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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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歩かなきゃ。



三十年前、松子二十四歳。教職を追われ、故郷から失踪した夏。
その時から最期まで転落し続けた彼女が求めたものとは?
一人の女性の生涯を通して炙り出される愛と人生の光と影。
気鋭作家が書き下ろす、感動ミステリ巨編。

***

男性がよくもここまで女性心理をリアルに書き上げられたものだと
まず何よりもそのことに驚かされた。
そして、確かに並々ならぬ不運の人生ではあるけれどとりたてて奇抜な展開もない、
ごくありふれたエピソードばかりで構成された物語であるにも関わらず、
ここまで面白い作品に仕上げられる著者の力量に脱帽。
468Pにもわたる長編(しかも二段組)なのに少しも疲れや飽きを感じず、
一気に読みきってしまった。
とにかく文章がうまい。読みやすく、それでいて斬新な表現がところどころにあったりして
(例えば相手にビンタすることを〝肉を打つ〟と表現したり)読み手の興味を惹きつけて離さない。
一度も会ったことのない伯母に徐々に興味を持ち、次第に共鳴するようになり、最後には
伯母のために彼女を殺した犯人を怒鳴りつけ涙する、甥の笙に同調して泣いてしまったのも
本作の主人公〝松子〟があまりにリアルに描かれているせいでしょう。

松子の人生をひと言で表すとしたら〝裏目〟以外に最早ないですが、
ここまで無償の愛情を(男性限定だけど)他者に与えながら生き続けたその姿は
ある意味キリストを思わせる。
単に男に依存しないと生きていけないというだけの女性には見えなかった。
(その点では、映画版の松子がジャニーズに入れあげる描写は余計だった気がする。
それとも彼女は神ではなく殉教者で、誰かを神として崇め献身することでしか
生きられなかったのかもしれないけど。。。そこは解釈が難しいな)

身も知らない人の死亡のニュースを観ても私たちは当然ながら「ふうん」としか思わないけど、
もっとその相手に近づいてその人間の人生を掘り下げてみれば
松子のような劇的な(いや、決して劇的じゃなく地味でもこちらの琴線に触れるような)エピソードが
必ずひとつやふたつは見えてくるものなんだろうな。

〝人〟を〝第三者〟としてじゃなく、あくまで〝人〟として捉えろと教えてくれる、
とてもいい物語だった。
映画版よりおすすめです(あっちはあっちでいい味出してるけど娯楽性が強すぎるからなー)。


ていうか〝嫌われ松子〟っていったらやっぱこれだよな。
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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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