それでも、御劔を信じている。
高校生の木崎奏が出会ったのは、職業も風体もどこか浮世離れした御劔耕助という男。
常に和服で丸眼鏡、紙芝居屋を自称し、喫茶店“ひがな”の地下室で昭和レトロな品々に
囲まれて暮らす謎多き人物だ。観客のニーズをまるっと無視した
バッドエンドの紙芝居ばかりつくる御劔に、なぜかいたく気に入られてしまった奏は、
そこから不思議な夏休みを過ごすことに…。
紙芝居が秘められた過去をひもとく、心ほっこりミステリ!
***
著者のデビュー作「裏閻魔」が大好きで、シリーズ全作読破してしまったので、
またこの作家さんの本を読んでみたいと思い手に取った一冊。
角川ホラー文庫から出版されていますが怖いところはほとんどなく、
「なぞとき」と題されているもののミステリ要素もほとんどなく、
強いて言うなら「キャラ萌えほっこりストーリー」といったところ。
ミステリを期待して読んだのでその点はちょっと肩透かしでしたが、
御劔の優しくのほほんとしてとぼけたキャラがとても魅力的なことと、
文章の言い回しの随所にフフッと笑えるユーモアがあり、
楽しく読むことが出来た。
「裏閻魔」とはまるで違う文体に、いろいろな抽斗を持っている作家さん
なのだなあと感心もした。
連作ならでの、今後解き明かされていくだろう伏線もちょいちょい
散りばめられていて、続編も読まなければと思わされたのは
やはり御劔の圧倒的なキャラの良さに拠るものなのだろうなと思う。
あとは著者の筆力。ホラーでもミステリでもない物語をここまで読ませて
しまえるのは、氏の実力の故だと思う。
ちなみに著者の中村さん、ずっと小説を書き続けては賞に投稿することを
繰り返しているうちに次第に最終選考に残るようになり、デビューに至ったという
努力のひと。
下積みが長いひとは実力が安定しているなと改めて思った次第。
キャラ萌え、ほのぼの系が好きなひとは是非。
「裏閻魔」もとてもおすすめです。
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