「いいだろう、受けてやる」
2006年に小説誌等に発表された数多くの短篇ミステリーの中から選ばれた15篇。
2006年推理小説界の概況、ミステリー各賞の歴代受賞リストも付いた、
50年を超える歴史を誇る国内唯一無二の推理年鑑。
★収録作品★
罪つくり/横山秀夫
ホームシック・シアター/春口裕子
ラスト・セッション/蒼井上鷹
あなたに会いたくて/不知火京介
脂肪遊戯/桜庭一樹
標野にて 君が袖振る/大崎梢
未来へ踏み出す足/石持浅海
ラストマティーニ/北森鴻
エクステ効果/菅浩江
落下る/東野圭吾
早朝ねはん/門井慶喜
オムライス/薬丸岳
スペインの靴/三上洸
心あたりのある者は/米澤穂信
熊王ジャック/柳広司
***
作品ごとのレビュー。
◆罪つくり◆
トリックはそこまですごいものじゃないけど、さすがにベテラン作家、
単なるミステリとしてだけじゃなく、人間ドラマとしても読ませる。
ただ、作中に登場するある女性の心理にはあまりリアリティが感じられなかった。
普通の女はあそこまで人間できてません。よってあそこまでしません。
彼女の心理描写にもっとリアリティを感じられたら、本編の主人公である兄弟二人の
絆にももっと感動できたんだけどな。
◆ホームシック・シアター◆
デビュー以来とんと見かけないのでどうしてるんだろう。。。と思っていた作家さんの作品。
こんなところでお目にかかれるとは思いもしなかった。
面白かった。主人公の性格の悪さもここまでくるといっそ清々しい。
ただ、普通これほどの事態になったら、大家さんが「皆さんが迷惑してます」と訪ねて
こないか? そこだけがちょっと納得いかず。
ラストで性格最悪の主人公の印象ががらりと変わる描写のほうが
ミステリ部分よりインパクトが強く、驚きつつも物悲しい気持ちになった。
◆ラスト・セッション◆
正直言って蒼井氏の著作はデビュー作〝キリング・タイム〟からあまり好きじゃなかったんですが、
今回で見方変わりました。面白い! 本編が音楽ミステリで、私が音楽好きだからというわけでは
決してなく(むしろ音楽好きなぶん点が辛くなる)、本当に面白かった。冒頭数行から引き込まれる。
トリックは決して斬新ではなく既に使い古されている感があるものだけど、それを差し引いても
十分にミステリとして、そして何より物語として最初から最後まで惹きつけられた。
(ちょっと登場人物たちがご都合主義的に動きすぎなところもあったけど)
音楽がわかってる人だなーとも思った。昔何かやってたのかな?
おすすめ。
◆あなたに会いたくて◆
男性の最愛の人はいつだって。。。というやつですね。
ミステリとしてはかなりシンプルですが、語りかけるような二人称の文体が
内容と絶妙にマッチしていて、ラストは泣きそうになってしまった。
もうちょっと主人公の背景を書き込んでくれていたらその感動もひとしおだったんですが。
でも良作です。
◆脂肪遊戯◆
〝あまりにも有触れた罪悪〟と作中でも言っているとおり、この手の犯罪をモチーフにした
ミステリはもううんざりするほど多く、本編も読んでいて一度は「またか」と思いかけたのですが、
その犯罪が露呈する(真実が明らかになる)に至るまでの描写が非常に独特で、
単なるミステリを超えた深みを感じさせるものに仕上がっているところはさすが桜庭さん。
ラスト一行は背中に寒気走りました。少年少女の心理を書かせたらうまいよなあーこの人は。
◆標野にて 君が袖振る◆
。。。この作家さんの著作はどうも生理的に受け付けずコメントもしたくないほどなので割愛。
著者の方、そしてファンの皆さんごめんなさい。
◆未来へ踏み出す足◆
既読につき、本編の詳細なレビューはこちら。
◆ラストマティーニ◆
好きな作家さんなのですが、本編にやたらめったら出てくる食べ物描写とクサい会話は
読んでいて正直つらかった。
キャラにも魅力らしき魅力がないし(シリーズをはじめから読んでいないせいも
あるのでしょうが)。
ただ、〝犯人〟の〝動機〟には、女ながらに男のロマンを感じてぞくっときた。
他人を欺き利用する、それは本来マイナスにとられることですが、本編のそれは格好いい。
自分も将来こういう人の騙し方をしてみたいなーと思わせられた作品。
◆エクステ効果◆
こんなオチ予測つくかよ! と、真相に驚くより先にちょっと苛だってしまった。
作中に何度も何度もサブリミナルのように出てくる〝二律背反〟という言葉も
鬱陶しくて仕方なかったし(しかもその言葉の使われ方も素人女のヘタなポエムみたいで
大げさでなく寒気が走ったし)。
さらには主人公が疲れ果てて突っ伏す様を表す擬音が〝へちょーっ〟って。。。昔のマンガか?
ラストはまるで教科書のような、悪い意味できれいすぎる終わり方。
はっきり言って本作を〝ベスト・ミステリーズ〟とは呼びがたい。
それに主人公が客の髪を切る際、敢えて度数の合わないメガネをかけるって。。。
客をナメてんのかと言いたい。
◆落下る◆
知る人ぞ知るガリレオシリーズ。
これまでは出てこなかった内海薫が登場するのは、やはり著者がドラマに合わせた結果
なのでしょうか。
トリック自体もさるものながら、なぜ湯川準教授がそのトリックを考え出したのか、というのが
最大の見所。やっぱり湯川は格好いいなあ。。。
ちなみに本編は、今年十月に放映されたドラマ〝ガリレオΦ(エピソード・ゼロ)〟の元ネタでも
あります。三浦春馬主演のあのドラマを観て興味を持った人はおすすめ。
◆早朝ねはん◆
本編が収録されている〝天才たちの値段〟は発売直後に読んだものの、
主人公が「~だもの」という言葉遣いを連発するのでウザい、という至極どうでもいい記憶しか
残っていなかったので読み直し。
美術ミステリを書く作家陣の中では多少地味な感はありますが、構成・真相、共に素晴らしい。
オチのつけ方も見事のひと言。
「角度を変えてみると真実が見えてくる」、これは〝ギャラリーフェイク〟のフジタも言ってたよな、
そういえば。美術を鑑識する上での共通項なのかもしれないな。
◆オムライス◆
薬丸氏にしてはあんまり。。。という感じ。
何よりすべてにおいて浅はかな主人公がどうしても好きになれず
気づけば一刻も早く読み終えようとページを繰る手が速くなっていた。
オチも簡単に読めちゃったし。。。
内容のインパクトより「あーオムライス食べたくなってきた」と感化された記憶のほうが強い←あほ
ミステリとしてはいまいちでした。子供やそれを取り巻く大人の心理描写は
相変わらずうまいけど。
◆スペインの靴◆
ミステリに出てくる狂人は好きですが変態は好きじゃありません。
よって本編の主人公が終始キモくて仕方なかった。
魅力を感じる登場人物が一人もいないし(しかもほとんどが個性のカケラもない
ステロタイプなキャラばっかりだし)。
変態は変態同士どうぞ仲良くやっててください、としか思えず。
同じ著者でも〝マリアの月〟はクオリティ高かったのになあ。。。
◆心あたりのある者は◆
既読につき、本編の詳細なレビューはこちら。
◆熊王ジャック◆
かのシートンを探偵役にしているところは面白い。
でもあまりにも伏線が分かりづらく、ここから真相を解明するのははっきり言って至難の業。
しかもラストのシートンの語りがあまりに説教臭くてベタでしらけた(いや、彼の考えそのものには
心から同意なのですが)。
本アンソロジーのトリを飾るほどの作品ではないと思う。
以上、レビュー終わり!
蛇足:
本作の表紙↑の銀色の部分、よく見ると人影らしきものが写ってる。
たぶん撮影した人だろうな。気づいたときちょっと吹いた笑
ミステリーだ笑
2006年に小説誌等に発表された数多くの短篇ミステリーの中から選ばれた15篇。
2006年推理小説界の概況、ミステリー各賞の歴代受賞リストも付いた、
50年を超える歴史を誇る国内唯一無二の推理年鑑。
★収録作品★
罪つくり/横山秀夫
ホームシック・シアター/春口裕子
ラスト・セッション/蒼井上鷹
あなたに会いたくて/不知火京介
脂肪遊戯/桜庭一樹
標野にて 君が袖振る/大崎梢
未来へ踏み出す足/石持浅海
ラストマティーニ/北森鴻
エクステ効果/菅浩江
落下る/東野圭吾
早朝ねはん/門井慶喜
オムライス/薬丸岳
スペインの靴/三上洸
心あたりのある者は/米澤穂信
熊王ジャック/柳広司
***
作品ごとのレビュー。
◆罪つくり◆
トリックはそこまですごいものじゃないけど、さすがにベテラン作家、
単なるミステリとしてだけじゃなく、人間ドラマとしても読ませる。
ただ、作中に登場するある女性の心理にはあまりリアリティが感じられなかった。
普通の女はあそこまで人間できてません。よってあそこまでしません。
彼女の心理描写にもっとリアリティを感じられたら、本編の主人公である兄弟二人の
絆にももっと感動できたんだけどな。
◆ホームシック・シアター◆
デビュー以来とんと見かけないのでどうしてるんだろう。。。と思っていた作家さんの作品。
こんなところでお目にかかれるとは思いもしなかった。
面白かった。主人公の性格の悪さもここまでくるといっそ清々しい。
ただ、普通これほどの事態になったら、大家さんが「皆さんが迷惑してます」と訪ねて
こないか? そこだけがちょっと納得いかず。
ラストで性格最悪の主人公の印象ががらりと変わる描写のほうが
ミステリ部分よりインパクトが強く、驚きつつも物悲しい気持ちになった。
◆ラスト・セッション◆
正直言って蒼井氏の著作はデビュー作〝キリング・タイム〟からあまり好きじゃなかったんですが、
今回で見方変わりました。面白い! 本編が音楽ミステリで、私が音楽好きだからというわけでは
決してなく(むしろ音楽好きなぶん点が辛くなる)、本当に面白かった。冒頭数行から引き込まれる。
トリックは決して斬新ではなく既に使い古されている感があるものだけど、それを差し引いても
十分にミステリとして、そして何より物語として最初から最後まで惹きつけられた。
(ちょっと登場人物たちがご都合主義的に動きすぎなところもあったけど)
音楽がわかってる人だなーとも思った。昔何かやってたのかな?
おすすめ。
◆あなたに会いたくて◆
男性の最愛の人はいつだって。。。というやつですね。
ミステリとしてはかなりシンプルですが、語りかけるような二人称の文体が
内容と絶妙にマッチしていて、ラストは泣きそうになってしまった。
もうちょっと主人公の背景を書き込んでくれていたらその感動もひとしおだったんですが。
でも良作です。
◆脂肪遊戯◆
〝あまりにも有触れた罪悪〟と作中でも言っているとおり、この手の犯罪をモチーフにした
ミステリはもううんざりするほど多く、本編も読んでいて一度は「またか」と思いかけたのですが、
その犯罪が露呈する(真実が明らかになる)に至るまでの描写が非常に独特で、
単なるミステリを超えた深みを感じさせるものに仕上がっているところはさすが桜庭さん。
ラスト一行は背中に寒気走りました。少年少女の心理を書かせたらうまいよなあーこの人は。
◆標野にて 君が袖振る◆
。。。この作家さんの著作はどうも生理的に受け付けずコメントもしたくないほどなので割愛。
著者の方、そしてファンの皆さんごめんなさい。
◆未来へ踏み出す足◆
既読につき、本編の詳細なレビューはこちら。
◆ラストマティーニ◆
好きな作家さんなのですが、本編にやたらめったら出てくる食べ物描写とクサい会話は
読んでいて正直つらかった。
キャラにも魅力らしき魅力がないし(シリーズをはじめから読んでいないせいも
あるのでしょうが)。
ただ、〝犯人〟の〝動機〟には、女ながらに男のロマンを感じてぞくっときた。
他人を欺き利用する、それは本来マイナスにとられることですが、本編のそれは格好いい。
自分も将来こういう人の騙し方をしてみたいなーと思わせられた作品。
◆エクステ効果◆
こんなオチ予測つくかよ! と、真相に驚くより先にちょっと苛だってしまった。
作中に何度も何度もサブリミナルのように出てくる〝二律背反〟という言葉も
鬱陶しくて仕方なかったし(しかもその言葉の使われ方も素人女のヘタなポエムみたいで
大げさでなく寒気が走ったし)。
さらには主人公が疲れ果てて突っ伏す様を表す擬音が〝へちょーっ〟って。。。昔のマンガか?
ラストはまるで教科書のような、悪い意味できれいすぎる終わり方。
はっきり言って本作を〝ベスト・ミステリーズ〟とは呼びがたい。
それに主人公が客の髪を切る際、敢えて度数の合わないメガネをかけるって。。。
客をナメてんのかと言いたい。
◆落下る◆
知る人ぞ知るガリレオシリーズ。
これまでは出てこなかった内海薫が登場するのは、やはり著者がドラマに合わせた結果
なのでしょうか。
トリック自体もさるものながら、なぜ湯川準教授がそのトリックを考え出したのか、というのが
最大の見所。やっぱり湯川は格好いいなあ。。。
ちなみに本編は、今年十月に放映されたドラマ〝ガリレオΦ(エピソード・ゼロ)〟の元ネタでも
あります。三浦春馬主演のあのドラマを観て興味を持った人はおすすめ。
◆早朝ねはん◆
本編が収録されている〝天才たちの値段〟は発売直後に読んだものの、
主人公が「~だもの」という言葉遣いを連発するのでウザい、という至極どうでもいい記憶しか
残っていなかったので読み直し。
美術ミステリを書く作家陣の中では多少地味な感はありますが、構成・真相、共に素晴らしい。
オチのつけ方も見事のひと言。
「角度を変えてみると真実が見えてくる」、これは〝ギャラリーフェイク〟のフジタも言ってたよな、
そういえば。美術を鑑識する上での共通項なのかもしれないな。
◆オムライス◆
薬丸氏にしてはあんまり。。。という感じ。
何よりすべてにおいて浅はかな主人公がどうしても好きになれず
気づけば一刻も早く読み終えようとページを繰る手が速くなっていた。
オチも簡単に読めちゃったし。。。
内容のインパクトより「あーオムライス食べたくなってきた」と感化された記憶のほうが強い←あほ
ミステリとしてはいまいちでした。子供やそれを取り巻く大人の心理描写は
相変わらずうまいけど。
◆スペインの靴◆
ミステリに出てくる狂人は好きですが変態は好きじゃありません。
よって本編の主人公が終始キモくて仕方なかった。
魅力を感じる登場人物が一人もいないし(しかもほとんどが個性のカケラもない
ステロタイプなキャラばっかりだし)。
変態は変態同士どうぞ仲良くやっててください、としか思えず。
同じ著者でも〝マリアの月〟はクオリティ高かったのになあ。。。
◆心あたりのある者は◆
既読につき、本編の詳細なレビューはこちら。
◆熊王ジャック◆
かのシートンを探偵役にしているところは面白い。
でもあまりにも伏線が分かりづらく、ここから真相を解明するのははっきり言って至難の業。
しかもラストのシートンの語りがあまりに説教臭くてベタでしらけた(いや、彼の考えそのものには
心から同意なのですが)。
本アンソロジーのトリを飾るほどの作品ではないと思う。
以上、レビュー終わり!
蛇足:
本作の表紙↑の銀色の部分、よく見ると人影らしきものが写ってる。
たぶん撮影した人だろうな。気づいたときちょっと吹いた笑
ミステリーだ笑
PR
時が来た。
新進作家、待居涼司の出世作「凍て鶴」に映画化の話が持ち上がった。
監督に抜擢された人気脚本家の小野川充は「凍て鶴」に並々ならぬ興味を示し、
この作品のヒロインには、かつて伝説的な自殺系サイト「落花の会」を運営していた
木ノ瀬蓮美の影響が見られると、奇抜な持論を展開する。
待居の戸惑いをよそに、さらに彼は、そのサイトに残された謎の解明が
映画化のために必要だと言い、待居を自分のペースに引き込もうとしていく。
そんな小野川に、待居は不気味さを感じ始め――。
全篇に充ちた不穏な空気。好奇心と恐怖が交錯する傑作心理サスペンス!
***
〝流○の絆〟をドラマ化で台無しにしたク○カンを彷彿とさせる冒頭には思わず失笑。
自己中で無能な脚本家が、原作者である小説家の著作をじわじわと蹂躙・侵食していき、
精神的に追い詰めていく過程を描いたホラーものなのか? と最初は思ってしまったほど。
けれど雫井氏がそんなものを書くわけないし。。。と思いながら読み進めていくと、
自己中脚本家・小野川が次第に本格ものに出てくるような、変わり者で人間受けは悪いけど
天性の洞察力を持った名探偵的な雰囲気をかもし出したので、「ああそういう話か」と
納得しかけたところ、今度はその彼が不穏な空気を身に纏い出し。。。
と、読み手の推理をことごとくすり抜けていく展開にはなかなかハラハラさせられましたが、
登場人物たちの推理があまりに突飛すぎること(飛躍を通り越してもはや跳躍)、にも関わらず
それがほぼ当たっていること等に次第にうんざりしてくる始末。
展開も最初から最後まで、「そりゃないだろ」と読者に言わせないギリッギリのラインだし。
犯人が殺人を犯した理由も、「それぐらいで問題が解決すりゃ誰も苦労しねえよ」と
思わずあきれてしまうようなものだし。そもそも殺人なんて麻薬と一緒で、
一回やっただけでそのときの高揚が一生続くなんてことはありえない。なのに
手にかけた相手がたった一人だけというのもリアリティがない。
本作の登場人物である作家の待居の著作(謂わば作中作)も、
本筋に直接関係してくるものじゃないにしてもあまりにひどすぎる内容。
その著作に小野川が手を加えた脚本も上に同じ。
今時こんな小説&脚本書いて、何であんたら売れっ子作家になんかなれるの? と
読みながら突っ込んだ人は多いはず。
著者の雫井氏は彼ら二人(特に小野川)の天才性を描きたかったんだと思うけど、
あの作中作を読まされた時点でもうどうやってもまったく天才に見えない。なので
一瞬鳥肌立ちかけたクライマックスの決闘シーンも、
「でもあんな作品書く人間だしなあ。。。」と即座に興ざめ。
ベテラン作家の雫井氏でもたまにははずすんだな、と思わざるを得ない作品だった。
だいたい本作、気づく人は一番最初の時点でオチに気づいてしまうと思うし(私は気づいてしまった
ので、ラストも予想どおりで「やっぱりな」としか思えなかった)。
ただ、出版業界については細かく描写されているので、作家志望の人は読んでみると面白いかも。
それにしても、〝リリー〟という人物がメインのサイトって。。。どうしても〝リリイ・シュシュ〟が
先に浮かんじゃうよなあ。
新進作家、待居涼司の出世作「凍て鶴」に映画化の話が持ち上がった。
監督に抜擢された人気脚本家の小野川充は「凍て鶴」に並々ならぬ興味を示し、
この作品のヒロインには、かつて伝説的な自殺系サイト「落花の会」を運営していた
木ノ瀬蓮美の影響が見られると、奇抜な持論を展開する。
待居の戸惑いをよそに、さらに彼は、そのサイトに残された謎の解明が
映画化のために必要だと言い、待居を自分のペースに引き込もうとしていく。
そんな小野川に、待居は不気味さを感じ始め――。
全篇に充ちた不穏な空気。好奇心と恐怖が交錯する傑作心理サスペンス!
***
〝流○の絆〟をドラマ化で台無しにしたク○カンを彷彿とさせる冒頭には思わず失笑。
自己中で無能な脚本家が、原作者である小説家の著作をじわじわと蹂躙・侵食していき、
精神的に追い詰めていく過程を描いたホラーものなのか? と最初は思ってしまったほど。
けれど雫井氏がそんなものを書くわけないし。。。と思いながら読み進めていくと、
自己中脚本家・小野川が次第に本格ものに出てくるような、変わり者で人間受けは悪いけど
天性の洞察力を持った名探偵的な雰囲気をかもし出したので、「ああそういう話か」と
納得しかけたところ、今度はその彼が不穏な空気を身に纏い出し。。。
と、読み手の推理をことごとくすり抜けていく展開にはなかなかハラハラさせられましたが、
登場人物たちの推理があまりに突飛すぎること(飛躍を通り越してもはや跳躍)、にも関わらず
それがほぼ当たっていること等に次第にうんざりしてくる始末。
展開も最初から最後まで、「そりゃないだろ」と読者に言わせないギリッギリのラインだし。
犯人が殺人を犯した理由も、「それぐらいで問題が解決すりゃ誰も苦労しねえよ」と
思わずあきれてしまうようなものだし。そもそも殺人なんて麻薬と一緒で、
一回やっただけでそのときの高揚が一生続くなんてことはありえない。なのに
手にかけた相手がたった一人だけというのもリアリティがない。
本作の登場人物である作家の待居の著作(謂わば作中作)も、
本筋に直接関係してくるものじゃないにしてもあまりにひどすぎる内容。
その著作に小野川が手を加えた脚本も上に同じ。
今時こんな小説&脚本書いて、何であんたら売れっ子作家になんかなれるの? と
読みながら突っ込んだ人は多いはず。
著者の雫井氏は彼ら二人(特に小野川)の天才性を描きたかったんだと思うけど、
あの作中作を読まされた時点でもうどうやってもまったく天才に見えない。なので
一瞬鳥肌立ちかけたクライマックスの決闘シーンも、
「でもあんな作品書く人間だしなあ。。。」と即座に興ざめ。
ベテラン作家の雫井氏でもたまにははずすんだな、と思わざるを得ない作品だった。
だいたい本作、気づく人は一番最初の時点でオチに気づいてしまうと思うし(私は気づいてしまった
ので、ラストも予想どおりで「やっぱりな」としか思えなかった)。
ただ、出版業界については細かく描写されているので、作家志望の人は読んでみると面白いかも。
それにしても、〝リリー〟という人物がメインのサイトって。。。どうしても〝リリイ・シュシュ〟が
先に浮かんじゃうよなあ。
そう信じたい。
小学校生活最後の夏休みが始まろうとしていたあの日。辻貴雄と横田純は
いつものように森の中にある秘密の空き地で遊んでいた。
その時、空き地に建てられていた古い小屋の中から泣き声が聞こえてくる。
二人がそこで見つけたのは赤ちゃんだった。周りには置き手紙も何も残されていない。
そこで貴雄と横田は、赤ちゃんをロビンと名づけ母親が戻ってくるまで面倒をみることにする。
だが、しばらくして横田が家の事情で引っ越すことになり、貴雄は孤立無援の状態に。
ロビンの母親はまだ帰ってこない。誰にも相談はできない。
そもそも、信じられる大人などいるのだろうか。
貴雄の一人だけの子育てが始まった――。
***
デビュー作〝チューイング・ボーン〟がかなり好きだったので喜び勇んで手に取った
数年ぶりの新作である本作。
前作のミステリ性・暗さはすっかり鳴りをひそめ、読んでいて気恥ずかしくなるほどの
初々しい青春物語。。。と思えたのは序盤までで、物語が進むにつれ次第に
著者の大山氏のホラー節が炸裂します。
ただ、〝チューイング・ボーン〟の登場人物たちが、皆倒錯した性格ながらも
どこか共感できるキャラであったのに対して、
本作の登場人物たちは思考や行動に納得のいかない部分が多い。
主人公たちがまだ十二歳だということを踏まえても、あまりに一般常識を知らなすぎたり、
かと思えばある部分では大人顔負けの知識を持っていたりと、著者に都合よく描かれすぎていた
気がする(というか都合がいい悪い以前に、主人公の少年の思考回路なんてかなり支離滅裂だし)。
どうして彼らに、あの女を傷害罪で訴えるという発想が浮かばなかったのは未だに謎。
ただ、主人公たちにある大事件が起こってからの少年の底辺人生の描写はリアルで、
彼の心理や第三者たちとの触れ合いの描写も巧みで非常に面白く読めた。
ところどころ印象的なフレーズもあったりして、大山氏の著作に見られる純文学性を堪能できた。
デビュー作も底辺に近い人生を送る主人公の描写がハンパじゃなく上手かったので、
そういうのを軸にした物語を書かせたらこの作家さんは右に出る者なしだよなあと思う。
ただ、そのぶんその終盤だけが序~中盤のファンタジックな展開から浮いてしまっていて、
全体で見るとバランスが悪かった気も。
あと、中盤のミザリー女はなかなかいい狂いっぷりだったけど、この女をはじめ主人公二人も
ラスト間際に出てくる男性も皆が皆打たれ強すぎ。殴られても蹴られても何度も何度も起き上がる。
B級ホラーの敵役じゃないんだから、とシリアスな暴力シーンもときどき笑いそうになってしまった。
しかも主人公たちがあれだけの怪我を負って周囲の大人が誰も気づかないというのもありえないし。
改めて考えてみると、中盤はほんと著者に都合のいい展開だったな。。。
赤ん坊や横田というキャラクターが本作中であまり意味を成していないのも残念なところ。
あっさり退場してそれっきり。彼らがもうちょっと主人公のその後にいろいろな意味で影響しても
よかったんじゃないかなと思う。
ちなみにラストは解釈が難しいですが、
きっと主人公は〝自分で時計を操る術〟を身につけてしまったために、
現実にはもうこだわらなくなってしまったんじゃないか、というのが個人的見解です。
つまりは妄想に逃げ込んでしまった、悪く言えば〝狂って〟しまった。
ずっと独りきりでいたことで時計の針を修正してくれる人間もいなくなってしまったしね。。。
著者の言わんとすることも伝わってこなかったし、私の中でデビュー作は超さなかったな。
読んで損した、ということは絶対にないですが。
大山氏はまだまだ若いし、これからに期待します。
小学校生活最後の夏休みが始まろうとしていたあの日。辻貴雄と横田純は
いつものように森の中にある秘密の空き地で遊んでいた。
その時、空き地に建てられていた古い小屋の中から泣き声が聞こえてくる。
二人がそこで見つけたのは赤ちゃんだった。周りには置き手紙も何も残されていない。
そこで貴雄と横田は、赤ちゃんをロビンと名づけ母親が戻ってくるまで面倒をみることにする。
だが、しばらくして横田が家の事情で引っ越すことになり、貴雄は孤立無援の状態に。
ロビンの母親はまだ帰ってこない。誰にも相談はできない。
そもそも、信じられる大人などいるのだろうか。
貴雄の一人だけの子育てが始まった――。
***
デビュー作〝チューイング・ボーン〟がかなり好きだったので喜び勇んで手に取った
数年ぶりの新作である本作。
前作のミステリ性・暗さはすっかり鳴りをひそめ、読んでいて気恥ずかしくなるほどの
初々しい青春物語。。。と思えたのは序盤までで、物語が進むにつれ次第に
著者の大山氏のホラー節が炸裂します。
ただ、〝チューイング・ボーン〟の登場人物たちが、皆倒錯した性格ながらも
どこか共感できるキャラであったのに対して、
本作の登場人物たちは思考や行動に納得のいかない部分が多い。
主人公たちがまだ十二歳だということを踏まえても、あまりに一般常識を知らなすぎたり、
かと思えばある部分では大人顔負けの知識を持っていたりと、著者に都合よく描かれすぎていた
気がする(というか都合がいい悪い以前に、主人公の少年の思考回路なんてかなり支離滅裂だし)。
どうして彼らに、あの女を傷害罪で訴えるという発想が浮かばなかったのは未だに謎。
ただ、主人公たちにある大事件が起こってからの少年の底辺人生の描写はリアルで、
彼の心理や第三者たちとの触れ合いの描写も巧みで非常に面白く読めた。
ところどころ印象的なフレーズもあったりして、大山氏の著作に見られる純文学性を堪能できた。
デビュー作も底辺に近い人生を送る主人公の描写がハンパじゃなく上手かったので、
そういうのを軸にした物語を書かせたらこの作家さんは右に出る者なしだよなあと思う。
ただ、そのぶんその終盤だけが序~中盤のファンタジックな展開から浮いてしまっていて、
全体で見るとバランスが悪かった気も。
あと、中盤のミザリー女はなかなかいい狂いっぷりだったけど、この女をはじめ主人公二人も
ラスト間際に出てくる男性も皆が皆打たれ強すぎ。殴られても蹴られても何度も何度も起き上がる。
B級ホラーの敵役じゃないんだから、とシリアスな暴力シーンもときどき笑いそうになってしまった。
しかも主人公たちがあれだけの怪我を負って周囲の大人が誰も気づかないというのもありえないし。
改めて考えてみると、中盤はほんと著者に都合のいい展開だったな。。。
赤ん坊や横田というキャラクターが本作中であまり意味を成していないのも残念なところ。
あっさり退場してそれっきり。彼らがもうちょっと主人公のその後にいろいろな意味で影響しても
よかったんじゃないかなと思う。
ちなみにラストは解釈が難しいですが、
きっと主人公は〝自分で時計を操る術〟を身につけてしまったために、
現実にはもうこだわらなくなってしまったんじゃないか、というのが個人的見解です。
つまりは妄想に逃げ込んでしまった、悪く言えば〝狂って〟しまった。
ずっと独りきりでいたことで時計の針を修正してくれる人間もいなくなってしまったしね。。。
著者の言わんとすることも伝わってこなかったし、私の中でデビュー作は超さなかったな。
読んで損した、ということは絶対にないですが。
大山氏はまだまだ若いし、これからに期待します。
それ以外には、なにもない。
無数の時計が配置された不思議な回廊。その閉ざされた施設の中の時計はすべて、
たった一つの例外もなく異なった時を刻んでいた。
すなわち、一分ずつ違った、一日二四時間の時を示す一四四〇個の時計――。
正確な時間を示すのは、その中のただ一つ。夜とも昼とも知れぬ異様な空間から脱出する条件は、
六時間以内にその“正しい時計”を見つけ出すことだった!?
神の下すがごとき命題に挑む唯一の武器は論理。奇跡の解答にはいかにして辿り着けるのか。
極限まで磨かれた宝石のような謎、謎、謎!
名手が放つ本格ミステリ・コレクション。
★収録作品★
使用中
ダブル・プレイ
素人芸
盗まれた手紙
イン・メモリアム
猫の巡礼
四色問題
幽霊をやとった女
しらみつぶしの時計
トゥ・オブ・アス
***
某アンソロジーで読んだ〝使用中〟があまりに面白かったので、
それが収録された短編集がついに発売されたのは嬉しい限り。
全体としては、面白いけれど少しひねりすぎで一発ではわかりづらい話が多かった印象。
真相解明の瞬間の「そうだったのか!」という驚きが何よりの醍醐味であるミステリにおいて、
一度脳内で租借しなければ意味を汲み取れない内容が多いというのは問題な気が。
〝盗まれた手紙〟や、何より表題作〝しらみつぶしの時計〟は、もはやミステリを通り越して
〝頭の体操〟状態だし(あのシリーズは子供のころから大好きで読んでいてとても楽しいですが、
それはあれがあくまでクイズ本だからで、物語を置き去りにして謎だけをポンと提示されても
小説を読んでいる気になれない)。
特に表題作のほうは文系の私にはきつかった。読んでて意識が朦朧としてきたし。。。(オチには
おっと思わせられましたが。でも、この手の話と〝小説〟という文章のみの表現手段は
正直相性が悪い気がする。映画か、せめてマンガ等の絵(ビジュアル)が伴う媒体だったら
もっとわかりやすく面白くなったはず)。
〝猫の巡礼〟は平山夢明氏や遠藤徹氏あたりが書きそうな、妙な世界観に妙な登場人物、
挙げ句オチらしきオチもないまま終わる「著者はこの作品を通して何を言いたかったんだろう」的な
何とも言えない話だし、〝四色問題〟は面白いは面白いけれど、「何でその程度の手がかりで
そんなことまでわかるんだよ」と言いたくなるほどの超能力(もしくはご都合主義的)推理だし、
本短編集の中で(〝使用中〟を除いて)一番まともかつシンプルに本格ミステリしていたのは
〝幽霊をやとった女〟ぐらいだったような。。。
まあそれなりに楽しめましたが。
でも私の中では〝使用中〟を超す話は本作の中にはなかったな。
あー、理系の人に解答編だけ隠して表題作を読ませて、解けるかどうか試してみたい。
ところでこの小説にも本作の表題作とまったく同じ時計ネタが出てくるのですが、
出典はやっぱりどっちも〝頭の体操〟?
無数の時計が配置された不思議な回廊。その閉ざされた施設の中の時計はすべて、
たった一つの例外もなく異なった時を刻んでいた。
すなわち、一分ずつ違った、一日二四時間の時を示す一四四〇個の時計――。
正確な時間を示すのは、その中のただ一つ。夜とも昼とも知れぬ異様な空間から脱出する条件は、
六時間以内にその“正しい時計”を見つけ出すことだった!?
神の下すがごとき命題に挑む唯一の武器は論理。奇跡の解答にはいかにして辿り着けるのか。
極限まで磨かれた宝石のような謎、謎、謎!
名手が放つ本格ミステリ・コレクション。
★収録作品★
使用中
ダブル・プレイ
素人芸
盗まれた手紙
イン・メモリアム
猫の巡礼
四色問題
幽霊をやとった女
しらみつぶしの時計
トゥ・オブ・アス
***
某アンソロジーで読んだ〝使用中〟があまりに面白かったので、
それが収録された短編集がついに発売されたのは嬉しい限り。
全体としては、面白いけれど少しひねりすぎで一発ではわかりづらい話が多かった印象。
真相解明の瞬間の「そうだったのか!」という驚きが何よりの醍醐味であるミステリにおいて、
一度脳内で租借しなければ意味を汲み取れない内容が多いというのは問題な気が。
〝盗まれた手紙〟や、何より表題作〝しらみつぶしの時計〟は、もはやミステリを通り越して
〝頭の体操〟状態だし(あのシリーズは子供のころから大好きで読んでいてとても楽しいですが、
それはあれがあくまでクイズ本だからで、物語を置き去りにして謎だけをポンと提示されても
小説を読んでいる気になれない)。
特に表題作のほうは文系の私にはきつかった。読んでて意識が朦朧としてきたし。。。(オチには
おっと思わせられましたが。でも、この手の話と〝小説〟という文章のみの表現手段は
正直相性が悪い気がする。映画か、せめてマンガ等の絵(ビジュアル)が伴う媒体だったら
もっとわかりやすく面白くなったはず)。
〝猫の巡礼〟は平山夢明氏や遠藤徹氏あたりが書きそうな、妙な世界観に妙な登場人物、
挙げ句オチらしきオチもないまま終わる「著者はこの作品を通して何を言いたかったんだろう」的な
何とも言えない話だし、〝四色問題〟は面白いは面白いけれど、「何でその程度の手がかりで
そんなことまでわかるんだよ」と言いたくなるほどの超能力(もしくはご都合主義的)推理だし、
本短編集の中で(〝使用中〟を除いて)一番まともかつシンプルに本格ミステリしていたのは
〝幽霊をやとった女〟ぐらいだったような。。。
まあそれなりに楽しめましたが。
でも私の中では〝使用中〟を超す話は本作の中にはなかったな。
あー、理系の人に解答編だけ隠して表題作を読ませて、解けるかどうか試してみたい。
ところでこの小説にも本作の表題作とまったく同じ時計ネタが出てくるのですが、
出典はやっぱりどっちも〝頭の体操〟?
歩かなきゃ。
三十年前、松子二十四歳。教職を追われ、故郷から失踪した夏。
その時から最期まで転落し続けた彼女が求めたものとは?
一人の女性の生涯を通して炙り出される愛と人生の光と影。
気鋭作家が書き下ろす、感動ミステリ巨編。
***
男性がよくもここまで女性心理をリアルに書き上げられたものだと
まず何よりもそのことに驚かされた。
そして、確かに並々ならぬ不運の人生ではあるけれどとりたてて奇抜な展開もない、
ごくありふれたエピソードばかりで構成された物語であるにも関わらず、
ここまで面白い作品に仕上げられる著者の力量に脱帽。
468Pにもわたる長編(しかも二段組)なのに少しも疲れや飽きを感じず、
一気に読みきってしまった。
とにかく文章がうまい。読みやすく、それでいて斬新な表現がところどころにあったりして
(例えば相手にビンタすることを〝肉を打つ〟と表現したり)読み手の興味を惹きつけて離さない。
一度も会ったことのない伯母に徐々に興味を持ち、次第に共鳴するようになり、最後には
伯母のために彼女を殺した犯人を怒鳴りつけ涙する、甥の笙に同調して泣いてしまったのも
本作の主人公〝松子〟があまりにリアルに描かれているせいでしょう。
松子の人生をひと言で表すとしたら〝裏目〟以外に最早ないですが、
ここまで無償の愛情を(男性限定だけど)他者に与えながら生き続けたその姿は
ある意味キリストを思わせる。
単に男に依存しないと生きていけないというだけの女性には見えなかった。
(その点では、映画版の松子がジャニーズに入れあげる描写は余計だった気がする。
それとも彼女は神ではなく殉教者で、誰かを神として崇め献身することでしか
生きられなかったのかもしれないけど。。。そこは解釈が難しいな)
身も知らない人の死亡のニュースを観ても私たちは当然ながら「ふうん」としか思わないけど、
もっとその相手に近づいてその人間の人生を掘り下げてみれば
松子のような劇的な(いや、決して劇的じゃなく地味でもこちらの琴線に触れるような)エピソードが
必ずひとつやふたつは見えてくるものなんだろうな。
〝人〟を〝第三者〟としてじゃなく、あくまで〝人〟として捉えろと教えてくれる、
とてもいい物語だった。
映画版よりおすすめです(あっちはあっちでいい味出してるけど娯楽性が強すぎるからなー)。
ていうか〝嫌われ松子〟っていったらやっぱこれだよな。
三十年前、松子二十四歳。教職を追われ、故郷から失踪した夏。
その時から最期まで転落し続けた彼女が求めたものとは?
一人の女性の生涯を通して炙り出される愛と人生の光と影。
気鋭作家が書き下ろす、感動ミステリ巨編。
***
男性がよくもここまで女性心理をリアルに書き上げられたものだと
まず何よりもそのことに驚かされた。
そして、確かに並々ならぬ不運の人生ではあるけれどとりたてて奇抜な展開もない、
ごくありふれたエピソードばかりで構成された物語であるにも関わらず、
ここまで面白い作品に仕上げられる著者の力量に脱帽。
468Pにもわたる長編(しかも二段組)なのに少しも疲れや飽きを感じず、
一気に読みきってしまった。
とにかく文章がうまい。読みやすく、それでいて斬新な表現がところどころにあったりして
(例えば相手にビンタすることを〝肉を打つ〟と表現したり)読み手の興味を惹きつけて離さない。
一度も会ったことのない伯母に徐々に興味を持ち、次第に共鳴するようになり、最後には
伯母のために彼女を殺した犯人を怒鳴りつけ涙する、甥の笙に同調して泣いてしまったのも
本作の主人公〝松子〟があまりにリアルに描かれているせいでしょう。
松子の人生をひと言で表すとしたら〝裏目〟以外に最早ないですが、
ここまで無償の愛情を(男性限定だけど)他者に与えながら生き続けたその姿は
ある意味キリストを思わせる。
単に男に依存しないと生きていけないというだけの女性には見えなかった。
(その点では、映画版の松子がジャニーズに入れあげる描写は余計だった気がする。
それとも彼女は神ではなく殉教者で、誰かを神として崇め献身することでしか
生きられなかったのかもしれないけど。。。そこは解釈が難しいな)
身も知らない人の死亡のニュースを観ても私たちは当然ながら「ふうん」としか思わないけど、
もっとその相手に近づいてその人間の人生を掘り下げてみれば
松子のような劇的な(いや、決して劇的じゃなく地味でもこちらの琴線に触れるような)エピソードが
必ずひとつやふたつは見えてくるものなんだろうな。
〝人〟を〝第三者〟としてじゃなく、あくまで〝人〟として捉えろと教えてくれる、
とてもいい物語だった。
映画版よりおすすめです(あっちはあっちでいい味出してるけど娯楽性が強すぎるからなー)。
ていうか〝嫌われ松子〟っていったらやっぱこれだよな。
「異議あり!」
有罪、それとも無罪?
被告人の運命は、あなたたち六人に委ねられた。
いわくありげな裁判員たち、二転三転する評議、そして炸裂する究極のどんでん返し!
裁判員制度のすべてがわかる、傑作リーガルサスペンス。
★収録作品★
審理
評議
自白
***
裁判員の通知書、受け取った人の四割が「断りたい」と言っているようですが。。。
じゃあ私と変わってください。ミステリ書きとしては是非参加したいと常々思っていたのに
そういう奴に限って選ばれないようで通知は届かないありさま。。。
といった御託はまあ置いといて、裁判員に選ばれた人はおそらく最低限
裁判、そして裁判員というものについて勉強してから法廷に臨むのでしょうが、
その手始めに本作を読んでみるのもいいかもしれません。
登場人物たちが多少デフォルメされて描かれてはいますが、裁判員制度の何たるかが
おおよそ掴める内容になっています(もちろんすべてを鵜呑みにしては駄目ですが)。
もちろん物語としても面白いので、下手な入門書を読むよりすんなりと頭に入る。
ただ、これだけのベテラン作家さんにこんなことを言うのは難なのですが、
芦辺氏の文章ってどこか悪文というか、難しい漢字や言い回しを使っているわけでもないのに
妙に読みにくいんですよね。。。お陰で、それぞれが独立した物語である三編のうち
一つ目と二つ目が続き物なのだと思い込み
「あれ? 何で一話目と被告人&被害者が違うの?」と違和感を覚えて初めて
二話目がまったく別の話だと気づいた(私がアホなだけかもだけど)。
それ以外にも、〝首実検〟〝使用前・使用後〟のくだりなんか一読ではわけがわからず
何度かページを行きつ戻りつしてようやく意味を理解する始末。
内容が面白いだけに(そして〝法廷物〟というスピード感がものを言うジャンルなだけに)
文章の読みにくさで読書速度が落ちてしまうのはちょっといただけなかった。
(ちなみに三話目は唯一内容がいまいちでしたが、代わりに別のサプライズが仕掛けられていて
著者の思惑どおりおっ! と叫ばされ、物語の締めにも「うまい!」と感心させられましたが)
割りとおすすめの一冊です。
ちなみに裁判員制度というものをもっと簡単に知りたい人は、
↓もおすすめ。
マンガですが、裁判員の登場頻度は本作よりこっちのほうが多い。彼らそれぞれの個性も強いし。
内容も非常に面白いです(主人公の女裁判官は嫌いですが)。
これらを読んで来たる日に備えて、少しでも正しい道に被告・原告を導く一端を
担ってくださいね、皆さん(断ったりしないで。。。勿体無いから。。。←勝手な主張)。
有罪、それとも無罪?
被告人の運命は、あなたたち六人に委ねられた。
いわくありげな裁判員たち、二転三転する評議、そして炸裂する究極のどんでん返し!
裁判員制度のすべてがわかる、傑作リーガルサスペンス。
★収録作品★
審理
評議
自白
***
裁判員の通知書、受け取った人の四割が「断りたい」と言っているようですが。。。
じゃあ私と変わってください。ミステリ書きとしては是非参加したいと常々思っていたのに
そういう奴に限って選ばれないようで通知は届かないありさま。。。
といった御託はまあ置いといて、裁判員に選ばれた人はおそらく最低限
裁判、そして裁判員というものについて勉強してから法廷に臨むのでしょうが、
その手始めに本作を読んでみるのもいいかもしれません。
登場人物たちが多少デフォルメされて描かれてはいますが、裁判員制度の何たるかが
おおよそ掴める内容になっています(もちろんすべてを鵜呑みにしては駄目ですが)。
もちろん物語としても面白いので、下手な入門書を読むよりすんなりと頭に入る。
ただ、これだけのベテラン作家さんにこんなことを言うのは難なのですが、
芦辺氏の文章ってどこか悪文というか、難しい漢字や言い回しを使っているわけでもないのに
妙に読みにくいんですよね。。。お陰で、それぞれが独立した物語である三編のうち
一つ目と二つ目が続き物なのだと思い込み
「あれ? 何で一話目と被告人&被害者が違うの?」と違和感を覚えて初めて
二話目がまったく別の話だと気づいた(私がアホなだけかもだけど)。
それ以外にも、〝首実検〟〝使用前・使用後〟のくだりなんか一読ではわけがわからず
何度かページを行きつ戻りつしてようやく意味を理解する始末。
内容が面白いだけに(そして〝法廷物〟というスピード感がものを言うジャンルなだけに)
文章の読みにくさで読書速度が落ちてしまうのはちょっといただけなかった。
(ちなみに三話目は唯一内容がいまいちでしたが、代わりに別のサプライズが仕掛けられていて
著者の思惑どおりおっ! と叫ばされ、物語の締めにも「うまい!」と感心させられましたが)
割りとおすすめの一冊です。
ちなみに裁判員制度というものをもっと簡単に知りたい人は、
↓もおすすめ。
マンガですが、裁判員の登場頻度は本作よりこっちのほうが多い。彼らそれぞれの個性も強いし。
内容も非常に面白いです(主人公の女裁判官は嫌いですが)。
これらを読んで来たる日に備えて、少しでも正しい道に被告・原告を導く一端を
担ってくださいね、皆さん(断ったりしないで。。。勿体無いから。。。←勝手な主張)。
きっと、もうすぐベルが鳴る。
児童相談所の所長・山野は、増え続ける児童虐待の報告に頭を抱えていた。
その増え方は、明らかに異常だ。児童虐待で始まった違和感は、刑事事件へと発展し、
京都の町は瞬く間に無差別殺人によるパニックに陥った。
だが、無差別に見えた殺人には、実はある一つの「法則」が隠れていた――。
人類進化の最終形態を、戦慄すべきヴィジョンで提示した、恐るべき予言の書。
第6回ホラーサスペンス大賞特別賞受賞作。
***
〝バイオハザード〟+〝ドラゴンヘッド〟+パラサイト・イヴ〟って感じの小説だったな。。。
SFというジャンルは多少発想がかぶってしまうのはしょうがないとしても、
それでも何だか既存の有名SF作品のいいとこどり、という印象は否めなかった。
まあよくいえば、スティーヴン・キングが好んで書きそうな感じの話。
文章や構成、伏線の張り方等はうまいです。これがデビュー作とは信じられないほど(もちろん
まるっきりの素人というわけではないようですが)。
ただ、登場人物たちのキャラや肩書き・関係性から、かなり早い段階で
今後どういう展開になるのか簡単に読めてしまったのが残念だった。
序盤は登場人物たちのうんちくトークがそのおおよそを占めており多少うざったく(しかも
映画〝ゲド戦記〟と同じく、本来キャラの生き様から自然と滲み出ていなければならない
〝テーマ〟を、彼らの口から直球で言わせちゃってる手抜き加減)、
中盤でやっと物語が動いてきたと思ったら、クライマックスに至る前に空気が抜けて
物語がしぼんで地味に終わってしまった点もちょっと。。。(ラストシーンだけはインパクト
強いですが、上に書いたようにもう既に予測できていた展開だったので
「ああやっぱりな」と思っただけ)
あとはところどころにクサい展開があるのもどうかと(おっさん二人が声を合わせて
狂おしく大声で歌を歌うところとか)。
決して駄作ではないんですが、取り立てて心に残るところのない話だったな。
まあただ、脳内物質が激しく変化するときに催す吐き気、というのはかなり共感できた。
たぶんこの著者、抗うつ剤飲んだことあるな(もしくは覚○ざ。。。ゲフンゲフン)。
あとは〝幼児虐待〟という内容が、かなり今のこの時代を反映しているものだから
フィクションとして割り切りづらかった。
親の子殺しが増加している理由がこの小説の通りだったら。。。
。。。嫌だな、やっぱりこんな〝進化〟。進化とも呼びたくない。
ちなみにラストは、つまりこういうこと↓なんだろうな。
どうなる? 地球の未来。。。
児童相談所の所長・山野は、増え続ける児童虐待の報告に頭を抱えていた。
その増え方は、明らかに異常だ。児童虐待で始まった違和感は、刑事事件へと発展し、
京都の町は瞬く間に無差別殺人によるパニックに陥った。
だが、無差別に見えた殺人には、実はある一つの「法則」が隠れていた――。
人類進化の最終形態を、戦慄すべきヴィジョンで提示した、恐るべき予言の書。
第6回ホラーサスペンス大賞特別賞受賞作。
***
〝バイオハザード〟+〝ドラゴンヘッド〟+パラサイト・イヴ〟って感じの小説だったな。。。
SFというジャンルは多少発想がかぶってしまうのはしょうがないとしても、
それでも何だか既存の有名SF作品のいいとこどり、という印象は否めなかった。
まあよくいえば、スティーヴン・キングが好んで書きそうな感じの話。
文章や構成、伏線の張り方等はうまいです。これがデビュー作とは信じられないほど(もちろん
まるっきりの素人というわけではないようですが)。
ただ、登場人物たちのキャラや肩書き・関係性から、かなり早い段階で
今後どういう展開になるのか簡単に読めてしまったのが残念だった。
序盤は登場人物たちのうんちくトークがそのおおよそを占めており多少うざったく(しかも
映画〝ゲド戦記〟と同じく、本来キャラの生き様から自然と滲み出ていなければならない
〝テーマ〟を、彼らの口から直球で言わせちゃってる手抜き加減)、
中盤でやっと物語が動いてきたと思ったら、クライマックスに至る前に空気が抜けて
物語がしぼんで地味に終わってしまった点もちょっと。。。(ラストシーンだけはインパクト
強いですが、上に書いたようにもう既に予測できていた展開だったので
「ああやっぱりな」と思っただけ)
あとはところどころにクサい展開があるのもどうかと(おっさん二人が声を合わせて
狂おしく大声で歌を歌うところとか)。
決して駄作ではないんですが、取り立てて心に残るところのない話だったな。
まあただ、脳内物質が激しく変化するときに催す吐き気、というのはかなり共感できた。
たぶんこの著者、抗うつ剤飲んだことあるな(もしくは覚○ざ。。。ゲフンゲフン)。
あとは〝幼児虐待〟という内容が、かなり今のこの時代を反映しているものだから
フィクションとして割り切りづらかった。
親の子殺しが増加している理由がこの小説の通りだったら。。。
。。。嫌だな、やっぱりこんな〝進化〟。進化とも呼びたくない。
ちなみにラストは、つまりこういうこと↓なんだろうな。
どうなる? 地球の未来。。。
きっと伝わる。
十八年間音信不通だった姉が、意識不明で救急病院に搬送された。
重傷の火傷、頭部の銃創。それは婚姻届を出した翌日の出来事だった。
しかも、姉が選んだ最愛の夫は、かつて人を殺めた男だという……。
姉の不審な預金通帳、噛み合わない事実。逃げる男と追う男。
「姉さん、あなたはいったい何をしていたんだ……」
慟哭の恋愛長編。
***
ミステリにも関わらず、下手な抽象画を見ているような終始薄らぼんやりとした印象の話だった。
姉が拳銃で撃たれた理由を必死で探し回る主人公の弟。長く音信不通だった姉の
空白の期間を知る人物を訪ね歩き、姉が事件に巻き込まれた経緯を解き明かしていく。。。というと
一見面白そうですが、その解き明かされた事実というのがすべて弟の憶測なので
「え? 本当にそうなの? あんたの勘違いじゃないの?」と今ひとつ話に入り込めない。しかも
極度の姉フェチである弟のシスコンフィルターを通してなので、なおさらその〝真実〟に
信憑性が感じられない。
しかもこの男、ことあるごとに「姉はなんて素晴らしいんだ」「姉はなんて強いんだ」と
自分の姉ちゃんを盲目的にベタボメするので(しかもその評価が完全に独り善がりなので)
だんだんイラついてくる。
あんたの姉は〝強い〟んじゃなく単に〝図太い〟だけなんだよ、と
本作に入り込んで怒鳴りつけてやりたい衝動に何度も駆られた。
さらに、著者はこの主人公を〝冴えないヘタレ男〟という設定にしているけど、だったら
彼の職業が医者なのは正直選択ミスなのでは? 正直主人公=医者、という先入観が、
著者の書きたい主人公像と読み手の解釈の間にズレを生じさせているので。
姉が銃撃されるに至った真相も到底納得いくものではないし(思わず「はぁ?」と声に出して
しまった)。納得いかないといえばもはや姉の行動・心理、すべてが納得いかないことづくめ。
何であの程度の男に、あんなつまらない理由でホレる?
何でそこまで無謀極まりないやり方で幸せを掴もうとする?
これが十代だというならまだしも、もう三十半ばのいい歳した女性の行動とはとても思えない。
挙げ句、アホか。。。と放心する読者を置いてけぼりにして、最後まで相も変わらず
「姉はすごい」と絶賛する弟のバカっぷり。ひどすぎて眼も当てられない。
主人公が姉と疎遠になった理由も、「まさか××じゃあるまいな。。。」と危惧していたことが
まんま正解で脱力したし。
登場人物も誰ひとりとして魅力ないし。
ラストはありがちもいいとこだし。
読むのに費やした時間と体力返せ。
ある一人の女性が生前何を思っていたのか、その身に何が起こったのか、
それを突き詰めていくというテーマの物語なら、こっち↓のほうがよっぽど面白い(マンガだけど)。
〝最愛〟というより〝最悪〟だった。
まじでおすすめしません。地雷小説。くれぐれも注意。
でも何となく、本作の内容と(タイトルも)合っているのでこの曲でも貼り付けておこう。
十八年間音信不通だった姉が、意識不明で救急病院に搬送された。
重傷の火傷、頭部の銃創。それは婚姻届を出した翌日の出来事だった。
しかも、姉が選んだ最愛の夫は、かつて人を殺めた男だという……。
姉の不審な預金通帳、噛み合わない事実。逃げる男と追う男。
「姉さん、あなたはいったい何をしていたんだ……」
慟哭の恋愛長編。
***
ミステリにも関わらず、下手な抽象画を見ているような終始薄らぼんやりとした印象の話だった。
姉が拳銃で撃たれた理由を必死で探し回る主人公の弟。長く音信不通だった姉の
空白の期間を知る人物を訪ね歩き、姉が事件に巻き込まれた経緯を解き明かしていく。。。というと
一見面白そうですが、その解き明かされた事実というのがすべて弟の憶測なので
「え? 本当にそうなの? あんたの勘違いじゃないの?」と今ひとつ話に入り込めない。しかも
極度の姉フェチである弟のシスコンフィルターを通してなので、なおさらその〝真実〟に
信憑性が感じられない。
しかもこの男、ことあるごとに「姉はなんて素晴らしいんだ」「姉はなんて強いんだ」と
自分の姉ちゃんを盲目的にベタボメするので(しかもその評価が完全に独り善がりなので)
だんだんイラついてくる。
あんたの姉は〝強い〟んじゃなく単に〝図太い〟だけなんだよ、と
本作に入り込んで怒鳴りつけてやりたい衝動に何度も駆られた。
さらに、著者はこの主人公を〝冴えないヘタレ男〟という設定にしているけど、だったら
彼の職業が医者なのは正直選択ミスなのでは? 正直主人公=医者、という先入観が、
著者の書きたい主人公像と読み手の解釈の間にズレを生じさせているので。
姉が銃撃されるに至った真相も到底納得いくものではないし(思わず「はぁ?」と声に出して
しまった)。納得いかないといえばもはや姉の行動・心理、すべてが納得いかないことづくめ。
何であの程度の男に、あんなつまらない理由でホレる?
何でそこまで無謀極まりないやり方で幸せを掴もうとする?
これが十代だというならまだしも、もう三十半ばのいい歳した女性の行動とはとても思えない。
挙げ句、アホか。。。と放心する読者を置いてけぼりにして、最後まで相も変わらず
「姉はすごい」と絶賛する弟のバカっぷり。ひどすぎて眼も当てられない。
主人公が姉と疎遠になった理由も、「まさか××じゃあるまいな。。。」と危惧していたことが
まんま正解で脱力したし。
登場人物も誰ひとりとして魅力ないし。
ラストはありがちもいいとこだし。
読むのに費やした時間と体力返せ。
ある一人の女性が生前何を思っていたのか、その身に何が起こったのか、
それを突き詰めていくというテーマの物語なら、こっち↓のほうがよっぽど面白い(マンガだけど)。
〝最愛〟というより〝最悪〟だった。
まじでおすすめしません。地雷小説。くれぐれも注意。
でも何となく、本作の内容と(タイトルも)合っているのでこの曲でも貼り付けておこう。
「……あたしは暴力を、否定も、肯定も、しない。
ただ、利用はする。あたしなりのやり方で、暴力をコントロールする」
木を見て森を見ず――。細部に注意しすぎ、肝心の全体を見失うことのたとえで、
事件捜査において、最も避けなければならないことである。
この小説に登場する刑事は皆、これを徹底し犯人を逮捕していく。
だが、彼らは気づかなかった。その森が想像以上に大きく深いということに……。
5つの殺人事件。果たして刑事は真実を見たのか? 果たして女は幸せだったのか?
今、注目を浴びる著者の連作警察小説。
★収録作品★
闇一重(やみひとえ)
蛍蜘蛛(ほたるぐも)
腐屍蝶(ふしちょう)
罪時雨(つみしぐれ)
死舞盃(しまいさかずき)
独静加(ひとりしずか)
***
〝ソウルケイジ〟はいまいち入り込めず序盤で投げ出し、
〝月光〟はあまりのつまらなさに読後ぶん投げ、
けれど最低三作その作家の著作を読まない限りは容易に見限ってはいけない、という
自分なりのモットーに準じて手にとった誉田作品の三作目である本作。
。。。見限らなくてよかった。
面白かった。(失礼だけど)同じ作家が書いたものとは思えなかった。
本作に収録されている物語は、最終章を抜かしてそれぞれが
独立したミステリ短編になっているので普通に連作短編集として楽しむこともできますが、
そのどの話にもある一人の人物が関わっており、その人物の正体や背景が
物語と物語を繋ぎながら徐々に明らかになっていく過程は手に汗握るものがあり、
一粒で二度おいしい構成になっています。
ただ。。。その人物があまりに陰に隠れすぎているというか、
本作で一番のキーパーソンの割りにその存在を印象付けるエピソードがほぼ皆無なので
あまり入れ込むことができず、衝撃的な(はずの)ラストもあまりインパクトがなかった。
マンネリな二時間サスペンスドラマを観ているような気持ちで、「あらあらお気の毒に」
と感じただけ。
そもそも、一章&二章はいかにも「これから何かが始まるぞ」的な期待を抱かせるに十分な
クオリティなのに三章以降からそれも徐々に失速し、最終章に至ってはあまりに話が
突飛な方向にすっ飛んでいってしまったので(というかそこに至るまでの過程がはしょられすぎ)、
「え? 何だったの?」ときょとんとしてしまった。
F1でたとえるなら、
「おー来たぞ来たぞものすごいスピードでこっちに来たぞ。。。ってあれ? 何か減速してね?
なんかトロトロこっちに向かってきてるんだけど。。。っておい今度は眼の前に来るなり
猛スピードで走り去っていったじゃんまったくマシン見えなかったよ何だったんだよ今のは」
みたいな感じというか。。。(非常にわかりにくいたとえですいません)
って結局文句言ってんじゃんて感じですが、そのキーパーソンの描写のバランスの悪さを
除けば、トリックも物語部分もしっかりしていて非常に面白く読めたのでおすすめです。
時おり挿入されるギャグも面白いし(「俺たちのデカ魂に……乾杯」は吹いた)。
オチはちょっと火サス&説教臭かったけどそのあたりは眼をつぶります。
ちなみに読後表紙を見ると「あっ、そういうことだったのか」とちょっと眼からウロコ落ちます。
。。。ああ、ずっと独りぼっちだった彼女は今もなお独り墓の中で眠ってるんだな。
〝独死塚〟、これが本当の最終章なのかもしれないな。
親子三代に亘って残酷な運命を強いられた女性たち、それが
彼女が自らの身を挺して抗ったことで断ち切られることを願って止まない。
ただ、利用はする。あたしなりのやり方で、暴力をコントロールする」
木を見て森を見ず――。細部に注意しすぎ、肝心の全体を見失うことのたとえで、
事件捜査において、最も避けなければならないことである。
この小説に登場する刑事は皆、これを徹底し犯人を逮捕していく。
だが、彼らは気づかなかった。その森が想像以上に大きく深いということに……。
5つの殺人事件。果たして刑事は真実を見たのか? 果たして女は幸せだったのか?
今、注目を浴びる著者の連作警察小説。
★収録作品★
闇一重(やみひとえ)
蛍蜘蛛(ほたるぐも)
腐屍蝶(ふしちょう)
罪時雨(つみしぐれ)
死舞盃(しまいさかずき)
独静加(ひとりしずか)
***
〝ソウルケイジ〟はいまいち入り込めず序盤で投げ出し、
〝月光〟はあまりのつまらなさに読後ぶん投げ、
けれど最低三作その作家の著作を読まない限りは容易に見限ってはいけない、という
自分なりのモットーに準じて手にとった誉田作品の三作目である本作。
。。。見限らなくてよかった。
面白かった。(失礼だけど)同じ作家が書いたものとは思えなかった。
本作に収録されている物語は、最終章を抜かしてそれぞれが
独立したミステリ短編になっているので普通に連作短編集として楽しむこともできますが、
そのどの話にもある一人の人物が関わっており、その人物の正体や背景が
物語と物語を繋ぎながら徐々に明らかになっていく過程は手に汗握るものがあり、
一粒で二度おいしい構成になっています。
ただ。。。その人物があまりに陰に隠れすぎているというか、
本作で一番のキーパーソンの割りにその存在を印象付けるエピソードがほぼ皆無なので
あまり入れ込むことができず、衝撃的な(はずの)ラストもあまりインパクトがなかった。
マンネリな二時間サスペンスドラマを観ているような気持ちで、「あらあらお気の毒に」
と感じただけ。
そもそも、一章&二章はいかにも「これから何かが始まるぞ」的な期待を抱かせるに十分な
クオリティなのに三章以降からそれも徐々に失速し、最終章に至ってはあまりに話が
突飛な方向にすっ飛んでいってしまったので(というかそこに至るまでの過程がはしょられすぎ)、
「え? 何だったの?」ときょとんとしてしまった。
F1でたとえるなら、
「おー来たぞ来たぞものすごいスピードでこっちに来たぞ。。。ってあれ? 何か減速してね?
なんかトロトロこっちに向かってきてるんだけど。。。っておい今度は眼の前に来るなり
猛スピードで走り去っていったじゃんまったくマシン見えなかったよ何だったんだよ今のは」
みたいな感じというか。。。(非常にわかりにくいたとえですいません)
って結局文句言ってんじゃんて感じですが、そのキーパーソンの描写のバランスの悪さを
除けば、トリックも物語部分もしっかりしていて非常に面白く読めたのでおすすめです。
時おり挿入されるギャグも面白いし(「俺たちのデカ魂に……乾杯」は吹いた)。
オチはちょっと火サス&説教臭かったけどそのあたりは眼をつぶります。
ちなみに読後表紙を見ると「あっ、そういうことだったのか」とちょっと眼からウロコ落ちます。
。。。ああ、ずっと独りぼっちだった彼女は今もなお独り墓の中で眠ってるんだな。
〝独死塚〟、これが本当の最終章なのかもしれないな。
親子三代に亘って残酷な運命を強いられた女性たち、それが
彼女が自らの身を挺して抗ったことで断ち切られることを願って止まない。
偲ぶと云うよりももっと強力な感情だろう――。
オカルトスポット探険サークルの学生六人は、京都山間部の黒いレンガ屋敷〝ファイアフライ館〟に
肝試しに来た。ここは十年前、作曲家の加賀螢司が演奏家六人を殺した場所だ。
そして半年前、一人の女子メンバーが未逮捕の殺人鬼ジョージに惨殺されている。
そんな中での四日間の合宿。ふざけ合う仲間たち。
嵐の山荘での第一の殺人は、すぐに起こった。
***
二年ぶりの再読。私は本作の呪いにかかっているので、どうしても定期的に思い出しては
読みたくなってしまう(いっそ買えばいいんだけど)。
いやーしかし。。。ここまで「読者を(いい意味で)欺いてやろう」という気概の伝わってくる
ミステリはそうそうないです。
〝読者の驚きのツボ〟を全部おさえようとでもいうのか、
ありとあらゆるトリック&(ミステリにおける)騙しのテクニックがてんこもり。
なので若干複雑な作りになっておりミステリ初心者にはあまりおすすめしませんが、
ここまでいろんな要素を詰め込んでおいてくどくならないのが麻耶氏のすごいところ。
ただ惜しむらくは、作中の数多のトリック同士がぶつかり合ってその驚きを相殺している箇所が
少なからず見受けられた点。「このトリックさえなければあのトリックがもっと映えたのに」と
思わせられることしばしばだったので。
でも全体的に非常に好きです。
ある程度以上のミステリ読みには是非お薦めしたい一品。
本書を手にとる人に予めひとつだけ忠告しておくとするなら、
この麻耶雄嵩という作家、決して文章が下手なわけじゃないんですよ、決して。。。
余談だけどこの物語、映画化されたら意外といい感じのホラーミステリになるんじゃないかと思う。
観客の興味をそそるB級描写やユーモアもありつつ、壮大なクライマックスと予想外のラストは
深い感動&戦慄を観る者に抱かせること請け合い(探偵役がちょっとショボいからそこは
変えざるを得ないだろうけど。。。いや、私は好きなんですが、絵面的にね)。
映画会社さん、山田○介とかを映画化するぐらいならどうかこっちをお願いしますよ。いやマジで
そろそろその場限りじゃない、次世代にまで残る名作撮りたいと思わない?←勧誘
オカルトスポット探険サークルの学生六人は、京都山間部の黒いレンガ屋敷〝ファイアフライ館〟に
肝試しに来た。ここは十年前、作曲家の加賀螢司が演奏家六人を殺した場所だ。
そして半年前、一人の女子メンバーが未逮捕の殺人鬼ジョージに惨殺されている。
そんな中での四日間の合宿。ふざけ合う仲間たち。
嵐の山荘での第一の殺人は、すぐに起こった。
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二年ぶりの再読。私は本作の呪いにかかっているので、どうしても定期的に思い出しては
読みたくなってしまう(いっそ買えばいいんだけど)。
いやーしかし。。。ここまで「読者を(いい意味で)欺いてやろう」という気概の伝わってくる
ミステリはそうそうないです。
〝読者の驚きのツボ〟を全部おさえようとでもいうのか、
ありとあらゆるトリック&(ミステリにおける)騙しのテクニックがてんこもり。
なので若干複雑な作りになっておりミステリ初心者にはあまりおすすめしませんが、
ここまでいろんな要素を詰め込んでおいてくどくならないのが麻耶氏のすごいところ。
ただ惜しむらくは、作中の数多のトリック同士がぶつかり合ってその驚きを相殺している箇所が
少なからず見受けられた点。「このトリックさえなければあのトリックがもっと映えたのに」と
思わせられることしばしばだったので。
でも全体的に非常に好きです。
ある程度以上のミステリ読みには是非お薦めしたい一品。
本書を手にとる人に予めひとつだけ忠告しておくとするなら、
この麻耶雄嵩という作家、決して文章が下手なわけじゃないんですよ、決して。。。
余談だけどこの物語、映画化されたら意外といい感じのホラーミステリになるんじゃないかと思う。
観客の興味をそそるB級描写やユーモアもありつつ、壮大なクライマックスと予想外のラストは
深い感動&戦慄を観る者に抱かせること請け合い(探偵役がちょっとショボいからそこは
変えざるを得ないだろうけど。。。いや、私は好きなんですが、絵面的にね)。
映画会社さん、山田○介とかを映画化するぐらいならどうかこっちをお願いしますよ。いやマジで
そろそろその場限りじゃない、次世代にまで残る名作撮りたいと思わない?←勧誘
プロフィール
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kovo
性別:
女性
自己紹介:
80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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