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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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馬鹿みたいだったけど、
あれが恋愛じゃなかったらあたしは恋愛を知らない。



あたしってなんでこんな生きてるだけで疲れるのかなあ。
25歳の寧子は、津奈木と同棲して三年になる。鬱から来る過眠症で引きこもり気味の生活に
割り込んできたのは、津奈木の元恋人。その女は寧子を追い出すため、執拗に自立を迫るが…。
誰かに分かってほしい、そんな願いが届きにくい時代の、新しい“愛”の姿。
芥川賞候補の表題作の他、その前日譚である短編「あの明け方の」を収録。

★収録作品★

 生きてるだけで、愛。
 あの明け方の

***

まず言いたいのは、この話の主人公はうつ病じゃないだろってこと。
精神疾患っていうのはどの病気でも根っこは繋がってるから
もちろんうつに似た症状も作中で描写されてはいるんだけど、
基本的にこのヒロインはうつではなくて〝境界例(ボーダーライン)〟。
たとえ軽度だとしても、うつ病の人間はここまで他人を責めたり外出したりできません。
まあ多少苦しさから人に八つ当たりしたり攻撃的になったりするけど、このヒロインはちょっと凄すぎ。
むしろ自分を認めてくれない相手への執拗な攻撃や自分と人の間に異常なまでの隔絶を感じるのは
まさにボーダーの人の特徴。
本谷さんは大好きな作家さんですが、そのへんはちょっと認識不足な気がした。

でもやっぱり、この著者は本業が戯曲作家であるせいか
文章のリズムがとても心地よく表現がいちいちクソ面白い(汚い表現すいません)。
しょっぱなからもうずっと、ページを繰るたびに腹を抱えて笑わせてもらった。
(特に最近、映画〝シャイニング〟を観たばっかりだったので、作中にそれが出てきたときは
笑いすぎて腹がねじ切れるかと思った)

そしてヒロインの恋人である津奈木、彼のキャラが秀逸。
ものすごく普通の人なのに実はそうじゃないんだよというオーラが彼の内面から滲み出していて、
そんな風に彼の秘められた魅力を読者に伝えられる本谷さんの力量にはただただ舌を巻くばかり。
ふたりの(たった一度しか出てきませんが)デートの際の会話もものすごく好きです。
私はこんな会話をしてくれる人と(冗談抜きで)結婚したい。
(ちなみに読んでいる間中、脳内では津奈木がずっと加瀬亮さん(左)↓で再現されてました。
もし本作が映画化されるなら、キャストは是非彼でいってほしい)

pierrot.jpg













終盤の屋上でのシーンはちょっと芝居がかっている気もしたけど、
ラブストーリーを北斎の〝富嶽三十六景〟と絡ませて収束させる手腕は大したもの。
今度からあのザッパーンな絵を見るたびにこの物語が浮かぶ気がする。

ヒロインの「津奈木はあたしと別れられていいね。あたしはあたしと別れられないのに」という台詞や、
ラストはちょっと切ないですが、津奈木の台詞が一条の光となって
暖かい終わり方になっています。
人は他人にわかってもらえなくても、わかろうとしてくれる人がいるだけで
生きていける生き物なんだと思う。
ヒロインの内面を照らし出すべく灯されたほのかな光は、最後には消えてしまったけれど。
それでも彼女はこれからも生き続けていけるのだと、個人的には確信しています。

かなりおすすめ。
(ただ、同時収録の〝あの明け方の〟を読むとヒロインのあまりの恵まれっぷりと
その割りにひどいわがままっぷりに殺意が湧くので、
もしまた読み返すとしてもたぶん表題作だけだろうな)



おまけ:
shining.jpg











シャイニング笑い(笑)。
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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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