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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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ひどい話だ。



「オレの愛する妻を殺した犯人がここにいる。犯人には密かに毒を盛った。
自白すれば解毒剤をやる」
「え、え、まさかオレを疑ってないよね…え、苦しい、ウソ、まじ!?」
袋小路に入った主人公と、思わず一緒になって手に汗にぎる「野菜ジュースにソースを二滴」ほか、
短編掌編合わせて12編の傑作コージーミステリー。
「情けない男の滑稽さを書かせたらピカイチ」と、デビュー単行本が各紙誌で取り上げられ、
ノリにノッている著者が贈ります。話題になった、あの各編ごとの「参考文献」も健在。
また、それぞれの作品間にビミョーな繋がりを仕掛けてあります。そちらも併せてお見破りを。

★収録作品★

 野菜ジュースにソースを二滴
 値段は五千万円
 青空に黒雲ひとつ
 天職
 世界で一つだけの
 待つ男
 私のお気に入り
 冷たい水が背筋に
 ラスト・セッション
 懐かしい思い出
 ミニモスは見ていた
 二枚舌は極楽へ行く

***

もともとあまり好きな作家ではなかったのですが、某ミステリ・アンソロジーにて
蒼井氏の〝ラスト・セッション〟を読んでいたく感動、同作が収録されている
本短編集を手にとった次第なのですが。

どうもこの著者の作品は、話が長くなればなるほどダレる傾向にある気がする。
表題作〝二枚舌は~〟なんて途中で読むのがだるくなってきたし(オチも大したことないし)、
同じく本書では比較的長い部類に入る〝青空に黒雲ひとつ〟〝待つ男〟も
ミステリにも関わらずメリハリがなくてのめりこみづらい(唯一の例外である傑作
〝ラスト・セッション〟を抜かせば、〝野菜ジュースにソースを二滴〟が
長い話の中では一番読めた。というかこれもかなりハイクオリティな出来栄えだと思う)。
掌編は妙に味があってかなりのセンスを感じるのにな。
ネタには独特の個性がある作家さんなので、そういうところはもったいない気がする。

系統的にはどことなーく石持浅海氏に似ている気がするので(あっちのほうがアクは
強いですが)、片方が好きな人はもう片方も読んでみてもいいかも。

シュールめなミステリが好きな人におすすめです。
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「どこにいるのかは問題ではありません。
会いたいか、会いたくないか、それが距離を決めるのよ」




孤島のハイテク研究所で、少女時代から完全に隔離された生活を送る
天才工学博士・真賀田四季。
彼女の部屋からウエディング・ドレスをまとい両手両足を切断された死体が現れた。
偶然、島を訪れていたN大助教授・犀川創平と女子学生・西之園萌絵が、
この不可思議な密室殺人に挑む。
新しい形の本格ミステリィ登場。

***

何を今さら。。。というぐらい、森作品(いや、ミステリ小説)の中では有名な作品ですが、
氏の作品をさんざん読み倒してきた今、原点にかえって読み返してみたら
どんな風に感じられるのかなーと思い再読に至った一冊。

いやーまさに〝原点〟でした。
理論的ながらもちょっとキザな台詞回し、
個性は強いけどどこかイラつく女性キャラ(森先生ごめんなさい)、
たまに地の文に表れるやたらポエティックな表現、
死ぬときは自分に近しい他者の手によって殺されたい、という登場人物のスタンス(当時から
これには共感している。←ヤバいかな)
やっぱり人間の本質っていうのは変わらないものなんだなーと。
現在の森作品は上に書いた特徴が全部(悪い意味で)パワーアップしてしまっているので、
デビュー作である本作はとてもすんなりと読めて気持ちがよかった。
いかにも理系の人間が書いた臭みのないミステリ、といった感じで。

もちろん12年前の作品なので、パソコンやインターネットの描写には
相当古めかしいものを感じますが(〝チャット〟の名前が〝トーク〟だし、電話回線だし)、
逆に言えば12年も前、まだネットというものがまったく世間に浸透していなかった時代に
ここまでのものを書ける著者がすごいってことなんだよな(まあ、森氏は現役の大学講師
ですが。。。)。

それに初めて読んだときは「人を殺すのにこんな動機があっていいんかい」と
子供ながらにびびったものです。
こんな理由で人を殺す犯人を見たのは初めてだった気がする。

ただ改めて読み直してみて疑問に思うのは、
たとえ腕を切り落として指紋を隠しても、DNA検査で正体はバレてしまうんじゃないのか?
ということ。当時の科学捜査ってそこまで進んでなかったっけ? そんなことないと
思うのですが。。。

まあ、何度読んでも楽しめる作品でした。
やっぱりメフィスト作家は好きだなあ、突拍子もなくて。。。

今さらですがおすすめです。
あんたは、もう動けない。



42歳の青山は、再婚相手を探すため「オーディション」を行う。
4000人の応募者の中で青山の目をひいたのは、24歳の山崎麻美だった。
不思議な魅力に惹かれる青山と、素直に心を開く麻美。青山は麻美にのめりこんでゆくが、
彼女が求めたのは完璧な愛だった。
愛と愛の凶器が嵐のクライマックスを呼び起こす、迫真のサイコホラー・ラブストーリー。

***

ハリウッドのホラー映画にありそう、とか思っていたら、既に映画化されてるんですね。
でも小説じゃなく映画が媒体だと、せっかくの繊細な心理描写も全部はしょられてしまっている
だろうから、あまり観る気にはなりませんが。

単なる娯楽小説として読むぶんには面白いですが、細かい部分まで見ていくと
瑕疵が多い印象。
主人公・青山の元妻の良子の回想も、やたら出てはくるけれど最後までその回想が活かされる
展開がなくて拍子抜けだし、10年前の小説なのでしょうがないのかもしれないけれど
ヒロイン(といっていいのかどうか。。。)・山崎麻美のトラウマも「え? その程度?」という感じで、
それだけであそこまで壊れたキャラになるのはどうも納得がいかない。
(まあ、人間はどんな些細な理由でも人格が破綻する生き物ですが)

基本的にはホラーの本作、でも実のところ一番怖かったのは、ほかの誰でもない
青山だったのでは、と思う。
だってラストであれほど大事に思っていた息子に「そいつを殺せ」とか命令するし。。。
いくら切羽詰った状態だからって息子を殺人者しちゃだめだろ。お父さんしっかりしてよ。

苦しみを抱えた人間の心理描写はひどくリアルで、さすが純文作家だなあと
感銘は受けましたが。ホラーものとしては、私的には及第点。

世の男性にはぜひ読んでほしいと思った一作。
限りなく透明に近い、でもよーく眼を凝らすと見えてきますよ、女の黒い部分が薄っすらと。。。
人生最後の大仕掛け。



“詐欺”を生業としている、したたかな中年二人組。
ある日突然、彼らの生活に一人の少女が舞い込んだ。戸惑う二人。
やがて同居人はさらに増え、「他人同士」の奇妙な共同生活が始まった。
失くしてしまったものを取り戻すため、そして自らの過去と訣別するため、
彼らが企てた大計画とは。

***

出だしは非常に面白いのですが、中盤でダレてきて読むのがつらくなってくる。
同じコミカルタッチの同氏の著作



と比べると、キャラの個性もスピード感もサプライズ感もとうてい及ばない印象だった。
主人公たちが敵に仕掛ける詐欺作戦も大したものじゃないし(これはマンガ
〝クロサギ〟を読んでしまっている弊害かもしれませんが)、
「実は○○が××であることを誰々は既に知ってた」ってネタが多すぎるのもアンフェア。
序盤で主人公のタケさんが新しい携帯で相方のテツさんに電話をかけようとして
番号を登録していないことに気づき、結局まだ持っていた古い携帯でテツさんに電話を
かけなおすシーンがあるのですが、この時点で古い携帯の電波を入れると敵に場所を
察知される危険があるっていうのに何してんの? と突っ込みたくなったし。
古い携帯の番号を新しいほうに移し変えてからかけりゃいいじゃん、と。
でもわざわざこういう描写にするってことはこのミスが後々の伏線になるのか? と
思いきや結局最後まで何もないし。一体何のための描写だったんだろう。。。

だいたいネコのトサカのことも、普通死体が捨てられてたら弔ってやるなりなんなり
するだろうに、どうしてそのとき誰も(特にまひろ)死体がぬいぐるみだって気づかないわけ?
(ネタバレにつき薄字で)
違和感ありすぎ。

今回は道尾氏、妙に文章やストーリー展開がヘタだなーと思っていたら
それこそが最大の伏線になっていたことには驚かされましたが、
全体的にはしょぼい連ドラによくあるような、ただ次週も視聴者に観させるためだけに
用意された、伏線というよりハッタリに近い描写のオンパレードで
道尾作品にしてはレベル低いな、と感じてしまった。

あとどうでもいいけど、〝大ガラス〟なら最終章のタイトルは〝Raven〟のほうが
格好よかったのでは? と個人的には思う。それまでのタイトルも皆馴染みのない
鳥の英語名だったし。

トリックそのもののセンスはいいだけに、それをもうちょっとうまく味付けしてくれていたら
もっと傑作になっただろうになあ、というのが率直な感想。



蛇足:
①第一刷のみ(だと思いますがたぶん)、作中にとんでもない誤植があります。
ちょっと驚いたあと笑いました。担当さんと写植の人、しっかりしろよ。
②〝片眼の猿〟を読んだことがある人には、ちょっとしたサプライズが本作には
用意されています。ヒント:もやし
今ここに。私たちと一緒に。



様々な事情から、家庭では暮らせない子どもたちが生活する児童養護施設「七海学園」。
ここでは「学園七不思議」と称される怪異が生徒たちの間で言い伝えられ、
今でも学園で起きる新たな事件に不可思議な謎を投げかけていた。
孤独な少女の心を支える“死から蘇った先輩”。
非常階段の行き止まりから、夏の幻のように消えた新入生。
女の子が六人揃うと、いるはずのない“七人目”が囁く暗闇のトンネル…。
七人の少女をめぐるそれぞれの謎は、“真実”の糸によってつながり、美しい円環を描いて、
希望の物語となる。
繊細な技巧が紡ぐ短編群が「大きな物語」を創り上げる、第十八回鮎川哲也賞受賞作。

★収録作品★

 今は亡き星の光も
 滅びの指輪
 血文字の短冊
 夏期転住
 裏庭
 暗闇の天使
 七つの海を照らす星

***

新人賞の途中選考でよく見かける名前だったので、「おーついにこの人もデビューかー」と
知り合いでも何でもないのになんだか嬉しい気持ちになった。おめでとう七河さん。

本作は長編というよりは連作短編集、という印象。
現に四話目〝夏期転住〟は、以前七河氏が某新人賞に応募されていた
〝夏の幻の少女〟という作品を改稿したものと思うし(内容からいっても、作中にそのまま
〝夏の幻の少女〟という言葉が出てくることからも、この推測は当たってる可能性大。
昔書いた短編から話を膨らませて長編に仕上げる、という手法は、
道尾秀介氏もデビュー作〝背の眼〟や〝片眼の猿〟でやっているし(ちなみに
前者のオリジナルはこちらで、後者のオリジナルはこちらで読めます)。

物語別に言うと、一話目と二話目はとても面白く読めたのですが、それ以降は
若干ダレてしまっているというか全体に締まりがなくテーマも地味で(というか既にどこかで
読んだことのあるような新鮮味のない話で)、何より導入部・構成・オチがかぶり気味で
マンネリしてしまっていたのがもったいなかった(出だしが素晴らしいだけに)。
すべてが繋がる最終章も、「なるほどなあ」と関心はしたものの、「そうだったのかー!」と
驚くまでには至らなかった。ちょっと各話のこじつけ感が強かったせいと、
登場人物たちのキャラが一見強いようで実はそうでもないところがその要因かな。

児童養護施設等についてはよく勉強しているなあと関心しました。
文章は新人さんとは思えないハイレベルなものだし、物語も今の時代の問題を紐解くに
絶好の内容と思うのでおすすめです。

それにしても七河氏、回文の才能ありすぎ。本作には正直そんなに必要なかったと思うし
むしろくどいような気もしたけど、中の一つは感動で涙が出そうになってしまった(よくここまで
すごいものが思いつけたな、という感動&単純に俳句か何かのようできれいだった)。
凄いよ迦南、マジに参った企図。時経つ、今二時真ん中、宵越す。
。。。あーダメだ。下手な回文。



蛇足:
本作を読み終えたあと著者の名前をよく見るとあっと言わされます。
あー最初に気づきたかったー!
やーしかし物語以外のところにまでサプライズがあるとは思わなかった。好きだなーこういうの。
魂の自然消滅。



22歳だった。次の日、ぼくは53歳になっていた。

空白の31年。
ぼくは。きみは。ぼくたちは。
少しは幸せだったのだろうか。

銀色の雨にうたれ、肉体を乗っ取られた男。
彼を襲ったのは、不条理でやりきれない、人生の黄金期の収奪。
あらかじめ失われた、愛しい妻との日々。
おぼえのない過去を振り返る彼に、さらなる危険が迫る!

***

たったひとつの冴えたやりかた〟もしくは〝寄生獣〟っぽい作品。
前者はバリバリのSF、後者はSF+人間ドラマ、けれど
SF+本格ミステリ、っていうのはつくづく相容れないものだなーと本作を読んで改めて痛感。
まあそういったジャンル的なことを差し引いても、上に挙げた二作と本作ではそもそも
物語としてのレベルが違うので、本作を読むぐらいなら正直上記二つをおすすめします。

31年後の自分の身体の中で自我を覚醒させた21歳の本物の主人公。
その彼が31年後の世界を見て、自分の過ごした時代とのギャップに逐一驚くわけですが、
そんなもの既にその〝31年後〟の世界を生きている読者には「当たり前だろ」としか思えず
読んでいて退屈極まりない。その手の描写がちょっとだけなら「そりゃそうだろうなあ」と
微笑ましい気持ちにもなりますが、未来の世界に驚く主人公のエピソードがやたら多いので
次第に「もういいよ」と食傷気味に。

ミステリにつきものの殺人パートも、被害者たちが一人を除いて
皆まったく思い入れのない人物ばかりなので(だって初登場時に既に死体だし)、
殺されようがどうしようがまったく何の感慨もない。連続殺人もののミステリなら、普通
殺される人は少なからず生前に主人公と何かしらの絡みがあって、だからこそ殺されたときに
探偵役と一緒に憤ったり感情移入できるわけだし。
でも本作にはそれがないせいで読み進めるのがだるかった。
犯人の動機もえ、そんなこと? という感じだし。
なぜ年齢が高い順に殺していったのか、という、序盤からさんざん引っ張り続けた謎も、
もうコメントする気にもならないくらいありきたりな理由だし。

主人公が、自分の身体を乗っ取っている〝もう一人の自分〟にやたら協力的なのも
不自然に思えた。普通もっと葛藤なり何なりあるでしょ、と。
もちろんそういった描写も出ては来るのですが、彼が抱くどんな不平不満も
所詮は駄々っ子レベルで重みがない。
「あまり不満を抱え続けたりいろいろと考え詰めるとそれがストレスになって寿命が縮まる」
という設定が本作にはあるのですが、それも上記の矛盾を封じるための
著者のこじつけとしか思えなかった。
それだけならまだしも、最後なんかもうご都合主義の王道。ハリウッド映画もびっくりです。
フィクションにしてもあまりに主人公に都合のいい展開に開いた口が塞がらなかった。
ていうか著者、ひょっとして女をバカにしてる?
婚約者にフラれたばかりで男性不信になっている女がゴム無しで男とヤるわけないだろ。
それは主人公にしてもそう。婚約者の両親に挨拶に行く前日に、浮気するだけならまだしも
ナマで
って。
浮気相手の女も、ただでさえきつい状況なのに、普通そんな行きずりもいいところの、しかも
もうすぐ結婚する男の子供なんて生むわけないし。彼女がベツバオリになっていたのなら尚更。
将来人格が変貌してしまうかもしれないのに(妊娠が判明した時点ではそこまで考えが
至らなかったのはわかるけど、あんな異様な雨に打たれた自分は
どこかおかしくなってしまったかもと少しでも考えるはず、という前提でいけば
子供を生むという行為がいよいよ不自然になってくる)。

私ならこんな両親から生まれたくない、絶対に。

最後に西澤氏、基本的に文章が落語・漫談調なので、シリアスなシーンも
何かコミカルで緊迫感に欠けるので、そこをどうにかしてください。
デビュー当時はそんなことなかったのになあ。文章に変なクセがついてしまってる(それは
島田荘司氏もそうなんだけどね。。。)。

あと最後に、もう今の携帯には普通にテレビ電話機能ついてますよ西澤先生。
読んでいてちょっと気になったもので。

〝Snatch〟っていうのは簡単に言うと〝奪い去る〟みたいな意味だけど、
本作からは期待&読むのに費やした時間と体力奪い去られたような気がする。
楽しみにしてたのに。残念。
楽しい宴の後始末。



ミステリの醍醐味と言えば、終盤のどんでん返し。中でも、
「最後の一撃(フィニッシング・ストローク)」と呼ばれる、ラストで鮮やかに真相を引っ繰り返す技は、
短編の華であり至難の業でもある。
本書は、その更に上をいく、「ラスト一行の衝撃」に徹底的に拘った連作集。
古今東西、短編集は数あれど、収録作すべてがラスト一行で落ちるミステリは本書だけ!


★収録作品★

 身内に不幸がありまして
 北の館の殺人
 山荘秘聞
 五十鈴の誉れ
 儚い羊たちの祝宴

***

↑とネットに紹介文が書かれてましたが、これじゃまるでフィニッシング・ストロークだけが
売り物の小説みたいで何かキライ。
本著がすごいのはそれだけじゃないです。文章力も構成力も何より物語の内容が素晴らしい。
まだ若い著者がここまでのものを生み出せたことに戦慄すら覚えたほど。

米澤氏の著作は結構読んできましたが、この作家さんは現代を舞台にしたものよりも
本作のような、ほんの一昔前が舞台の、少し和を感じさせる雰囲気のストーリーのほうが
格段に上手い。
各話とも基本的に、高貴な家柄の人間とそれを支える世話役、という立場の二人が
主人公の本短編集。
と書くと何だかお上品な時代物、的な印象ですが、もうバリバリにミステリです。しかも
ちょっとホラーがかった。けれど怖いのは怪奇の類等ではなく人間そのものなので尚怖い。

話ごとのレビュー。

◆身内に不幸がありまして◆

既読にて感想はこちらで。

◆北の館の殺人◆

文句なしの最高傑作。
どうしてこんなものが書けるの? と、ミステリ作家を目指す者として強烈な嫉妬心が湧いたほど。
いや、もう嫉妬心というか畏怖心といったほうがいいかなこれは。
最近ここまで唸らされるミステリ小説に出会わなかったので久々の興奮だった。
登場人物たちの個性と彼らの心理描写、ドラマ性にトリック、どれを取っても申し分なし。
日本推理作家協会賞、もし私が選考委員なら間違いなくこの作品に獲らせる。

ちなみに本編を読んで気に入った人には↓に収録されている〝画家とワイン〟も
ぜひ読んでほしい。



◆山荘秘聞◆

長い割りに。。。といった感じ。
オチもだいたい読めたし。
ラストの〝凶器〟にはちょっとびびりましたが(まさか中盤の伏線がそう来るとは
思わなかった。あの伏線がミスリードだっていうのはさすがにすぐわかったけど。。。)。
主人公が用意したベッドの数から真相に気づく、というのはちょっと無理がある気がした。
だってもし遭難者が見つかれば、ベッドに寝かせるよりもまず先に病院に搬送する可能性のほうが
高いし(ネタバレにつき薄字で)。
あまり楽しめなかったかな。

◆五十鈴の誉れ◆

焼肉焼いても家焼くな♪。。。←古い
。。。歌って場合やそのときの心理状態によって、同じ歌詞やメロディでも
まったく違う響きを持つんだよな。
一番ホラーの要素が強い(というか怖い)物語。
作中に故事か何かからの引用文が多すぎるのはいささか鬱陶しかったですが、
非常に面白く読めます。

本作は〝Story Seller〟という雑誌で読んだのですが、本雑誌はいい物語が
たくさん入っているのでおすすめです。



◆儚い羊たちの祝宴◆

延々日記調の文体はメリハリがなくてちょっとだるかった。
すべての短編の総まとめ的な話。
それにしても、総じて雑誌に掲載された物語より書き下ろしのほうがつまらないのは
やっぱり時間制限があったほうが人は実力を発揮できるってことの顕れなのかもな。
〝アミルスタンの羊〟についてはこの本を読めば意味がわかりますが、
ネタバレになってしまうので手に取るにしても先に本編を読んでからのほうがいいかも。
でも主人公はともかくなんで料理人がアミルスタンの羊を知ってるんだ? それが最大の謎。



非常におすすめの短編集です。
現時点で既にここまでのものを書ける米澤氏、今後どうなっていくのか末恐ろしいよ、ほんと。
ここにはすべてがあるし、本当は何もない。



正直に言うと、僕にも忘れられない人が一人だけいる――15年前の夏、中学生だった僕は
“ひなた”と名づけた虎猫と柚原という少女にまつわる忘れられない体験をした。
29歳、料理人をやめてフードライターとして日銭を稼ぎ、夫のいる女性と続けている関係が
危うくなってきた今、僕は当時の夢を繰り返し見るようになる。
柚原とその兄の秘密、彼女の祖父と隕石の不思議な話、二人で見た奇跡のような流星群…。
時を経て、偶然にも再び訪れることになった思い出の地で、僕が出会ったのは――。
猫と料理と流れ星がつなぐ、“夢と現実”“過去と現在”のあわいに命の希望を描いた
気鋭作家の書下ろし長編小説。

***

精神的に追い込まれていく主人公の心理がそのまま伝わってくるような鬼気迫る描写、そして
自分を取り巻く世界がどんどんと遠ざかっていくような疎外感・寂寥感を怖いほどに感じさせた
氏のデビュー作〝さよならアメリカ〟と比べるとどうもインパクトに欠け、
甘ったるいファンタジックさも鼻につく本作ですが、まあたまにはゆったり読める、
それでいて読後に静かで心地いい孤独感と小さな爽快感を残してくれるようなこういう物語も
いいかもしれないな、と思った。

ただ、気になった点がいくつか。
★言葉の表現がおかしいところがままある(例:〝細いタイトジーンズ〟。細いからタイトジーンズ
なのでは?)。
★陳腐な表現が目立つ。
ネット小説に出てくるような、到底プロが書いたとは思えない稚拙な単語で組み立てられた文章が
かなり多い。その合間合間にはっとさせられるような表現が出てくるからどうにか最後まで
読めたけど、読んでいて結構きつかった。
★余計な雑学の羅列。
〝スノウドロップ〟という花の名前の由来とか、荘子の〝胡蝶の夢〟についてとか、
無駄な雑学を登場人物たちが頻繁に口にするので読んでいて気恥ずかしくなった。
著者が過去に齧った知識の中で気に入ったネタを単に盛り込んでいるだけとしか思えない。
本作にわざわざ組み込む必然性を感じない内容ばかりだし。
しかも普通の人ならまず知らないようなことを披露するならまだしも、
ちょっと本を読む人なら大抵知っていることばかりだし。
そして一番突っ込みたいのが〝ナルコレプシー〟という病気について。
ノゾミさん、普通あんな簡単に相手を「あなたナルコレプシーじゃない?」なんて思いません。
症状だって全然違うし。
そしてナルコレプシーの病識間違ってます。あれはそんな簡単な病気じゃありません。
★料理の描写が下手。
著者が元料理人だからといって、料理の描写が必ずしも美味しそうとは限らないんだなー。
実際に作るのとそれを文章で表現するのは別物。
私ももう何年も歌をやっていて時々仕事にもしていますが、それでも音楽ミステリ書いて
新人賞に送った際、選考委員の先生に「音楽の表現が陳腐」って言われたしな。。。
以前読んだ某女性作家の料理描写のほうがよっぽど美味しそうだった。やはり女性強し。
(でも故・藤原伊織氏のホットドッグの描写がミステリ読みの間では「美味しそう」と評判
なんだよな。。。今度読んでみよう)
★主人公の女性との絡みが劣化村上春樹。
会話も女性たちのキャラクターも。そこまで顕著ではないけど気になった。
というかこの著者に限った話じゃないけど、なんで男性作家って女キャラにやたらワンピース
着せたがるんだろう? それも避暑地で見かけそうな清楚系ばっか。
そして男と話すときにいちいち相手の顔を覗き込む女なんてよっぽどの自信家かぶりっ子だけ
だよ。

全体で見ればほんのりと暖かくそれでいてときに切ない、素朴ながらに素敵な物語でしたが、
柚原のお兄ちゃんへの気持ちが今ひとつわかりにくかったのでもうちょっとそのへんを書き込んで
ほしかったな。そうすればラストがもっと活きた気がする(まあ、主人公と二度目にホテルに
泊まった際に柚原が異様にフェラチオが巧かった、というのが、兄にも同じことを何度もしてきた、
つまり兄を拒否せず倫理の許すギリギリの範囲で受け入れていた、という伏線になっている
かも
しれないけれど←ネタバレにつき薄字で)

星のきれいなこの季節に読むにはいい小説なのではと思います。
BGMはやっぱりこれ↓かな。



ちなみに私は今から七年前に来た流星群を一晩中眺めていたとき、
ひと際大きい流れ星が横切って消える瞬間〝ジュッ〟と音を立てるのを確かに聴いた。
これだけは断言できる。
それを希望と呼んで何が悪い。



あと一年。死ぬ日を待ち続ける。それだけが私の希望――。

誰にも求められず、愛されず、歯車以下の会社での日々。
簡単に想像できる定年までの生活は、絶望的な未来そのものだった。
死への憧れを募らせる孤独な女性にかけられた、謎の人物からのささやき。
「本当に死ぬ気なら、一年待ちませんか? 一年頑張ったご褒美を差し上げます」
それは決して悪い取り引きではないように思われた――。

***

本多作品にしては珍しく恋愛ものじゃないまっとうな(って言い方は誤解を招きそうですが)
ミステリ。。。かと思いきや、中盤を越したあたりから本多氏特有の甘ったるい恋愛臭が
ほんの薄っすらとですが漂いだして、「やっぱり嗜好っていうのは変えられないものだな」と
ちょっと苦笑いしてしまった本作。

ドラマ部分はまあまあよく描かれてはいるものの、これまでの氏の著作に共通してあった
神秘性が、前作〝正義のミカタ〟あたりから消えてしまっていて、全体にベタに感じられた。
終わり方も教訓めいていてちょっとクサいし。
ミステリ部分は。。。テーマや構成的には本格ものっぽいのに、やはり
本物の本格推理作家と比べると足元にも及ばない感じ。
犯人の動機もインパクトがないし真相が明かされるタイミングも後出しジャンケン的&
読者が推理するには伏線が少なすぎだし(その割に本作最大の〝仕掛け〟は
描写があからさますぎてすぐに「あ、そういうことか」と気づいてしまうし)。
というかこの手の仕掛けが施されたミステリはもういい加減食傷気味。
同じ系統のミステリなら、断然これこれをおすすめします(ネタバレかもなので閲覧注意)。

文章は相変わらず非常に読みやすく物語自体は決してつまらないものではないので
一気に読んでしまいましたが、特に印象に残る部分なし。
電車の中でサクっと読むぶんにはいいかもしれない(でもあまりに適当に読み流していると
〝仕掛け〟に気づかないまま読み終えるはめになるかもなので注意が必要)。

これが発表されたのが20年ぐらい前だったら革新的だったかもしれないんだけどな。
本多氏に限らずミステリ作家さんには、そろそろこの手のトリックに頼らず次のサプライズを
考え出してほしいものです(ってミステリ作家志望のおまえもな、という感じなのですが)。

何より、本書を読んで伝わってくるものが「結局運と精神が強いやつが勝つ」ということだけ
だったのがやたら虚しい。それぐらいならいっそベタ中のベタでいいから
「あきらめないものに光は射す」みたいなことをテーマにしてくれたほうがよっぽどよかった。

最近の本多作品は正直あまり好きじゃないです。
まあ、次回に期待。



おまけ:
これ↓がゲルセミウム・エレガンス(ヤカツ)の花らしい。
見てるだけのぶんには奇麗なのになー

ge.jpg









「爆弾持ってこい。あんたを殺してわたしも死ぬ」
「落ち着いて、落ち着いて」




穂村チカ、高校一年生、廃部寸前の弱小吹奏楽部のフルート奏者。
上条ハルタ、チカの幼なじみで同じく吹奏楽部のホルン奏者、完璧な外見と明晰な頭脳の持ち主。
音楽教師・草壁信二郎先生の指導のもと、廃部の危機を回避すべく日々練習に励む
チカとハルタだったが、変わり者の先輩や同級生のせいで、
校内の難事件に次々と遭遇するはめに――。
高校生ならではの謎と解決が冴える、爽やかな青春ミステリの決定版。

★収録作品★

 結晶泥棒 
 クロスキューブ
 退出ゲーム
 エレファンツ・ブレス

***

デビュー作〝水の時計〟ととはまったく違うポップでリズム感のいい文体&内容に
まずは驚かされさた。しかもシリアスものもいいけど、初野氏はこの手の小説のほうが断然うまい。
某アンソロジーで読んだ表題作〝退出ゲーム〟に惹かれて本作を手に取った次第なのですが、
全編楽しく読むことができた。
登場人物はそれぞれキャラが立ってるし、美形で天才的頭脳を持っているのにどこか抜けてる
ハルタとそんな彼の尻拭いをいつもさせられる幼馴染で主人公の少女・チカの関係が絶妙。
幼馴染で気の置けない関係で姉と弟のようででも基本的には認め合っているライバルで。。。って
ほんと最高の関係だよな(いや、でも、チカも作中で言っているように、たったひとつだけ
最低な関係性がありますが。。。)。
この二人(に限りませんが)の掛け合いに何度爆笑させられたことか。
ていうか小説を読んで声をあげて笑ったのって久しぶり。しかも数え切れないほど。
かと思えばホロリとさせられるし、本当によく出来たミステリ短編集ですこれは。
音楽ミステリ・演劇ミステリ・美術ミステリといった〝芸術系ミステリ〟をくまなく堪能できるのも
本作のいいところ。全部が好きな私はかなり満喫させてもらいました。

まあ、最終話〝エレファンツ・ブレス〟はちょっと皆高校生なのに知識ありすぎ、と
軽く思わないでもありませんでしたが、目をつぶります。この面白さに水はさせない。

加藤実秋氏の〝Club Indigoシリーズ〟や金城一紀氏の〝ゾンビシリーズ〟が好きな人は
特におすすめ。ノリや空気感が似ているので。

ところで本作、最後の一行を読んだ限りじゃ続編が遠からず出るみたいなので楽しみです。



おまけ:
作中に出てきた「水野晴郎が出ていたころの金曜ロードショーのテーマ曲」とはこれ↓です。
口ずさめる人、少なくとも二十代半ばは超してるはず(^皿^)
(ちなみに私はバリバリに口ずさめました


プロフィール
HN:
kovo
性別:
女性
自己紹介:
80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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