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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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「だから、思い出になってまで生き続けるために、
死をたぐり寄せる人たちと関わりたくないわ。
そんな時間はないんですもの」



第13回吉川英治文学新人賞受賞
必読のアル中小説
1ページごとに笑い泣く、前代未聞の面白さ!
卓抜無類のユーモアとペーソス満載の最新長編。

完全無欠のアル中患者として緊急入院するハメになった主人公の小島容。
全身ボロボロの禁断症状の彼方にほの見える“健全な生活”。
親友の妹さやかの往復パンチ的叱咤激励の闘病生活に次々に起こる
珍妙な人間たちの珍事件……。
面白くて、止まらない、そしてちょっとほろ苦い、話題沸騰、文壇騒然の長編小説。

***

一応フィクションの体裁をとってはいますが、本作はほぼ著者・中島らも氏の自伝。
自らの分身である主人公に〝容(いるる)〟なんてつけてるところが、
己のアル中っぷりをあっけらかんと皮肉っていて面白い。

らもさんは自身の重い経験を面白おかしく書くのが本当にうまく、
うつ病発症時や大麻で刑務所に入れられたときのことを描いた著作に
何度も爆笑させられたものですが、
同じ作家の本というのは読むほどにその書き手の人格が透けて見えてくるもので、
私が読み取ったらもさんのそれは〝純粋で危うい人〟だった。
本作を読んでそのことを改めて痛感した。
彼には物事を深く鋭く洞察できる頭脳と鋭敏な心があり、
けれど精神は子供のように脆く頑ななせいでそれを受け止めきれるタフさも
さらりといなせる大人のずるさも持ち合わせておらず、
人よりくっきりと物が見えるのにそれを許容できない、けれど眼を逸らすこともできない以上
アルコールで視界をぼやけさせるしかなかった。
そうしながら、意地を張った子供のように
「僕は平気だい」
と強がってみせるしかなかった。

作中で彼が生前のエルヴィス・プレスリーが吐いた弱音に大いに立腹するシーンがあるけど、
らもさんはもしかしたらエルヴィスが羨ましかったのかもしれない。
ケガをして泣く子供のように、素直に「つらい」と言えるエルヴィスが。
らもさんは子供は子供でも〝意地っ張り〟な子供だったから、結局最後までそうできなかった。
平気なふりで最後まで冗談ばかり飛ばして道化てみせるしかなかった。
筆致も軽妙ででユーモア溢れる本作に、
それでもどこか寂しさが漂っているように感じられてしまうのはそれが分かるから。
そんな読み方はきっとらもさんの本意じゃないでしょうが。
何も考えずただ単純に「はは、らもさんバカだなあ」と笑いながら読むのが
彼への一番の弔いになるんでしょうが。
ってなんかまた辛気臭いな。やめよう。

一杯飲んだらひっくり返る下戸の私でも、アルコールを
〝夢に出てきた紫色の美味なる液体〟として描写しているシーンでは
「すごいうまそう」などと思ってノドを鳴らしてしまいました。
らもさんやっぱり文章うまいな。
本来なら酒好きの人しか理解・共感できないことを、彼ならではの言い回し&文章力で
そうじゃない人にも分かるようにする、魅力すら感じさせるようにする、
らもさんは自分自身のコントロールはヘタだったけど、文章を操ることにかけては天才だった。

軽いけど深い。
脆いけど強い。
この小説にはらもさんの人となりがそのまんま顕われている。
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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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