「僕は、実際には存在しない男なんです」
世田谷に古い洋館を構えるある家に、家庭教師として通うことになった聡子。
ある日、聡子の前に、屋敷の離れに住む謎の青年が現れる。
青年はときに攻撃的で荒々しい言葉を吐き、ときに女たらしのように馴れ馴れしくキスを迫り、
ときに男らしく紳士的に振る舞った。
激しく変化する青年の態度に困惑しながらも、聡子はいつして彼に惹かれていく。
しかし彼の哀しい秘密を知った聡子は、結ばれざる運命に翻弄され――。
***
多重人格を扱った話なら〝ISOLA〟〝症例A〟など枚挙にいとまがないですが、
ある多重人格の異性の交代人格に恋してしまった、という本作のような物語は
意外と新しいかも知れない。
場所によって〝イライラ〟が〝いらいら〟とひらがな表記になったり
やたら文中に〝素敵〟という言葉が出てくる等ボキャブラリーにバリエーションがなかったり、
ヒロインのモノローグに〝!(びっくりマーク)〟が頻発してそれが大げさに感じたりと
物書きを志す身としてはそんな文章の適当さが気になりはしましたが、
面白くて一気に読めた。
文章から滲み出すようなヒロインの性格の悪さだけはどうにも好きになれず、
好きになれたらもっとこの物語に感動出来たのにと思うと残念な気もしますが
それでも何だかんだ言って素晴らしい物語だった。
ラストは切なくて鼻がつんとした。
この世にいない存在に恋をする、というとゲームのFFⅩなんかを思い出したりしますが
(ここで言う〝この世にいない〟というのは、幽霊とかじゃなく
初めから実体がない、元から人間じゃない存在のことです)
こういうシチュエーションは本当に切なくてやるせなくなる。大好きだこういう話。
おすすめです。
主人公は36歳のふたりの女性。
政治家の夫と幸せな家庭を築き、さらに絵本作家としても注目を浴びる主婦の陽子。
家族のいない天涯孤独な新聞記者の晴美。
ふたりは親友同士であるが、共に生まれてすぐ親に捨てられた過去を持つ。
ある日、「世間に真実を公表しなければ、息子の命はない」という脅迫状と共に、
陽子の5歳になる息子が誘拐された。
真実とは一体何なのか ……。
***
ひどい。
つまらないだけじゃなく、小説の体を成してない。
まるで脚本のト書き。
まず初めにドラマありきで書かれた作品だからって(本作は去年テレビドラマ化しています)
これはないだろ、と思った。
犯人もすぐわかるし、
主人公ふたりが、いくらタイトルになってるからって境遇境遇うるさいのも鼻につくし。
〝告白〟ほどの傑作を書いてくれとは言わないけど、周囲に踊らされてつまらないものを
垂れ流すのはやめてほしいと切実に思う。せっかくの才能がもったいない。
新作を読むたびにがっかりして「もう湊作品は読むまい」と決意しつつも
それでもやっぱり新作が出るとついつい手が伸びてしまう、というパターンを繰り返してきたけど
次がつまらなかったらさすがに見限ろうかなと思う。
バンバン出さなくていいからもっとよく練った重厚なストーリーを
湊さんには書いてもらいたいです。
病を癒す力を持つ「奇跡の泉」があるという亀恩洞(きおんどう)は、
別名を〈鬼隠れの穴〉といい、高賀童子(こうがどうじ)という牛鬼が棲むと伝えられていた。
運命の夜、その鍾乳洞前で発見された無惨な遺体は、やがて起こる惨劇の始まりに過ぎなかった。
古今東西の物語の意匠と作家へのオマージュが散りばめられた、精密で豊潤な傑作推理小説。
***
掴みはかなり面白くぐいぐい読ませる。
ただ中盤から後半にかけて決定的にダレる。クライマックスにいたっては
さしたる驚きもなくあくび混じり。
実は犯人はあのひとだった、というオチも、「いくら何でも周りが気付くだろ」と突っ込んだぐらい
突拍子もなく説得力に欠ける。
そのこと以外にも、あのひとが犯人だとするとつじつまが合わないことがいくつも出てくる。
そして決定的なのが、冒頭で登場するあの男があそこまで精神的に追い詰められた原因の
説明不足。そこまで怖い目に遭ったわけでもないのに何であそこまで病んじゃったんだろう。
とってつけたように「あれは本当に恐怖の体験だった」と言われてもこれまた説得力がない。
〝ハサミ男〟が面白すぎただけにこの落差は残念に感じた。
メフィスト賞出身の作家はもっとやらかしてくれなきゃ面白味に欠ける。
文章は非常にうまくて読みやすく大変勉強になりましたが。
まあまあ面白かったけど800P近くもかけて追いたくなるほどの物語ではないな。
会社員の安藤は弟の潤也と二人で暮らしていた。
自分が念じれば、それを相手が必ず口に出すことに偶然気がついた安藤は、
その能力を携えて、日本を脅威に落とし込もうとする一人の男に近づいていった――。
***
再読。
本を死ぬほど読んで小説への理解力が増した今読んでみると
以前にも増して伏線の妙に唸らされる。まったく大したもんだなあ伊坂幸太郎。
ちょっと政治に対する意見が直球すぎて中二っぽくて(伊坂氏ごめんなさい)読んでて気恥ずかしく
なる部分もあるんだけど、やっぱり名作だった。
二話目にあたる〝呼吸〟はラストに今後への壮大な予感を抱かせる、ものすごく好きな終わり方。
あとはもうちょっと政治家・犬養の危険性を描写してくれていたらもっとよかったのにと思う。
(一応、宮沢賢治〝注文の多い料理店〟を、犬養の油断ならない人間性の描写に
使ってはいるけれど)
〝重力ピエロ〟もおすすめですが、それとはまた違う兄弟愛がクサみなしに描かれていて
本作もおすすめです。
図書館で借りて読んでいるうちにどうしてもほしくなって読んでる途中で買ってしまった。
「あのひとが死んだぐらいであなたを見放すわけがない」という台詞は
やっぱり何度読んでも感動する。
そして作中で一番好きなのはやっぱりアンダーソン。
切ないほどいいひと。私が再婚したいぐらいだ@
もうちょっと時間が経ったらまた読もう。
本作は再読に値する。
スーパーの保安責任者の男と、店で万引きを働いたDVの被害に遭っている女。
偶然出会った2人は、驚くべき因縁で結ばれていた!?
***
若干ネタバレな感想かもだけど、
東野圭吾氏〝容疑者Xの献身〟の女バージョン、という印象を受けた。
ミステリとしてはかなり弱いものの(いやこれそもそもミステリじゃないんじゃないかな?)
さらっとした文章はあっという間に読めてしまう。そして読後いつまでも切なく心に残る。
やるせない。読後タイトルを見返すと更に何とも言えない心持になる。
気になったのは、全体の構成が甘く現在とカットバックの切り替えがわかりづらかった点と
ところどころで主語と目的語がわからなくなる文章の詰めの甘さ。
それさえなければなかなかの良作(というには救いのない話だけど)だと思うんだけど。
歌野晶午さんといえばバリバリのミステリ作家というイメージがあるぶん
本作のミステリ濃度の低さにはちょっとがっかりもした。
まあおすすめです。
僕らには秘密なんてなかった。ケータイを盗み見るまでは…ふと盗み見た携帯には…。
***
導入と序盤の展開は非常に興味を持って読めた。
でも中盤からだれ始め、ラストにはその物語のあまりの薄っぺらさに絶句。
全体的に書き込みが足りない気がする。
主人公が彼女の携帯を盗み見る描写はスリルがあって面白いのに、
羽田氏の十八番である登場人物たちの心理票写がほとんどといっていいほどないのが残念だった。
(iPodに纏わる主人公の思考が唯一の心理描写といえばそうだけど、
主人公と彼女とのこれまで&現在の繋がり、そして主人公の今の生活に対する思いが
ほとんど描かれていないので、
突然『未来に可能性を残しておきたい』と言われても、『え? あんたそんなこと言うほど
切羽詰まってたっけ? 閉塞感や不満感じてたっけ?』とどうにも共感することが出来ない)
テーマは興味深かっただけに内容の薄さがもったいなくてならない。
次回作に期待。
メフィスト賞受賞の俊英登場!
女性若社長がクセのあるスタッフとともに営む北条葬儀社。
生前相談の難問、不可解な依頼と不思議な棺桶、消えた幼児のご遺体、
さまざまな謎を解決して式は進んでいくのだが……。
★収録作品★
父の葬式
祖母の葬式
息子の葬式
妻の葬式
葬儀屋の葬式
***
四話目まではハートフルな感じで進んでいくものの、
最終話〝葬儀屋の葬式〟ではその様相が一気に変わる。
サプライズと捉えれば聞こえはいいんだろうけどちょっとあまりに唐突に過ぎる気もする。
それまでのほのぼの・しみじみとした空気がガラッッッと変わるので今までの話が台無しに
なっている感が。
一応そこに至るまでの伏線は張るには張ってあるんだけど、それでもまだ足りない。
ラストをああするのならもうちょっと「え? これどういう意味。。。?」と
読者に不穏・疑問を抱かせる描写があったほうがよかった気がする。
繊細な和食のフルコースを味わっていたら最後に激辛の韓国料理出されたような違和感が
あるんだよな、この小説。
それなりに面白くは読めましたが。
あとどうでもいいけど私は著者の天祢涼氏の作品は全部読んでいるのですが、
本来「、」を付けるべきところに「。」を付けるのは鬱陶しいからやめてほしい。
氏の癖みたいですべての作品にその表現が見られるのだけど連発されるとしつこい。
まあおすすめです。
昆虫好きの、おとなしい少年による殺人。その少年は、なぜか動機だけは黙して語らない。
家裁調査官の森本が接見から得たのは「生きていたから殺した」という謎の言葉だった。
無差別殺人の告白なのか、それとも――。
少年の回想と森本の調査に秘められた“真相”は、最後まで誰にも見破れない。
技巧を尽くした表題作に、短編「シンリガクの実験」を併録した、文庫オリジナル作品。
***
これはやられた。
面白かった。
ここ最近読んだミステリの中で断トツ。
読み始めからぐいぐい物語世界に引き込まれ、いったん休憩しようと思ってもやめられず、
自分でもびっくりするほど一気に読破してしまった。
少年が
何故殺したのか、
誰を殺したのか、
それが徐々にわかっていくこの興奮たるやもう。
そして最後に仕掛けられている驚愕のトリック!! 見事に騙されました。
本の虫を自称する私ですがこのトリックは見抜けなかった。久々に素直に「やられた」と思えた。
同じトリックは過去に読んだことがあるけど、その中でも著者の深水氏の筆力は
他の追随を許さないほどにハイレベル。
中盤の、主人公の口を借りた著者の音楽語りは長々しくてちょっと鬱陶しかったけど、
それ以外はかなりの高評価。
この本に出会えてよかった。
同時収録の短編〝シンリガクの実験〟もデスノートばりの小学生の心理戦を描いていて
めちゃくちゃ面白かったし(そのくせとんだ斜め上の爽快なオチつくし)。
これを書いたのが自分なら、と嫉妬すらしてしまった(かなり本気で。こんなこと思うのは久しぶり)。
かなりのおすすめです。
あーこれ図書館で借りたんだけど買おうかなー。
手元に置いておきたくなってきた。
まじで惚れたよこの物語。。。
深水さん最高だ。
男を翻弄する女子大生、ゼミの同級生たち、そして彼女のストーカー。
愛憎の縺れの果てに、嵐に閉ざされた孤島で惨劇が起きる──
衝撃の真相が待ち受ける直球のフーダニット。
***
面白かった。
でも一発で犯人わかった。
だってあのひと以外めぼしい人間いないんだもん。。。
中盤では警察が会話の中でその人物がクロだとほぼ直球で解説してくれるし。。。
ていうか伏線があからさますぎて伏線になっておらずもはやネタバレと化してるし。
まあそれでも読みやすいし楽しかったけど。
ただ、終盤のあれはあまりにご都合主義で呆れた(そんな都合のいい死体が
そうそう出てくるわけないだろ、と。。。)。
嵐の孤島で惨劇が。。。というのはクローズド・サークルものの王道パターンだけど、
「嵐」そのものが謎解きのキーワードになっているのは斬新でなかなかよかった。
単に事件に警察を介入させないためだけに出てくる設定が、あんな風に使われるとは。
ちょっとクローズド・サークルものの新境地を見た気がする。
ラストはホラーテイストでいい感じです。
読み終えたあとにタイトルを見返すと「なるほど、このタイトルはそういう意味だったのか。。。!」と
驚かされることが多いけど、本作の場合は鳥肌が立った。ああだからこのタイトルなのか、と。
この「翼をください」という言葉は、主人公兄弟両方の心の叫びなんだろうな。怖い。
なかなかおすすめです。
倒錯した恋愛・兄弟愛に萌えられました。
第146回芥川賞受賞作!
無活用ラテン語で記された小説『猫の下で読むに限る』。
希代の多言語作家「友幸友幸」と、資産家A・A・エイブラムスの、
言語をめぐって連環してゆく物語。
SF、前衛、ユーモア、諧謔…すべての要素を持ちつつ、
常に新しい文章の可能性を追いかけ続ける著者の新たな地平。
★収録作品★
道化師の蝶
松ノ枝の記
***
ヒト属の最初の言葉は歌だった。
という作中の言葉どおり、物語というよりは歌っているような文章だった。
そして古今東西の歌のおおよそがそうであるように、言っている意味がわからない。。。
言葉、そして物語はいかあるべきか、という題材で書かれた純文学なら
諏訪哲史氏の〝アサッテの人〟〝りすん〟のほうが余程わかりやすいし面白かった。
それらの作品もすべてを理解出来ていたかと言われると
自信を持ってYESと答えることは出来ないけど、
本作は単純に面白いか面白くないかと問われれば完全に後者。
意味がわからなくても面白いものは面白い。
けれど私は本作に面白さを感じることが出来なかった。
併録の〝松ノ枝ノ記〟は、どうにか理解することが出来、
終わり方も感動的(とはいえ一般的な〝感動〟からはほど遠いので、
そういったものを求めているひとは読まないほうが吉)でなかなかに良作だった。
何にせよ「芥川賞を獲るほどのものか?」と思ってしまったことは否めないけれど。。。
単に私の読解力が足らないせいなのかとも思うけど、
だからといって本作を読解しようというだけの興味が湧かないのも事実。
おすすめも否定もしません。
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