忍者ブログ
読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
[371]  [370]  [368]  [363]  [361]  [359]  [355]  [357]  [350]  [348]  [338
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

魂の自然消滅。



22歳だった。次の日、ぼくは53歳になっていた。

空白の31年。
ぼくは。きみは。ぼくたちは。
少しは幸せだったのだろうか。

銀色の雨にうたれ、肉体を乗っ取られた男。
彼を襲ったのは、不条理でやりきれない、人生の黄金期の収奪。
あらかじめ失われた、愛しい妻との日々。
おぼえのない過去を振り返る彼に、さらなる危険が迫る!

***

たったひとつの冴えたやりかた〟もしくは〝寄生獣〟っぽい作品。
前者はバリバリのSF、後者はSF+人間ドラマ、けれど
SF+本格ミステリ、っていうのはつくづく相容れないものだなーと本作を読んで改めて痛感。
まあそういったジャンル的なことを差し引いても、上に挙げた二作と本作ではそもそも
物語としてのレベルが違うので、本作を読むぐらいなら正直上記二つをおすすめします。

31年後の自分の身体の中で自我を覚醒させた21歳の本物の主人公。
その彼が31年後の世界を見て、自分の過ごした時代とのギャップに逐一驚くわけですが、
そんなもの既にその〝31年後〟の世界を生きている読者には「当たり前だろ」としか思えず
読んでいて退屈極まりない。その手の描写がちょっとだけなら「そりゃそうだろうなあ」と
微笑ましい気持ちにもなりますが、未来の世界に驚く主人公のエピソードがやたら多いので
次第に「もういいよ」と食傷気味に。

ミステリにつきものの殺人パートも、被害者たちが一人を除いて
皆まったく思い入れのない人物ばかりなので(だって初登場時に既に死体だし)、
殺されようがどうしようがまったく何の感慨もない。連続殺人もののミステリなら、普通
殺される人は少なからず生前に主人公と何かしらの絡みがあって、だからこそ殺されたときに
探偵役と一緒に憤ったり感情移入できるわけだし。
でも本作にはそれがないせいで読み進めるのがだるかった。
犯人の動機もえ、そんなこと? という感じだし。
なぜ年齢が高い順に殺していったのか、という、序盤からさんざん引っ張り続けた謎も、
もうコメントする気にもならないくらいありきたりな理由だし。

主人公が、自分の身体を乗っ取っている〝もう一人の自分〟にやたら協力的なのも
不自然に思えた。普通もっと葛藤なり何なりあるでしょ、と。
もちろんそういった描写も出ては来るのですが、彼が抱くどんな不平不満も
所詮は駄々っ子レベルで重みがない。
「あまり不満を抱え続けたりいろいろと考え詰めるとそれがストレスになって寿命が縮まる」
という設定が本作にはあるのですが、それも上記の矛盾を封じるための
著者のこじつけとしか思えなかった。
それだけならまだしも、最後なんかもうご都合主義の王道。ハリウッド映画もびっくりです。
フィクションにしてもあまりに主人公に都合のいい展開に開いた口が塞がらなかった。
ていうか著者、ひょっとして女をバカにしてる?
婚約者にフラれたばかりで男性不信になっている女がゴム無しで男とヤるわけないだろ。
それは主人公にしてもそう。婚約者の両親に挨拶に行く前日に、浮気するだけならまだしも
ナマで
って。
浮気相手の女も、ただでさえきつい状況なのに、普通そんな行きずりもいいところの、しかも
もうすぐ結婚する男の子供なんて生むわけないし。彼女がベツバオリになっていたのなら尚更。
将来人格が変貌してしまうかもしれないのに(妊娠が判明した時点ではそこまで考えが
至らなかったのはわかるけど、あんな異様な雨に打たれた自分は
どこかおかしくなってしまったかもと少しでも考えるはず、という前提でいけば
子供を生むという行為がいよいよ不自然になってくる)。

私ならこんな両親から生まれたくない、絶対に。

最後に西澤氏、基本的に文章が落語・漫談調なので、シリアスなシーンも
何かコミカルで緊迫感に欠けるので、そこをどうにかしてください。
デビュー当時はそんなことなかったのになあ。文章に変なクセがついてしまってる(それは
島田荘司氏もそうなんだけどね。。。)。

あと最後に、もう今の携帯には普通にテレビ電話機能ついてますよ西澤先生。
読んでいてちょっと気になったもので。

〝Snatch〟っていうのは簡単に言うと〝奪い去る〟みたいな意味だけど、
本作からは期待&読むのに費やした時間と体力奪い去られたような気がする。
楽しみにしてたのに。残念。
PR
この記事へのコメント
name
title
color
mail
URL
comment
pass   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

secret(※チェックを入れると管理者へのみの表示となります。)
この記事へのトラックバック
TrackbackURL:
プロフィール
HN:
kovo
性別:
女性
自己紹介:
80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
カレンダー
03 2024/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30
アーカイブ
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
バーコード
ブログ内検索
Copyright © 【イタクカシカムイ -言霊- 】 All Rights Reserved.
Powered by NinjaBlog  Material by ラッチェ Template by Kaie
忍者ブログ [PR]