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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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それは失われた至福感にも似て。



200X年、謎の航空機事故が相次ぎ、メーカーの担当者と生き残った自衛隊パイロットは
調査のために高空へ飛んだ。高度2万、事故に共通するその空域で彼らが見つけた秘密とは?
一方地上では、子供たちが海辺で不思議な生物を拾う。
大人と子供が見つけた2つの秘密が出会うとき、日本に、人類に降りかかる
前代未聞の奇妙な危機とは――。
すべての本読みが胸躍らせる、未曾有のスペクタクルエンタテインメント。

***

塩の街〟に続く自衛隊三部作の二作目。

率直な感想。
つまらなかった。

〝塩の街〟のあのクオリティの高さは一体どこへ? と首をひねらざるを得ないほど
終始一貫つまらなかった。
何が言いたいのかもよくわからなかったし。
作中に込められたテーマを無理に読み取ろうとせずに単にエンタメとして読んでも、
出来の悪いB級SFのようでまったく入り込めなかった。
未知の生物との邂逅、その生物と人間たちの間に生じる軋轢、そして分かり合えない寂しさ、
そういった内容のものを読みたいのであれば、景山民夫氏の〝遠い海から来たCOO〟を
読んだほうがよっぽどいいです。

〝白鯨(本作中の宇宙人的存在)〟が人間からの爆撃で複数の単体に散ってしまった際、
それぞれの単体を人間でいう〝解離性同一性障害〟の交代人格に見立てて、
再び一つの〝白鯨〟に戻す、という展開になったときは「おお! 斬新!」と
ハラハラしたものでしたが、そこらへんの具体的な描写もないままいつの間にか白鯨一つに
戻ってるし。一体。。。
(しかも著者、解離性同一性障害の解釈間違ってるし。主人格は常にほかの交代人格たちを
見守る立場(ホスト役)にいるので、ほかの人格が表に出ている間主人格は意識を失くすって
ことはないです)

そしてタツミとミキの恋愛描写。恥ずかしすぎる。勘弁してください。
そりゃジュブナイル向けの小説をいい歳して手にとった私が悪いのかもしれませんが、
読んでてこっ恥ずかしいにもほどがある。
ミキ典型的なツンデレだし。
恋愛描写のサムさと言えば本作ラスト一行も「ああこんな本読まなきゃよかったほんと」と
脱力するに十分なものだったし。

おすすめしません。
十代の子とかは感動できるのかもだけど。
私もそれぐらいの歳のときに読みたかったなあ。。。

pic03601.jpg








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ひとり欠けたからって、世界は何も変わらない。



高2の夏休み前、由紀と敦子は転入生の紫織から衝撃的な話を聞く。
彼女はかつて親友の自殺を目にしたというのだ。その告白に魅せられた二人の胸に
ある思いが浮かぶ――「人が死ぬ瞬間を見たい」。
由紀は病院へボランティアに行き、重病の少年の死を、
敦子は老人ホームで手伝いをし、入居者の死を目撃しようとする。
少女たちの無垢な好奇心から始まった夏が、複雑な因果の果てにむかえた衝撃の結末とは?

***

デビュー作〝告白〟がよくも悪くもうまく書け過ぎちゃったんだよな、この作家さんは。。。
ベテラン作家でさえあそこまでのものを生み出せるのは何十作かに一回、とかなのに。
だからどうしても比べると見劣りしてしまう。比べまいとしてもどうしても比べてしまう。

でも敢えて〝告白〟を意識せずに読んだとしても、あまりいい出来の作品とは
感じなかっただろうと思う。
まず文章の書き方。本作には主人公が二人いるのですが、それぞれの一人称が
〝わたし〟〝あたし〟と違うことに気づくまで、一体誰が喋ってるのかわからなくて混乱した。
全体的な構成もグラグラと安定を欠いていて読みづらかったし。
時事ネタ(政治とかじゃなく)を作中に持ってくるのも、流行に媚びているようで
もうそろそろいいんじゃない?と思ったし(ていうか数年後に読んだら『古っ!』と失笑して
しまうだろ、こんな小説ばかり書いてたら)。

物語の着想は最高に興味をそそるものなのに、今回は中身がそのテーマに
ついていけてなかった感じがした。
二人の少女が友情を復活させるのも、あまりに唐突で「え?」って感じだったし。
FF12のラストの「バルフレアっ!」を思い出してしまった(FF12知らない人すいません&
最近微妙にゲームでのたとえが多くてすいません)。

友人や恋人等のほどほどに近しい人間が死んだことをネタに
悲劇の人ぶって陶酔の涙を浮かべたりなんかしてるバカ野郎は大嫌いなので、
読後は結構スカっとしましたが。
まあでも、実際そんなに好きじゃないからその相手の死に酔えるわけで、
本当に大切な相手だったらそんな余裕とてもないけどな。
(私の知人が幼いころ、「危篤の祖父を見てみたい」と不謹慎ながらも病院へ赴き、
しかし実際に臨終の際の祖父を見たらひどく気分が悪くなって
廊下にへたり込んでしまったそうです)

ちなみに冒頭に出てくる映画〝マイ・フレンド・フォーエバー〟は普通に傑作です。
皆さん是非観てみましょう(実際にはエイズの子じゃなくて友人役の子が
死んじゃったけどね。。。)。

最後に、著者の湊さん、今どき過呼吸起こして頭からビニール袋かぶる人はいませんよ。
余計苦しいんで。正しい処置は紙袋を口にあてて深呼吸、です。
「人の心も科学です。とてつもなく奥深い」



「悪魔の手」と名乗る者から、警察と湯川に挑戦状が届く。
事故に見せかけて殺人を犯しているという彼に、天才科学者・湯川が立ち向かう 。

★収録作品★

 落下る(おちる)
 操縦る(あやつる)
 密室る(しめる)
 指標す(しめす)
 撹乱す(みだす)


***

探偵ガリレオ〟〝予知夢〟に続くガリレオの短編シリーズ第三弾。
前二作に比べて科学トリックは大人しめになっていますが、
昨秋ドラマ化された〝ガリレオΦ〟の元ネタになった短編が収録されているほか、
序盤には登場しなかった内海薫刑事(柴咲コウ演ずる刑事)が登場したり、
理論一辺倒だった湯川準教授に人間味が身についていたりと
ドラマファンには(もちろんそうじゃなくても)楽しめる内容になっています。

まあ、私は自信家で理屈屋の湯川学のほうが好きだけどね。。。
評価が分かれそうなところです。
「非日常の楽しみならば、素敵なレストランがあるものね」



下町の小さなフレンチ・レストラン、ビストロ・パ・マル。
風変わりなシェフのつくる料理は、気取らない、本当にフランス料理が好きな客の
心と舌をつかむものばかり。そんな名シェフは実は名探偵でもありました。
常連の西田さんはなぜ体調をくずしたのか?
甲子園をめざしていた高校野球部の不祥事の真相は?
フランス人の恋人はなぜ最低のカスレをつくったのか?
……絶品料理の数々と極上のミステリ7編をどうぞご堪能ください。

★収録作品★

 タルト・タタンの夢
 ロニョン・ド・ヴォーの決意
 ガレット・デ・ロワの秘密
 オッソ・イラティをめぐる不和
 理不尽な酔っぱらい
 ぬけがらのカスレ
 割り切れないチョコレート

***

のほほんとした雰囲気がかわいいミステリ。
店員たちにもそれぞれ個性があって楽しい。
ただ惜しむらくは、本作の探偵役であるシェフ・三舟が一番影が薄いこと。
何だかFF12のヴァンや逆転裁判4の王泥喜を彷彿とさせるような。。。(ゲームしない人
わからなくてすいません)
終始無言で(まあ無口という設定なので仕方ないですが)ラストにちょろっと出てきて
ぼそっと謎解決してまた引っ込んでいく、というのはあまりに登場頻度が。。。
あともう少し活躍させてあげてほしかった。

不服な点といえばもうひとつ、やっぱり料理ものを小説で書かれると、
料理名が出てきたときにどういう食べ物なのかさっぱりわからないところ。
単に言葉の響きだけを楽しめばいいのかもしれませんが、やっぱり盛り付けや素材に
魅力のあるフランス料理、絵的にも楽しめればなあとちょっと残念。
ヴァン・ショー(ホットワイン)は唯一知ってましたが、雑誌に連載時はいいだろうけど
単行本では毎回毎回一気に出てくるので「またかよ」とちょっと鬱陶しかった。

トリックや動機は基本的に女性作家ならではの発想のものが多いので、
女性のほうが本作は楽しめるしより登場人物たちの心情を理解できるかもしれません。

ちなみにフランス料理ものなら私は(マンガではあるけど)
こっち↓のほうがずっと面白かったな。おすすめ。

こいつらを殺すために生まれたのだから、こいつらを殺すしか方法を知らない。



白のスーツを身にまとう眉目秀麗な荒城咲之助、
学ラン姿に近未来的な義手を持つ真野原玄志郎。
二人の名探偵と、わたし殿島直紀が挑む雲上都市の謎。
楽園の地下に潜む、座吾朗とは何者なのか?そして連続殺人に隠された真実とは?
気障で美形の探偵&わらしべ義手探偵。二人の名探偵が織りなす抜群の物語性と、
ラストに明かされる驚愕のトリック。
第17回鮎川哲也賞受賞作。

***

なんてこった。。。
数年前からプロットをたてていた自作長編と本作、トリックが一部かぶってしまった。。。
でもどうしても書きたいのでこれはこれ、それはそれでいくけど。。。(TT)

と、私事は置いといて、
著者が自らの作品をして「変な物語」と連呼するほど変な物語だとは思わなかった。
むしろ典型的・模範的本格ミステリに思えたけど(メフィスト系の読みすぎだろか?)。
探偵とワトソン役の性格がかなり島田荘司氏の御手洗シリーズとかぶってたけど、
本作には本作なりの個性もちゃんと出ていたし、文章がしっかりしているので(ところどころに
くすりと笑えるポイントもあるし)最後まで楽しく読めた。

時代設定が昭和初期だということをミステリ的欠点の逃げ道にしている感もあったけど
(本作中の謎は時代が今なら一発でバレる。というか昭和初期でもわからんもんかなあ? と
ちょっと首をひねってしまった)、そして
著者が続編を書く気満々なのがあからさまにうかがえるのが(悪い意味じゃなく)笑えたけど、
まあまあの佳作なのではないかと思う。

ただ真犯人については、もうちょっと伏線がほしかったかな。
でなきゃあんなのわかるわけないし、正体がわかったところでインパクトに欠けるし。

初期の御手洗シリーズ的雰囲気があるので、今の同シリーズに不満を感じている人には
おすすめ。
島田荘司氏もまたこういう空気感の御手洗&石岡を書いてくれないものかなあ。。。
救いたい。
こんどは、なんとしてでも。




臨床心理士の佐久間美帆は、勤務先の医療機関で藤木司という
二十歳の青年を担当することになる。司は、同じ福祉施設で暮らしていた少女の自殺を
受け入れることができず、美帆に心を開こうとしなかった。
それでも根気強く向き合おうとする美帆に、司はある告白をする。少女の死は他殺だと言うのだ。
その根拠は、彼が持っている特殊な能力によるらしい。
美帆はその主張を信じることが出来なかったが、司の治療のためにも、
調査をしてみようと決意する。
美帆は、かつての同級生で現在は警察官である栗原久志の協力をえて、
福祉施設で何が起こっていたのかを探り始める。
しかし、調査が進むにつれ、おぞましい出来事が明らかになる。
『このミステリーがすごい!』大賞2009年第7回大賞受賞作。

***

二時間ドラマ、といった程度のミステリ。
犯人は相当早い段階で察しがつくし、登場人物たちの浅はかさも話の展開も
まんまテレビのサスペンスドラマ。
まあ、〝このミス大賞〟の大賞受賞作はだいたいいつもこんな感じだけど。
(東山彰良氏の〝逃亡作法〟と深町秋生氏の〝果てしなき渇き〟だけは
ちょっと毛色が違うけど。前者の作家さんは今でもファンです)

あまり深く考えずに読めば面白いのでしょうが、じっくり読むと
突っ込みポイントがあまりに多すぎて笑えるを通り越して最早疲れる。
著者の表現の稚拙さ、それに(これは校正の人と編集者に問題がありそうだけど)
誤字脱字のあまりの多さ。
あと何と言っても主人公の臨床心理士のあまりにひどいキャラ設定。
人の心を読み解くプロでありながら今どき素人でも知っている〝プロファイリング〟を知らないし、
第三者にクライアントの打ち明けた悩みをベラベラ喋ってしまうアホっぷり。
私なら絶対にこの人には診てもらいたくない。
少年の特殊能力もあまり作中で有効に使われてないし(必要だったのか、あれ? ていうか
「能力があるから、言葉がなくてもその声だけで失語症の彩の言いたいことがわかった」って
言ってたくせに「音楽は歌詞のないもののほうが好きだ。歌詞があるとそこから感情が
伝わってきてしまう」って。。。あんた言ってること矛盾してないか? 
結局言葉と声どっちで相手の感情読み取ってんだよ)。

そしてクライマックス。
主人公が犯人に叫んだ言葉には「確かにそうだ」と感動させられたけど、
何もフェラチオして犯人が絶頂に達した瞬間を狙って反撃しなくても、
噛み切るか握り潰すかすればいいだけじゃん。
まあそれじゃストーリーの流れ的に美しくないからそうしたんだろうけど。

タイトルセンスはすごくあるので(それに惹かれて手にとったぐらいだし)
この題名だけは忘れないだろうけど、中身はまったく印象に残らなかったので
早々に記憶から消える可能性高し。

テレビドラマが好きな人には楽しめるんじゃないでしょうか。
<魂の耳>は、何を聴くだろう。



聖者なのか、偽善者か?
「悼む人」は誰ですか。
七年の歳月を費やした著者の最高倒達点!
善と悪、生と死が交錯する至高の愛の物語。

***

直木賞はその作家のこれまでの功績に与えられるものであって
その受賞作単体に与えられる性質のものではないけど、
この作品では獲ってほしくなかったなあ。。。

雑誌連載時に第一話を読んだときは、お、面白そうと引き込まれたものの、
単行本を読み進めるうちにそのマンネリ進行がだるくなってくる。
静人が見も知らない死者を悼む旅。最初から最後までただそれだけ。
淡々とした物語ではあるけれど、それはそれなりに起伏がもうちょっと欲しかった。
ときどき挿入される静人の母親パートが唯一面白く、記者の蒔野パートもこのおっさんが
好きになれないので身を入れて読む気になれない。
蒔野が静人に心酔するようになるのもあまりに唐突で、
「いや普通こんなおじさんがこんないきなり宗旨替えしないだろ」と思ってしまった。
そのあたりの蒔野の心理描写をもうちょっと丁寧にやってほしかった。

そして読み進めるうちに「まさかラストはこうじゃあるまいな」というあるひとつの予想が
頭をもたげ、それがあまりに陳腐なのでどうかそうならないよう祈っていたのにまさかのビンゴ。
静人と倖世が絶対セックスしそう、で、そのことを自分たちの中で都合よく美化しそう、
そう思ってたらそのとおりなんだもんな。。。

私にはあまり面白いと思えない作品でした。
私だったら見も知らない人に悼んでもらいたくはないし。
もし悼んでくれるならその人には最低限セックスなんて個人的欲望を満たす行為を
してほしくはない。
自分は快楽を得ておきながら悼まれてもね、知り合いならともかく赤の他人に。。。

まあでも天童荒太氏は大好きな作家さんなので、とりあえずは受賞おめでとうございます。
今何が聞こえる?

 

コインロッカーを胎内としてこの世に生を受けたキクとハシ。
巨大な鰐を飼う美少女アネモネ。謎を求めて舞台は南海の暗い海底に移る。
破壊の意志を持つというダチュラの凶々しき響き。果してダチュラとは何か? そして、
巨大な暗黒のエネルギーがもたらすものは?
現代文学の記念碑的作品の鮮烈な終章。

***

本読みならまず知らない人はいないであろう有名作品。

リズムある独特の文体。
各エピソードの、まるで一編の掌編を読んでいるかのようなクオリティの高さ。
ただ、ひとつの物語としては響いてくるものがなかった。
主人公ふたりの人格にどことなく一貫性がなくて、場面場面での言動が
別人のように感じられることが頻繁だったし、
著者が敢えてそうしているのかもしれないけれど彼らの内面描写がひどくおぼろげで
何を考えているのかいまいちよくわからない、わかったとしてもそれは
「ああきっと彼は今こういう心情なんだろうな」というあくまで他人事的な感覚で、
彼らと気持ちがシンクロするとかこちらの感情が揺さぶられるとかいったようなことがない。
登場人物たちの言動も、どこか芝居がかっているというか大げさで、
どうもリアリティを感じられなかった。〝演じられているもの〟を観ている感じ。
主人公の一人、キクの終盤でのキメ台詞なんか思わず苦笑してしまったし。
でも、もう一方の主人公・ハシの
「広い広い広い広い広い広い広い広いコインロッカーの中に。。。」
という台詞には思い切り胸を衝かれたけれど。これ以上寂しい言葉がこの世にあるだろうか、と。
キクパートよりはハシパートのほうが物語が面白かったな。
終わり方は結構好きです。

ちなみに本作は近々日米合作で映画化されるそうですが、それならハシの役は絶対に
アメリカ人にしてほしい。
日本人歌手にだけは歌わせないでほしい。聴いててキツいしあっちでも公開されると思うと
日本人として恥ずかしい。

datura.jpg









鳥が歌うように。



世界の文化遺産ともいうべき名画に、そっと秘められた犯罪。
傷つき変質した絵を、絵画修復士・御倉瞬介が丁寧に復元していくうちに、哀しい人間の業が
陰画のように浮き彫りにされてくる。
傷つけられた絵にまつわる因縁とは…!? ピカソ、フェルメール、モネ、安井曾太郎、
デューラーなどの肖像画が語りかけてくるものとは…!?
キャンバス地の裏まで見透かすような鑑賞眼と、人間への思慮深い観察が、
確かに思えていた世界を見事に反転させる、本格ミステリー連作短編集。

★収録作品★

 ピカソの空白
 『金蓉』の前の二人
 遺影、『デルフトの眺望』
 モネの赤い睡蓮
 デューラーの瞳
 時を巡る肖像

***

美術ミステリと落語ミステリが最近増えてきたなーと思う今日このごろ。
どちらも自分の携わる世界ではないですが、それでも読んでいて面白いんだよなー、
こういう芸術系のミステリは。

本作の主人公・御倉瞬介が絵画修復士である必然性は正直ないと思うのですが
(というか修復士なら修復士だからこそ解決できる話を一話ぐらい入れてほしかったと
思わないでもないですが)、どれも楽しく読めました。
ちょっと物語の構成に難があって何がどう展開しているのかわからない部分、
加害者の動機が今ひとつ掴めない部分もほんのわずかながらありましたが、
美術を単なる謎解きの道具に使うのではなく、かつての天才画家たちの
絵に対する情熱や執念や葛藤、彼らの人生にまつわるエピソードなんかもふんだんに
盛り込まれていて、読んでいてうならされることしきり。
天才が天才と呼ばれる所以を垣間見た気がした。

おすすめです。



著者、続編にクノップフ出してくれないかなー。
一番好きな画家だし、あの人の絵はミステリの題材にしやすいと思うんだけど。
お願いだから死んでいて。



彼との部屋を出て新しい彼と付き合い始めた私。
彼が女と浮気をしていると知り自殺を考える僕。
彼と共に暮らすことになっても不安なままの私。
彼女が突然去ってしまった部屋で待ち続ける俺。
彼と結婚することになったが、絶望していく私。
夜燃え尽きて朝蘇り、再び夜に燃え尽きる日々。
救いなき道を歩み始めたそれぞれの世界の果て。

★収録作品★

 星へ落ちる
 僕のスープ
 サンドストーム
 左の夢
 虫

***

金原ひとみさんの本はいつもデザインが格好いいよなあ。。。

とかいうのはまあいいとして。
デビュー当時の荒々しさが、新刊が出る度毎に落ち着いてきているのは、
著者が年齢を重ねたためか、あえてそういう方向に作風をシフトしているのかは
定かではありませんが、割りと抑えた筆致で書かれた本作は
個人的には好きだし満足できた。

ただ、主人公が恋焦がれる相手に抱く感情の烈しさは相変わらずで、
「人は人をここまで想えるものだったっけ」とオバンみたいなことを考えてしまう自分が
ちょっと哀しくもある(著者と同世代なのに。。。)。

各話が繋がった物語ですが、私的には表題作〝星へ落ちる〟が
単品として見て最高傑作と思えた。
読み終えた瞬間ぞくりときた。純文学の良さを改めて思い知った次第。

彼女の作品では〝ハイドラ〟が一番好きなのですが、
〝星へ落ちる〟一編だけなら〝ハイドラ〟も超すな、私の中では。

おすすめです。
ちなみに作中に出てきた〝コックローチドリーム〟はこちら
著者、前作ではソリテアにハマってたのに今度はまたエラいマニアックなものに。。。
(ちなみに私は何も考えたくないときにはひたすらネットチェスに興じる。
キングを追い詰めてるとき無意識に浮かべてる薄ら笑いに気づくと
自分で自分が怖くなります=-=;)

それにしても本作のヒロイン、恋敵が死ぬことでその人物が
愛する〝彼〟の中で美化され、永遠の存在となってしまうことは
怖くはなかったのかな。そこだけが疑問。



ていうか余談だけど、正直くだらない携帯小説のブームに乗るみたいにして
蛇にピアス〟が映画化されたのにはかなりムカついた。
同列に扱うなよ。確かに内容の方向性は似てるけど、表現力や内包してるテーマが
全然違うっつーの。
皆さんどうか騙されないでください。
プロフィール
HN:
kovo
性別:
女性
自己紹介:
80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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