ワカッチャイルケド、ヤメテドウスル?
29歳、無職の〈俺〉。
寝たきりの祖母を自宅で介護し、大麻に耽る――。
饒舌な文体でリアルに介護と家族とを問う、衝撃のデビュー作。
***
アナーキー&ジャンキーな面と、家族思い&考え深い面を併せ持つ。
人間ってつくづく多面的な生き物だなあと思う。
テレビや新聞等のメディアはある人間の一側面だけを誇張して報道してばっかりだから
ともすれば忘れがちだけど。
お笑い芸人と純文作家の間にはある共通点があって、
それは相手に面と向かっては言いづらいこと、
頭の中ではわかっていても言葉ではうまく表現しかねることを、
的確かつズバっと口にしてくれるとこにある。
本作も要所要所にそういった快感ポイントが埋め込まれていて、
「そうそう、ほんとそうなんだよ!」
と笑ったり怒ったり時に泣いたり、共感・共鳴するのに忙しく
読んでいる最中ろくに休む暇もなかった。
本作が出版された当時話題になった〝ラップ調文体〟は正直ダサい。
でもおそらくモブ氏は狙ってやってるんだろうし、
その軽いノリで自らを律し、励まし、奮い立たせ、
ゆるゆると内に向かって崩れていく精神のアリ地獄に落ちていかないよう心掛ける様が
そのまま文章に顕れているのだと解釈すれば、
必死で逃げる深刻さじゃなくステップを踏んで軽妙に危機を脱する
彼なりのスタンスなのだと解釈すれば、
実に魅力的な表現に思えてくる。
仮にアリ地獄に飲み込まれたら飲み込まれたで、最後に地上へと伸ばした掌は
完全に沈み切る瞬間にビシっとピースサインを形作るに違いないと思えるような、
そんな明るさを感じさせてくれる。
自己陶酔&その場のテンションでどうにでもなる恋愛とは違って、
被介護者と介護者の間の愛情は真にその純度が要求される。
常に現実を目の当たりにしなければならないぶんその愛情は美しくも完璧でもないけど、
でもこの世のどんな愛より本物だ。
本作の主人公(まあ要するにモブ氏本人なんですが)を知って、
「本当にかっこいい人は何やってもかっこいいんだな」ということをしみじみ感じた。
そう思ったのは花村萬月氏の〝王国記シリーズ〟を読んだとき以来だな。
痴呆老人の介護をしようが牛糞まみれで農作業しようが。
小奇麗な身なりと言葉と周辺機器(Ex.♀=アクセサリー、♂=車)で
己を飾っている人間よりよっぽど。
余談ですが私にも寝たきりの父親を介護している友人♀がおり、
まだ若いのに下の世話までしてやり自分のパソコンを投げ壊されて
自腹で二台目を買いに行ったりと常に振り回されっぱなしで、
「正直今のお父さんは好きになれない」と涙と罪悪感の滲んだ声で
懺悔するように電話してきたりしますが、
それでも彼女の父親に対する愛はひしひしと感じるし
私はそんな彼女をとてもかっこいいと思う。
正直内面の格好よさって武器だよな。
本人たちが今どんなに辛くても、それが必ず力になる日が来る。
あ、モブ氏はもうなってるか。
本作は、彼のデビュー作であり同時に芥川賞受賞作でもあります。
29歳、無職の〈俺〉。
寝たきりの祖母を自宅で介護し、大麻に耽る――。
饒舌な文体でリアルに介護と家族とを問う、衝撃のデビュー作。
***
アナーキー&ジャンキーな面と、家族思い&考え深い面を併せ持つ。
人間ってつくづく多面的な生き物だなあと思う。
テレビや新聞等のメディアはある人間の一側面だけを誇張して報道してばっかりだから
ともすれば忘れがちだけど。
お笑い芸人と純文作家の間にはある共通点があって、
それは相手に面と向かっては言いづらいこと、
頭の中ではわかっていても言葉ではうまく表現しかねることを、
的確かつズバっと口にしてくれるとこにある。
本作も要所要所にそういった快感ポイントが埋め込まれていて、
「そうそう、ほんとそうなんだよ!」
と笑ったり怒ったり時に泣いたり、共感・共鳴するのに忙しく
読んでいる最中ろくに休む暇もなかった。
本作が出版された当時話題になった〝ラップ調文体〟は正直ダサい。
でもおそらくモブ氏は狙ってやってるんだろうし、
その軽いノリで自らを律し、励まし、奮い立たせ、
ゆるゆると内に向かって崩れていく精神のアリ地獄に落ちていかないよう心掛ける様が
そのまま文章に顕れているのだと解釈すれば、
必死で逃げる深刻さじゃなくステップを踏んで軽妙に危機を脱する
彼なりのスタンスなのだと解釈すれば、
実に魅力的な表現に思えてくる。
仮にアリ地獄に飲み込まれたら飲み込まれたで、最後に地上へと伸ばした掌は
完全に沈み切る瞬間にビシっとピースサインを形作るに違いないと思えるような、
そんな明るさを感じさせてくれる。
自己陶酔&その場のテンションでどうにでもなる恋愛とは違って、
被介護者と介護者の間の愛情は真にその純度が要求される。
常に現実を目の当たりにしなければならないぶんその愛情は美しくも完璧でもないけど、
でもこの世のどんな愛より本物だ。
本作の主人公(まあ要するにモブ氏本人なんですが)を知って、
「本当にかっこいい人は何やってもかっこいいんだな」ということをしみじみ感じた。
そう思ったのは花村萬月氏の〝王国記シリーズ〟を読んだとき以来だな。
痴呆老人の介護をしようが牛糞まみれで農作業しようが。
小奇麗な身なりと言葉と周辺機器(Ex.♀=アクセサリー、♂=車)で
己を飾っている人間よりよっぽど。
余談ですが私にも寝たきりの父親を介護している友人♀がおり、
まだ若いのに下の世話までしてやり自分のパソコンを投げ壊されて
自腹で二台目を買いに行ったりと常に振り回されっぱなしで、
「正直今のお父さんは好きになれない」と涙と罪悪感の滲んだ声で
懺悔するように電話してきたりしますが、
それでも彼女の父親に対する愛はひしひしと感じるし
私はそんな彼女をとてもかっこいいと思う。
正直内面の格好よさって武器だよな。
本人たちが今どんなに辛くても、それが必ず力になる日が来る。
あ、モブ氏はもうなってるか。
本作は、彼のデビュー作であり同時に芥川賞受賞作でもあります。
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自分の世界へ戻るために。
類人猿の言語習得実験を行う霊長類研究センターを舞台に、
そこで働く研究者、実験をされるボノボを巡って引き起こされる人間ドラマを、
上質のミステリーとして描いた傑作。
***
昔ボノボってお菓子があったような。。。とか思ってよく考えたらボノボじゃなくてナボナでした。
なんてどうでもいいことは置いといて。。。
ミステリと銘打ってはいますが、どちらかと言えば人間(&猿)ドラマ。
ある研究施設で人一人が死亡する事件が発生。自殺? 事故? 他殺?
その真相を解き明かす鍵を握るのは、その人間の死の光景の唯一の目撃者である一匹のボノボ
(↓こんな動物です。かわいい)。
2~3歳の人間並みの語彙力しかないボノボのバースディから、
いかにして事の真相を訊き出すか。
そんな展開は、映画〝サウンド・オブ・サイレンス〟を髣髴とさせるものがあります(これの場合は
対象は猿ではなく精神病の少女ですが)。
真相部分はミステリとしては弱いですが、近ごろ割と多い気がする、無茶な大仕掛けを
作中に施して失敗しもはやカオスと化しているようなトンデモミステリよりはよっぽど好感が持てる、
極めて良質な物語です。
オチはベタだけど少し泣いちゃったしな。
敢えて難を言うなら、ラストの主人公の台詞が少し不自然だったことかな。
著者の荻原氏がどうしてもそれを言わせたかったのは分かるけど、なんかそれまでの話の流れに
そぐわなくて違和感があった。「それって今言う台詞じゃないだろ」と無意識的にツッコんでいた。
あとは、本作が〝ボノボとの会話から事件の糸口を掴む〟というある種神秘的な設定なのに、
そこにありがちでつまらない人間の汚職問題が関わってくるのが興ざめ。せっかくの世界観が
台無し。
ライトなミステリ好きにはおすすめです。もしバリバリのミステリフリークでも、人情モノや動物モノが
好きなら○。
ちなみに蛇足ですが、〝意思の疎通が難しい相手からどうにか事件の真相を聞き出す〟というような
話が好きな人には、〝まるいち的風景〟というマンガもおすすめ。泣けます。
追記:
本作を読むなら、BGMに是非これをどうぞ。
ていうかほんとこの曲は聴くたびに泣けるな。。。(TT)
いろんな作家さんが著作の中に登場させるのもわかるわ。
ホリー・コールの歌い方は正直あんま好きじゃないけど(--;
類人猿の言語習得実験を行う霊長類研究センターを舞台に、
そこで働く研究者、実験をされるボノボを巡って引き起こされる人間ドラマを、
上質のミステリーとして描いた傑作。
***
昔ボノボってお菓子があったような。。。とか思ってよく考えたらボノボじゃなくてナボナでした。
なんてどうでもいいことは置いといて。。。
ミステリと銘打ってはいますが、どちらかと言えば人間(&猿)ドラマ。
ある研究施設で人一人が死亡する事件が発生。自殺? 事故? 他殺?
その真相を解き明かす鍵を握るのは、その人間の死の光景の唯一の目撃者である一匹のボノボ
(↓こんな動物です。かわいい)。
2~3歳の人間並みの語彙力しかないボノボのバースディから、
いかにして事の真相を訊き出すか。
そんな展開は、映画〝サウンド・オブ・サイレンス〟を髣髴とさせるものがあります(これの場合は
対象は猿ではなく精神病の少女ですが)。
真相部分はミステリとしては弱いですが、近ごろ割と多い気がする、無茶な大仕掛けを
作中に施して失敗しもはやカオスと化しているようなトンデモミステリよりはよっぽど好感が持てる、
極めて良質な物語です。
オチはベタだけど少し泣いちゃったしな。
敢えて難を言うなら、ラストの主人公の台詞が少し不自然だったことかな。
著者の荻原氏がどうしてもそれを言わせたかったのは分かるけど、なんかそれまでの話の流れに
そぐわなくて違和感があった。「それって今言う台詞じゃないだろ」と無意識的にツッコんでいた。
あとは、本作が〝ボノボとの会話から事件の糸口を掴む〟というある種神秘的な設定なのに、
そこにありがちでつまらない人間の汚職問題が関わってくるのが興ざめ。せっかくの世界観が
台無し。
ライトなミステリ好きにはおすすめです。もしバリバリのミステリフリークでも、人情モノや動物モノが
好きなら○。
ちなみに蛇足ですが、〝意思の疎通が難しい相手からどうにか事件の真相を聞き出す〟というような
話が好きな人には、〝まるいち的風景〟というマンガもおすすめ。泣けます。
追記:
本作を読むなら、BGMに是非これをどうぞ。
ていうかほんとこの曲は聴くたびに泣けるな。。。(TT)
いろんな作家さんが著作の中に登場させるのもわかるわ。
ホリー・コールの歌い方は正直あんま好きじゃないけど(--;
さあ好きなだけ鳴らせ、聞きたくもない音を聞いてやるから。
海峡を目の前にする街に続く旧家・桜井家の梅代は、出戻ってきた娘美佐子と、
幼稚園児の孫娘の三人で暮している。
古びた屋敷の裏にある在日朝鮮人の教会に、梅代とその母はある憎悪を抱え、
烈しく嫌ってきた――。
注目の新鋭が圧倒的な筆致で描く芥川賞候補作。
★収録作品★
不意の償い
蛹
切れた鎖
***
肩書きなんて対象を判断するための一つの指針でしかないし、
多分に出来レース的なところがあるとわかってはいても。
どうして彼の作品が芥川賞を受賞しないのか不思議。
収録作三作がどれも〝自分の生み出した妄執との葛藤〟を描いているという
モチーフの広がりのなさが原因??
まあそれは置いておくとして、
デビュー作〝冷たい水の羊〟のときから思ってはいたけど、この田中慎弥という作家の作品、
舞台が現代&割かし世俗的なテーマで書かれたものが多いのに、
文章を眼で追っていくうちになぜか神話を読んでいるような気分にさせられる。
どこか現実離れしているというか。
登場人物たちが生々しいほどに人間臭い割に同時にどこか人間離れした不思議な存在感をも
併せ持っているというか。
使う単語や、それを紡いで生み出す表現に非常な個性と抜群のセンスがあるというのも
その理由の一端でしょうが、著者は高校卒業後、定職にも就かずバイトもせずに
ただ自宅に籠もって淡々と読書と執筆の日々を繰り返してきたそうで、
そういった世間知のなさ、世間ずれしていない精神が、
神話を思い起こさせるような俗っぽいながらもどこか非現実的、かつ透明に美しい文章を
彼に書かせているのかもな、とも思ってみたりしてしまった。
ほんと、読むたびに「ああ美しいな」と思う、彼の物語は。
それは宝石とか美景とかに対するような外面的なものではなくて、
うまく言えないけど何かもっと根源的、心の深い深い部分で感じ取るようなそんな感覚で。
最近の純文作家さんの中では一番好きかもしれないな。
今後にかなり期待大だ。
海峡を目の前にする街に続く旧家・桜井家の梅代は、出戻ってきた娘美佐子と、
幼稚園児の孫娘の三人で暮している。
古びた屋敷の裏にある在日朝鮮人の教会に、梅代とその母はある憎悪を抱え、
烈しく嫌ってきた――。
注目の新鋭が圧倒的な筆致で描く芥川賞候補作。
★収録作品★
不意の償い
蛹
切れた鎖
***
肩書きなんて対象を判断するための一つの指針でしかないし、
多分に出来レース的なところがあるとわかってはいても。
どうして彼の作品が芥川賞を受賞しないのか不思議。
収録作三作がどれも〝自分の生み出した妄執との葛藤〟を描いているという
モチーフの広がりのなさが原因??
まあそれは置いておくとして、
デビュー作〝冷たい水の羊〟のときから思ってはいたけど、この田中慎弥という作家の作品、
舞台が現代&割かし世俗的なテーマで書かれたものが多いのに、
文章を眼で追っていくうちになぜか神話を読んでいるような気分にさせられる。
どこか現実離れしているというか。
登場人物たちが生々しいほどに人間臭い割に同時にどこか人間離れした不思議な存在感をも
併せ持っているというか。
使う単語や、それを紡いで生み出す表現に非常な個性と抜群のセンスがあるというのも
その理由の一端でしょうが、著者は高校卒業後、定職にも就かずバイトもせずに
ただ自宅に籠もって淡々と読書と執筆の日々を繰り返してきたそうで、
そういった世間知のなさ、世間ずれしていない精神が、
神話を思い起こさせるような俗っぽいながらもどこか非現実的、かつ透明に美しい文章を
彼に書かせているのかもな、とも思ってみたりしてしまった。
ほんと、読むたびに「ああ美しいな」と思う、彼の物語は。
それは宝石とか美景とかに対するような外面的なものではなくて、
うまく言えないけど何かもっと根源的、心の深い深い部分で感じ取るようなそんな感覚で。
最近の純文作家さんの中では一番好きかもしれないな。
今後にかなり期待大だ。
ぼくは世界の終わりを夢想する。
北の街に、名もなき者たちの慟哭が響く――
憎しみ、哀しみ、愚かさ、やるせなさ…先の見えない日々を送る名もなき人々。
それぞれの鬱屈は、やがて…。
北海道を舞台に、生きることの暗部を描き切る、馳ワールドの新しい幕開けを告げる短編集。
★収録作品★
ちりちりと……
みゃあ、みゃあ、みゃあ
世界の終わり
雪は降る
青柳町こそかなしけれ
***
北海道出身の著者だけあって(ちなみにどうでもいいですが、私も北海道札幌出身です)
暖かくなり始めた今の季節に読んでもぞっと冷気を感じるような過酷な北の冬の描写はさすが。
しかしそれぞれの短編からはどれもテーマらしきテーマが見えて来ず(〝人の世の無常〟
という点は共通してるのですが、こんなベテラン作家がそんな陳腐なものをテーマにするとは
思いたくない)、
どれもありがちといえばありがちな話で深みがなく、物語の終わり方も似通っている。
〝ちりちりと……〟は唯一心揺さぶられましたが、それ以外は物語の雰囲気に適当に酔いつつ
ほぼ感情に変動のないまま最後まで淡々と流し読み。正直惹き付けられるものがなかった
(〝世界の終わり〟は、あんな平凡な終わり方でさえなければ
かなり好きな作品になったんだけどな*
本書の表紙のイメージもたぶんこの話なんだろうし、表題作と銘打つにふさわしいクオリティにまで
物語を仕上げてほしかった。と、偉そうだけどほんとそう思う)。
老人介護も少年犯罪も近親相姦もDVも、同じテーマでもそれぞれもっと上をいく物語を
書ける作家ならいくらでもいるし、そういう人たちの作品を知ったあとで本作を読んでも
物足りなさを感じてしまう。
失礼な話ですが、個人的に一番感動したのは中身じゃなくタイトルと表紙の写真だった。
決して駄作じゃないんだけど。可もなく不可もなく、といったところでしょうか。
北の街に、名もなき者たちの慟哭が響く――
憎しみ、哀しみ、愚かさ、やるせなさ…先の見えない日々を送る名もなき人々。
それぞれの鬱屈は、やがて…。
北海道を舞台に、生きることの暗部を描き切る、馳ワールドの新しい幕開けを告げる短編集。
★収録作品★
ちりちりと……
みゃあ、みゃあ、みゃあ
世界の終わり
雪は降る
青柳町こそかなしけれ
***
北海道出身の著者だけあって(ちなみにどうでもいいですが、私も北海道札幌出身です)
暖かくなり始めた今の季節に読んでもぞっと冷気を感じるような過酷な北の冬の描写はさすが。
しかしそれぞれの短編からはどれもテーマらしきテーマが見えて来ず(〝人の世の無常〟
という点は共通してるのですが、こんなベテラン作家がそんな陳腐なものをテーマにするとは
思いたくない)、
どれもありがちといえばありがちな話で深みがなく、物語の終わり方も似通っている。
〝ちりちりと……〟は唯一心揺さぶられましたが、それ以外は物語の雰囲気に適当に酔いつつ
ほぼ感情に変動のないまま最後まで淡々と流し読み。正直惹き付けられるものがなかった
(〝世界の終わり〟は、あんな平凡な終わり方でさえなければ
かなり好きな作品になったんだけどな*
本書の表紙のイメージもたぶんこの話なんだろうし、表題作と銘打つにふさわしいクオリティにまで
物語を仕上げてほしかった。と、偉そうだけどほんとそう思う)。
老人介護も少年犯罪も近親相姦もDVも、同じテーマでもそれぞれもっと上をいく物語を
書ける作家ならいくらでもいるし、そういう人たちの作品を知ったあとで本作を読んでも
物足りなさを感じてしまう。
失礼な話ですが、個人的に一番感動したのは中身じゃなくタイトルと表紙の写真だった。
決して駄作じゃないんだけど。可もなく不可もなく、といったところでしょうか。
おまえに近づいてゆくために、力を。
1982年、8月17日、夜。暴風雨の首尾木村北西区で、ほとんどの村民が虐殺される
大量殺人の発生が警察に伝えられる。しかし悪天候と現場に通じる2脚の橋が流れたため
地区は孤立、警察の到着は翌日になってからだった。
かろうじて生き延びたのは中学3年の少年少女3人と彼らが通う分校の教諭ひとり。
被害者は、3人の家族ら14名で、そのうち11人が鎌で喉を掻き切られていた。
不明な点もあったが、犯人は、事件当日、逃走後に事故死した英会話教室の外国人講師と
断定された――。
そして9年後、ひとりのフリーライターが生き残った者たちへの取材を開始するや、
ふたたび猟奇的な殺人事件が起こる。凶器はまたもや鎌だった…。
***
性描写がすごいとのレビューが多かったので「純文学ならまだしも、ミステリでまでそういうのは
ちょっとなあ。。。」と微妙に構えていたのですが、純文の、既にエロというよりはグロの領域に
達している過激な描写に既に慣れてしまっていたらしく、それほどのインパクトは感じませんでした。
なのでよっぽど年齢が若い人以外は、その手の小説が苦手でもたぶん割かし平気で読めます。
文章も達筆なのにどこかラノベ的口語体で読みやすいし。
ただ、事件の真相がことごとく〝主人公たちが記憶喪失から醒める〝ことで明かされるという手法は
ちょっとあまりにあんまりな気が。それじゃ別に誰が何の努力をしなくても、
著者の明かしたいタイミングで記憶を取り戻させれば済むことになっちゃうし。
しかもこれだけの長編の割に、明かされる真相は短編推理小説並にシンプルで、どちらかといえば
陳腐なものだし(陳腐といえばラスト一行も、正直一度どこかで読んだことがあるような、
手垢のついた凡庸な文章でした)。
起きる出来事よりも人間心理に謎を解く鍵が隠されている物語なのに、その肝心の心理描写が
「普通そこでそういう心境になるか~?」「その感情の流れはおかしくないか~?」と
突っ込まずにはいられない不自然なものが多く(ヒロイン・繭子が特に)、
最後までどうにもすっきりしないまま読了。
終盤で、ダン・ブラウンやアダム・ファウアーあたりが書きそうな洋モノミステリ的シーンが
唐突に出てきたときには、それまでの古きよき日本的雰囲気をかもし出していた本作の和風世界が
コント並みに崩壊して思わず吹き出してしまったし。
多くの時間と精神力を費やしてまで読むほどの小説ではなかったというのが私の感想。
これでページ数が半分だったら普通におすすめなのですが。
600P分の収穫はないです。←うまいこと言ってみた
1982年、8月17日、夜。暴風雨の首尾木村北西区で、ほとんどの村民が虐殺される
大量殺人の発生が警察に伝えられる。しかし悪天候と現場に通じる2脚の橋が流れたため
地区は孤立、警察の到着は翌日になってからだった。
かろうじて生き延びたのは中学3年の少年少女3人と彼らが通う分校の教諭ひとり。
被害者は、3人の家族ら14名で、そのうち11人が鎌で喉を掻き切られていた。
不明な点もあったが、犯人は、事件当日、逃走後に事故死した英会話教室の外国人講師と
断定された――。
そして9年後、ひとりのフリーライターが生き残った者たちへの取材を開始するや、
ふたたび猟奇的な殺人事件が起こる。凶器はまたもや鎌だった…。
***
性描写がすごいとのレビューが多かったので「純文学ならまだしも、ミステリでまでそういうのは
ちょっとなあ。。。」と微妙に構えていたのですが、純文の、既にエロというよりはグロの領域に
達している過激な描写に既に慣れてしまっていたらしく、それほどのインパクトは感じませんでした。
なのでよっぽど年齢が若い人以外は、その手の小説が苦手でもたぶん割かし平気で読めます。
文章も達筆なのにどこかラノベ的口語体で読みやすいし。
ただ、事件の真相がことごとく〝主人公たちが記憶喪失から醒める〝ことで明かされるという手法は
ちょっとあまりにあんまりな気が。それじゃ別に誰が何の努力をしなくても、
著者の明かしたいタイミングで記憶を取り戻させれば済むことになっちゃうし。
しかもこれだけの長編の割に、明かされる真相は短編推理小説並にシンプルで、どちらかといえば
陳腐なものだし(陳腐といえばラスト一行も、正直一度どこかで読んだことがあるような、
手垢のついた凡庸な文章でした)。
起きる出来事よりも人間心理に謎を解く鍵が隠されている物語なのに、その肝心の心理描写が
「普通そこでそういう心境になるか~?」「その感情の流れはおかしくないか~?」と
突っ込まずにはいられない不自然なものが多く(ヒロイン・繭子が特に)、
最後までどうにもすっきりしないまま読了。
終盤で、ダン・ブラウンやアダム・ファウアーあたりが書きそうな洋モノミステリ的シーンが
唐突に出てきたときには、それまでの古きよき日本的雰囲気をかもし出していた本作の和風世界が
コント並みに崩壊して思わず吹き出してしまったし。
多くの時間と精神力を費やしてまで読むほどの小説ではなかったというのが私の感想。
これでページ数が半分だったら普通におすすめなのですが。
600P分の収穫はないです。←うまいこと言ってみた
〝森は青く深い……眠りに就くにはまだ遠い〟
前作『独白するユニバーサル横メルカトル』(光文社)で推理作家協会賞を受賞、さらに
「このミステリーがすごい!2007年版」で第1位となるなど、
小説界の話題を席巻した異才の第二短編集。
テレクラで売春する女たちを殺して皮を剥ぐ快楽殺人者たちを主人公にした表題作をはじめ、
吸血鬼、食人鬼、人狼がこの最低な世界に跋扈する!
想像力と表現の限界に挑み続けた戦いの成果、7編を収録。
★収録作品★
テロルの創世
Necksucker Blues
けだもの
枷
それでもおまえは俺のハニー
或る彼岸の接近
ミサイルマン
***
グログロなのにどこか洒落ている、そんな不思議な世界観を描ける個性派の作家さんです。
脳みそのどの部分使ったらそんな発想が湧くの? と、〝枷〟を読んだときなどには
心底著者に訊いてみたくなったほど。
〝テロルの創世〟で描かれている、ミステリ作家が割りと話に取り入れがちな〝クローン〟ネタも、
平山氏の場合はひねりが効いていてオチにもおっと意表をつかれる。
全体にどこかゲーム的なにおいが漂っているものの決して子供向けというわけじゃなく、
何かの深遠に触れるような、静かで寂しい心地よさの中に読み手の心を誘ってくれる。
ただ一つ惜しむらくは、著者自身無意識なのか自覚的なのかはわからないけど、
あまりに奇を衒い過ぎて上滑りしている作品もあったりすること。
せっかくもともと持っている独創的な感性を不必要にごてごてと飾り立ててしまっているようで、
「素のままで十分なのに。。。」と、厚化粧をしている美人を見てしまったときのような気分になる。
前作〝独白するユニバーサル横メルカトル〟では〝すさまじき熱帯〟に、
本作では表題作〝ミサイルマン〟に、そんな印象を持ってしまった。
もっとシンプルでいいのにな、と(ただ、〝ミサイルマン〟のラストシーンだけは、あまりに凡庸に
過ぎて「そここそをもっと奇抜な展開にしてよ」と突っ込みましたが)。
本作を読む人は、BGMに是非これをどうぞ。
前作『独白するユニバーサル横メルカトル』(光文社)で推理作家協会賞を受賞、さらに
「このミステリーがすごい!2007年版」で第1位となるなど、
小説界の話題を席巻した異才の第二短編集。
テレクラで売春する女たちを殺して皮を剥ぐ快楽殺人者たちを主人公にした表題作をはじめ、
吸血鬼、食人鬼、人狼がこの最低な世界に跋扈する!
想像力と表現の限界に挑み続けた戦いの成果、7編を収録。
★収録作品★
テロルの創世
Necksucker Blues
けだもの
枷
それでもおまえは俺のハニー
或る彼岸の接近
ミサイルマン
***
グログロなのにどこか洒落ている、そんな不思議な世界観を描ける個性派の作家さんです。
脳みそのどの部分使ったらそんな発想が湧くの? と、〝枷〟を読んだときなどには
心底著者に訊いてみたくなったほど。
〝テロルの創世〟で描かれている、ミステリ作家が割りと話に取り入れがちな〝クローン〟ネタも、
平山氏の場合はひねりが効いていてオチにもおっと意表をつかれる。
全体にどこかゲーム的なにおいが漂っているものの決して子供向けというわけじゃなく、
何かの深遠に触れるような、静かで寂しい心地よさの中に読み手の心を誘ってくれる。
ただ一つ惜しむらくは、著者自身無意識なのか自覚的なのかはわからないけど、
あまりに奇を衒い過ぎて上滑りしている作品もあったりすること。
せっかくもともと持っている独創的な感性を不必要にごてごてと飾り立ててしまっているようで、
「素のままで十分なのに。。。」と、厚化粧をしている美人を見てしまったときのような気分になる。
前作〝独白するユニバーサル横メルカトル〟では〝すさまじき熱帯〟に、
本作では表題作〝ミサイルマン〟に、そんな印象を持ってしまった。
もっとシンプルでいいのにな、と(ただ、〝ミサイルマン〟のラストシーンだけは、あまりに凡庸に
過ぎて「そここそをもっと奇抜な展開にしてよ」と突っ込みましたが)。
本作を読む人は、BGMに是非これをどうぞ。
「私が私を殺そうとした。誰かを利用して。――誰でしょう?」
私は君に殺されることにしたよ
しかも殺人犯にはしない──。
死を告知された男が選んだ自らの最期。
周到な計画は、一人の女性の出現によって齟齬(そご)をきたしはじめた
膵臓ガンで余命6ヶ月──
〈生きているうちにしか出来ないことは何か〉
死を告知されたソル電機の創業社長日向貞則(ひなたさだのり)は
社員の梶間晴征に、自分を殺させる最期を選んだ。彼には自分を殺す動機がある。
殺人を遂行させた後、殺人犯とさせない形で──。
幹部候補を対象にした、保養所での“お見合い研修”に梶間以下、4人の若手社員を招集。
日向の思惑通り、舞台と仕掛けは調った。あとは、梶間が動いてくれるのを待つだけだった。
だが、ゲストとして招いた一人の女性の出現が、「計画」に微妙な齟齬をきたしはじめた……。
***
相変わらずこの作者、着眼点はいいんですよね着眼点は。。。
だから毎回いかに期待を裏切られようとも新刊を手にとってしまうのですが、
今回もやはり裏切られた感が拭えない。。。
前作〝扉は閉ざされたまま〟が、突っ込みポイントは非常に多いものの
なんだかんだで結構面白かったので、その続編である本作はどんな感じだろうと
割かし期待して読んだのですが。。。
個性も面白みもない登場人物たち(前作の表紙と見比べてみればわかりますが、
絵を見ても誰が誰なのかさっぱりわからない。絵柄も微妙にダサめになってるし←というか
前作がかっこよすぎた)、
よそ様のホームビデオを延々見せられているような意味のない場面や会話の連続、
全体的にあまりに間延びしたストーリー展開に、あくびを噛み殺してしまうことしばしば。
唯一よかったところは、前作の主人公二人のその後を間接的ながらも窺い知ることができて
「ふーん、彼らは今はそうなのか」と思わずにやりとさせられることぐらい。
スリルあるリドルストーリーが読みたいのであれば、本作よりも
法月綸太郎氏の短編〝使用中〟(『大密室』『殺人買います』に収録)のほうがよっぽどおすすめ。
著者の石持氏は発想とタイトルセンスがせっかくピカ一なんだから
内容をもっと突き詰めてくれたら完璧なんだけどなあ、とおこがましくも思わずにはいられません。
もったいない。
私は君に殺されることにしたよ
しかも殺人犯にはしない──。
死を告知された男が選んだ自らの最期。
周到な計画は、一人の女性の出現によって齟齬(そご)をきたしはじめた
膵臓ガンで余命6ヶ月──
〈生きているうちにしか出来ないことは何か〉
死を告知されたソル電機の創業社長日向貞則(ひなたさだのり)は
社員の梶間晴征に、自分を殺させる最期を選んだ。彼には自分を殺す動機がある。
殺人を遂行させた後、殺人犯とさせない形で──。
幹部候補を対象にした、保養所での“お見合い研修”に梶間以下、4人の若手社員を招集。
日向の思惑通り、舞台と仕掛けは調った。あとは、梶間が動いてくれるのを待つだけだった。
だが、ゲストとして招いた一人の女性の出現が、「計画」に微妙な齟齬をきたしはじめた……。
***
相変わらずこの作者、着眼点はいいんですよね着眼点は。。。
だから毎回いかに期待を裏切られようとも新刊を手にとってしまうのですが、
今回もやはり裏切られた感が拭えない。。。
前作〝扉は閉ざされたまま〟が、突っ込みポイントは非常に多いものの
なんだかんだで結構面白かったので、その続編である本作はどんな感じだろうと
割かし期待して読んだのですが。。。
個性も面白みもない登場人物たち(前作の表紙と見比べてみればわかりますが、
絵を見ても誰が誰なのかさっぱりわからない。絵柄も微妙にダサめになってるし←というか
前作がかっこよすぎた)、
よそ様のホームビデオを延々見せられているような意味のない場面や会話の連続、
全体的にあまりに間延びしたストーリー展開に、あくびを噛み殺してしまうことしばしば。
唯一よかったところは、前作の主人公二人のその後を間接的ながらも窺い知ることができて
「ふーん、彼らは今はそうなのか」と思わずにやりとさせられることぐらい。
スリルあるリドルストーリーが読みたいのであれば、本作よりも
法月綸太郎氏の短編〝使用中〟(『大密室』『殺人買います』に収録)のほうがよっぽどおすすめ。
著者の石持氏は発想とタイトルセンスがせっかくピカ一なんだから
内容をもっと突き詰めてくれたら完璧なんだけどなあ、とおこがましくも思わずにはいられません。
もったいない。
あたしはここにいる。
島の夏を、美しい、とふいにあたしは思う。
――強くなりたいな。
強くて優しい大人になりたい。力がほしい。でも、どうしたらいいのかな。
これは、ふたりの少女の壮絶な《闘い》の記録。
***
中高生向けの物語ですかねー。。。
内容的にも、ミステリの仕掛けのレベル的にも。
〝私の男〟で直木賞を受賞した桜庭さん、前回は〝赤朽葉家の伝説〟でやはり直木賞候補に
挙がってましたが、あの作品も、描写力やストーリーテリング力にはこれ以上ないほど圧倒された
ものの、肝心のミステリ部分があまりに単純過ぎて拍子抜け。〝真相(トリック部分)〟を脳内で
映像として再現すれば確かに幻想的で魅惑されますが、ミステリ小説として読むぶんにはどうなの?
といった感じで、本作もそういったところはまったく同じ。
主人公が中学生であるぶん、赤朽葉家に比べストーリー部分も読み応えという点では
レベルが落ちてしまっている。
中盤で引用される〝スパルタの狐〟の逸話が見事に本筋に絡む悲しいラストは、
印象的で胸に楔を打ち込まれたように未だ心に残ってはいるのですが、ほかにはとりたてて
いいなあと思える部分はなかった。
全体的には貴志祐介氏〝青の炎〟の劣化コピーといった感じでとりたてて新鮮味もなかったし。
本作を読んでから〝赤朽葉家~〟を読むのが、順番としては正解かも。
というか本作を読むなら、上記の〝青の炎〟を読んだほうがいいかも。
島の夏を、美しい、とふいにあたしは思う。
――強くなりたいな。
強くて優しい大人になりたい。力がほしい。でも、どうしたらいいのかな。
これは、ふたりの少女の壮絶な《闘い》の記録。
***
中高生向けの物語ですかねー。。。
内容的にも、ミステリの仕掛けのレベル的にも。
〝私の男〟で直木賞を受賞した桜庭さん、前回は〝赤朽葉家の伝説〟でやはり直木賞候補に
挙がってましたが、あの作品も、描写力やストーリーテリング力にはこれ以上ないほど圧倒された
ものの、肝心のミステリ部分があまりに単純過ぎて拍子抜け。〝真相(トリック部分)〟を脳内で
映像として再現すれば確かに幻想的で魅惑されますが、ミステリ小説として読むぶんにはどうなの?
といった感じで、本作もそういったところはまったく同じ。
主人公が中学生であるぶん、赤朽葉家に比べストーリー部分も読み応えという点では
レベルが落ちてしまっている。
中盤で引用される〝スパルタの狐〟の逸話が見事に本筋に絡む悲しいラストは、
印象的で胸に楔を打ち込まれたように未だ心に残ってはいるのですが、ほかにはとりたてて
いいなあと思える部分はなかった。
全体的には貴志祐介氏〝青の炎〟の劣化コピーといった感じでとりたてて新鮮味もなかったし。
本作を読んでから〝赤朽葉家~〟を読むのが、順番としては正解かも。
というか本作を読むなら、上記の〝青の炎〟を読んだほうがいいかも。
それ以外になにがある?
28のいま、輝いて見えるものなんか、なにひとつない――。
金もなければ希望もない、その日暮らしの28歳の俺と喜彦。
金をくすねてはソープランドに直行する日々。
思いがけず、大金が転がり込む話を嗅ぎ付けるが…。
金と暴力の腐った世界を疾走する若者たちの今。
★収録作品★
第二の人生
最高の一発
みな殺しの夜
天国いきのスローボート
死を口ずさむ
船橋スカイライン
***
〝このミステリーがすごい! 大賞〟という、ミステリ&エンタメバリバリの賞で
デビューした人にしては、なんというかもうとにかく文章がうまい。
端整だとか流麗だとかいう意味じゃなく、読み手をしてすぐ
「あ、東山彰良だ」と気づかせるような文体やスタイルを見事確立しているというか。
直木賞よりは芥川賞を獲ってほしい、そう思わせる不思議なミステリ作家さんです。
ヤクだのソープだの密売だの、作品のモチーフはかなりバイオレンスかつアウトローなもの
ばかりなのですが、そのさらに向こうに眼を凝らせば見えてくるきらりと輝く奥深いテーマ。
「こんなクサいこと、堂々と語れるかよ」とばかりに著者が敢えて表立っては描こうとしないそれが、
ちらちらと垣間見えるのが気になって仕方がなく、
そしてはっきりと視界に捉えることができたときの感動が心地よくて仕方がなく、
暴力や裏世界ネタがあまり好きじゃない私でも、あっという間に読み終えてしまっていました。
得た訓示(なんて固い言い方をすると主人公二人にしばかれそうですが)も多かったな。
たとえるなら私にとってこの物語は〝黒い聖書〟だった。
個人的に一番好き(という陳腐な単語で表現するのもなんですが)なのは
〝天国いきのスローボート〟。
ラストシーンがめちゃめちゃ格好いいのは最終話〝船橋スカイライン〟。
二十代後半の人と千葉県民(特に船橋在住のひと笑)には是非読んでほしい作品です。
おすすめ。
注:最初の一話以外はミステリじゃないので、ミステリ好きの人は注意。
28のいま、輝いて見えるものなんか、なにひとつない――。
金もなければ希望もない、その日暮らしの28歳の俺と喜彦。
金をくすねてはソープランドに直行する日々。
思いがけず、大金が転がり込む話を嗅ぎ付けるが…。
金と暴力の腐った世界を疾走する若者たちの今。
★収録作品★
第二の人生
最高の一発
みな殺しの夜
天国いきのスローボート
死を口ずさむ
船橋スカイライン
***
〝このミステリーがすごい! 大賞〟という、ミステリ&エンタメバリバリの賞で
デビューした人にしては、なんというかもうとにかく文章がうまい。
端整だとか流麗だとかいう意味じゃなく、読み手をしてすぐ
「あ、東山彰良だ」と気づかせるような文体やスタイルを見事確立しているというか。
直木賞よりは芥川賞を獲ってほしい、そう思わせる不思議なミステリ作家さんです。
ヤクだのソープだの密売だの、作品のモチーフはかなりバイオレンスかつアウトローなもの
ばかりなのですが、そのさらに向こうに眼を凝らせば見えてくるきらりと輝く奥深いテーマ。
「こんなクサいこと、堂々と語れるかよ」とばかりに著者が敢えて表立っては描こうとしないそれが、
ちらちらと垣間見えるのが気になって仕方がなく、
そしてはっきりと視界に捉えることができたときの感動が心地よくて仕方がなく、
暴力や裏世界ネタがあまり好きじゃない私でも、あっという間に読み終えてしまっていました。
得た訓示(なんて固い言い方をすると主人公二人にしばかれそうですが)も多かったな。
たとえるなら私にとってこの物語は〝黒い聖書〟だった。
個人的に一番好き(という陳腐な単語で表現するのもなんですが)なのは
〝天国いきのスローボート〟。
ラストシーンがめちゃめちゃ格好いいのは最終話〝船橋スカイライン〟。
二十代後半の人と千葉県民(特に船橋在住のひと笑)には是非読んでほしい作品です。
おすすめ。
注:最初の一話以外はミステリじゃないので、ミステリ好きの人は注意。
「なあ、俺たちは答えを捜さなければならない」
幼い息子を海で亡くした監察医の安藤は、謎の死を遂げた友人・高山の解剖を担当し、
冠動脈から正体不明の肉腫を発見した。
遺体からはみ出した新聞に書かれた数字は「リング」という言葉を暗示していた。
***
〝リング〟続編。
前作と比べぐっとB級味(「いくらなんでもそりゃありえねーだろ(T▽T)ブハハ」)が増していますが、
その点と方向性がホラーから科学へとがらっと変わってしまったことに不満さえ抱かなければ
十分に楽しめる内容になっています。
ただ、文系作家さんの書く科学小説っていうのはどこか資料丸写し感があって、
本作も前作に引き続きその印象が拭えないところはありましたが(なので私は大抵読後
著者が文系大学卒か理系大学卒か当てることができる)。
それでいくとやっぱり瀬名秀明氏はすごいよなー(ただ彼の場合は、あまりに
サイエンス色が強すぎてもはや〝小説〟じゃないという嫌いはあるのですが。。。)。
まあ前作のサブ主人公・高山のこととか、何かと腑に落ちない点はありますが、
そこには敢えて眼をつぶってただ純粋に楽しんで読むことをお勧めします。
理系の人は知識があるぶん突っ込みどころが多すぎてそうはいかないだろうけど^^;
その意味では文系の人向けなのかな。
余談ですが本作が気に入った人にはこの小説もおすすめです。
一部パクリかと思えるほど内容がかぶっているので(これもある意味ネタバレか???)。
幼い息子を海で亡くした監察医の安藤は、謎の死を遂げた友人・高山の解剖を担当し、
冠動脈から正体不明の肉腫を発見した。
遺体からはみ出した新聞に書かれた数字は「リング」という言葉を暗示していた。
***
〝リング〟続編。
前作と比べぐっとB級味(「いくらなんでもそりゃありえねーだろ(T▽T)ブハハ」)が増していますが、
その点と方向性がホラーから科学へとがらっと変わってしまったことに不満さえ抱かなければ
十分に楽しめる内容になっています。
ただ、文系作家さんの書く科学小説っていうのはどこか資料丸写し感があって、
本作も前作に引き続きその印象が拭えないところはありましたが(なので私は大抵読後
著者が文系大学卒か理系大学卒か当てることができる)。
それでいくとやっぱり瀬名秀明氏はすごいよなー(ただ彼の場合は、あまりに
サイエンス色が強すぎてもはや〝小説〟じゃないという嫌いはあるのですが。。。)。
まあ前作のサブ主人公・高山のこととか、何かと腑に落ちない点はありますが、
そこには敢えて眼をつぶってただ純粋に楽しんで読むことをお勧めします。
理系の人は知識があるぶん突っ込みどころが多すぎてそうはいかないだろうけど^^;
その意味では文系の人向けなのかな。
余談ですが本作が気に入った人にはこの小説もおすすめです。
一部パクリかと思えるほど内容がかぶっているので(これもある意味ネタバレか???)。
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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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