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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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昔も今も。



人や物の「記憶」を読み取れるという不思議な力をもった姉の鈴音と、お転婆で姉想いの妹ワッコ。
固い絆で結ばれた二人の前に現れた謎の女は、鈴音と同じ力を悪用して
他人の過去を暴き立てていた。女の名は御堂吹雪――その冷たい怒りと憎しみに満ちたまなざしが
鈴音に向けられて…。
今は遠い昭和30年代を舞台に、人の優しさと生きる哀しみをノスタルジックに描く、
昭和事件簿「わくらば」シリーズ第2弾。

★収録作品★

 澱みに光るもの 
 黄昏の少年 
 冬は冬の花 
 夕凪に祈った日 
 昔、ずっと昔

***



の続編。
以前、「この作家は見限る発言」をしたにも関わらず、朱川作品がまだかろうじて
それなりのクオリティを保っていた時期の作品の第二弾ということで思わず手にとってしまった。

最新作だけあって、初期の朱川作品と比べて劣化した点が顕著にわかった。
まず、文章がくどい。丁寧に書かれてはいるけれど、表現の重複、冗長な筆致、
これが鬱陶しくて仕方なかった。あれだけあった表現力も並になってしまっているし。

そして物語自体に惹かれるものがない。
思わせぶりなことを書いておきながら、「え? これで終わり?」というオチばかり。
かたみ歌〟の登場人物がひょっこりとカメオ出演してくれたのは嬉しかったけど、
読んでよかったことといえばそれだけ。
〝夕凪に祈った日〟は手塚治虫氏の〝ブラック・ジャック〟に収録されていた話と、そして
〝昔、ずっと昔〟は本多孝好氏の〝MISSING〟収録の〝眠りの海〟の焼き直しのようで
朱川氏の持ち味である独創性皆無。

しかも、わくらばシリーズはこれで終わりかと思いきやまだ続くみたいだし。
冒頭であれほど「これからすごいことになりますよ」的雰囲気をかもし出していたのに
少しの盛り上がりもないまま終わるし。
終わる終わる詐欺だよこれじゃ。

どうして懲りずに読んでしまうんだろ。。。
まあたぶんわくらばシリーズは全三部作だろうと踏んでいるので、次回に期待。
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もうすぐ世界が変わる。



宿した命を喪った夫婦。思春期の闇にとらわれた少年。愛猫の最期を見守る老人。
それぞれのままならぬ人生の途に「奇跡」は訪れた。
濃密な文体で、人間の心の襞に分け入ってゆく傑作長編。一匹の猫の存在が物語を貫く。

***

今や超売れっ子になってしまったミステリ作家・道尾秀介氏が〝背の眼〟で
第5回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞したときに大賞を獲得したのが彼女、
沼田まほかるさん。
受賞作〝九月が永遠に続けば〟は人に薦めまくったほどのお気に入りなのですが。。。

どうもこの人の書く女性は性格悪いのが多い。
現実でも小説でも性格悪い人間のほうが一緒にいて面白いし魅力を感じることも
多い私ですが、この著者の場合キャラはただ単に性格が悪いだけで
魅力がない。そこまで性格を悪くする必要性も感じられない。ただひたすら不快なだけ。
一歩間違えば著者の人格がこうなんじゃないかと疑ってしまうほど。
(ちなみに〝九月が~〟もヒロインの性格は最悪なのですが、ストーリーと
周囲の人物に魅力があったので傑作と思えた。続く〝彼女がその名を知らない鳥たち〟も
出てくる男性陣が個性的だからどうにか読むことができた。こっちはオチも衝撃的だったし)

文章は非常にうまく純文学の賞さえ狙えるほどであるにも関わらず、
肝心なところで垢抜けない描写や表現が出てきたりして興醒めすることも少なからず。
第一部の、ヒロインとおっさんが互いにミャーオミャーオ言い合うシーンは
シリアスな場面にも関わらず思わず吹き出してしまったし、
マヌケに感じる擬音のカタカナ表記も相変わらず。
第二部の主人公である少年が、日々の中に絶望を見出すシーンも、
少年の挙動を見ていれば何も言わなくても彼の感じているそれが〝絶望〟であると
読み手には十分に伝わるのに、ラストで父親に「それは絶望だ」と
わざわざ言わせていることも不満(純文学ならまず言わせない。というか純文じゃなくても
言わせないほうが絶対よかった)。

筆致や物語のベクトルが中途半端で、実力はあるのにそういうセンスの面で
損をしている作家さんだよなあと偉そうにも思ってしまう。

第三部の老人と老猫の話はやけにリアルで、三つの話の中では一番よかった。
(まあでもたぶん、著者自身の経験に基づいたものだとは思いますが。
自分が飼っていない限り、猫との暮らしやそれを看取るまではここまで細かく
描写できないだろうし、と老犬を飼っている自分的に思う)
年老いた人間が若い人のエネルギーに精神的にすがろうとする描写も、
自分は老人でないにも関わらずやたら共感できて泣けた。

まあまあの佳作かな、というのが個人的感想です。
うるせー。自分がかわいくて何が悪いんだ。



生徒の自殺未遂を機に、放課後の職員室は修羅場と化す。
いじめのせい? 教師のせい? 責任転嫁と疑心暗鬼のスパイラルを辿ると、そこには、
世にも性悪な女がいた――。
「トラウマ語り」の欺瞞を鋭くえぐるシリアスコメディ。
2006年度No.1戯曲を決める“演劇界の直木賞”こと第十回鶴屋南北戯曲賞、受賞。

***

戯曲です。小説じゃないので注意。
脚本家をやっている友人に原稿など見せてもらっているうちに興味が湧き、
本谷さんは好きな作家でもあるので手に取った一冊。

文章で抑揚がないぶん、本来なら面白いであろうはずのシーンが白けて感じられてしまったりと
(普段大量に小説を読みまくっているぶんなおさら)ちょっと読み方に工夫がいりましたが、
もし今自分が学生だったら著者の許可を得て有志で演じてみたいなーと思ったり。
本谷さんは本当に〝憎たらしくて歪みまくってて自己中で滑稽な女〟を書くのがうまいので
(しかもそんな女なのに読み進めるうちに何だか憎めなくなってくるからすごい)
本作も〝腑抜けども、悲しみの愛を見せろ〟同様、楽しく読むことができた。

本作のヒロインの持つ感情は、たぶんこの世に生きるほとんどの人が
経験したことのある感情で、でもほかのどの感情よりも自分の中で受け入れ難いもので、
だからこそ本作には誰もが共感し、同時に反発も覚えると思う。
深層心理ガツンガツン揺さぶられます。
こんなにポピュラーな感情なのに、面と向かってそれを描いたのは私の知る限り本作の著者だけ。
だからこその受賞なのではと思う。

「あなたのそれ、病気じゃなくて生まれつきです」
自分の欠点をこう言われたら誰だってめちゃくちゃ怖いよな。逃げ場ないもん。

〝遭難〟の句点は、ヒロインの人生・人間性が〝このまま一片の変わりもなく続く〟ことを
表しているのか、それとも〝しかし・けれど〟といった反意語で別の展開へと拓けていくのか。
私には後者にしか思えませんが、もしも彼女の人生に〝〟がつくとき、それは
どういう〝終わり〟なのか、見届けてみたい気もします。

いやしかし人間て醜いよね笑
ごちゃごちゃのがちゃがちゃ。
何でもありで誰でもカモン。
ただし、何が出るかはあんた次第。




街頭ティッシュ配り、カラオケボックスの店員、見習い美容師、屋台のサンドイッチ屋に
お笑い芸人の卵…横浜駅西口繁華街・ビブレ前広場には、さまざまな人が行き交い、出会う。
ささいなトラブルは起きても、刺激的で熱気に溢れた空間として愛されている。
近頃、“住人”たちが夢中なのは「パニッシャー」と呼ばれるプチ・テロリストの噂。さらに、
広場での日常の根本を揺るがす大問題が勃発した…。
自分たちの居場所を守るため、若者たちが立ち上がる。
とびきりクールでちょっぴりトホホな若者たちが突っ走る…いまが“旬”の青春群像ミステリー。

★収録作品★

 女王様、どうよ?
 OTL 
 ブリンカー
 一名様、二時間六百円 
 走れ空気椅子 
 ヨコハマフィスト

***

ほかのものを貶めて代わりに自分のご贔屓を持ち上げる、そんな
天秤方式な褒め方はしたくないんですが、
最近続々映画化されている伊坂幸太郎氏の作品よりも
本作が映画化されたほうがよっぽどいいものに仕上がると思う。
だから売れっ子作家の作品だけを片っ端から映画化するんじゃなく、
ちゃんと中身を読んでみてから決めてくださいよ映画関係者さん←語りかけてみる。

と言いたくなるほど、本作はかなりクオリティが高い。
加藤実秋氏の著作はすべて読んでいるけど、これがおそらく今までの中で一番の最高傑作。
ライトな文体とキャラの軽いノリに隠れて一見気づきにくいけれど、
この著者は相当の実力の持ち主だと思う。
構成力、表現力、人物造形にストーリーテリング力、すべてがずば抜けている。
ミステリというジャンルで括るにはちょっと推理要素が弱いものの、
それ以外の部分で非常に魅せてくれるのでかなり楽しく読める。ささいな真相にも胸をうたれる。
すっきりしたり
じんわりしたり
ほのぼのしたり
爆笑したり、
本作にはこの世のプラスの感情がたくさん散りばめられている。
そして最終話の、思わず叫びだしたくなる爽快感。あの臨場感。
読んでいて「気持ちいい」と思える小説に出会えたのは久しぶりかも。

あー横浜ビブレの近くに住んでる人が羨ましい。
この著者はほんと、ひとつの街を自分の筆で輝かせるのがうまい人だよな。
今度うちの街を舞台に書いてください。

超おすすめの一冊です。



vivre.jpg








横浜・ビブレ前広場。イキタイヨ~
不可視のものを視るための倒立。



戦時中のミッションスクール。図書館の本の中にまぎれて、ひっそり置かれた美しいノート。
蔓薔薇模様の囲みの中には、タイトルだけが記されている。『倒立する塔の殺人』。
少女たちの間では、小説の回し書きが流行していた。ノートに出会った者は続きを書き継ぐ。
手から手へと、物語はめぐり、想いもめぐる。やがてひとりの少女の不思議な死をきっかけに、
物語は驚くべき結末を迎える…。
物語が物語を生み、秘められた思惑が絡み合う。万華鏡のように美しい幻想的な物語。

***

とにかく文章が美しい。
ひとつひとつの言葉に無駄がなく、句読点ひとつひとつにまで意味がある。
登場人物たちの心理描写も、あまりに人間というものの核心を突いているので
読んでいて痛いほど。
これが〝熟成された文章〟というものなんだろう。長く文章を書き連ねてきた作家の
神髄を目の当たりにした気がした(著者の皆川さんは今年で79歳)。

ミステリとしては正直、弱い。
せっかく〝倒立〟をテーマにした物語なのだから、登場人物の死も
それに関係する死に方のほうがよりインパクトは強かったと思う。
けれどそれでも、ジャンルに関わらずひとつの〝物語〟として素晴らしい本作を、
読んで本当によかったと思った。

おすすめです。
特に女性には。

また、本作を気に入った人には桜庭一樹さんの〝赤朽葉家の伝説〟も
おすすめかも。どこが、とは言えないけどどことなく似ているので。

kale.jpg











カレイドフォン。〝万華響〟。
フー・イズ・イット。それは誰?



類人猿の言語能力を研究し、チンパンジーと人間を同列に扱うことを主張する学者・井手元。
大学を辞め、チンパンジーと隠遁生活を送っていた彼が失踪。
残されたチンパンジーが示唆したのは、残酷な結末だった――。
ヒトとサルの境界はどこか、聖域を越えた研究の果てに真理はあるのか。
哀切かつ危険なラストまで二転三転、人類のアイデンティティをゆるがし、
新世紀へ跳躍する問題作。

***

二転三転する展開。。。といえば〝息をもつかせぬ面白さ〟といった感がありますが、
本作はたとえるなら
〝人に道を訊いて言われたとおりに行ってみたら間違ってて
そこにいた別の人に訊いたら行った先がまた間違いで。。。〟
の繰り返し、という意味での二転三転なので読んでいてストレスが溜まることしきり。
要するに
真相解明→実はそれは真相じゃなかった
新たなる真相→それもやっぱり真相じゃなかった
の連発でかなりイライラさせられるのです。
(もちろんそういうつくりのミステリでも十分に面白いものはありますが、
本作はその見せ方が下手で、突き当たりの多い長い迷路を延々歩かされている気がした)

動物行動学や大脳生理学、遺伝子工学のうんちくは興味深く読めましたが、
物語としては起承転結に乏しく、〝事件の謎はチンパンジーだけが握っている〟という
せっかく面白いテーマを扱っているにも関わらず当のチンパンジーがあまり活躍せず、
ラストも「ああそう」といった感じ。

チンパンジーと人間のあいの子の名称が〝チンパースン〟という脱力するような名前なのも
物語から緊迫感を奪っていた気がしないでもない。
まだ〝ヒューマンジー〟のほうが格好いいだろ。

殺人の真相なんて二時間ドラマ並みだし。

あまりおすすめしません。
同じテーマのミステリならまだ荻原浩氏の〝さよならバースディ〟のほうが読めます。

oliver.jpg











「『謎が解けてからどうするか』だ」



7月某日、午後3時ちょい過ぎ。おれが外の自由な世界から締め出された瞬間だった。
第1留置室の新入りとなった和井は、そこで4人の先客と出会い…。
第1留置室で繰り広げられる、おかしな謎解き合戦5編を収録したミステリ。

★収録作品★

 古書蒐集狂は罠の中
 コスプレ少女は窓の外
 我慢大会は継続中
 アダムのママは雲の上
 殺人予告日は二日前

***

使う単語や文章表現は面白いものの、肝心の内容が微妙。

真相に無理があったり、辻褄は合っていても地味でいまいちインパクトに欠けたり。
登場人物たちも、一見キャラが立っているようでその実そうでもないし(というか単に
魅力に欠けるだけ?)。探偵役のマサカも、本物のハンプティ・ダンプティに比べて存在感皆無。

最後の話もひねりすぎて、真相解明時も、驚きを感じるより前に疲れてしまった。
しかもラストでのマサカとワイ(ワトソンみたいなもの)の性格が普通にイタくて
「おまえら一生塀の中いろよ」と思ってしまった。

蒼井上鷹氏の著作はタイトルが秀逸なのでついつい手を伸ばしてしまうのですが、
読後たいてい軽く騙された気分になる(当たりの本もあるにはあるんだけど。。。)。

蒼井氏、人間の情けなさを描写するのは抜群にうまいんだから
今後はもうちょっと情けなさ以外の、いい意味で感情豊かな人間も書いてくれないだろうか。
デビュー作以降、この人の書く人間は好きになれない人が多すぎる。

hd.jpg










Humpty Dumpty sat on a wall.
Humpty Dumpty had a great fall.
All the king's horses and all the king's men
couldn't put Humpty together again.

ハンプティ・ダンプティが 塀の上
ハンプティ・ダンプティが おっこちた
王様の馬みんなと 王様の家来みんなでも
ハンプティを元に 戻せなかった

戻ってくると約束して。



ドクターヘリの機長・槇村は、墜落した取材ヘリを救出。怪我人は、
自衛隊時代にかつて愛した部下・一恵だった。その夜、一恵は入院先から姿を消した――。
課せられた「使命」と「魂の絆」の狭間で、男たちが咆哮する!
第54回江戸川乱歩賞受賞作。

***

中盤までは面白かったからだまされた。。。
最初から地雷臭が漂っていれば即座に読むのをやめたものを。。。

というか何で最近の乱歩賞受賞作は、こんなに固い、教科書くさいものばかりなんだろう。
著者の伝えたいメッセージがそのままむき出しになっていて物語に溶け込んでいない。
というか物語にすらなっていない。本作を含めてそんなものばかり。
まったく先を読みたいという気にならず、何度もうつらうつらしかけた。

しかも犯人一味がある〝秘密〟を隠す方法、これがあまりに納得いかない。
もし自分なら「え? この森? 別に何もないっすけどあははー、あっ、ところでここ
熊とか出るからあんま来ないほうがいいっすよー」で済ませる。その後見つかりそうになったら
そこで改めて牽制にかかる。なのに最初から〝秘密〟を相手にさらけ出し、挙げ句
銃撃で更なる墓穴。。。どんだけー、と、この言葉嫌いにも関わらず使いたくなってしまった。
ラストでは主人公がハッピーエンドを迎えるにあたって邪魔な人間が都合よく死んでいくしな。。。
そういう、著者の意図が透けてみえる点も興ざめ。
序盤から出てきた人が殺されたりしても、殺す側がどうでもいいエキストラみたいなキャラ
だったりするから何の感情も湧かないし。
そしてこれは最後の選評で東野圭吾氏も言ってたけど、すべてのキャラの行動原理が不明。
何がどうなったらそういう行動に出るの? と訊きたくなる人物ばかりで
普通の感覚の持ち主には(要するにほとんどの読者には)共感しにくいことしきり。
あと、別の選考委員が褒めてた〝構成力〟だけど、私はこの著者は構成力ないと思う。
真相を明かすタイミングがマヌケなほどズレてるし、「このキャラには重い過去がありますよー」
みたいな描写が、仄めかし程度でいいのに最初からガンガン主張して書かれているし。
9年近くも小説を書いている人にしては稚拙だな、と偉そうだけど思ったというのが率直な感想。

そして、最終章の〝猛き咆哮の果て〟というタイトルがあまりに大仰で
「なんか長編小説のタイトルみたい」と思っていたら案の定、本作の元のタイトルは
これだったみたいですね。あまりに大げさすぎるので〝訣別の森〟に変えて正解だったと
思いますが。

駄作ではないけど決しておすすめはしないかな。
犬好きの人は読んでみてもいいかも。

lobowolf.jpg








時が来た。



同僚の喜多助教授の誘いで、N大学工学部の低温度実験室を尋ねた
犀川助教授と西之園萌絵の師弟の前で、またも不可思議な殺人事件が起こった。
衆人環視の実験室の中で、男女2名の院生が死体となって発見されたのだ。
完全密室のなかに、殺人者はどうやって侵入し、また、どうやって脱出したのか? しかも、
殺された2人も密室の中には入る事ができなかったはずなのに? 
研究者たちの純粋論理が導きだした真実は何を意味するのか。

***

文章が拙くトリックも微妙(というかややっこしい)と思ったら、本作は
S&Mシリーズ〟の本来は処女作にあたる作品とのことで納得。

登場人物たちそれぞれの行為の動機が今一つで、正直のめり込みづらかった。
(特に増田の死の真相。。。なにそれ? どんだけ弱いの? と突っ込みたくなってしまった)
ネットを主軸にしたストーリー展開も、1994年当時に読んでいれば
「すげーこいつら天才!!」と思えたんでしょうが、老人でも子供でもパソコンを操れる今読むと
「どいつもこいつもバカすぎるよ。。。詰め甘いよ。。。もっとパソコンの知識増やせよ。。。」としか
思えなくて悲しい。
しかもあまりに偶然が主人公に味方しすぎだし(というか犯人の邪魔しすぎだし。。。)。。。
キャラの性格もほとんど描写されてないので、謎解きに挑戦しようにも非常に困難。
ていうか研究所内で見つかった増田の死体が自殺だったなんて反則だよ森先生。
ていうかこのキャラ本作中で一番わけわかんないキャラだったな。
反則といえば共犯トリックもアンフェアでしょう。この手のアホトリック小説書くのは(失礼だけど)
海堂尊氏だけで十分。
あと最後に。犀川助教授のギャグがサムい(まあそれが彼の持ち味っちゃあ持ち味なんですが)。

ひまつぶし程度にはおすすめの作品です。
それがあなたであってほしい。



茶沢景子、15歳。クールで何事にも興味をそそられない彼女が、たった一つ、
心を奪われたモノがある。それは、同級生の住田祐一。あまりに平凡で普通すぎる彼に
近づけば近づくほど、景子の魂は祐一に共鳴していく――。
傑作漫画「ヒミズ」の新たなる結末を描いた純愛青春残酷物語。

***

大好きな古谷実氏の著作の中でもダントツに影響を受けたバイブル的コミック、〝ヒミズ〟。
本作はそれの小説版。



これがデビュー作にしては、著者はこれら↑原作をうまくまとめていたと思う。
ただねえ。。。ちょっと文章が淡々としすぎ。
もともとシリアスな物語なので淡々とした文章でもいいとは思うんだけど、
盛り上げるべきところでも静かな筆致のままなので残念。
たとえば茶沢の「オイがんばれよ!」のシーンとか。
(冒頭の三行目には「おっ古谷節をよくわかってる!」と期待したのに。。。)

あと、著者は本作を読んだ限り古谷作品を結構読み込んでいるだろうことはわかるんですが、
どうにもその古谷ワールドを捉えきれていない気がした。
主人公絶対こんな台詞言わねーよ、って台詞も平気で入れてるし(主人公の住田は
どこまでも人は人、自分は自分って人間なので、自分より幸せな相手に向かって
「おまえは俺ほどの不幸経験したことないだろ」的なことは絶対言わない)。
古谷氏ならではの個性的な言い回しも、普通の台詞に変えちゃってキャラが平凡になってる。
夜野はオドオドしてばかりで、小ずるいところが描写されてないし、
茶沢だって素でエキセントリックなところあるのに普通の恋する女の子みたいになってるし。
そして茶沢といえばクライマックスの彼女。ホームレスが変態だったって住田に伝えようと
してるけど、そんなもん伝えたら「あんなに近くにいたのにまた気づけなかった」って
彼がさらなる絶望に突き落とされることぐらい気づけよ。まあそれは原作のほうでも
「わざわざ知らせるなよ、住田の心理ぐらい読み取れ」と思ったけど。

原作には書かれていないエピソードがいくつか描写されていたのはよかったですが。

あと、原作のあまりにやるせないラストが改変されていてほんの少しだけ
救いのある終わり方になっているところもよかった(まあ、「延命治療費は誰が払ってんの?」とか
君らはよくてもこれ住田が起きたら恐慌来たしそうじゃね? とか突っ込みどころはありましたが)。
ただ、最後のその追加エピソードが完全に著者の山崎氏の想像で書かれているためか、
どの章よりもキャラがいきいきと魅力的で、茶沢の妄想なんか思わず泣きそうになってしまった。
(住田が殺人を犯したかどうか茶沢が訊ねるシーンでの彼女の本音も、
最後の夜の「ヤバい、泣けてきた」のシーンの夢想も、原作を掘り下げる感じでよかった)。
原作で住田の殺人が夢オチだったことに拍子抜けした人にも本作は満足いく仕上がりだと思う。

あくまで原作を読んでからなら、割りとおすすめの一冊です。
茶沢一途すぎて泣ける。ヘタなラブストーリーよりよっぽど泣ける。こんな女になりたいわ。
プロフィール
HN:
kovo
性別:
女性
自己紹介:
80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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