ぼくらを襲った事件はテレビのニュースよりもっとずっとどうしようもなくひどかった――。
ある日、学校で起きた陰惨な事件。
ぼくの幼なじみ、ふみちゃんはショックのあまり心を閉ざし、言葉を失った。
彼女のため、犯人に対してぼくだけにできることがある。
チャンスは本当に一度だけ。これはぼくの闘いだ。
***
〝名前探しの放課後〟の前身、
〝子どもたちは夜と遊ぶ〟の後日談とも言える本作。
前者を未読の方はすべからく本作を先に読むことをおすすめします。
(自分は逆の順序で読んでしまったので、「こっちを先に読んでおけば〝名前探し~〟の
印象もだいぶ(いい方に)違ったのに。。。!」と臍を噛む思いでいます。。。)
もちろん本作を単体で読んでもストーリーはわかるようになっているのでご安心。
基本的に本作は少年と大学教授のカウンセリング的トークに終始しており、
そこで話される内容は面白いは面白いのですが既知のうんちくもかなり多く、
そればかりがずっと続くのでやや単調さを感じてしまった。
二人が意見を戦わせるという内容上、否応なく読者であるこちらもそれに参加してしまい、
それぞれの持論に納得いかない部分もあって「異議あり!」と胸中で突っ込むこともしばしばで(でも
当然向こうには届かないので)ひとりで勝手にストレス溜めたり。
ステロタイプじゃない人間の魅力を描ける著者の手腕には相変わらず感心してしまいましたが。
んー、やっぱり〝子供たちは~〟を読んでから読んだほうが面白いかも。
(ただ、物語の〝その後〟を自分で想像するほうが楽しいという人は読まないほうが吉)
ちなみに本作が気に入った人は、乙一氏作〝ZOO〟収録の〝神の言葉〟もおすすめ。
余談:
本作を読んで著者が2chやってることが発覚。親近感(笑
これが格差社会の末路なのか!? 貧困大国となった日本の、恐るべき高齢者排除計画。
それぞれの理由を抱え、もがく人々に救いはあるのか。
鮮やかに世界を反転させ、人を狂気へと誘う3つの物語を収録。
★収録作品★
熱帯夜
あげくの果て
最後の言い訳
***
曽根圭介さんにまず謝りたい。
たった一作読んだだけで評価したことも馬鹿だったけど、氏のデビュー作〝沈底魚〟で
この人の小説は自分に合わない、そう思ったことを詫びたい。
氏への印象が180度変わってしまった。
それほどに本作は面白かった。
◆熱帯夜◆
短編推理小説アンソロジーに載せてほしいぐらいの傑作。
著者の構成力に脱帽。
無茶苦茶面白くて寝る前にちょっとだけ読むつもりが一気読み。
ただひとつ引っかかるのが、〝ワタシ〟は自分が轢いた死体のザリガニ臭に
気づかなかったのか? ということ。平常心を失っていたせいともとれるけど、
それにしては最初のほうかなり冷静に行動してるし。
まあ面白かったからいっか。
◆あげくの果て◆
空回り、空回り、空回りの連続で読んでいてイライラするほど(もちろんいい意味で←というのも
変な表現ですが)。
〝難局二号〟には笑った。これ以外にも、曽根氏は造語のセンスありすぎで
本作は読んでいて何度も笑わされた。
「いくらフィクションでもこんな制度あるか」と思っていたらあのオチが待っていたので
ちょっと切なくなった。
◆最後の言い訳◆
終盤にまさかのどんでん返し。これにはやられた。かなり驚いた。
作中に時事ネタがたくさん盛り込まれていて(食品偽造、ダメ総理、パンダ問題、etc.。。。)
不謹慎だけど吹き出すことしばしば。
時事ネタといえばヒロインの愛のキャラが見事なツンデレで女の私もときめいてしまった。
というかすごく格好いいんだよな彼女は。こういう風になりたいと思わせられる子だった。
オチは残念ながら読めてしまった。
でも面白かったからいk(以下略)。
ギーガーの表紙もかなりいい味出してます。
非常~におすすめ。
最近暑くてジメジメしてますが、それも本作を読めば恐怖と笑いで吹き飛びます。
見ているか?
道州制による分権のもと、監視カメラのネットワークによって国民に絶えず順位を付ける制度
(RANK)が施行される近未来の日本・関東州。
(RANK)低位者の拘束を業とする公務員「執行官」の中には、任務に疑問を抱く春日と、
歪んだ正義感のもと暴走していく佐伯がいた。
抑圧された人々の蠢きによって、自らに危機が迫っていることも知らず…。
第三回ポプラ社小説大賞特別賞受賞作。
***
あらすじ&ポプラ社大賞入賞作という肩書きからエンタメ色の強い小説と思いがちですが、
どちらかというと本作は今の世の中に対する風刺・啓蒙的な物語なので
単に面白さを求めるだけなら読まないほうが吉です。
文章も最近の娯楽小説にしては難しめ。
というかこの著者、あまり長編には向いてない気がする。
筆致が独特なので読んでて疲れるんだよな。
たまに古川日出男氏や舞城王太郎氏にそっくりな文体とか出てきて「パクリ?」とちょっと
イラっともするし。
内容は何だか〝デスノート〟+〝イキガミ〟+〝20世紀少年〟+〝ゴールデン・スランバー〟
って感じだし。
ものすごく実力のある新人作家さんだとは思うけど、〝地図男〟の際も言及したように
どうも新鮮味に欠ける。
ほんともったいないと思うので、今後真藤氏には独自の文体を創り上げていってほしい。
それにしても〝<眼>は視ている〟という文章のこれでもかとばかりの連発が
読み進めるごとにこちらの身体に、精神にじわじわと浸潤してきて
次第に嫌な気分にさせてくる手腕はすごいなと思った。
まさにこの世界の人間たちと同じ感覚を味わわせてもらった。
ただ、黒幕の人物が突飛すぎてあまり驚けなかったことと、
終盤が突如SF化していたこと、
電気系統が麻痺したときに備えて〝眼〟には病院並みの予備電池とかつけるのが普通なのに
何であれぐらいで一斉OFFになってんの? という突っ込みどころはありましたが。
個人的にはこういう話好きです。
作中の登場人物・佐伯にはいたく共感してしまったし。
でも本当にこんなシステムが日本にあったら、突出した才能はまず生まれないだろうなあ。
ダメダメ人生を数十年送り続けてある日突然返り咲く、みたいな人のほうが
才能ある人には多いのに、そうなる前に排除されてしまう。
画一的な人間ばかりがぞろぞろと量産されていく。
。。。あ、それも著者の風刺か。
天涯孤独な少年・勇介は、急逝した大伯父・如月教授が遺してくれた博物館で
秘密裏に行われているあるプロジェクトの存在を知る。
それは――脳死患者と時間旅行を研究する極秘実験。
過去を彷徨う魂を救うため、勇介は学芸員・枇杷とともに、過酷な時の旅へと出発する!
注目の著者が放つ新感覚タイムトラベル・ミステリ。
***
〝退出ゲーム〟が面白かっただけに(そして巷でもこれのお陰で著者の名が知れてきただけに)
その次に出版されたのが本作であることに若干もったいなさを覚える。
こういうファンタジー&シリアス路線じゃなく、コメディ路線のミステリのほうが
この作家さんには向いてると思うんだけどなあ。。。
いや、でも氏のデビュー作〝水の時計〟は前者路線なのに面白かったから、
やっぱり本作の出来が微妙なんだろうか。
まず主人公二人のキャラの創り込みが曖昧。
それぞれのどういう面を強調したいのか、著者が絞りきれていない感じで(特に男の子のほう)、
結局彼らがどういう性格なのかいまいち掴みきれなかった。
そして物語の趣旨が〝一人の少女を救う〟なのに、二人が他人まで救おうとするものだから
読んでいて視点がブレてしまい「この二人は結局何がしたいんだ?」という感覚が終始抜けず。
長編なのにトリックは地味だし(いや、個人的には本作のトリックは好きなのですが、
ストーリーかトリックのどちらかに華がないとやっぱり長編ミステリは読んでいてキツい。
ていうかヒロインが仕掛けたトリックがどういうことなのか読み終えた未だ曖昧なまま。
何? 〝言葉の誘導〟って。
というか「過去をいじっちゃいけない」とかさんざん言ってる割りには
現代ならではの智慧をこれでもかと披露してるよなー主人公二人は)。
〝ずっと手を繋いでないといけない〟っていう設定は〝ICO〟や〝ダブルアーツ〟を
髣髴とさせて新鮮味ないし(〝ICO〟のキャッチコピーなんてまんま本作に当てはまるし。なので
この記事の最上段のコピーにも本作の文章じゃなくそっちを使わせてもらいました。
ね、まんまでしょ?)。
駄作ではないんだけど読んでしばらくしたら忘れてしまう、そんな感じの物語だった。
でも初野氏は好きな作家なので次に期待。
私は、自分が生き残るために両親と姉を殺しました。
構想五年、執筆三年、今世紀最大の犯罪と言われる連続監禁殺人事件をモチーフにした、
「新堂冬樹史上最悪の問題本」のベールが、ついにはがされる。
***
実際に起きたこの事件を元に書かれた半ばノンフィクションである本作。
文章が読みやすいので二日で読破してしまったけれど、
内容は首を捻らざるを得ないものだった。
まず、展開があまりに単調。
主犯の男・富永が人質に婉曲に虐待または殺人を命令、
それに従う人質たち、
それを見て「ああ何てことを」と罪逃れのために嘆く振りをする富永、
全体を通してこれの繰り返し。
同じ台詞や文章表現がこれでもかと出てきたりもするし、
著者のプロとしての文章力にかなり疑問をおぼえた。
あとは拉致された(といっても逃げようと思えばいつでも逃げられる)人間たちが
ことごとく富永に簡単に洗脳されすぎ。
そりゃ何年もかければ精神的に束縛されて相手に逆らえなくなるだろうけど、
捕まって数日であっという間に相手の言いなり。
それ以外にもあまりに富永にとって都合のいい展開が続くし(女たちが揃いも揃って
富永の性奴隷になるし、もっと富永と渡り合えるはずの男性陣があっという間に心折れちゃうし)。
あまりにリアリティがなさすぎ。本作が実際の事件を元にして書かれたものなら尚更。
富永と最初に出会う貴子は単にストックホルム症候群に陥ったのか
それとも厳格な父親の元で縛り付けられるように育ったせいで
誰かに束縛されていなければ人生をわたっていけなかったのか、
どちらにせよいい歳して情けなさ過ぎると思う。
これは相手に虐げられる恐怖で正常な判断力を失っていたのではなく、
単に強烈な依存心からこの凄惨な事態を打開できなかっただけだとそう思う。
(まあだからこそあのラストなのでしょうが)
新堂氏はそろそろノンフィクションを元にフィクションを書くのはやめて
新境地を開拓すべきだと思う。
あっという間に読めたのはある意味それだけ内容が薄っぺらだったということでもあるし。
あまりおすすめしません。
那由多小学校児童毒殺事件――男子児童が、クラスメイトの男子児童を教室内で毒殺した事件。
加害児童は、三日後に同じ毒により服毒自殺を遂げ、動機がはっきりとしないままに
事件は幕を閉じた。
そのショッキングな事件から30年後、ある人物が当時の事件関係者たちを訪ね歩き始めた。
ところが、それぞれの証言や手紙などが語る事件の詳細は、微妙にズレている…。
やがて、隠されていた悪意の存在が露わになり始め、思いもよらない事実と、
驚愕の真実が明かされていく。
『このミステリーがすごい!』大賞2009年、第7回優秀賞受賞作。
***
湊かなえさんの〝告白〟に似ていると巷では言われていますが、
共通のキーワードといえば〝小学校での殺人〟〝牛乳(笑)〟ぐらいで、
そこまで「似てる!」という印象は受けなかった。
どちらかといえば貫井徳郎氏の〝愚行録 〟のほうが近い。
個人的には愚行録よりはエンタメしていて、告白ほどトンデモじゃなくて、
こういうモノローグものの小説の中では一番バランスがいいと思った。
ただ難を言うなら、真相がすぐに読めちゃうことかな。
真相が悟りやすいというのはそれだけ作者の文章が読みやすく丁寧であるということだと
私としては思うのですが(単に伏線を張るのがヘタでバレバレな作家もたまにはいるけど)、
もうちょっとミスリードがあったほうが読み応えはあったと思う。
でもこの塔山氏は文章も複線の張り方も登場人物の心理描写(これがとにかくすごい)も
これがデビュー作とは思えないほど抜群にうまく、
今から次の作品を楽しみにしている自分がいたりする。
ただ腑に落ちない点もいくつかあり、
たとえば
★夏実、子供が欲しいだけなら結婚まですることないじゃん。
お嬢様だから私生児なんてあり得ないとでも思ってるのかと思ったけど、
簡単に離婚しようとしてるしじゃあそうでもないんだろうし。
★クーさん、そんなに弟に(子供が同じ顔になるほど)そっくりなら、
いくら廃工場で本名名乗らなくても絶対誰かが気づいたはずだろ。
それにやたら羽振りがいいって子供らの誰かが証言すれば
すぐ金持ちの彼に行き着くだろ。
★砒素ってちょこちょこ飲ませた場合と一気にがばっと飲ませた場合で
検死のとき差異が出るんじゃないの?
証拠隠滅のためにあとから大量に飲ませても無意味じゃ?
それとも三十年前の医学じゃそこまで調べられなかったとでも?
★誤植多すぎ。三箇所見つけた。
これは作者には関係ないので、担当編集さんと校正の人に文句を言いたい。
〝一挙手一頭足〟ってオイ。
でもまあ、作りが既存の小説と似ているよりも
文体・台詞回し・設定・登場人物の性格、そのすべてが伊坂幸太郎氏の完パクである
〝屋上ミサイル〟を大賞にしといてこっちを優秀賞にする道理はないよな。
これ&同じ大賞受賞作の〝臨床真理〟よりも本作のほうがずっとレベル高いし面白いのに。
この賞出身の作家の本は本当の実力に裏打ちされて書かれたものよりも
くだらないけどエンタメに徹しているもののほうが売れる傾向にあるので(あんまり知り合いじゃ
ない人をけなしたくないけど、たとえば海堂尊氏とか)、
今後はどうなるか予測できませんが、
この作家さんにはこれからもどんどんこういう良質のミステリを発表し続けていってほしい。
おすすめです。
塔山さん、応援してます。
「諸君が、一度でも私の名を呼べば、どんな密室からも抜け出してみせよう」
いかなる状況からも奇跡の脱出を果たす天才奇術師・有里匠幻が
衆人環視のショーの最中に殺された。しかも遺体は、霊柩車から消失。
これは匠幻最後の脱出か?
幾重にも重なる謎に秘められた真実を犀川・西之園の理系師弟が解明する。
***
トリックは及第点(よりちょっと下かも)、
犯人は「わかるわけねーだろ!」レベル、
犀川はいつにも増して理屈っぽすぎ(というかもう屁理屈の域)、
萌絵は女刑事の振りをして皆を先導するシーン等は格好いいものの
人死にが出ている犯罪をゲーム感覚で捉えてへらへら楽しんじゃっていて
(しかも超絶モラリストの私にとって許しがたい〝携帯かけながら運転〟までかますし。
あんた本当にお嬢様?)
せっかく初期の「この女うざいな」感が消えかけていたところにまた火がつく始末。
でも犯人の〝動機〟、これはシリーズ中で一番よかった。琴線に触れた。泣けた。
特に何かひとつのことに心血を注いでいる人が読めば犯人にいたく共感できると思う。
人間はひとりでも自分の名前を呼んでくれる人が存在すれば生きていける、
そういうことは浦沢直樹氏のマンガ〝MONSTER〟でも書かれていたな、そういえば。。。
萌絵の友人がどうなったのかだけが未だ気になっているところ。
次回作で描かれるのかな?
犀川と萌絵を真剣に嫌いになる前にシリーズ読破を達成しなきゃ。。。
それが結論。
コスプレする少女と同人誌に燃える少女。
凄絶ないじめを受ける少女といじめる少年。
そして人肉しか食べられなくなってしまった少女!
彼女たちの中に美しい転校生がやってきた日、惨劇の幕が開かれる。
密室に捨て置かれた血塗れの死体は錯綜する事件の序章に過ぎない。
美少女学園ミステリーの最果て作。
***
読後「ほーん。。。」という、何とも微妙な感覚に包まれた本作。
シリーズ第一作目はハチャメチャながらも一応の収束はしていて面白く読めたけど、
続編である本作は腑に落ちない点も多いわあらゆる要素をぎゅうぎゅうに詰め込みすぎだわで
あまり楽しめなかった。
作者の佐藤氏のオタクっぷりも大爆発でついていけないとこも多かったし。
(佐藤氏とは同い年なので時々意味のわかるネタもあって吹いたりしたけど)
何より佐藤氏は結構文章が冗長というかくどいので、ミステリなのに疾走感に欠けたし。
本作はたとえるなら
「すべてが同時進行のネバーエンディングストーリー」って感じ。
一話一話丁寧に書き綴っていくというよりは、最後の最後で畳み掛けるように
ありとあらゆる真相(しかも突拍子もないを通り越して支離滅裂)が暴露されるので
視点が定まらず眼と精神がチカチカした。
唯一の収穫は、一作目の主人公の姉・鏡稜子のキャラが前作より引き立っていたことと
(まあヒロインだから当然だけど)
稜子が何であんな能力を身につけたのかが(コトの真偽はさておき)わかったこと。
本の登場人物を自分の中にインストールしてしまう癖のある私としては、
作中の羽美という登場人物の最後には軽蔑するような羨ましいような共感するような
何とも言えない感情を抱いてしまった(まあそれはもうひとりの少女、砂絵にも言えることだけど)。
エナメルはいつか剥がれるから羽美の今後を想像すると恐ろしいけどね。
よくもまあこんな破天荒な物語を堂々と書けたなあという点では佐藤氏を評価したいです。
「今から、俺たちの学年の生徒が一人、死ぬ。――自殺、するんだ」
「誰が、自殺なんて」
「それが――きちんと覚えてないんだ。自殺の詳細」
不可思議なタイムスリップで三ヵ月先から戻された依田いつかは、
これから起こる“誰か”の自殺を止めるため、同級生の坂崎あすならと
“放課後の名前探し”をはじめる――。
青春ミステリの金字塔。
***
先日観たニュース番組で、ストーカーに恋人を殺された男性が
マスコミのインタビューに答えてたのですが、
その受け答えがあまりに淡白なので「こんなもんかなぁ。。。」と違和感があったのですが、
改めて考えてみると〝自己陶酔号泣野郎〟よりはよっぽどましだなと結論付けた次第。
人は自分の近しい人の不幸を自分の中に取り込んで、それに泣いたり憤ったりしてみせることで
自己陶酔ワールドに入り込んでしまう。
よく急死した人の恋人とかのブログ等を見ると「ポエムなの?」と突っ込みたくなるような文章が
多いけど、それもその自己陶酔の一環。
自分が今まで付き合ってきた相手もそういう人ばかりだったので、
本作の〝彼〟が〝彼女〟に惚れてしまうのはかなり頷けてしまった。
自分の不幸を己の人生をドラマチックにするための手段として利用する人じゃなく、
ちゃんと痛みをわかってくれる人、わかろうとしてくれる人と私はいたい。
本作、ミステリというよりはほとんど青春小説ですが、
それが終盤で一気に翻るので青春小説・ミステリ小説どっちが好きな人にもおすすめ。
ただ、ちょっと(いやかなり)登場人物たちがやりすぎな気がしましたが。。。
あそこまでやられたら自分なら感謝の念より怒りが若干勝る。ていうか
本作を本当にいじめられてる子が読んだらかなりの高確率で壁に本ぶん投げると思う。
秀人&椿のカップリングも、何か生理的に受け付けなくて出てくるたびにうんざりした。
そして本作の舞台のような田舎だか拓けてるのかわからない土地に住んでる私ですが、
そういう場所で起こる諸問題をつらつら書いてるのもあまりストーリーに関係ない気がして(&
普通に面白くなく)「このへんの描写削って一冊にまとめてくれよ」と思った。
あとひとつ苦言を言うなら、ラスト一行、ヒロイン・あすなのキャラがあのひと言で
ガラっと変わってしまって興ざめ。
いくらそれまでにいろいろあったとはいえ、突然相手の呼び名をあんな風に一足飛びで
変えるキャラじゃないだろ。最後の最後でキャラ変わる登場人物なんて初めて見たよ。
それまではいい感じだっただけに違和感&残念。
(まあ、それを抜きにしても、ちょっとしたミスで死ぬほどの罪悪感を感じたりと(克服はしますが)
完璧主義過ぎて引くところもありますが、こういうキャラ設定はこの話だけじゃないしなー
この作者の場合。。。「どうしてそこまで神経質になるの?」ってキャラがほんと多い。
神経質が昂じてノイローゼにまでなっている自分から見てもそう思えるんだから相当だと思う)
ところで著者の辻村さん、今回は珍しく文体がライトでしたが、
この人は初期のころの淡々と静かな筆致のほうが実力を発揮できる人だと思う。
少なくとも私はそっちのほうが好き。
ちなみに本作のコンセプト、どことなく彼女のデビュー作〝冷たい校舎の時は止まる〟に
似てますが、中身はまったくの別物なので〝冷たい~〟既読の人も大丈夫です。
個人的に、今まで読んだ辻村作品の中ではあまり感銘を受けない作品だったな。
ドビュッシー〝アラベスクNo.1〟。この曲聴くとどうしてもリリィ・シュシュを思い出すな。。。
涼子の精神科クリニックに、発作を起すとトランス状態になり、手指を激しく動かす奇妙な動作をする
少女・あや香が訪れる。
同じ頃、涼子の学生時代の親友で、明晰な頭脳と美貌、そして旺盛な行動力を持つ祐美は、
留学先のアメリカで「不死の患者」と遭遇していた。2度にわたり死刑が執行されたが死に切れず、
全身を癌に冒されているにもかかわらず、その男には死が訪れない。
2人が直面した奇妙な患者たちに秘められたものは何か?
期待の新人作家が放つ、ホラーとヒューマン・ドラマが渾然一体となった傑作。
***
自分がとても尊敬する、知り合いの作家さんの著作です。
本作に使われているいくつかのファクターについて
(偶然にも)以前小説を書くために勉強しまくっていたせいか、
作中に張られた伏線にはかなり早い段階で気づいてしまった。
それでもラストの〝涙〟のシーンには泣きそうになったし、
もし自分に事前知識がなければもっと心を揺さぶられたのにと思うと悔しい。
それにしても著者のルカさんは個性的な男性の描写がうまい。
偏見かも知れないけど女性作家の描く男性像は型に嵌まってしまいがちなことが多いので、
この才能は貴重だと思う。
主人公の元同棲相手、特に派手な台詞やアクションをぶちかますわけでもないのに
いっそすがすがしいほどに嫌な奴すぎて笑える。
ストーカーの行動にも、鳥肌立ちつつ爆笑してしまった。
確かにあんなことされたらマヨネーズ食べられなくなるよな。。。
(私もあるトラウマから豚肉が食べられなくなったことがある。克服したけど)
ファンタジック・ミステリですが、大人の女性の精神的成長を描いた作品としても読めます。
人は自分が認める誰かに生き方やポリシーを揺さぶられがちだけど、
こんな風に自分ひとりの力で立てたらいいなと常々思っていたので染みた。
本作の元のタイトル〝カウントテン〟とうまく絡ませて表現されているところもよかった。
ただ、あくまで個人的には、ラスト1ページは要らなかった気がする。
そこは読者の想像で十分に補えたと思うから。
あと、主人公の友人の終盤での、「何で私じゃ駄目だったんだろう」というひと言。
主人公より聡明で頭が回るのにどうしてそれがわからないの? と違和感が。
頭脳は友人、けれど感情を読み取る術は主人公のほうが長けていた、という設定だとしても
物語全体を通して切れ者だった彼女がそのシーンだけ鈍感でちぐはぐな印象を受けた。
その点以外は非常に面白く一気に読めた。
次はおそらく短編集かな。楽しみにしてます、ルカさん。
(ところで作中に出てくる犬のレナードは、やっぱり〝レナードの朝〟から来てるのかな?)
それにしてもプロメテウスとかアトラスとかイクシオンとか。。。
ギリシャ神話の神様って皆揃いも揃って拷問されまくりだよな。。。
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