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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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それぞれの場所へ。

 

雪降るある日、いつも通りに登校したはずの学校に閉じ込められた8人の高校生。
開かない扉、無人の教室、5時53分で止まった時計。
凍りつく校舎の中、2ヵ月前の学園祭の最中に死んだ同級生のことを思い出す。
でもその顔と名前がわからない。どうして忘れてしまったんだろう――。
第31回メフィスト賞受賞作。

***

とにかく登場人物一人ひとりを丁寧に描写する作家さんだと思う。
だからこの人の書く物語に出てくるキャラを、読後一人として忘れたことはない。
そしてそれぞれのキャラに纏わるエピソードづくり、それがもう本当にうまい。
非常に印象的で、それだけでひとつの独立した物語になってしまうような挿話を
次々と持ってくる想像力、これだけで上中下巻(文庫版は上下巻)飽きることなく一気に読める。
最初から最後まで読んでいて本当に楽しかった。
辻村作品は「ああこの世界を離れたくないなあ」と、いつだって自分に思わせる。

ただ彼女の著作に総じて見られる欠点として、
〝ヒロインが守られすぎ〟ということがある。
ヒロインの周囲には常に見た目もよく人間性も兼ね添えているナイトが必ず複数存在する。
それも男として女を守るというだけならまだしも、本来理解できるはずのない
〝異性の心理〟を見事読み取ってその上でヒロインを心配したりするものだから、
「同性ですら難しいそれを異性がやるのはちょっとなあ」と違和感を感じる。
叙述トリックもちょっと食傷気味。実力は十分にある人なのだから、もうそろそろ違う手法で
読み手を驚かせてみてほしい。

女同士が付き合う上での精神的葛藤の描写のうまさは相変わらず鳥肌が立つほど。
きっと著者自身がかつてそういうことに悩んできた繊細な人なのだと思う(まあ繊細じゃなきゃ
小説なんて書けないけど。。。)。
女ならではの精神の弱さ・ずるさ・したたかさ。。。そういったものが本作の〝犯行〟の動機に
なっているのはなかなかに面白かった。まあ〝犯人〟はちょっと詰めが甘いけど、
そこはまだ高校生で子どもだったからということで納得しておきます。

ラストのお祭りシーンでの二人の会話には青臭さを感じてしまい
読んでいてちょっと恥ずかしくなりましたが、それを抜きにすればすごくよくできた
物語だと思う。

人は誰でも常に何かに囚われて生きていて、だけどその見えない檻を
誰にも見せずに生きている。
本作の校舎みたいな場所に閉じ込められれば、人間はもっと相手を(特に嫌いだったり
苦手な相手を)違った視点で見れるのに、と、少しやるせなくなってしまった。

ところで一番最後のあのシーンは、幽霊、もしくは幻、そういう解釈でいいのかな。
こんな風に突き詰めるほうが野暮なのかな。
何にせよ気持ちのいいシーンだった。

因みにこのマンガに収録されている〝Field of dreams!〟および〝Escape from!!〟は
本作とまったく同じ趣旨の物語なので、本作が面白く読めた人には非常におすすめ。

553.gif
 
 
 
 



追記:2018年再読。
ラストのあのシーンは、「死んだあのひと」が精神世界から解放されたのだと
今更ながらわかる。
そして深月と景子にイラっときた。ひとの迷惑を微塵も考えないメンヘラと
男っぽさを前面に出しながら実は誰よりも「女」が強いあいつに。
でもやっぱりいい物語であることに変わりはない。
辻村氏の最新作「青空と逃げる」はつまらな過ぎて読むのが苦痛で
早々にほっぽりだしたので、このころみたいな物語をまた書いてほしいなあと
切に願う。
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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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