忍者ブログ
読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
[323]  [324]  [320]  [318]  [314]  [313]  [309]  [308]  [305]  [306]  [303
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

どうしてここにいるのかなんて、わからない。



ある日、ビルの屋上で出会った望月景と中川清香。
ある晩、廃工場で出会った椎名純紀と久我誠司。
大人たちから逃れるには「死」しかないと追いつめられ、さまよっていた若い男女に訪れた偶然。
ふたつの出会いがひとつにつながった時、「奇跡」が起きた――。
日本ホラー小説大賞短編賞受賞作家が放つ渾身の書き下ろし小説。

「死ねば、安らぎが手に入ると思った」望月景
「あたしには、あんたが必要なんだ」中川清香
「世界に適応できない者は死んでいく」椎名純紀
「おれはきみを助けたい」久我誠司

絶望の果てに紡ぎ出された、「魂の再生」の物語。

***

沙藤一樹氏は、デビュー作〝D-ブリッジ・テープ〟を読んだときから
「危うい才能の人だな。。。」と思わせられる作家だった。
どんどん進化していくか逆にまったく書けなくなるか、そのどちらかしか道を持たない種類の
物書きだな、と。

正直本作を読み始めたときは、「ああ、後者にいってしまった」とがっかりした。
かちかちした冗長で読みづらい情景描写。
昼ドラや携帯小説並みの陳腐なストーリー展開(妊娠・虐待・精神病etc.、ペラい要素てんこもり)。
この世で自分が一番不幸だと思い、自分に親切にしてくれる人に当り散らす、それでいて
見放されることを過剰に恐れ次の瞬間には泣きついて相手を必死に懐柔しようとする
境界例かと疑いたくなるぐらいにどうしようもないメンヘル女とメンヘル男のW主人公。
挙げ句著者の前著〝X雨〟だけで勘弁してほしかったのにまたしてものやおい描写。
もうほんとどこかの素人がネットにアップしてる自己陶酔系自作小説を読まされているようで
何度本を閉じてしまおうと思ったことか。ていうかこれが沙藤氏の著書じゃなかったら本気で
速攻投げてた。
第二章〝工場〟の少年が煩っている精神疾患は解離性同一性障害とも統合失調症とも
つかない珍妙なものでリアリティに欠けたし(元から非現実的な世界設定ならそれでも
眼をつぶれたのですが、今回は著者にしては珍しく現実に根ざした物語だったので
なおさらそのフィクションくささが気になって仕方なかった)。

もうほんと物語が終わるギリギリの段まで、時間を無駄にしてしまったという後悔しか
なかったのですが、途中で

いろんなボクたちの死の上に、ぼくは立っている。
これまでのように身代わりになってくれるボクは、もういない。


という一文に、単に多重人格のことを言っているのではない、すべての人間に共通する
暗喩的なものを読み取ってから、おっと思い初めて真剣に読み始めた。
その最中「どうしておまえが赤ちゃんのこと知ってんだよ。伏線張っとけよ作者。構成力ねえよ」
と突っ込みたくなる箇所があったものの(意味は読めばわかります)。。。

。。。泣いてしまいました。
最終章〝新宿〟で。
映画や翻訳もの小説とかに多いけど、本作読了後にも
「あー、このラスト3ページを読むためにここまで我慢して読み進めてきたんだな自分は」
と思った。終わりよければすべてよし、だなほんと。
この最終章がメンヘル男女二人だけの描写で終わってたらやはり投げ捨てていたと思いますが、
そこに登場するさらなる二人の登場人物、彼らの存在にこの物語のテーマがすべて
凝縮されていて、本作に深みと心地よい暖かさをもたらしている。

読んでよかったと思いました。
その境地にたどり着くまでがいささか(大いに?)苦痛でしたが。

忍耐力がある人にはおすすめの小説です。

それにしても沙藤氏、最近とんと新作書かないな。
どうしたんだろ。ちょっと心配&残念ですが、まあ気長に待つとします。
ていうか沙藤氏もだけど。。。本作の悲しいぐらいに優しくて強い登場人物、
清香と誠司のその後も非常に気になるところ。彼らはあれからどうなったんだろうか。
優しすぎる人は切ない。だから二人とも幸せになっていてほしい、心からそう願ってやまない。



蛇足:
本作を読んでいる間中、映画〝自虐の詩〟のテーマ曲〝ALL IN ALL〟が
ずっと頭の中に流れていた。
あの映画も心に傷を負った報われない男と女の恋物語だったせいかな。。。
たぶん聴きながら読むと感動が三割増しぐらいになると思うので(そして普通に名曲なので)
BGMに是非どうぞ。
(試聴はこちら
PR
この記事へのコメント
name
title
color
mail
URL
comment
pass   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

secret(※チェックを入れると管理者へのみの表示となります。)
この記事へのトラックバック
TrackbackURL:
プロフィール
HN:
kovo
性別:
女性
自己紹介:
80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
アーカイブ
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
バーコード
ブログ内検索
Copyright © 【イタクカシカムイ -言霊- 】 All Rights Reserved.
Powered by NinjaBlog  Material by ラッチェ Template by Kaie
忍者ブログ [PR]