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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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この傷は私だけのものだ。



つらくて、どれほど切なくても、幸せはふいに訪れる。
かけがえのない祝福の瞬間を鮮やかに描き、心の中の宝物を蘇らせてくれる珠玉の短篇集。

★収録作品★

 幽霊の家
 「おかあさーん!」
 あったかくなんかない
 ともちゃんの幸せ
 デッドエンドの思い出

***

今までで一番よく書けた作品であるとのよしもとばななさんの発言に興味をそそられ
手にとってみた本作。

(Wikipediaより↓)
出産し子供ができるともう悲惨な話は書けなくなるよと人に言われ、
今のうちに悲惨な事や辛い事などを清算しようと考えて書いたという。
妊娠中に悲惨な話を書くことは辛かったが、
「もう書けなくなるかもしれない」という思いの方が強かったと述懐している。


あとがきでも「辛い話ばかりでごめんなさい」と書いている。

。。。そうかあ? というのが私の率直な感想。
表題作〝デッドエンドの思い出〟は確かによくできた、人の人生や命の中にある
言葉にできないぐらい些細なきらめきを見事に文章に表した秀作であるとは思うけど、
ばななさんがそこまで言い切るほどの傑作だとは思えなかった。それなら
〝TUGUMI〟や〝N・P〟のほうがよっぽど胸に迫るものがあったし。
たぶん、〝デッドエンド~〟を書いていたときのばななさんの精神状態やら生活やらが
めっぽうよくて、だからこそ彼女はそう思ったんじゃないのかな、と思う。
人生の一番いいときに聴いた音楽、つけていた香水、そういうのがいつまでも自分の中で
最高の記憶として残るのと同じで。
それにこの短編集が「辛い話ばかり」とも思わなかった。
これぐらいの話は(悲しいけど)フィクションどころか現実世界にもごろごろ転がっているし、
どの短編も設定が悲惨である割りにどこか甘いというかリアルに伝わってくるものがなかったので、
妙に淡々と最後まで読み進めてしまった。だからあとがきを読んだとき
「いや、そんな謝られても。。。」と逆に恐縮してしまったぐらい。
純文学やそっち寄りの小説というのは著者の実体験が元になっている場合が本当に多く、
それでいくとよしもとばななさんは実体験で物語を書いてないなというのが読んでいて直感的に
わかったし、だからこそ〝それを本当に味わったものにしかわからない悲しみ、苦しさ〟というのが
伝わってこなかったんじゃないかなと思う。もちろん彼女も生きていく上で辛い目に遭ったことは
いくらでもあるだろうけど、著作から読み取れる限り彼女が大きな欠落(たとえば幼少期のトラウマ
だったり大きな病気をしたり等)を抱えているとは到底思えないし、仮にそれがあったとしても
彼女にはそこからくる精神的不安定さというものを感じない。最後には自分の足で立てる力を
持つ人だと思う。だからそれが主人公たちにも反映されて、
彼らがどんな不幸に見舞われようと過去にどんな深い傷を負った人間であろうと
「いや、彼らなら何とかなる」と思わせられてしまうんだよな。危うさがないというか。
だから繰り返しになるけど、著者本人が言うほど〝辛い〟小説とは思わなかった。
よく言えばよしもとばななさんは〝強い〟人であり、ちょっと嫌な言い方をすれば
〝お嬢様〟なんだろうな。
表題作〝デッドエンドの思い出〟も、いい話ではあるけどどうにもマンガっぽさが拭えず、
純粋ですれていない人が書いた小説、という印象を受けたし。

ただ、このよしもとばななという人は、他人の抱える苦痛に気づく才能に長けた人だと強く思う。
たとえ自分自身はこの短編集の主人公たちのような経験をしたことがなくても、
そういう経験をした第三者の隠された傷を見抜き、理解し受け止める能力は並じゃないなと。
これは非常に稀で特殊な才能だと思うので今後も大切にしていってほしい(偉そうだけど)。

ところで〝ともちゃんの幸せ〟ですが、これは男の(場合によっては女もだけど)の
バカさ加減を実に的確に書き表していて非常に小気味いい。
世の中の男どもに読ませて回りたいぐらいです。
まあ人間、誰でも「直球で来てくれなきゃわからない、言葉にして言ってくれなきゃ気づけない」
ことのほうが往々にして多いけどね。。。

それにしてもばななさんの書く小説には食べ物の出てくるシーンが多い。
そしてそれがすごい美味そう。
そして〝透明〟という単語がよく出てくる。
これだけ見ても、彼女が真っ直ぐで前向きな心の持ち主であることがわかる。
文章ってほんと怖いぐらい書き手の性格が出るよなあ。。。
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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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