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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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そう信じたい。



小学校生活最後の夏休みが始まろうとしていたあの日。辻貴雄と横田純は
いつものように森の中にある秘密の空き地で遊んでいた。
その時、空き地に建てられていた古い小屋の中から泣き声が聞こえてくる。
二人がそこで見つけたのは赤ちゃんだった。周りには置き手紙も何も残されていない。
そこで貴雄と横田は、赤ちゃんをロビンと名づけ母親が戻ってくるまで面倒をみることにする。
だが、しばらくして横田が家の事情で引っ越すことになり、貴雄は孤立無援の状態に。
ロビンの母親はまだ帰ってこない。誰にも相談はできない。
そもそも、信じられる大人などいるのだろうか。
貴雄の一人だけの子育てが始まった――。

***

デビュー作〝チューイング・ボーン〟がかなり好きだったので喜び勇んで手に取った
数年ぶりの新作である本作。
前作のミステリ性・暗さはすっかり鳴りをひそめ、読んでいて気恥ずかしくなるほどの
初々しい青春物語。。。と思えたのは序盤までで、物語が進むにつれ次第に
著者の大山氏のホラー節が炸裂します。
ただ、〝チューイング・ボーン〟の登場人物たちが、皆倒錯した性格ながらも
どこか共感できるキャラであったのに対して、
本作の登場人物たちは思考や行動に納得のいかない部分が多い。
主人公たちがまだ十二歳だということを踏まえても、あまりに一般常識を知らなすぎたり、
かと思えばある部分では大人顔負けの知識を持っていたりと、著者に都合よく描かれすぎていた
気がする(というか都合がいい悪い以前に、主人公の少年の思考回路なんてかなり支離滅裂だし)。
どうして彼らに、あの女を傷害罪で訴えるという発想が浮かばなかったのは未だに謎。

ただ、主人公たちにある大事件が起こってからの少年の底辺人生の描写はリアルで、
彼の心理や第三者たちとの触れ合いの描写も巧みで非常に面白く読めた。
ところどころ印象的なフレーズもあったりして、大山氏の著作に見られる純文学性を堪能できた。
デビュー作も底辺に近い人生を送る主人公の描写がハンパじゃなく上手かったので、
そういうのを軸にした物語を書かせたらこの作家さんは右に出る者なしだよなあと思う。
ただ、そのぶんその終盤だけが序~中盤のファンタジックな展開から浮いてしまっていて、
全体で見るとバランスが悪かった気も。
あと、中盤のミザリー女はなかなかいい狂いっぷりだったけど、この女をはじめ主人公二人も
ラスト間際に出てくる男性も皆が皆打たれ強すぎ。殴られても蹴られても何度も何度も起き上がる。
B級ホラーの敵役じゃないんだから、とシリアスな暴力シーンもときどき笑いそうになってしまった。
しかも主人公たちがあれだけの怪我を負って周囲の大人が誰も気づかないというのもありえないし。
改めて考えてみると、中盤はほんと著者に都合のいい展開だったな。。。

赤ん坊や横田というキャラクターが本作中であまり意味を成していないのも残念なところ。
あっさり退場してそれっきり。彼らがもうちょっと主人公のその後にいろいろな意味で影響しても
よかったんじゃないかなと思う。

ちなみにラストは解釈が難しいですが、
きっと主人公は〝自分で時計を操る術〟を身につけてしまったために、
現実にはもうこだわらなくなってしまったんじゃないか、というのが個人的見解です。
つまりは妄想に逃げ込んでしまった、悪く言えば〝狂って〟しまった。
ずっと独りきりでいたことで時計の針を修正してくれる人間もいなくなってしまったしね。。。

著者の言わんとすることも伝わってこなかったし、私の中でデビュー作は超さなかったな。
読んで損した、ということは絶対にないですが。
大山氏はまだまだ若いし、これからに期待します。
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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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