忍者ブログ
読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
[13]  [14]  [15]  [16]  [17]  [18]  [19]  [20]  [21]  [22]  [23
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

あなたたちは、わたしの物語から決して出られない。



聖母女子高等学院で、一番美しく一番カリスマ性のある女生徒が死んだ。
今晩学校に集められたのは、彼女を殺したと噂される、
同じ文学サークルの「容疑者」たち。
彼女たちは一人ずつ、自分が推理した彼女の死の真相を発表することに。
会は「告発」の場となり、うら若き容疑者たちの
「信じられない姿」が明かされていき――。
全ての予想を裏切る黒い結末まで、一気読み必至!

***

ジャンルとしてはイヤミスに入るのだろうけど、
私が真っ先に受けた印象は「瑞々しい」。
女子高生の、それもクリスチャン系の女子高という閉鎖世界ならではの
彼女たちの心理をとても巧みに描き出している。
闇鍋パーティーをしながら一人ずつ自作の小説(テーマは皆、死んでしまった
いつみについて)を朗読していく、というスタンスで始まる本作ですが、
皆が皆都合よく同じ趣旨(「私は悪くないの、悪いのはあいつなのよ!」的な)の
文章書くかー?という疑問は残るものの、
登場人物ごとに文体も作風も巧妙に変えられていて著者の筆力が伺えます。
結局いつみを殺した犯人は誰なんだ?とドキドキさせられて
ページを繰る手を止めさせない、そのリーダビリティはさすがのひと言。
オチはかなり強引でしたが(あの件について警察の発表はなかったのか、とか
死体の処理はどうしたんだ、とか突っ込みポイントが多々あった)
上述のとおり心理描写が巧みで筆力もかなりハイレベルなので、
眼をつぶろうと思えばつぶれます。

昔仲のいい女の子が結婚したとき、
「結婚式楽しかったよ。だって平凡な自分が唯一主役になれる日なんだよ」
と言っていたのですが、本作を読了後その言葉を思い出してしまった。
確かに女性ってそんな風に「主役」になることを夢見てしまうものですが、
そうだよね。。。自分が主役になるってことはつまりはそういうことだよね。。。
と本作を読んで痛感した。
私は一番大切なたったひとりの人間にとってのヒロインであれればいいけれど、
そうじゃなくもっと大きい単位でヒロインになりたい人間だっているはずで、
そして自分がヒロインであるということは自分を中心に据えた「物語」を取り囲む
ほかの出演者がいるはずで、その出演者たちにもそれなりのクオリティを求めて
しまう。三流役者は許さない。つまらない、イケてない人間は要らない。
そういうことを描いたのがつまりは本作なんでしょう。
つまりは女の、言い方は悪いけれど「いやらしい」本能を描いたのが。
スクールカーストなんかその最たるものだしな。
でもそれぞれの自作小説を朗読している間(読者がその朗読パートを読んでいる間)は
登場人物の少女たち一人ひとりもこの「暗黒女子」という作品の「主人公」であるわけで、
そしてどの少女の物語に一番惹かれるか、どの少女が一番印象に残ったかは
読者によって違うから、結局誰が本当の「主役」だったのかには
明確な結論は永遠に出せないのでしょうが。

何はともあれ、最近読んだミステリの中ではダントツに面白かったです。
おすすめ。
この著者のデビュー作も近々読んでみる予定です。

PR
私の心にも、人知れず菩提樹が立っている。



若き日の火村、そして若さゆえの犯罪――
シューベルトの調べにのり高校生・アリスの悲恋が明かされる表題作、
学生時代の火村英生の名推理が光る「探偵、青の時代」、
若いお笑い芸人たちの野心の悲劇「雛人形を笑え」など、
青春の明と暗を描く。

★収録作品★

 アポロンのナイフ
 雛人形を笑え
 探偵、青の時代
 菩提樹荘の殺人

***
 
新年初、そして久々のブックレビュー。
四つの物語が収録されていますが、個人的に面白いなと思えたのは
一話目〝アポロンのナイフ〟のみ。
それにしてもそこまで衝撃を受けるトリックでもなく。
ただちょっと社会派の様相を呈していて色々と考えさせられたのと
ラスト一行が秀逸だったので推し。

〝雛人形を笑え〟は、著者の有栖川氏が参加しているアンソロジー
〝0番目の事件簿〟で同じトリックを使ってるひとがいたので
目新しさはなし。

〝探偵、青の時代〟はお馴染み火村の大学時代の話。
火村の最大の謎である「ひとを殺してみたいと思ったことがある」
というひと言の片鱗でも覗けるかと期待していたのですが
そのことについてはまったく触れておらず肩透かし。
御手洗潔の犬好きに対抗する火村英生の猫好きのエピソードは
人間味が感じられて微笑ましいかったけれど。

表題作〝菩提樹荘の殺人〟に至っては何の感銘も感じなかった。
物語自体も面白いと思えないしトリックも微妙だし。

あとがきによると火村が殺人をしたいと思ったという過去については
著者自身もまだ思いついてないらしいので、
そこに触れる物語を読めるのはもっとずっと先になりそうです。
まあそれまでは単純に作家アリスシリーズを楽しむとするか。

ミステリ初心者にはまあまあおすすめの作品です。
って言っても火村准教授をまったく知らないと
入り込みづらいと思いますが。
「だけどそれは……BOOOOOOOOOO!」
 


十四年前、ある地方都市で起きた連続猟奇殺人事件。
逮捕後、その美貌と語り口から、男には熱狂的な信奉者も生まれたが、
やがて死刑が執行される。
彼の「死」は始まりにすぎなかった。
そしていま、第二の事件が起きる――。
第59回江戸川乱歩賞受賞作。

***
 
最近の乱歩賞受賞作の中では面白いほうだと思うけど、
半分も読まないうちに犯人がわかってしまった。
別の人間を犯人に見せかけようとするミスリードもあからさまで
少っしも引っかからず読み進め、犯人がわかった瞬間も
「ああ。。。やっぱりな。。。」と予定調和。
そして選評でも書かれていたけれど、猟奇殺人犯・ブージャムに
魅力がなさすぎる。
もっと彼のカリスマ性を徹底的に描写してくれれば
彼の存在が社会現象になったり「襲名犯」が現れるのも頷けるんだけど。
そして主人公・仁がつまらないことでうじうじうじうじ、
大の男が鬱陶しいことこの上ない。読んでいて苛々する。
主人公の癖に全然動かないし。
でも登場人物間に流れる「想い」は温かなものも悪意あるものも
丁寧に描写されていてよかった。
ラストの「手紙」とか、仁の信に対する想いとか、じんときた。
惜しむらくはその描写に著者の「ここが読みどころだ!」という気合が
透けて見えてしまうところ。
でもそれら欠点は作を重ねるごとに改善されていくと思うし、
文章は達者とは言えないまでもところどころにきらりと光る一文を
見付けることも多かったので、今後が楽しみな作家さんではある。
次回作にも期待します。
お前を満たしてやりたい。
この憂鬱を消すために。



全てに無気力な私が拾った小さな蟹。
何でも食べるそれは、頭が良く、人語も解する。
食事を与え、蟹と喋る日常。そんなある日、
私は恋人の女を殺してしまうが……。
私と不思議な蟹との、奇妙で切ない泣けるホラー。

★収録作品★

 かにみそ
 百合の火葬

***

著者の倉狩氏は本作がデビュー作なのですが、
新人とは思えないほど文章がうまい。
安定感があって物語の軸もブレず、最後まで安心して読むことが出来た。
「流星群の翌朝、ごみと海藻が散乱する浜辺で蟹を見つけた」
という書き出しにも詩的で非凡なものを感じる。
そしてまたこの喋る蟹が可愛くて可愛くて。人間臭くて魅力的で。
人を食らう異形の蟹と主人公とのやり取りは興味深く、
かの名作゛寄生獣〟の真一とミギーのよう。
蟹の人間に対する洞察の鋭さもミギーと共通しているし。
あの作品が好きなひとには是非読んでほしいところ。

タイトルからオチは早々にわかってしまったけれど、
それでもラストは切なくて、でも蟹の生き様はどこまでも潔くて恰好よくて、
そんな蟹と暮らした数ヶ月から「生き物」の真理を悟る主人公の語りも
哲学的で共感出来て、単なるホラーと呼ぶのはもったいない
深みのある作品に出会えたと思えた。
本作は小学生のころに読んだ゛ジャンボコッコの伝記〟という名作児童文学と
ラストが似ていて、「ああ、やっぱり、相手を理解したいと思ったら
こうするに限るんだよなあ。。。」とひとつの解答を得た気がした。
まあ実際やったら捕まるけど。でも主人公たちの気持ちはわかる。

あとどうでもいいけど、契約社員として働く主人公の仕事の描写が
やたらリアルだったのは、著者が実際同じように働いてたのかも知れないな。
でも今後は是非プロ作家としてがんばってほしい。
これからに期待出来る作家さんです。
次回作が楽しみ。

併録の゛百合の火葬〟は、ちょっと抽象的すぎて
あまり面白いとは思えなかったな。文章はやはり抜群にうまいですが。

でも何だかんだでおすすめ。
是非一読を。
生き残りたければ、戦うしかないということなのか。



11月下旬の八ヶ岳。山荘で目醒めた小説家の安斎が見たものは、
次々と襲ってくるスズメバチの大群だった。
昔ハチに刺された安斎は、もう一度刺されると命の保証はない。
逃げようにも外は吹雪。通信機器も使えず、
一緒にいた妻は忽然と姿を消していた。
これは妻が自分を殺すために仕組んだ罠なのか。
安斎とハチとの壮絶な死闘が始まった――。
最後明らかになる驚愕の真実。
ラスト25ページのどんでん返しは、まさに予測不能!

***

どうした、貴志!?
。。。と読み終えて思わず胸中で呟いてしまった。
元々ものすごいハイクオリティなB級作品を書くひとだけど、
これはただのB級。
あらすじにも書かれているラストのどんでん返しも、
本格ミステリ作家が売れない時代に書いてそうな内容で興ざめ。
いやそれは無理あるだろってところもありまくりだし。
前半のハチとの格闘シーンも全然面白くない。
だって主人公が言ってるように、最初から山荘燃やしちゃえば
それでハチ全滅して終わるんだもん。
逃げられない、絶体絶命、なんて切羽詰った部分ないんだもん。
比喩表現が大袈裟で手垢まみれなのも鼻白んだ(比喩が大袈裟なのは
今に始まったことじゃないけど、これまでは作品が面白いから
それもご愛嬌ってことで許せた。でも作品のレベルが低いと
こうも鼻につくものなのだと初めて気付かされた)。
中盤まで対ハチアクション、後半~ラストで微妙な本格ミステリになり、
ラストシーンは素人が書くような薄っぺらいホラーエンド。
大好きで著作を全部読んでいる貴志祐介氏、
私的に面白くなくなったなと思い始めたのは゛狐火の家〟あたりからですが、
初期のころの、読者をぐいぐい惹き付けて離さない、
バリバリのエンターテインメントにして物語としての深みも兼ね備えている、
そんな彼の作品にもう一度出会いたい。
久々の新作ということで非常に心待ちにしていただけに残念でした。
次回作に期待します。
ありがとう。



妻も、読者も、騙される!
『悪人』の作家が踏み込んだ、〈夫婦〉の闇の果て。
これは私の、私たちの愛のはずだった――。
夫の不実を疑い、姑の視線に耐えられなくなった時、
桃子は誰にも言えぬ激しい衝動に身を委ねるのだが……。
夫婦とは何か、愛人とは何か、〈家〉とは何か、妻が欲した言葉とは何か。
『悪人』『横道世之介』の作家がかつてない強度で描破した、狂乱の純愛。
本当に騙したのは、どちらなのだろう?

***

作中の仕掛けには速攻気付いたので
種明かしされたときも「ああやっぱりな」と驚きはなく残念。
ただ、種を明かされてから改めて読むと
人間の心というものがいかに移り変わりやすいのかということがわかって
うんざりとした気持ちになる。
そしてその移り変わった気持ちを、相手に申し訳ないと思うより先に
自己陶酔して正当化してしまう、人間の身勝手さ、気持ち悪さというものも
目の当たりにした気がして思わずため息が出た。
全体に地味な物語なのですが、そのぶん登場人物たちのひと言、一挙一動が
リアルに迫ってきて、ヒロイン・桃子と一緒に笑ってみたり、傷付いてみたりと、
妙な臨場感があった。
「過去の亡霊」に共感したが故に憑りつかれたのか、憑りつかれたが故に
共鳴したのか、どちらともとれる終盤のシーンもなかなかに鬼気迫るものがあって
面白い。
桃子が拾ってくる猫・ピーちゃんは、おそらく失くしてしまった子供の代わりで、
ピーちゃんという名前も、生まれた子に付けようと思っていたもののあだ名か何か
なんだろうと思ったら少し切なくなった。
ラスト一行の桃子の台詞は心に沁みる。
人間、相手のたったひと言で自分でもびっくりするぐらい救われるものなのに、
それがなかなかもらえなくて苦しんだりするのだから単純なんだか繊細なんだか
わからないよな、本当に。
言葉が過ぎても言葉が足りなくてもうまくいかずにすれ違ってしまう、
人間て難しいものです。

吉田作品の中ではパンチはないほうだけど、おすすめ。
ラストにちょっとご都合主義なところがあるのはいただけないけど。
捨てる神あれば拾う神あり、といったところなんでしょうか。
いつか、やがて、海へとたどり着くだろう。



これは、あなたが読んだことのない重松清――
本当の救済がここにあります。

小説家であるセンセイに、ある少年から旅の詳細を記した手紙が届く。
それは、生き抜くために家出をした三人の少年少女の記録だった。
しかし現実の彼らはある事故に遭っていた――。
ナイフさん、エミちゃん。手紙にはセンセイの創作した人物まで登場する。
これは物語なのか、現実なのか。
全ての親へ捧げる、再生と救済の感動巨編。

***
 
死にたいほどつらいときも小説が助けてくれた。
大好きな作家の生み出したキャラクターと頭の中で会話することで
地獄のような精神状態を耐えてどうにか暮らせる今がある。
。。。という経験のある私ですが、そこまで大層なことじゃなくても、
単に小説のキャラに萌えて読んでいる間はいやなことを忘れられる、
生きる張り合いが出る、なんてひとにもおすすめの一冊。
誰しもが好きな作家に「自分のためだけのキャラを生み出してください」とか
「あなたの書く物語の中に自分を登場させてください」とか
一度はお願いしてみたいものだと思うけど、本作ではそれを重松清という
大御所作家が実践してくれているから。
これまでの重松作品の登場人物も普通に出てきて、彼らのその後が
描かれているのもファンには嬉しいサービス。もちろんそれらを未読のひとにも
普通に読めるようになっています。
テーマがいじめということもあって対象年齢を十代に絞っている印象を受ける
本作ですが、現実とフィクションが次第に融合してひとつになっていく
終盤の展開はどこか純文学的なテイストがあって大人でも割と読めます。
むしろ大人が読んだら青臭さに子供っぽい印象を受け、
子供が読んだらラストの抽象的な終わり方が理解出来ない、といった
困ったことにもなりそうな危惧を抱かせる作品ではありますが、
心地よい切なさと寂しさ、でも一抹の救いは物語から感じ取ることが出来ると思うので
読んで損はありません。
個人的には「疾走」の主人公・シュウジを出してほしかったなー。。。って
まあ無理な相談なんですが(意味は読めばわかります。重松氏の最高傑作です)。

長く子供を主人公にした物語を書いてきた重松氏。
苦しむ子供たちを自らの紡ぐ物語で救いたいという気概は
これまでの著作からもむんむん漂っていましたが、その集大成が本作なんだろうな。

ちなみに蛇足ですが私が一番会いたい小説の中のキャラクターは
 御手洗潔です。冗談抜きで惚れていて、彼の登場シーンでは
心臓がドキドキしまくって顔まで赤らんだほど。ええ。喪女ですとも。
そしたら僕たちにできないことなど
何ひとつなくなるよ。



幼馴染みと十年ぶりに再会した僕。
かつて「学年有数のバカ」と呼ばれ冴えないイジメられっ子だった彼女は、
モテ系の出来る女へと驚異の大変身を遂げていた。
でも彼女、僕には計り知れない過去を抱えているようで──
その秘密を知ったとき、恋は前代未聞のハッピーエンドへと走りはじめる!
誰かを好きになる素敵な瞬間と、同じくらいの切なさも、
すべてつまった完全無欠の恋愛小説。

***

この小説のオチは、許せるひとと許せないひと、
二通りに分かれると思う。
私は後者だった。
何が起きるんだろう何が起きるんだろう、
ヒロインの真緒の秘密って何だろう、
どんなにページを繰っても読めない展開に
「ここまで先を予測させないなんて、この作者すごいな」などと
思っていたら。。。
そりゃ読めんわ。まともな恋愛小説だと思っていたのに
突然のこのファンタジーオチ。
このオチを持ってこられるまで真面目に読んでいた時間を返せ。
ていうか何でこんなもんが映画化されてベストセラーにまでなってんの?
こんな話読んで感動していいのは中学生まででしょ。
それ以上の年齢の人間が本作を読んで「感動した」「泣いた」とか言ってたら
おそらく私はそのひととは友達になれない。

文章が軽妙でセンスがあるぶんこのオチは残念極まりなかった。
小学校か中学のときに読みたかったな。そしたらちょっとはじんわりきてたかも。
少なくともこんな腹立たしい気持ちになることはなかった。

いい大人にはおすすめしません。

ていうかあんな姿になっちゃって、浩介が今後新しい恋愛したら
どうするんだよ真緒。。。浩介が気まずいじゃないかよ。
もはや引き返すことはできない。



昭和34年。海に閉ざされた炭坑の島で満月の夜に
一人の少女が不審死を遂げた。
殺人事件を疑う若き警察官・荒巻の“許されざる捜査"は、
しきたりや掟に支配された島に波紋を広げていく。
暴かれていく人びとの過去、突きつけられる「警察官不適格」の烙印。
いま警察の正義は守られるのか。
次の満月、殺人者はふたたび動き出す――。

***

500P超の長編なのに、会話文が主体であることと
読みやすい文章のためにすいすい読める。
そして主人公の荒巻が犯人探しに奔走する様にリーダビリティがあり
読み手を引き付けて離さない。
荒巻が軍艦島に派出所の巡査として赴任してきてからの
彼の島でのごく何気ない暮らしの中に重要な伏線が張られていたことが
終盤でわかったときはさすがベテラン作家と膝を打った。
犯人の正体には納得がいったけれど、その人物の犯行動機は
中途半端で凡庸なものだったのでそれだけが残念。
ラストももっと読者の不安を煽る終わり方でもよかったんじゃないかと思う。
(たとえるなら浦沢直樹氏の「モンスター」みたいに)

まあ面白かったですが。

それにしてもこれだけ長い荒巻の話、
皆よく宴会の席で最後まで聞いてたな笑
僕が、人間である証拠を。



カンボジアの地を彷徨う日本人少年は、
現地のストリートチルドレンに拾われた。
「迷惑はな、かけるものなんだよ」
過酷な環境下でも、そこには仲間がいて、笑いがあり、信頼があった。
しかし、あまりにもささやかな安息は、ある朝突然破られる――。
彼らを襲う、動機不明の連続殺人。
少年が苦難の果てに辿り着いた、胸を抉る真相とは?
激賞を浴びた『叫びと祈り』から三年、
俊英がカンボジアを舞台に贈る鎮魂と再生の書。

***

舞台がカンボジア、主人公たちがストリートチルドレンという設定にしたのは
著者が単にそういう国に興味があるからだろうか、と思っていたけど、
違った。そうしなきゃ書けないミステリだからだ。
梓崎氏のデビュー作を読んだときにも「すごいトリック思い付くな」と
舌を巻いたものだけど、本作の「犯人」の殺人の「動機」にも
打ちのめされた。あまりにやるせない。
こんな悲しい動機があっていいんだろうかと、
真相がわかった瞬間しばらくページを捲る手が止まった。
物語に登場する少女がいつも傘をさしている理由とか、
第六章「空の涙」のタイトルのその本当の意味とか、
わかるたびにいちいち胸をつかれた。胸が痛かった。

主人公・ミサキが何度か繰り広げる推理は「そりゃ違うだろ」と
まるわかりなのでミスリードされることはなく「このあとにもっとちゃんとした
真相が語られるんだろうな」と気付けてしまうのでそこがちょっと残念だったし、
あと、シビアながらも抒情性豊かに進んでいた物語が
後半のひとりの青年の唐突な登場によっていきなり本格ミステリ化してしまうのも
どうかと思ったけど(ていうかあの青年、゛叫びと祈り〟の彼だよね絶対)、
全体的にはクオリティの高い物語だった。

本作を入れてまだ二冊しか本を出していない新人作家さんで
文章力や構成力もまだ拙いけど、この梓崎優という作家は
これからぐんぐん伸びてくるひとだと思う。

次回作が楽しみ。
おすすめです。
プロフィール
HN:
kovo
性別:
女性
自己紹介:
80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
アーカイブ
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
バーコード
ブログ内検索
Copyright © 【イタクカシカムイ -言霊- 】 All Rights Reserved.
Powered by NinjaBlog  Material by ラッチェ Template by Kaie
忍者ブログ [PR]