「いいだろう、受けてやる」
2006年に小説誌等に発表された数多くの短篇ミステリーの中から選ばれた15篇。
2006年推理小説界の概況、ミステリー各賞の歴代受賞リストも付いた、
50年を超える歴史を誇る国内唯一無二の推理年鑑。
★収録作品★
罪つくり/横山秀夫
ホームシック・シアター/春口裕子
ラスト・セッション/蒼井上鷹
あなたに会いたくて/不知火京介
脂肪遊戯/桜庭一樹
標野にて 君が袖振る/大崎梢
未来へ踏み出す足/石持浅海
ラストマティーニ/北森鴻
エクステ効果/菅浩江
落下る/東野圭吾
早朝ねはん/門井慶喜
オムライス/薬丸岳
スペインの靴/三上洸
心あたりのある者は/米澤穂信
熊王ジャック/柳広司
***
作品ごとのレビュー。
◆罪つくり◆
トリックはそこまですごいものじゃないけど、さすがにベテラン作家、
単なるミステリとしてだけじゃなく、人間ドラマとしても読ませる。
ただ、作中に登場するある女性の心理にはあまりリアリティが感じられなかった。
普通の女はあそこまで人間できてません。よってあそこまでしません。
彼女の心理描写にもっとリアリティを感じられたら、本編の主人公である兄弟二人の
絆にももっと感動できたんだけどな。
◆ホームシック・シアター◆
デビュー以来とんと見かけないのでどうしてるんだろう。。。と思っていた作家さんの作品。
こんなところでお目にかかれるとは思いもしなかった。
面白かった。主人公の性格の悪さもここまでくるといっそ清々しい。
ただ、普通これほどの事態になったら、大家さんが「皆さんが迷惑してます」と訪ねて
こないか? そこだけがちょっと納得いかず。
ラストで性格最悪の主人公の印象ががらりと変わる描写のほうが
ミステリ部分よりインパクトが強く、驚きつつも物悲しい気持ちになった。
◆ラスト・セッション◆
正直言って蒼井氏の著作はデビュー作〝キリング・タイム〟からあまり好きじゃなかったんですが、
今回で見方変わりました。面白い! 本編が音楽ミステリで、私が音楽好きだからというわけでは
決してなく(むしろ音楽好きなぶん点が辛くなる)、本当に面白かった。冒頭数行から引き込まれる。
トリックは決して斬新ではなく既に使い古されている感があるものだけど、それを差し引いても
十分にミステリとして、そして何より物語として最初から最後まで惹きつけられた。
(ちょっと登場人物たちがご都合主義的に動きすぎなところもあったけど)
音楽がわかってる人だなーとも思った。昔何かやってたのかな?
おすすめ。
◆あなたに会いたくて◆
男性の最愛の人はいつだって。。。というやつですね。
ミステリとしてはかなりシンプルですが、語りかけるような二人称の文体が
内容と絶妙にマッチしていて、ラストは泣きそうになってしまった。
もうちょっと主人公の背景を書き込んでくれていたらその感動もひとしおだったんですが。
でも良作です。
◆脂肪遊戯◆
〝あまりにも有触れた罪悪〟と作中でも言っているとおり、この手の犯罪をモチーフにした
ミステリはもううんざりするほど多く、本編も読んでいて一度は「またか」と思いかけたのですが、
その犯罪が露呈する(真実が明らかになる)に至るまでの描写が非常に独特で、
単なるミステリを超えた深みを感じさせるものに仕上がっているところはさすが桜庭さん。
ラスト一行は背中に寒気走りました。少年少女の心理を書かせたらうまいよなあーこの人は。
◆標野にて 君が袖振る◆
。。。この作家さんの著作はどうも生理的に受け付けずコメントもしたくないほどなので割愛。
著者の方、そしてファンの皆さんごめんなさい。
◆未来へ踏み出す足◆
既読につき、本編の詳細なレビューはこちら。
◆ラストマティーニ◆
好きな作家さんなのですが、本編にやたらめったら出てくる食べ物描写とクサい会話は
読んでいて正直つらかった。
キャラにも魅力らしき魅力がないし(シリーズをはじめから読んでいないせいも
あるのでしょうが)。
ただ、〝犯人〟の〝動機〟には、女ながらに男のロマンを感じてぞくっときた。
他人を欺き利用する、それは本来マイナスにとられることですが、本編のそれは格好いい。
自分も将来こういう人の騙し方をしてみたいなーと思わせられた作品。
◆エクステ効果◆
こんなオチ予測つくかよ! と、真相に驚くより先にちょっと苛だってしまった。
作中に何度も何度もサブリミナルのように出てくる〝二律背反〟という言葉も
鬱陶しくて仕方なかったし(しかもその言葉の使われ方も素人女のヘタなポエムみたいで
大げさでなく寒気が走ったし)。
さらには主人公が疲れ果てて突っ伏す様を表す擬音が〝へちょーっ〟って。。。昔のマンガか?
ラストはまるで教科書のような、悪い意味できれいすぎる終わり方。
はっきり言って本作を〝ベスト・ミステリーズ〟とは呼びがたい。
それに主人公が客の髪を切る際、敢えて度数の合わないメガネをかけるって。。。
客をナメてんのかと言いたい。
◆落下る◆
知る人ぞ知るガリレオシリーズ。
これまでは出てこなかった内海薫が登場するのは、やはり著者がドラマに合わせた結果
なのでしょうか。
トリック自体もさるものながら、なぜ湯川準教授がそのトリックを考え出したのか、というのが
最大の見所。やっぱり湯川は格好いいなあ。。。
ちなみに本編は、今年十月に放映されたドラマ〝ガリレオΦ(エピソード・ゼロ)〟の元ネタでも
あります。三浦春馬主演のあのドラマを観て興味を持った人はおすすめ。
◆早朝ねはん◆
本編が収録されている〝天才たちの値段〟は発売直後に読んだものの、
主人公が「~だもの」という言葉遣いを連発するのでウザい、という至極どうでもいい記憶しか
残っていなかったので読み直し。
美術ミステリを書く作家陣の中では多少地味な感はありますが、構成・真相、共に素晴らしい。
オチのつけ方も見事のひと言。
「角度を変えてみると真実が見えてくる」、これは〝ギャラリーフェイク〟のフジタも言ってたよな、
そういえば。美術を鑑識する上での共通項なのかもしれないな。
◆オムライス◆
薬丸氏にしてはあんまり。。。という感じ。
何よりすべてにおいて浅はかな主人公がどうしても好きになれず
気づけば一刻も早く読み終えようとページを繰る手が速くなっていた。
オチも簡単に読めちゃったし。。。
内容のインパクトより「あーオムライス食べたくなってきた」と感化された記憶のほうが強い←あほ
ミステリとしてはいまいちでした。子供やそれを取り巻く大人の心理描写は
相変わらずうまいけど。
◆スペインの靴◆
ミステリに出てくる狂人は好きですが変態は好きじゃありません。
よって本編の主人公が終始キモくて仕方なかった。
魅力を感じる登場人物が一人もいないし(しかもほとんどが個性のカケラもない
ステロタイプなキャラばっかりだし)。
変態は変態同士どうぞ仲良くやっててください、としか思えず。
同じ著者でも〝マリアの月〟はクオリティ高かったのになあ。。。
◆心あたりのある者は◆
既読につき、本編の詳細なレビューはこちら。
◆熊王ジャック◆
かのシートンを探偵役にしているところは面白い。
でもあまりにも伏線が分かりづらく、ここから真相を解明するのははっきり言って至難の業。
しかもラストのシートンの語りがあまりに説教臭くてベタでしらけた(いや、彼の考えそのものには
心から同意なのですが)。
本アンソロジーのトリを飾るほどの作品ではないと思う。
以上、レビュー終わり!
蛇足:
本作の表紙↑の銀色の部分、よく見ると人影らしきものが写ってる。
たぶん撮影した人だろうな。気づいたときちょっと吹いた笑
ミステリーだ笑
2006年に小説誌等に発表された数多くの短篇ミステリーの中から選ばれた15篇。
2006年推理小説界の概況、ミステリー各賞の歴代受賞リストも付いた、
50年を超える歴史を誇る国内唯一無二の推理年鑑。
★収録作品★
罪つくり/横山秀夫
ホームシック・シアター/春口裕子
ラスト・セッション/蒼井上鷹
あなたに会いたくて/不知火京介
脂肪遊戯/桜庭一樹
標野にて 君が袖振る/大崎梢
未来へ踏み出す足/石持浅海
ラストマティーニ/北森鴻
エクステ効果/菅浩江
落下る/東野圭吾
早朝ねはん/門井慶喜
オムライス/薬丸岳
スペインの靴/三上洸
心あたりのある者は/米澤穂信
熊王ジャック/柳広司
***
作品ごとのレビュー。
◆罪つくり◆
トリックはそこまですごいものじゃないけど、さすがにベテラン作家、
単なるミステリとしてだけじゃなく、人間ドラマとしても読ませる。
ただ、作中に登場するある女性の心理にはあまりリアリティが感じられなかった。
普通の女はあそこまで人間できてません。よってあそこまでしません。
彼女の心理描写にもっとリアリティを感じられたら、本編の主人公である兄弟二人の
絆にももっと感動できたんだけどな。
◆ホームシック・シアター◆
デビュー以来とんと見かけないのでどうしてるんだろう。。。と思っていた作家さんの作品。
こんなところでお目にかかれるとは思いもしなかった。
面白かった。主人公の性格の悪さもここまでくるといっそ清々しい。
ただ、普通これほどの事態になったら、大家さんが「皆さんが迷惑してます」と訪ねて
こないか? そこだけがちょっと納得いかず。
ラストで性格最悪の主人公の印象ががらりと変わる描写のほうが
ミステリ部分よりインパクトが強く、驚きつつも物悲しい気持ちになった。
◆ラスト・セッション◆
正直言って蒼井氏の著作はデビュー作〝キリング・タイム〟からあまり好きじゃなかったんですが、
今回で見方変わりました。面白い! 本編が音楽ミステリで、私が音楽好きだからというわけでは
決してなく(むしろ音楽好きなぶん点が辛くなる)、本当に面白かった。冒頭数行から引き込まれる。
トリックは決して斬新ではなく既に使い古されている感があるものだけど、それを差し引いても
十分にミステリとして、そして何より物語として最初から最後まで惹きつけられた。
(ちょっと登場人物たちがご都合主義的に動きすぎなところもあったけど)
音楽がわかってる人だなーとも思った。昔何かやってたのかな?
おすすめ。
◆あなたに会いたくて◆
男性の最愛の人はいつだって。。。というやつですね。
ミステリとしてはかなりシンプルですが、語りかけるような二人称の文体が
内容と絶妙にマッチしていて、ラストは泣きそうになってしまった。
もうちょっと主人公の背景を書き込んでくれていたらその感動もひとしおだったんですが。
でも良作です。
◆脂肪遊戯◆
〝あまりにも有触れた罪悪〟と作中でも言っているとおり、この手の犯罪をモチーフにした
ミステリはもううんざりするほど多く、本編も読んでいて一度は「またか」と思いかけたのですが、
その犯罪が露呈する(真実が明らかになる)に至るまでの描写が非常に独特で、
単なるミステリを超えた深みを感じさせるものに仕上がっているところはさすが桜庭さん。
ラスト一行は背中に寒気走りました。少年少女の心理を書かせたらうまいよなあーこの人は。
◆標野にて 君が袖振る◆
。。。この作家さんの著作はどうも生理的に受け付けずコメントもしたくないほどなので割愛。
著者の方、そしてファンの皆さんごめんなさい。
◆未来へ踏み出す足◆
既読につき、本編の詳細なレビューはこちら。
◆ラストマティーニ◆
好きな作家さんなのですが、本編にやたらめったら出てくる食べ物描写とクサい会話は
読んでいて正直つらかった。
キャラにも魅力らしき魅力がないし(シリーズをはじめから読んでいないせいも
あるのでしょうが)。
ただ、〝犯人〟の〝動機〟には、女ながらに男のロマンを感じてぞくっときた。
他人を欺き利用する、それは本来マイナスにとられることですが、本編のそれは格好いい。
自分も将来こういう人の騙し方をしてみたいなーと思わせられた作品。
◆エクステ効果◆
こんなオチ予測つくかよ! と、真相に驚くより先にちょっと苛だってしまった。
作中に何度も何度もサブリミナルのように出てくる〝二律背反〟という言葉も
鬱陶しくて仕方なかったし(しかもその言葉の使われ方も素人女のヘタなポエムみたいで
大げさでなく寒気が走ったし)。
さらには主人公が疲れ果てて突っ伏す様を表す擬音が〝へちょーっ〟って。。。昔のマンガか?
ラストはまるで教科書のような、悪い意味できれいすぎる終わり方。
はっきり言って本作を〝ベスト・ミステリーズ〟とは呼びがたい。
それに主人公が客の髪を切る際、敢えて度数の合わないメガネをかけるって。。。
客をナメてんのかと言いたい。
◆落下る◆
知る人ぞ知るガリレオシリーズ。
これまでは出てこなかった内海薫が登場するのは、やはり著者がドラマに合わせた結果
なのでしょうか。
トリック自体もさるものながら、なぜ湯川準教授がそのトリックを考え出したのか、というのが
最大の見所。やっぱり湯川は格好いいなあ。。。
ちなみに本編は、今年十月に放映されたドラマ〝ガリレオΦ(エピソード・ゼロ)〟の元ネタでも
あります。三浦春馬主演のあのドラマを観て興味を持った人はおすすめ。
◆早朝ねはん◆
本編が収録されている〝天才たちの値段〟は発売直後に読んだものの、
主人公が「~だもの」という言葉遣いを連発するのでウザい、という至極どうでもいい記憶しか
残っていなかったので読み直し。
美術ミステリを書く作家陣の中では多少地味な感はありますが、構成・真相、共に素晴らしい。
オチのつけ方も見事のひと言。
「角度を変えてみると真実が見えてくる」、これは〝ギャラリーフェイク〟のフジタも言ってたよな、
そういえば。美術を鑑識する上での共通項なのかもしれないな。
◆オムライス◆
薬丸氏にしてはあんまり。。。という感じ。
何よりすべてにおいて浅はかな主人公がどうしても好きになれず
気づけば一刻も早く読み終えようとページを繰る手が速くなっていた。
オチも簡単に読めちゃったし。。。
内容のインパクトより「あーオムライス食べたくなってきた」と感化された記憶のほうが強い←あほ
ミステリとしてはいまいちでした。子供やそれを取り巻く大人の心理描写は
相変わらずうまいけど。
◆スペインの靴◆
ミステリに出てくる狂人は好きですが変態は好きじゃありません。
よって本編の主人公が終始キモくて仕方なかった。
魅力を感じる登場人物が一人もいないし(しかもほとんどが個性のカケラもない
ステロタイプなキャラばっかりだし)。
変態は変態同士どうぞ仲良くやっててください、としか思えず。
同じ著者でも〝マリアの月〟はクオリティ高かったのになあ。。。
◆心あたりのある者は◆
既読につき、本編の詳細なレビューはこちら。
◆熊王ジャック◆
かのシートンを探偵役にしているところは面白い。
でもあまりにも伏線が分かりづらく、ここから真相を解明するのははっきり言って至難の業。
しかもラストのシートンの語りがあまりに説教臭くてベタでしらけた(いや、彼の考えそのものには
心から同意なのですが)。
本アンソロジーのトリを飾るほどの作品ではないと思う。
以上、レビュー終わり!
蛇足:
本作の表紙↑の銀色の部分、よく見ると人影らしきものが写ってる。
たぶん撮影した人だろうな。気づいたときちょっと吹いた笑
ミステリーだ笑
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