そのなんの変哲もない一瞬に。
2033年、人類で初めて火星に降り立った宇宙飛行士・佐野明日人。
しかし、宇宙船「DAWN」の中ではある事件が起きていた。
世界的英雄となった明日人を巻き込む人類史を揺るがす秘密とは?
***
群像劇?
エスピオナージ?
恋愛モノ?
人間ドラマ?
物語としてどうこうして以前に、ジャンルとしての着地点が見えない物語だった。
あらゆる要素のごった煮で、どれも味が中途半端。
登場人物の台詞は政治家たちを抜かしても演説&説明口調ばっかりで
読んでてうんざり気味になったし。
はっとするエピソードがあるかと思えば肝心な部分は昼ドラみたいにチープだったりと
物語のクオリティにムラがあるのも何だかな。。。
そもそも物語の舞台がアメリカで登場人物もほとんどアメリカ人だから
どうにも感情移入しづらい(翻訳ものをよく読む人にはいいのかもしれないけど)。
著者の言いたいことを掴めないまま、気づけば読み終えてしまっていた。
前作〝決壊〟に比べて、三人称の文章は格段にうまくなっててびっくり(と、
芥川賞作家に向かってこんなこと言うのも偉そうだけど、
純文学から僅かに娯楽小説にシフトした上記作の三人称文体は
冗談抜きでひどかったので。。。)。
何だろう、敢えて読み取れたとすれば、陳腐だけど
〝時代が移り変わっても人間の愚かさは変わらないけど、
同時にいい部分も変わらないよ〟
そういうことかな、あのラストシーンを読んだ限りでは。
ラストシーンといえば、最後に主人公夫婦がどういう言葉を交わしたのか、
読者は普通に想像できるので敢えて書く必要はなかったと思う。蛇足。
本作は個人的には著者の平野氏が宇宙飛行士と近未来という
架空の身体と時代を借りて描いた自伝のようにも思えるんだけどどうかな。
それにしても、本書付属のしおりに書いてあった〝火星がテーマの映画一覧〟は
面白かったので下に列記しておきます。
Flash Gordon 1936
Rocketship X-M 1950
Invaders from Mars 1953
War of The Worlds 1953
Conquest of Space 1955
The Heavens Call 1959
Robinson Clusoe on Mars 1964
On The Comet 1970
MAC and Me 1988
Total Recall 1990
Mars Attacks! 1996
Mission to Mars 2000
Red Planet 2000
Space Crawler 2015
The Dream of Chameleon 2017
Empire of One billion years 2020
The message Delivered Wrongly 2020
Blue and Red 2021
Lost in Heaven 2022
Rewritten Dictionaly 2024
Lovers of a vacuum 2025
Mars Explosion 2025
Planet of Love 2034
A Feast of Mars 2036
MISSION 3 2028
War of The WorldsⅡ 2028
Odyssey 2033
ていうか冒頭で主人公が使っていたモニターがもう現実に開発段階というのに驚き。
2033年、人類で初めて火星に降り立った宇宙飛行士・佐野明日人。
しかし、宇宙船「DAWN」の中ではある事件が起きていた。
世界的英雄となった明日人を巻き込む人類史を揺るがす秘密とは?
***
群像劇?
エスピオナージ?
恋愛モノ?
人間ドラマ?
物語としてどうこうして以前に、ジャンルとしての着地点が見えない物語だった。
あらゆる要素のごった煮で、どれも味が中途半端。
登場人物の台詞は政治家たちを抜かしても演説&説明口調ばっかりで
読んでてうんざり気味になったし。
はっとするエピソードがあるかと思えば肝心な部分は昼ドラみたいにチープだったりと
物語のクオリティにムラがあるのも何だかな。。。
そもそも物語の舞台がアメリカで登場人物もほとんどアメリカ人だから
どうにも感情移入しづらい(翻訳ものをよく読む人にはいいのかもしれないけど)。
著者の言いたいことを掴めないまま、気づけば読み終えてしまっていた。
前作〝決壊〟に比べて、三人称の文章は格段にうまくなっててびっくり(と、
芥川賞作家に向かってこんなこと言うのも偉そうだけど、
純文学から僅かに娯楽小説にシフトした上記作の三人称文体は
冗談抜きでひどかったので。。。)。
何だろう、敢えて読み取れたとすれば、陳腐だけど
〝時代が移り変わっても人間の愚かさは変わらないけど、
同時にいい部分も変わらないよ〟
そういうことかな、あのラストシーンを読んだ限りでは。
ラストシーンといえば、最後に主人公夫婦がどういう言葉を交わしたのか、
読者は普通に想像できるので敢えて書く必要はなかったと思う。蛇足。
本作は個人的には著者の平野氏が宇宙飛行士と近未来という
架空の身体と時代を借りて描いた自伝のようにも思えるんだけどどうかな。
それにしても、本書付属のしおりに書いてあった〝火星がテーマの映画一覧〟は
面白かったので下に列記しておきます。
Flash Gordon 1936
Rocketship X-M 1950
Invaders from Mars 1953
War of The Worlds 1953
Conquest of Space 1955
The Heavens Call 1959
Robinson Clusoe on Mars 1964
On The Comet 1970
MAC and Me 1988
Total Recall 1990
Mars Attacks! 1996
Mission to Mars 2000
Red Planet 2000
Space Crawler 2015
The Dream of Chameleon 2017
Empire of One billion years 2020
The message Delivered Wrongly 2020
Blue and Red 2021
Lost in Heaven 2022
Rewritten Dictionaly 2024
Lovers of a vacuum 2025
Mars Explosion 2025
Planet of Love 2034
A Feast of Mars 2036
MISSION 3 2028
War of The WorldsⅡ 2028
Odyssey 2033
ていうか冒頭で主人公が使っていたモニターがもう現実に開発段階というのに驚き。
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私の自分かわいさには果てがない。
四年近くもの間、二段ベッドが置かれた六畳間ひとつの古く陰気な借家で同居している
三十歳間近の“兄”こと英則と、“妹”、奈々瀬。
奈々瀬は上下灰色のスェットにだて眼鏡姿で家に籠もり
「あの日」から笑顔を見せなくなった英則のために日々“笑い”のネタを考えている。
保健所で犬の殺処分の仕事をしている英則は一年前、
天井板の一角に隙間を発見したのをきっかけに、帰宅後、屋根裏に潜り込んでは
“妹”を覗く、という行為を繰り返しているのだった……。
***
〝大勢の人をちょっとずつ不快にしてもされた側はいずれ忘れる、
けれど一人の人間を思い切り怒らせたら半永久的に恨まれる〟
こんな簡単な真理さえわからずに人に媚びまくり自分を作りまくり一人勝手に疲れている、
それが本作の主人公。
その癖無意識にか半ば計算か結構小賢しいところもあり、
現実にいたら殴りたくなること請け合いなのに読んでいるぶんにはなぜか愛しい。
それもまた本作の主人公。
人間の複雑な心理をどうしてこうも明快かつあっけらかんと書けてしまうのか、
本谷さんの作品を読むたびに感銘を受けつつ不思議でならない。
この物語に登場する〝きょうだい〟はひと言で言ってしまえば単なる共依存の関係
なんだろうけど、互いの相手の縛り方が普通の共依存者(て表現も何か変だけど)に比べて
個性的に歪んでいて面白い。
さーデートだ買い物映画遊園地ー
クリスマスには二人でディナー年が明けたら初詣ー
誕生日にはプレゼント交換夏は海冬はイルミネーションー
というマニュアル極まりない恋愛関係に鳥肌が立ってしまう性質の私としては
(他人は勝手にやってればいい。自分がやるのが心底苦手)
こういうひねくれにひねくれまくった男女関係は正直死ぬほど羨ましい。
それにしても本作の〝天井裏覗き〟には
江戸川乱歩の〝人間椅子〟に匹敵するインモラルなエロさを感じたな。
おすすめ。
蛇足:
私は主人公の兄と似た感じで、幼いころ
「今こうして喋ってる友人たちは皆それぞれルックスや話す言語や世界が違って
でも自分の周りの人間は自分と同じものに見えていて、
なのに誰もがそれに気づかずにそれぞれの外見・言葉・世界の中で生きてるんじゃ
なかろうか」
というパラノイア的妄想にとり憑かれたことがあります。
四年近くもの間、二段ベッドが置かれた六畳間ひとつの古く陰気な借家で同居している
三十歳間近の“兄”こと英則と、“妹”、奈々瀬。
奈々瀬は上下灰色のスェットにだて眼鏡姿で家に籠もり
「あの日」から笑顔を見せなくなった英則のために日々“笑い”のネタを考えている。
保健所で犬の殺処分の仕事をしている英則は一年前、
天井板の一角に隙間を発見したのをきっかけに、帰宅後、屋根裏に潜り込んでは
“妹”を覗く、という行為を繰り返しているのだった……。
***
〝大勢の人をちょっとずつ不快にしてもされた側はいずれ忘れる、
けれど一人の人間を思い切り怒らせたら半永久的に恨まれる〟
こんな簡単な真理さえわからずに人に媚びまくり自分を作りまくり一人勝手に疲れている、
それが本作の主人公。
その癖無意識にか半ば計算か結構小賢しいところもあり、
現実にいたら殴りたくなること請け合いなのに読んでいるぶんにはなぜか愛しい。
それもまた本作の主人公。
人間の複雑な心理をどうしてこうも明快かつあっけらかんと書けてしまうのか、
本谷さんの作品を読むたびに感銘を受けつつ不思議でならない。
この物語に登場する〝きょうだい〟はひと言で言ってしまえば単なる共依存の関係
なんだろうけど、互いの相手の縛り方が普通の共依存者(て表現も何か変だけど)に比べて
個性的に歪んでいて面白い。
さーデートだ買い物映画遊園地ー
クリスマスには二人でディナー年が明けたら初詣ー
誕生日にはプレゼント交換夏は海冬はイルミネーションー
というマニュアル極まりない恋愛関係に鳥肌が立ってしまう性質の私としては
(他人は勝手にやってればいい。自分がやるのが心底苦手)
こういうひねくれにひねくれまくった男女関係は正直死ぬほど羨ましい。
それにしても本作の〝天井裏覗き〟には
江戸川乱歩の〝人間椅子〟に匹敵するインモラルなエロさを感じたな。
おすすめ。
蛇足:
私は主人公の兄と似た感じで、幼いころ
「今こうして喋ってる友人たちは皆それぞれルックスや話す言語や世界が違って
でも自分の周りの人間は自分と同じものに見えていて、
なのに誰もがそれに気づかずにそれぞれの外見・言葉・世界の中で生きてるんじゃ
なかろうか」
というパラノイア的妄想にとり憑かれたことがあります。
願わくば、行きつ戻りつしながら何かがいい方向へ変わっていけばいい。
定年退職後、近所のゲーセンに再就職した剣道の達人キヨ。
柔道家で居酒屋「酔いどれ鯨」の元亭主シゲ。
機械をいじらせたら無敵の頭脳派、工場経営者ノリ。
かつての悪ガキ「三匹のおっさん」が、自警団を結成した。
詐欺に痴漢に動物虐待…。孫と娘の高校生コンビも手伝って、身近なご町内の悪を斬る!
“アラ還(還暦前後)”活劇小説。
***
確かに最近の老人は若い。
テレビで「60過ぎぐらいかなー」とか思って観てると、キャプションに(75)とか出ていて
「若っ!!!」と叫ぶこともしょっちゅう。
だから本作の〝三匹のおっさん〟の活躍も違和感なく痛快に読むことができた。
ただ、解決する事件が、あまりにありふれすぎていて
話の流れが読めてしまうのと、シゲさんの活躍がほとんどなかった点が微妙。
(ていうか頭脳派はいいとして武道派が二人もいるのは若干キャラかぶってた気がする。
全員専門が違ったほうが面白かったのに)
話が全体的に説教くさかったのもちょっと鼻についたかな。
でも若い連中を叱れる人間が少なくなった今、彼らみたいなおっさんの存在は
すごく貴重だとは思う。
それにしても、挿し絵の〝エレクトリカル・パレード発動1秒前〟には笑った。
結構楽しめました(でも、個人的には有川さんの著作はシリアスなほうが好きだな。。。
〝塩の街〟なんて借りて読んだあと即座に買ったし、〝Story Seller〟に収録されてる
短編にはいつも泣かされているし)。
定年退職後、近所のゲーセンに再就職した剣道の達人キヨ。
柔道家で居酒屋「酔いどれ鯨」の元亭主シゲ。
機械をいじらせたら無敵の頭脳派、工場経営者ノリ。
かつての悪ガキ「三匹のおっさん」が、自警団を結成した。
詐欺に痴漢に動物虐待…。孫と娘の高校生コンビも手伝って、身近なご町内の悪を斬る!
“アラ還(還暦前後)”活劇小説。
***
確かに最近の老人は若い。
テレビで「60過ぎぐらいかなー」とか思って観てると、キャプションに(75)とか出ていて
「若っ!!!」と叫ぶこともしょっちゅう。
だから本作の〝三匹のおっさん〟の活躍も違和感なく痛快に読むことができた。
ただ、解決する事件が、あまりにありふれすぎていて
話の流れが読めてしまうのと、シゲさんの活躍がほとんどなかった点が微妙。
(ていうか頭脳派はいいとして武道派が二人もいるのは若干キャラかぶってた気がする。
全員専門が違ったほうが面白かったのに)
話が全体的に説教くさかったのもちょっと鼻についたかな。
でも若い連中を叱れる人間が少なくなった今、彼らみたいなおっさんの存在は
すごく貴重だとは思う。
それにしても、挿し絵の〝エレクトリカル・パレード発動1秒前〟には笑った。
結構楽しめました(でも、個人的には有川さんの著作はシリアスなほうが好きだな。。。
〝塩の街〟なんて借りて読んだあと即座に買ったし、〝Story Seller〟に収録されてる
短編にはいつも泣かされているし)。
ここだよ。
引きこもりの少女・江利子は、拾った犬に「絶対」と名付けた。
「絶対に自分の味方」となることを求め、その犬の世話をする江利子。ところが、
電車の横転事故の跡を見たとき、事件が起きた(表題作)。
人間の深奥に潜む、悪意、ユーモア、想想力を、鋭い感性で描いた3作品。
文学界に衝撃を与えた鮮烈なるデビュー作。
★収録作品★
江利子と絶対
生垣の女
暗狩
***
ああもうほんと大好きだ本谷さん。
デビュー作から毒炸裂&個性全開。
しかも新人作家にありがちな〝収録されてる短編が皆似ててバリエーションに欠ける〟を
微塵も感じさせない見事にテイストの違う三篇。
あー前回の芥川賞、彼女に獲ってほしかったなあ。。。(特に受賞作〝終の住処〟が
微妙すぎたいせいもあり)。
〝江利子と絶対〟は「これ自分か?」ってほど江利子のキャラがリアルだし(まあ
犬にあれはちょっとやりすぎだけど、あれは彼女の病んだ部分の描写ってことで。。。)、
基本明るい性格なのにいやってほどひしひしと伝わってくる彼女の孤独。
話自体は面白いので爆笑しつつも胸が痛かった。合わせ鏡を見ているようで。
ラストの江利子とまったく同じ行為(電車でのアレ&最後の姉のひと言に対するリアクション)を
ぶちかましたことのある自分としてはとても他人事とは思えなかった。
ていうかラストといえば江利子の姉ちゃん、空気読めよ。マジでむかついた。
(あーダメだ、江利子に感情移入しすぎて客観的にレビューが書けない。。。)
〝生垣の女〟は相当シュールで、読む人によっては不快感さえ感じるかも。
〝レンジで猫チン〟に耐えられる人だけ読んでみてください。。。
それにしても、敢えて描写しないからいいんだろうけど、
本編のヒロインをあそこまで狂わせる「本間くん」、一度は出してほしかった。
最終話の〝暗狩(くらがり)〟、これは、打って変わって純文というよりホラー。
(まあ人間の深遠を覗き込むという意味では、純文学とホラーって似てるけど)
むちゃくちゃハラハラしたし、泣けた。
この世で一番残酷で切ないかくれんぼ。
乙一氏の〝ZOO〟に収録されている某短編とかなり内容が似てるけど、
それはそれ、これはこれで違う味わいがあるのでどちらもおすすめ。
誰かこの話映像化してくれないかなー。
と、そう思うのはやはり本谷さんが舞台作家でもあるからなのでしょうか、やっぱり。
めちゃくちゃおすすめです。
引きこもりの少女・江利子は、拾った犬に「絶対」と名付けた。
「絶対に自分の味方」となることを求め、その犬の世話をする江利子。ところが、
電車の横転事故の跡を見たとき、事件が起きた(表題作)。
人間の深奥に潜む、悪意、ユーモア、想想力を、鋭い感性で描いた3作品。
文学界に衝撃を与えた鮮烈なるデビュー作。
★収録作品★
江利子と絶対
生垣の女
暗狩
***
ああもうほんと大好きだ本谷さん。
デビュー作から毒炸裂&個性全開。
しかも新人作家にありがちな〝収録されてる短編が皆似ててバリエーションに欠ける〟を
微塵も感じさせない見事にテイストの違う三篇。
あー前回の芥川賞、彼女に獲ってほしかったなあ。。。(特に受賞作〝終の住処〟が
微妙すぎたいせいもあり)。
〝江利子と絶対〟は「これ自分か?」ってほど江利子のキャラがリアルだし(まあ
犬にあれはちょっとやりすぎだけど、あれは彼女の病んだ部分の描写ってことで。。。)、
基本明るい性格なのにいやってほどひしひしと伝わってくる彼女の孤独。
話自体は面白いので爆笑しつつも胸が痛かった。合わせ鏡を見ているようで。
ラストの江利子とまったく同じ行為(電車でのアレ&最後の姉のひと言に対するリアクション)を
ぶちかましたことのある自分としてはとても他人事とは思えなかった。
ていうかラストといえば江利子の姉ちゃん、空気読めよ。マジでむかついた。
(あーダメだ、江利子に感情移入しすぎて客観的にレビューが書けない。。。)
〝生垣の女〟は相当シュールで、読む人によっては不快感さえ感じるかも。
〝レンジで猫チン〟に耐えられる人だけ読んでみてください。。。
それにしても、敢えて描写しないからいいんだろうけど、
本編のヒロインをあそこまで狂わせる「本間くん」、一度は出してほしかった。
最終話の〝暗狩(くらがり)〟、これは、打って変わって純文というよりホラー。
(まあ人間の深遠を覗き込むという意味では、純文学とホラーって似てるけど)
むちゃくちゃハラハラしたし、泣けた。
この世で一番残酷で切ないかくれんぼ。
乙一氏の〝ZOO〟に収録されている某短編とかなり内容が似てるけど、
それはそれ、これはこれで違う味わいがあるのでどちらもおすすめ。
誰かこの話映像化してくれないかなー。
と、そう思うのはやはり本谷さんが舞台作家でもあるからなのでしょうか、やっぱり。
めちゃくちゃおすすめです。
それはたぶん永遠に終わることのない美しい耳鳴りのような。
五分のずれで現われた、もうひとつの日本は人口126万に激減していた。
国連軍との本土決戦のさ中で、アンダーグラウンド兵士の思いは…。
自分の中の情報を自覚を持って言葉にしたという著者の、472枚の力作。
***
北野武監督の〝キッズ・リターン〟がラストのあの会話のために創られた映画だとしたら、
本作はラスト一行のために書かれた小説なのだと思う。
〝ここで生きる〟、そんなテーマが、これでもかと伝わってくる。
この場所で、この生き方で、たとえ過酷でも自分自身の生を歩もう。
そう決意した人間の、そこに至るまでの過程を〝戦争〟というモチーフに絡めて表現したもの、
本作の内容をひと言で言うならこうだ。
浅倉卓弥氏の〝君の名残を〟が、序盤だけSFという疑似餌をばら撒いておいて
その実完全な大河小説で、SF・ファンタジー好きの読者に肩透かしを食らわせたのと似て、
本作も「何これ、SF小説かと思ったら戦闘描写ばっかりじゃん」と思わないでもないのだけど、
要所要所に差し挟まれたエピソードが、SFだの戦争小説だのといった垣根を越えた
〝純文学〟としての感銘を読む者にちゃんと与えてくれる。
正直著者があとがきで言うほど傑作とは思わないけど、
音楽家のワカマツのキャラや音楽描写を初めとしてとても楽しませてもらった。
村上氏は音楽を文章に変換するのが本当にうまく、
音楽ミステリを書く身としては心から尊敬してやまない。
ある種村上春樹氏の〝1Q84〟と通じる部分があるので、
二つ併せて読んでみるのもまた一興です。Wムラカミ。
五分のずれで現われた、もうひとつの日本は人口126万に激減していた。
国連軍との本土決戦のさ中で、アンダーグラウンド兵士の思いは…。
自分の中の情報を自覚を持って言葉にしたという著者の、472枚の力作。
***
北野武監督の〝キッズ・リターン〟がラストのあの会話のために創られた映画だとしたら、
本作はラスト一行のために書かれた小説なのだと思う。
〝ここで生きる〟、そんなテーマが、これでもかと伝わってくる。
この場所で、この生き方で、たとえ過酷でも自分自身の生を歩もう。
そう決意した人間の、そこに至るまでの過程を〝戦争〟というモチーフに絡めて表現したもの、
本作の内容をひと言で言うならこうだ。
浅倉卓弥氏の〝君の名残を〟が、序盤だけSFという疑似餌をばら撒いておいて
その実完全な大河小説で、SF・ファンタジー好きの読者に肩透かしを食らわせたのと似て、
本作も「何これ、SF小説かと思ったら戦闘描写ばっかりじゃん」と思わないでもないのだけど、
要所要所に差し挟まれたエピソードが、SFだの戦争小説だのといった垣根を越えた
〝純文学〟としての感銘を読む者にちゃんと与えてくれる。
正直著者があとがきで言うほど傑作とは思わないけど、
音楽家のワカマツのキャラや音楽描写を初めとしてとても楽しませてもらった。
村上氏は音楽を文章に変換するのが本当にうまく、
音楽ミステリを書く身としては心から尊敬してやまない。
ある種村上春樹氏の〝1Q84〟と通じる部分があるので、
二つ併せて読んでみるのもまた一興です。Wムラカミ。
「じゃあな。また間違えようね」
連続乳児誘拐事件に震撼する岡山市内で、コインランドリー管理の仕事をしながら、
無為な日々を消化する北原結平・19歳。
自らが犯した過去の“罪”に囚われ続け、後悔に塗れていた。
だが、深夜のコンビニで出会ったセーラー服の少女・蒼以によって、孤独な日常が一変する。
正体不明のシリアルキラー“ウサガワ”の出現。
過去の出来事のフラッシュバック。
暴走する感情。
溢れ出す抑圧。
一連の事件の奥に潜む更なる闇。結平も蒼以もあなたも、もう後戻りはできない!!
第34回メフィスト賞受賞! 子供たちのダークサイドを抉る青春ノワールの進化型デビュー。
***
作中に出てくる岡山弁が広島弁と兵庫弁混ぜたような感じだなーとか思ってたら
ちょうどその間の県だったのか。。。そりゃ似てるはずだわ←究極地理音痴
中間といえばメフィスト賞受賞作である本作、
同じくメフィスト出身作家の佐藤友哉氏と舞城王太郎氏を足して2で割ったような作風だった。
インモラル&バイオレンス。この二大要素さえ入ってれば受賞できるんじゃ? と
思えるほど(もちろんそうじゃない受賞作もあるけど、結構その手の話である確率が高い)。
ていうかいくらフィクションだからって主人公のこの行動じゃ普通絶対に捕まるだろ。
そのへん最低限のリアリティはほしかった。
(舞城氏の作品も結構そういうところはあるけど、あの人は彼独特の世界観で
「まあ何でもありだろ」みたく読み手を納得させちゃうからなー)
主人公がヒロインのせいで狂っていったのかそれとももともとおかしかったのか
そのへんの描写も曖昧だし。
真相があまりに突飛すぎて違う意味で「え!? そうだったの!?」と驚いたし。
文章に〝――〟が頻発するのもちょっと鬱陶しかった。
でも文章表現の端々にはっとするものは感じられる作家さんなので(って何で選評口調?)
今後を楽しみにしておきます。
関係ないけど著者近影、smart系のモデルっぽいなーこの人。
連続乳児誘拐事件に震撼する岡山市内で、コインランドリー管理の仕事をしながら、
無為な日々を消化する北原結平・19歳。
自らが犯した過去の“罪”に囚われ続け、後悔に塗れていた。
だが、深夜のコンビニで出会ったセーラー服の少女・蒼以によって、孤独な日常が一変する。
正体不明のシリアルキラー“ウサガワ”の出現。
過去の出来事のフラッシュバック。
暴走する感情。
溢れ出す抑圧。
一連の事件の奥に潜む更なる闇。結平も蒼以もあなたも、もう後戻りはできない!!
第34回メフィスト賞受賞! 子供たちのダークサイドを抉る青春ノワールの進化型デビュー。
***
作中に出てくる岡山弁が広島弁と兵庫弁混ぜたような感じだなーとか思ってたら
ちょうどその間の県だったのか。。。そりゃ似てるはずだわ←究極地理音痴
中間といえばメフィスト賞受賞作である本作、
同じくメフィスト出身作家の佐藤友哉氏と舞城王太郎氏を足して2で割ったような作風だった。
インモラル&バイオレンス。この二大要素さえ入ってれば受賞できるんじゃ? と
思えるほど(もちろんそうじゃない受賞作もあるけど、結構その手の話である確率が高い)。
ていうかいくらフィクションだからって主人公のこの行動じゃ普通絶対に捕まるだろ。
そのへん最低限のリアリティはほしかった。
(舞城氏の作品も結構そういうところはあるけど、あの人は彼独特の世界観で
「まあ何でもありだろ」みたく読み手を納得させちゃうからなー)
主人公がヒロインのせいで狂っていったのかそれとももともとおかしかったのか
そのへんの描写も曖昧だし。
真相があまりに突飛すぎて違う意味で「え!? そうだったの!?」と驚いたし。
文章に〝――〟が頻発するのもちょっと鬱陶しかった。
でも文章表現の端々にはっとするものは感じられる作家さんなので(って何で選評口調?)
今後を楽しみにしておきます。
関係ないけど著者近影、smart系のモデルっぽいなーこの人。
「地獄があるとしたらここだし、
天国があるとしたらそれもここだよ。
ここがすべてだ。
そんなことにはなんの意味もない。
そして僕はそれが楽しくて仕方がない」
春、「しるし」を身にまとう少女と出会った。
痛みを抱えた少年の目に映る風景とは――
***
川上未映子さんの著作=歌うようなリズム感のある関西弁の一人語り口調。
そんな観念を吹き飛ばされた。
最新作である本作は、少年の一人称ではあるものの標準語で書かれており
文体もごくオーソドックス。彼女にしては非常に珍しいことなので初めは驚いたものの
次第に書き方のスタイルを変えても健在なその文章の達者さのほうに驚かされた。
いじめの描写は正直リアリティがない。
確かにこういういじめは存在するんだろうなというのはわかっても、
眼を背けたくなるまでの凄惨さは伝わってこない(田中慎弥氏の〝冷たい水の羊〟は
読んでいて知らず顔が歪むほどだったけど)。
そもそも小学生時代いじめを受けていた立場から言わせてもらえば、
いじめられて自尊心が地にまで落ちている子供が
自分と同じ立場の子と仲良くすることはプライドの面から考えられない。
でも本作の主人公はとても素直で優しい子なので、同じいじめられっ子であるコジマを
あるがまま受け入れたのかもしれない。
主人公は幼いころから斜視で、視界に入るものすべてが二重に見えてしまうのだけど、
その焦点の合わなさ、物事を凝視しない曖昧さが、
結果的にはこの子を真の闇から救ったのかもしれないと思う。
腕に負った傷に動揺することなく、笑って誤魔化した彼の母親のように。
己の痛みに過剰に真っ直ぐに向き合ってしまったコジマは、結局ああいうことになってしまった。
ラスト、世界の本当の姿を知った主人公が、これからどういう道をたどるのか、
コジマと同じ道を行かずに済むのか、いや決して行かずに済むよう、心から願ってやまない。
いじめに立ち向かえと世間は言うけど、
もしまともに対峙すれば下手をすると潰されてしまう。
場合に応じて逃げたり媚びたり、臨機応変に流すのがきっと一番いい。
いじめは本作の登場人物である百瀬が言うとおり一時的な波のようなものなので、
終わるときが必ずくる。それまで無闇に波に立ち向かったりするようなことはしないで、
その波の中にたゆたっていればいい。時には大波をかぶることがあっても、
それもずっとは続かない。
浮き輪やボートがなきゃもう無理だと思えば素直に救助を求めればいい。
皆超能力者じゃないんだから「助けて」は口に出さないと伝わらない。
いじめはブームだ。
一人を集中していじめていても、しばらく経てば皆飽きる。
そしてまた新たなターゲットを探す。
やるせないけどどうしようもない残酷なブームだ。
。。。それにしても作中の百瀬、序盤から描写にやたら気合が入ってるなと思っていたら、
川上さんが一番こだわったという台詞を言うのもやはり彼だったか。
たぶん川上さんは彼が一番のお気に入りなんだろうな。
私も本作で百瀬が一番好きで、でも本作で百瀬が一番怖い。
ちなみにその台詞、初めはこうだったそうです。
「地獄があるとしたらここだし、
天国があるとしたらそれもここだよ。
そしてそんなことにはなんの意味もない」
誰かと二人で地獄にいるのと、
たった一人で天国にいること、
いったいどちらが幸せなのか。
本作を読み終えてから、ずっと考えているけど答えが出せない。
天国があるとしたらそれもここだよ。
ここがすべてだ。
そんなことにはなんの意味もない。
そして僕はそれが楽しくて仕方がない」
春、「しるし」を身にまとう少女と出会った。
痛みを抱えた少年の目に映る風景とは――
***
川上未映子さんの著作=歌うようなリズム感のある関西弁の一人語り口調。
そんな観念を吹き飛ばされた。
最新作である本作は、少年の一人称ではあるものの標準語で書かれており
文体もごくオーソドックス。彼女にしては非常に珍しいことなので初めは驚いたものの
次第に書き方のスタイルを変えても健在なその文章の達者さのほうに驚かされた。
いじめの描写は正直リアリティがない。
確かにこういういじめは存在するんだろうなというのはわかっても、
眼を背けたくなるまでの凄惨さは伝わってこない(田中慎弥氏の〝冷たい水の羊〟は
読んでいて知らず顔が歪むほどだったけど)。
そもそも小学生時代いじめを受けていた立場から言わせてもらえば、
いじめられて自尊心が地にまで落ちている子供が
自分と同じ立場の子と仲良くすることはプライドの面から考えられない。
でも本作の主人公はとても素直で優しい子なので、同じいじめられっ子であるコジマを
あるがまま受け入れたのかもしれない。
主人公は幼いころから斜視で、視界に入るものすべてが二重に見えてしまうのだけど、
その焦点の合わなさ、物事を凝視しない曖昧さが、
結果的にはこの子を真の闇から救ったのかもしれないと思う。
腕に負った傷に動揺することなく、笑って誤魔化した彼の母親のように。
己の痛みに過剰に真っ直ぐに向き合ってしまったコジマは、結局ああいうことになってしまった。
ラスト、世界の本当の姿を知った主人公が、これからどういう道をたどるのか、
コジマと同じ道を行かずに済むのか、いや決して行かずに済むよう、心から願ってやまない。
いじめに立ち向かえと世間は言うけど、
もしまともに対峙すれば下手をすると潰されてしまう。
場合に応じて逃げたり媚びたり、臨機応変に流すのがきっと一番いい。
いじめは本作の登場人物である百瀬が言うとおり一時的な波のようなものなので、
終わるときが必ずくる。それまで無闇に波に立ち向かったりするようなことはしないで、
その波の中にたゆたっていればいい。時には大波をかぶることがあっても、
それもずっとは続かない。
浮き輪やボートがなきゃもう無理だと思えば素直に救助を求めればいい。
皆超能力者じゃないんだから「助けて」は口に出さないと伝わらない。
いじめはブームだ。
一人を集中していじめていても、しばらく経てば皆飽きる。
そしてまた新たなターゲットを探す。
やるせないけどどうしようもない残酷なブームだ。
。。。それにしても作中の百瀬、序盤から描写にやたら気合が入ってるなと思っていたら、
川上さんが一番こだわったという台詞を言うのもやはり彼だったか。
たぶん川上さんは彼が一番のお気に入りなんだろうな。
私も本作で百瀬が一番好きで、でも本作で百瀬が一番怖い。
ちなみにその台詞、初めはこうだったそうです。
「地獄があるとしたらここだし、
天国があるとしたらそれもここだよ。
そしてそんなことにはなんの意味もない」
誰かと二人で地獄にいるのと、
たった一人で天国にいること、
いったいどちらが幸せなのか。
本作を読み終えてから、ずっと考えているけど答えが出せない。
「あなどれないぞ、平成のじじいのテンションは」
映画の撮影現場で主演老優の一挙手一投足を賭けの対象にする共演者たち――
話題作〝クワイエットルームにようこそ〟から四年、現代演劇の鬼才が、
人間の悪意と尊厳をユーモアとアイロニーに包んで描ききる問題作。
***
〝クワイエットルームにようこそ〟が傑作すぎたせいか、
どうしても凡作の粋を出ない印象だった。
語り口、
キャラ立ち、
物語の深み、
どれをとっても前作には遠く及ばず。
唯一勝っているものといえば笑いの部分ぐらいですが、それも数箇所ぐらいだし。
不謹慎ギリギリの題材をギリギリ寸止めで不快感を与えずユーモラスな作品に仕上げる、
前作はそれに成功しているものの、今回は「いくら何でもちょっと大人げなくない?」と
読んでいて微妙に嫌な気持ちに。
本作を通して何を言いたいのかも一応はわかったものの、「んー、だから?」といった感じで
これならいっそ「何が言いたいのかわからなかった」オチのほうがまだましだった気が。
主人公も、序盤の数行からもう眼が離せなくなるぐらいこちらを惹き込んでくるくせに
それ以降はただの語り部、無個性、いないも同然。
せっかくの顔立ちや体格の設定もほとんど活かされてないし残念だった。
(設定といえば、セカンドバッグとか「がちょーん」とか、この物語の時代設定はいつなんだ?)
演劇界に携わっている著者だからこそ描ける役者世界の裏側は
興味深く読めましたが。
ていうか練習しちゃったよ、あの早口言葉(そして言えない。。。)。
ところで作中の登場人物の海って女の子、明らかに絢香(歌手の)がモデルな気が。。。
映画の撮影現場で主演老優の一挙手一投足を賭けの対象にする共演者たち――
話題作〝クワイエットルームにようこそ〟から四年、現代演劇の鬼才が、
人間の悪意と尊厳をユーモアとアイロニーに包んで描ききる問題作。
***
〝クワイエットルームにようこそ〟が傑作すぎたせいか、
どうしても凡作の粋を出ない印象だった。
語り口、
キャラ立ち、
物語の深み、
どれをとっても前作には遠く及ばず。
唯一勝っているものといえば笑いの部分ぐらいですが、それも数箇所ぐらいだし。
不謹慎ギリギリの題材をギリギリ寸止めで不快感を与えずユーモラスな作品に仕上げる、
前作はそれに成功しているものの、今回は「いくら何でもちょっと大人げなくない?」と
読んでいて微妙に嫌な気持ちに。
本作を通して何を言いたいのかも一応はわかったものの、「んー、だから?」といった感じで
これならいっそ「何が言いたいのかわからなかった」オチのほうがまだましだった気が。
主人公も、序盤の数行からもう眼が離せなくなるぐらいこちらを惹き込んでくるくせに
それ以降はただの語り部、無個性、いないも同然。
せっかくの顔立ちや体格の設定もほとんど活かされてないし残念だった。
(設定といえば、セカンドバッグとか「がちょーん」とか、この物語の時代設定はいつなんだ?)
演劇界に携わっている著者だからこそ描ける役者世界の裏側は
興味深く読めましたが。
ていうか練習しちゃったよ、あの早口言葉(そして言えない。。。)。
ところで作中の登場人物の海って女の子、明らかに絢香(歌手の)がモデルな気が。。。
魂まで殺してやりたい。
自らが犯した不祥事で職を追われた元警官の佐伯修一は、
今は埼玉の探偵事務所に籍を置いている。
決して繁盛しているとはいえない事務所に、ある老夫婦から人捜しの依頼が舞い込んだ。
自分たちの息子を殺し、少年院を出て社会復帰しているはずの男を捜し出し、さらに、
その男を赦すべきか、赦すべきでないのか、その判断材料を見つけて欲しいというのだ。
この仕事に後ろ向きだった佐伯は、所長の命令で渋々調査を開始する。
実は、佐伯自身も、かつて身内を殺された犯罪被害者遺族なのだった…。
『天使のナイフ』で江戸川乱歩賞を受賞した著者が、
犯罪者と犯罪被害者遺族の心の葛藤を正面から切り込んで描いた、
衝撃と感動の傑作社会派ミステリ連作集。
★収録作品★
悪党
復讐
形見
盲目
慟哭
帰郷
今際
***
「どうして被害者遺族に、出所した加害者に復讐する人間がいないんだろう。。。」
と一度でも思ったことのある人にはおすすめの一冊。
著者初の連作短編集ですが、ミステリアンソロジー等に収録されている
氏の短編は面白いものの、本作はそれには及ばず、といった印象。
決してつまらなくはないんですが、全体的に淡々としているというか、
登場人物にリアリティがない。
やはり被害者遺族や刑務所を出たあとの加害者の内面を描くというのは
相当に難しいことなんだろうなあと。
〝悪党〟の元犯罪者の男の恋人、あそこまで主人公を責める権利まったくないのに
主人公の傷つくこと言いたい放題でムカついたし(だから男にホレてる最中の女は嫌い)、
〝復讐〟に出てくる青年も、親のことであれだけのトラウマを抱えているのに
無計画に子供を作って出来てから不安がってるなんて正直どうなんだと思うし、
〝形見〟の女性も気が変わるのが早すぎ。はっきり言ってご都合主義。
主人公の周りがみんな何かしらの被害者であるというのもちょっと不自然すぎるし、
だから重いテーマに対して内容が浮いてしまっていた。
ラストでの〝彼女〟のリアクションも、そこでその表情はおかしいだろと突っ込んでしまったし。
(もっと戸惑ったり困ったり気まずがったりするだろ普通)
そもそも自分の身内を殺した相手を赦せるか赦せないかの酌量を
赤の他人に任せるっていうのがどうもなー。。。人によって考え方なんて偏りがあるのに。
(ってこれを言っちゃ本作そのものがなりたたないんですが)
話のネタ元がほぼわかってしまうのにも醒めた。
発想は非常に面白い作家さんなので今後に期待します。
きっと人は狂う。
作家の横田卓郎は妻の三沙子を亡くし、娘の千秋と二人で暮らしていた。
千秋は三沙子の死後、奇妙な絵を描くようになる――人ではない、異形のものを。
千秋には、普通の人間には見えないものが見えていた。
ある日をきっかけに、千秋は「青い顔の女」ばかりを描くようになった。千秋はその絵の中の顔を
「ママ」と呼び、その絵を描くことに異常に執着する。そしてもう一つ執着すること。それは、
夜の散歩だった。
そんな中、佐久間美樹が卓郎の新しい担当として家にやってくる。
千秋は「青い顔の女」を使って美樹を拒んだ。
千秋にとって不必要な人間が次々と死んでいく。まるで死神が味方をしているように――。
***
やたら文章がうまいと思ったら、やっぱりまるっきりの素人じゃないんだな(プロフィール参照)。
基本的にホラーと名のつくものは映画でも小説でもゲームでもちっとも怖くない私でも
結構怖かった。たぶんそれは本作が、外的なものじゃなく人の心にじわじわと進入してくる
〝内的な恐怖〟を描いているからこそなのでしょうが。
幽霊や化け物は逃げれば済むけど自分の精神からは逃げられないしな。
(そういう意味では篠田節子〝イビス〟がめちゃくちゃ怖いですが)
前半はホラー、後半はミステリと、物語が(悪い意味で)きれいに二分してしまっているのが
気になった。
主人公が娘の奇行に関してあまりにのん気すぎることも(普通すぐ病院に連れていく。
あと、細かいけど〝アスペルガー症候群〟は厳密には心の病気じゃないのでは?
あくまで先天的なもので、脳の器質障害と定義したほうがまだ近い気がする。
あの描写では精神疾患である、と誤解を招く恐れがある)。
真相も唐突でちょっと面食らってしまった(そしてちょっと貴志祐介氏のこの作品に似てる)。
ラストも、きれいにまとまってはいるけど〝あの二人〟が何を目的にそういうことをしてるのか
わからないままで尻切れトンボ。
ていうか三沙子、そんなに旦那のことが好きならいっそあのとき助けないで
自分と同じ世界に引き込んじゃえばよかったんじゃ?
いろいろ腑に落ちない点はありますが結構楽しく読めました。
ちなみに(どうでもいいけど)最後の選評の岩井志麻子さんテンション高すぎ。
彼女のキャラは知ってるけど(そして好きだけど)、ある意味あのテンションは
本編より怖かった笑
作家の横田卓郎は妻の三沙子を亡くし、娘の千秋と二人で暮らしていた。
千秋は三沙子の死後、奇妙な絵を描くようになる――人ではない、異形のものを。
千秋には、普通の人間には見えないものが見えていた。
ある日をきっかけに、千秋は「青い顔の女」ばかりを描くようになった。千秋はその絵の中の顔を
「ママ」と呼び、その絵を描くことに異常に執着する。そしてもう一つ執着すること。それは、
夜の散歩だった。
そんな中、佐久間美樹が卓郎の新しい担当として家にやってくる。
千秋は「青い顔の女」を使って美樹を拒んだ。
千秋にとって不必要な人間が次々と死んでいく。まるで死神が味方をしているように――。
***
やたら文章がうまいと思ったら、やっぱりまるっきりの素人じゃないんだな(プロフィール参照)。
基本的にホラーと名のつくものは映画でも小説でもゲームでもちっとも怖くない私でも
結構怖かった。たぶんそれは本作が、外的なものじゃなく人の心にじわじわと進入してくる
〝内的な恐怖〟を描いているからこそなのでしょうが。
幽霊や化け物は逃げれば済むけど自分の精神からは逃げられないしな。
(そういう意味では篠田節子〝イビス〟がめちゃくちゃ怖いですが)
前半はホラー、後半はミステリと、物語が(悪い意味で)きれいに二分してしまっているのが
気になった。
主人公が娘の奇行に関してあまりにのん気すぎることも(普通すぐ病院に連れていく。
あと、細かいけど〝アスペルガー症候群〟は厳密には心の病気じゃないのでは?
あくまで先天的なもので、脳の器質障害と定義したほうがまだ近い気がする。
あの描写では精神疾患である、と誤解を招く恐れがある)。
真相も唐突でちょっと面食らってしまった(そしてちょっと貴志祐介氏のこの作品に似てる)。
ラストも、きれいにまとまってはいるけど〝あの二人〟が何を目的にそういうことをしてるのか
わからないままで尻切れトンボ。
ていうか三沙子、そんなに旦那のことが好きならいっそあのとき助けないで
自分と同じ世界に引き込んじゃえばよかったんじゃ?
いろいろ腑に落ちない点はありますが結構楽しく読めました。
ちなみに(どうでもいいけど)最後の選評の岩井志麻子さんテンション高すぎ。
彼女のキャラは知ってるけど(そして好きだけど)、ある意味あのテンションは
本編より怖かった笑
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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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