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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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ここは酷く寒い。



雨が降りしきる河原で大学生の西川が出会った動かなくなっていた男、
その傍らに落ちていた黒い物体。
圧倒的な美しさと存在感を持つ「銃」に魅せられた彼はやがて、
「私はいつか拳銃を撃つ」という確信を持つようになるのだが…。
TVで流れる事件のニュース、突然の刑事の訪問――次第に追いつめられて行く中、
西川が下した決断とは?
新潮新人賞を受賞した衝撃のデビュー作。単行本未収録小説「火」を併録。

***

改めて読んで、やっぱりこの著者はすごいと思った。

著者の中村氏の敬愛する作家・太宰治の言葉に、
「ひとりでいても常に自分を見つめる第三者の眼を感じていた」と
という言葉があるけれど、本作の主人公もそう。
ひとと接するときは常にそれを冷静に見ているもうひとりの自分の眼があり、
その「自分」が主人公を動かしている。「自分」が命じるままに
他人を自らの言動でコントロールし、コントロールされる人間を
醒めた眼で観察している。
貴志祐介氏の「青の炎」にも同じように自分の言葉で相手をコントロールする
主人公が出てくるけれど、作家というものは皆こういうところを
持っているんじゃないかと思う。自分の物語の中で人間を動かすことを
生業としているひとたちだものな。

拾った銃に次第に魅せられ、恋愛感情以上のものを抱き、
「この銃に嫌われたらどうしよう」とまで思い詰める主人公の気持ちが、
不思議とわかる。
誰かに強く惹かれるとき、ひとはその相手を自分の中で最大限に神格化して
その想像上の産物を宗教的なまでに愛するものだけど、
本作の主人公はそれが人間ではなく「銃」だっただけのこと。
物言わぬ相手だからこそ、粗が見えることも幻滅することもなく
より神々しいまでの存在として自分の中に居座らせてしまった。
そしてその「愛しくてならない存在」への気持ちは、意図していたのとは
別のところで、ほんの些細なことで爆発した。
他人をコントロールしていた人間が、その大きな存在に逆にコントロールされて
しまうラストは、初めて読んだ10年前から今も心に強く残り続けている。

月並みなことを言うなら、電車って確かに必ず1、2人はウザい人間が乗ってて
それに苛立ちを通り越して殺意さえ湧くことって確かにあるしな。
中村氏もそういう経験がきっとあるんだろうな。

最近の中村作品は、描かれるテーマが大きいものが多いですが、
本作はただひとりの人間の心理を丁寧に丁寧に描写していて、
私はそれこそが氏の本領だと思っているので、
またこういう作品を書いてほしいなと思う。

おすすめです。
併録の「火」も、個人的には「短編が苦手なのかな?」と思っている
中村氏の短い作品の中では抜きん出て素晴らしいものなのでおすすめ。

本を読んでいると、その作者がどこまで真剣にその物語を
書いているのかがわかるけど、
本作は全身全霊で書かれた物語だということが感じ取れる。
中村氏は私の知っている限り常に全力投球のひとだけど、今の時代、
こういう自分の魂を削るぐらいの勢いで書いてる作家さんって少なそうだから、
貴重な存在だと思う。

出会えてよかった。
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