昭和の犬／姫野カヲルコ

そんな風に暮らしたいと私は願い、向かったのだろう。



昭和33年、滋賀県のある町で生まれた柏木イク。
嬰児のころより、いろいろな人に預けられていたイクが、
両親とはじめて同居をするようになったのは、
風呂も便所も蛇口もない家だった――。

理不尽なことで割れたように怒鳴り散らす父親、
娘が犬に激しく咬まれたことを見て奇妙に笑う母親。
それでもイクは、淡々と、生きてゆく。
やがて大学に進学するため上京し、
よその家の貸間に住むようになったイクは、
たくさんの家族の事情を、目の当たりにしていく。

そして平成19年。49歳、親の介護に
東京と滋賀を行ったり来たりするなかで、
イクが、しみじみと感じたことは。

ひとりの女性の45年余の歳月から拾い上げた写真のように、
昭和から平成へ日々が移ろう。
ちょっとうれしいこと、すごくかなしいこと、
小さなできごとのそばにそっといる犬と猫。
『リアル・シンデレラ』以来となる、姫野カヲルコ待望の長編小説！

＊＊＊

人間はよく描写されている。
いかにも小説に出てきそうなキャラじゃなく、
そのへんにリアルに普通にいそうな人間、それも
「なんか嫌だな」と生理的嫌悪感＆不可解さを抱かせる人間を書くのが
この作者は非常にうまい。
５歳から５０歳近くまでの主人公・イクの人生には
常に犬という生き物が絡んでいて、最終章のあのシーンを読んだときには
「ああ、このシーンが書きたいから犬を主人公の人生に
沿わせてたんだな」
と納得がいってその魅せ方もうまいと思ったけど、
いかんせん一つひとつのエピソードが凡庸で興味を引くものではないので
読んでいてまったく楽しくなかった。
同じ作者の著作なら〝ハルカ・エイティ〟のほうがよほど
読み物として面白かった。

昭和はこうだったんですよー、
この時代はこんな感じだったんですよー、
という描写も主張が過ぎて鬱陶しい。

直木賞をとるほどのものじゃないというのが感想。
〝ホテルローヤル〟もそうだったけど、
最近の直木賞受賞作はエンタメ小説としても文学作品としても
面白くないものが多くて残念。