「どこへ行くんですか?」
「もっと先だよぉ」
大学に入学して早々、廃部の危機に瀕した落語研究会に入部するはめになった越智健一。
勝手な先輩たちに振り回され、ろくに授業も出られず、そのうえキャンパスで
奇妙な事件が起きて…。
中篇2篇を収録した連作落語ミステリー。
★収録作品★
幽霊寿限無
馬術部の醜聞
***
どちらかというと中高生向きかなー。
文章は非常に読みやすく物語もテンポよく進んでいくのであっという間に読破できますが、
あまりに爽やか&シンプルにまとまりすぎていて二十代後半の自分には少し物足りなかった。
でも十分に楽しめます。
それにしても著者の大倉氏、〝周囲に振り回される主人公〟を書かせたら
右に出る者はいないよなーほんと。〝猟奇的な彼女〟のノベライズとかこの人にしてほしいです。
デビュー作〝ツール&ストール〟とほぼキャラがかぶり気味の振り回されキャラ・越智くんも、
なかなかいい味出してました(デビュー作の主人公・白戸くんには敵いませんが)。
ただそのぶん振り回す側、つまり〝受動キャラ〟じゃなくストーリーや主人公を引っ張っていく
〝能動キャラ〟の個性が弱いのが、この著者の欠点といえば欠点かもしれない。
〝福家警部補の挨拶〟の探偵役・福家警部補も、キャラが薄すぎて犯人を追い詰めるシーンも
迫力&爽快感があまりなかったし。
ストーリーテリング力と構成力はかなりある作家さんであるだけにそこはかなり残念なところ。
本編のあとに著者自身が触れていますが、同じ落語ミステリなら田中啓文氏の
〝笑酔亭梅寿謎解噺(しょうすいていばいじゅなぞときばなし)〟シリーズのほうが
圧倒的にレベルが高い(というか大人向け)。
唯一本作のほうが優れているのは、落語そのものをトリックに使っているところ。
そこは「へーなるほどねえ~!」とうならされました。
落語+ミステリが読みたい人は〝笑酔亭~〟、
落語ミステリが読みたい人は是非本作をどうぞ。
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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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