロさを感じたな。

おすすめ。



蛇足:
私は主人公の兄と似た感じで、幼いころ
「今こうして喋ってる友人たちは皆それぞれルックスや話す言語や世界が違って
でも自分の周りの人間は自分と同じものに見えていて、
なのに誰もがそれに気づかずにそれぞれの外見・言葉・世界の中で生きてるんじゃ
なかろうか」
というパラノイア的妄想にとり憑かれたことがあります。
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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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