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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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ワカッチャイルケド、ヤメテドウスル?



29歳、無職の〈俺〉。
寝たきりの祖母を自宅で介護し、大麻に耽る――。
饒舌な文体でリアルに介護と家族とを問う、衝撃のデビュー作。

***

アナーキー&ジャンキーな面と、家族思い&考え深い面を併せ持つ。
人間ってつくづく多面的な生き物だなあと思う。
テレビや新聞等のメディアはある人間の一側面だけを誇張して報道してばっかりだから
ともすれば忘れがちだけど。

お笑い芸人と純文作家の間にはある共通点があって、
それは相手に面と向かっては言いづらいこと、
頭の中ではわかっていても言葉ではうまく表現しかねることを、
的確かつズバっと口にしてくれるとこにある。
本作も要所要所にそういった快感ポイントが埋め込まれていて、
「そうそう、ほんとそうなんだよ!」
と笑ったり怒ったり時に泣いたり、共感・共鳴するのに忙しく
読んでいる最中ろくに休む暇もなかった。

本作が出版された当時話題になった〝ラップ調文体〟は正直ダサい。
でもおそらくモブ氏は狙ってやってるんだろうし、
その軽いノリで自らを律し、励まし、奮い立たせ、
ゆるゆると内に向かって崩れていく精神のアリ地獄に落ちていかないよう心掛ける様が
そのまま文章に顕れているのだと解釈すれば、
必死で逃げる深刻さじゃなくステップを踏んで軽妙に危機を脱する
彼なりのスタンスなのだと解釈すれば、
実に魅力的な表現に思えてくる。
仮にアリ地獄に飲み込まれたら飲み込まれたで、最後に地上へと伸ばした掌は
完全に沈み切る瞬間にビシっとピースサインを形作るに違いないと思えるような、
そんな明るさを感じさせてくれる。

自己陶酔&その場のテンションでどうにでもなる恋愛とは違って、
被介護者と介護者の間の愛情は真にその純度が要求される。
常に現実を目の当たりにしなければならないぶんその愛情は美しくも完璧でもないけど、
でもこの世のどんな愛より本物だ。

本作の主人公(まあ要するにモブ氏本人なんですが)を知って、
「本当にかっこいい人は何やってもかっこいいんだな」ということをしみじみ感じた。
そう思ったのは花村萬月氏の〝王国記シリーズ〟を読んだとき以来だな。
痴呆老人の介護をしようが牛糞まみれで農作業しようが。
小奇麗な身なりと言葉と周辺機器(Ex.♀=アクセサリー、♂=車)で
己を飾っている人間よりよっぽど。

余談ですが私にも寝たきりの父親を介護している友人♀がおり、
まだ若いのに下の世話までしてやり自分のパソコンを投げ壊されて
自腹で二台目を買いに行ったりと常に振り回されっぱなしで、
「正直今のお父さんは好きになれない」と涙と罪悪感の滲んだ声で
懺悔するように電話してきたりしますが、
それでも彼女の父親に対する愛はひしひしと感じるし
私はそんな彼女をとてもかっこいいと思う。

正直内面の格好よさって武器だよな。
本人たちが今どんなに辛くても、それが必ず力になる日が来る。
あ、モブ氏はもうなってるか。
本作は、彼のデビュー作であり同時に芥川賞受賞作でもあります。
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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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