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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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「これが、人間やで」



お笑い芸人二人。
奇想の天才である一方で人間味溢れる神谷、彼を師と慕う後輩徳永。
笑いの真髄について議論しながら、それぞれの道を歩んでいる。
神谷は徳永に「俺の伝記を書け」と命令した。
彼らの人生はどう変転していくのか。
人間存在の根本を見つめた真摯な筆致が感動を呼ぶ!
「文學界」を史上初の大増刷に導いた話題作。

***

正直初めはお笑い芸人としての又吉さんには興味はなくて、
ただ私が敬愛する作家との巻末対談が読みたいがために
又吉さんの書評エッセイ「第2図書係補佐」を手にとったのが
彼に興味を持ったきっかけ。

本作掲載誌は手に入れていたものの、ずっとそのまま放置していたけれど
今回の芥川賞受賞を受けて一晩で読んだ。

生粋の純文作家さんと比べると文章は拙い。
表現も、同じ表現が何度も出てきたりとギリギリプロレベルといった感じ。
けれど読者に伝えるべき言葉を正確に選んで伝える力を持っていると感じた。
純文学は娯楽小説と違って著者本人の感性・センスがすべてだけれど、
又吉さんにはそれが備わっているなと強く思った。

「普通のひとが普通のことを言うのが怖い」
「想像力は時に自分への暴力になる」
といった強く共感出来る部分もあれば、
「こう来るだろうな」と思った部分が「えっそう来るの? 主人公は
ここでそういう風に感じちゃうんだ?!」と驚かされる部分もあり、
またさすが会話部分には芸人としてのセンスが活きており、
最後まで楽しく読ませてもらった。

また、又吉さんは他人に対する視線が優しい。
すごく真面目でひとを肯定していて小難しいことばっかり考えていつつも
温かいひとなんだろうなと本作を読んでいて伝わってきた。
またとても謙虚で志が高いひとなんだろうなということも。

主人公が敬愛する神谷は、商業としてお笑いをすることで
大きな逸脱が出来ず様々なしがらみに縛られている「理性」としての主人公が
惹かれる「本能」でのみ生きる存在。
売れる芸術家というのはある程度の常識を持ち合わせていなければ
いけないけれど(かのモーツァルトやベートーヴェンですら貴族に媚びて
当時で言う売れ筋の曲を多数書いていたぐらいだし)、
神谷はその常識がない。よってお笑い界で生きていけない。
けれどそれこそが主人公の憧れるところであり、本来ならば見倣いたい
生き方なんだろう。
私は常々、常識という柱にゴムを繋いで自分に巻きつけて、いかに
常識を保ったままゴムの抵抗に抗って遠くまで行けるか、逸脱したものを書けるか、
ということを念頭に置いてきたけれど、神谷はハナから身体にゴムを着けていない。
どこまででもひとりで行ってしまう。
天才というものがこういう人間のことを言うなら、天才って
なんて報われない存在なんだろうと思う。

神谷の蠅川柳に主人公が恐怖を感じるシーンとか
ラストのしょぼい花火には爆笑しつつも感動も覚えてしまった。
男性作家が綺麗に書きすぎる「女性」も、本作に出てくる女性は
非常に魅力的に描かれていて彼女との別れのシーンではこちらまで
切なくなってしまった。それほどに魅力的な女性だった。
主人公と一緒に彼女の幸せを願わずにはいられなかった。

今回の芥川賞受賞は賛否両論あるようだけど、私は本作の受賞に
納得がいった。
本作は又吉さんのフィールドであるお笑い界が舞台だけれど、
お笑い界を離れた世界を二作目で見せてくれるならその日が待ち遠しい。

非常におすすめです。
改めて、又吉さん、芥川賞受賞おめでとうございます。
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