「幕が開きます。もう逃げられませんよ」
本選集は日本推理作家協会が、1996年に雑誌等に発表された数多い短篇推理小説から、
すぐれた15篇の傑作を選出して、推理小説界とSF界の1996年の展望と共に収録した
代表作アンソロジー「決定版推理小説年鑑」です。
★収録作品★
子を思う闇/貫井徳郎
経理課心中/山田正紀
プラットホームのカオス/歌野晶午
マリーゴールド/永井するみ
猟奇小説家/我孫子武丸
音の密室/今邑彩
彼なりの美学/小池真理子
刑事部屋(でかべや)の容疑者たち/今野敏
鑑定証拠/中嶋博行
わざわざの鎖/佐野洋
背信(シザーズ)の交点(クロッシング)/法月綸太郎
右手に秋風/渡辺容子
裁かれる女/連城三紀彦
死ぬ時は意地悪/西澤保彦
ポートレート/北森鴻
***
作品ごとのレビュー。
◆子を思う闇◆
各サイトで「短編小説の傑作」と絶賛されているのでドキドキしながら読んだものの
さして衝撃も感銘も受けず。
これだけの短さでよくもこんなにインパクトたっぷりに書けるなあとは思いましたが。
冒頭から読み手を惹きつける技量もすごい。
でも皆が傑作傑作というほどには感じなかった。私には佳作というところ。
◆経理課心中◆
物語の中核を成す二人の人間の思考回路がどちらもひとりよがりすぎで
話を動かすために著者に無理やり動かされている駒のように感じた。
なのでどうにもリアリティがない。
読後の感想は「あー楽しかった」という感じ。
◆プラットホームのカオス◆
伏線の張り方はうまいのですが、後半での〝犯人〟の挙動が浅はかすぎ。
相手を見れば自分を脅そうとしているのかどうかぐらいわかると思うのですが。
あと、(蛇足ですが)このタイトルセンスはどうにかならないものか。
結構楽しく読めたのにタイトルがこれじゃ。。。
◆マリーゴールド◆
隣の芝生は。。。ってやつですね。
ちょっと偶然が重なりすぎ&展開が強引すぎる気もしましたが、
あとオチがやや二時間ドラマ風だったのがあれですが、
それなりに楽しく読めました。
◆猟奇小説家◆
こういう、主人公も含めて誰が悪役で誰が被害者なのかわからない小説は
スリルがあって好きです。
オチはまさかそう来るかというぐらい怒涛の展開ですが、
ラストに登場するある人物は私的には好みだったり←狂人好き
◆音の密室◆
。。。。。。。。。
トリック読めすぎ。
くだらなすぎ。
やっつけで書いたんですか?と嫌味じゃなく本気で問いたい。
タイトルを見て期待していただけに拍子抜けもいいところだった。
作家志望の素人レベル。
◆彼なりの美学◆
ここまで長々と引っ張った割りにはオチは想像の範疇内だった。
ある有名な翻訳ものミステリのラストをちょっとひねったような話。
とりあえず突っ込みたいのは、西洋人はともかく日本人女性は
よっぽど不摂生してない限り26歳でシワなんかできたりしません。
女性作家なのになぜ知らない?
◆刑事部屋(でかべや)の容疑者たち◆
出だしでだいたいどういう話か、オチはどうなるのかは読めてしまいましたが
ショートショート風ですぱっとまとまっていて面白かった。
ただ、刑事たちがそろいもそろってお人よし(というかおせっかい?)すぎるのと、
ラストがちょっとクサいのが難。
◆鑑定証拠◆
一時期何を思ったかアホみたいに遺伝子工学の本を読み漁った自分には
オチが見えてしまい、中盤のDNAに関する長々とした説明もつらかった。
長々と引っ張る割りにそのオチもかなり単純だし。
ていうか容疑者の彼に対する疑問なんだけど、
腹違いの兄弟に遺産をとられるのが嫌で恋人と養子縁組したはいいけど、
もし彼女がとんだ食わせ物だったら今後どうするつもりなんだろう?
その点は普通にあんな軽い女じゃなくて賢明な女性が恋人という設定にしたほうが
よかったと思うんだけど。。。
ラスト一行には笑いました。
◆わざわざの鎖◆
読んだばかりなのにもう記憶がおぼろげで何も感想が書けない。
ものすごく失礼だけどこの人の作品はいつもそう。
◆背信(シザーズ)の交点(クロッシング)◆
鉄道ミステリ!? と一瞬引きましたが(←超苦手)
乗り物はあくまでミステリを盛り上げるためのガジェットとして使われているだけで
ベースは王道本格ミステリ。非常に面白く読めた。
小説家である主人公が作中で著作をボロクソに言われているシーンに
著者が重なってしまい思わず吹いた。
◆右手に秋風◆
女Gメン(Gウィメン?)かっこいい。
文章表現が面白くて笑えた。
それにしてもオブラートで変身できるなんて知らなかったな。。。今度やってみよ。
トリックは大したことないですが(というか「え、これミステリ?」って感じですが)
ヒロインのど根性が好きです。ホレます。
◆裁かれる女◆
翻訳ものミステリにありそうな話。
一人の人間の複雑な心情を破綻なく書き上げた筆力には感服。
ただ、〝妻〟って単語を使うのはちょっといやかなりアンフェアだろ。
あの登場人物にこの単語を使わせたいなら、あの人物をもっと変態風に書かなきゃ
どうしても違和感が拭えない。
◆死ぬ時は意地悪◆
ひと言で言えば「つまらない」。
出だしはいい感じで引き込まれたのに。。。この著者の書く話はほんと当たり外れ多いです。
ていうかこれ匠千暁シリーズだったんですね。。。この探偵も影が薄くて
今まで面白いと思ったためしがないんですが。。。
〝スコッチ・ゲーム〟が評判いいので見切らずに今度読んでみようと思います。
◆ポートレート◆
香菜里屋シリーズはあまり好きじゃないのでどうにも読んでいて乗り切れなかった。
ってことを抜きにしてもあまり面白いとは思わなかった。
オチは不服。写真の種類がどうであれ、それが最近撮られたものか昔のものかぐらい
見た目や触り心地でわかるだろ。
しかも十数年以上前の作品なのでジェネレーションギャップがあって到底真実に
たどり着けない。当時中学生だったのに流行ってた記憶ないんだけどなあ。。。
忘れてるだけ??
終盤の主人公の〝孤独の心理〟にだけはひどく共感しました。あーあ、私も
大人になっちゃったんだなあ。。。
本選集は日本推理作家協会が、1996年に雑誌等に発表された数多い短篇推理小説から、
すぐれた15篇の傑作を選出して、推理小説界とSF界の1996年の展望と共に収録した
代表作アンソロジー「決定版推理小説年鑑」です。
★収録作品★
子を思う闇/貫井徳郎
経理課心中/山田正紀
プラットホームのカオス/歌野晶午
マリーゴールド/永井するみ
猟奇小説家/我孫子武丸
音の密室/今邑彩
彼なりの美学/小池真理子
刑事部屋(でかべや)の容疑者たち/今野敏
鑑定証拠/中嶋博行
わざわざの鎖/佐野洋
背信(シザーズ)の交点(クロッシング)/法月綸太郎
右手に秋風/渡辺容子
裁かれる女/連城三紀彦
死ぬ時は意地悪/西澤保彦
ポートレート/北森鴻
***
作品ごとのレビュー。
◆子を思う闇◆
各サイトで「短編小説の傑作」と絶賛されているのでドキドキしながら読んだものの
さして衝撃も感銘も受けず。
これだけの短さでよくもこんなにインパクトたっぷりに書けるなあとは思いましたが。
冒頭から読み手を惹きつける技量もすごい。
でも皆が傑作傑作というほどには感じなかった。私には佳作というところ。
◆経理課心中◆
物語の中核を成す二人の人間の思考回路がどちらもひとりよがりすぎで
話を動かすために著者に無理やり動かされている駒のように感じた。
なのでどうにもリアリティがない。
読後の感想は「あー楽しかった」という感じ。
◆プラットホームのカオス◆
伏線の張り方はうまいのですが、後半での〝犯人〟の挙動が浅はかすぎ。
相手を見れば自分を脅そうとしているのかどうかぐらいわかると思うのですが。
あと、(蛇足ですが)このタイトルセンスはどうにかならないものか。
結構楽しく読めたのにタイトルがこれじゃ。。。
◆マリーゴールド◆
隣の芝生は。。。ってやつですね。
ちょっと偶然が重なりすぎ&展開が強引すぎる気もしましたが、
あとオチがやや二時間ドラマ風だったのがあれですが、
それなりに楽しく読めました。
◆猟奇小説家◆
こういう、主人公も含めて誰が悪役で誰が被害者なのかわからない小説は
スリルがあって好きです。
オチはまさかそう来るかというぐらい怒涛の展開ですが、
ラストに登場するある人物は私的には好みだったり←狂人好き
◆音の密室◆
。。。。。。。。。
トリック読めすぎ。
くだらなすぎ。
やっつけで書いたんですか?と嫌味じゃなく本気で問いたい。
タイトルを見て期待していただけに拍子抜けもいいところだった。
作家志望の素人レベル。
◆彼なりの美学◆
ここまで長々と引っ張った割りにはオチは想像の範疇内だった。
ある有名な翻訳ものミステリのラストをちょっとひねったような話。
とりあえず突っ込みたいのは、西洋人はともかく日本人女性は
よっぽど不摂生してない限り26歳でシワなんかできたりしません。
女性作家なのになぜ知らない?
◆刑事部屋(でかべや)の容疑者たち◆
出だしでだいたいどういう話か、オチはどうなるのかは読めてしまいましたが
ショートショート風ですぱっとまとまっていて面白かった。
ただ、刑事たちがそろいもそろってお人よし(というかおせっかい?)すぎるのと、
ラストがちょっとクサいのが難。
◆鑑定証拠◆
一時期何を思ったかアホみたいに遺伝子工学の本を読み漁った自分には
オチが見えてしまい、中盤のDNAに関する長々とした説明もつらかった。
長々と引っ張る割りにそのオチもかなり単純だし。
ていうか容疑者の彼に対する疑問なんだけど、
腹違いの兄弟に遺産をとられるのが嫌で恋人と養子縁組したはいいけど、
もし彼女がとんだ食わせ物だったら今後どうするつもりなんだろう?
その点は普通にあんな軽い女じゃなくて賢明な女性が恋人という設定にしたほうが
よかったと思うんだけど。。。
ラスト一行には笑いました。
◆わざわざの鎖◆
読んだばかりなのにもう記憶がおぼろげで何も感想が書けない。
ものすごく失礼だけどこの人の作品はいつもそう。
◆背信(シザーズ)の交点(クロッシング)◆
鉄道ミステリ!? と一瞬引きましたが(←超苦手)
乗り物はあくまでミステリを盛り上げるためのガジェットとして使われているだけで
ベースは王道本格ミステリ。非常に面白く読めた。
小説家である主人公が作中で著作をボロクソに言われているシーンに
著者が重なってしまい思わず吹いた。
◆右手に秋風◆
女Gメン(Gウィメン?)かっこいい。
文章表現が面白くて笑えた。
それにしてもオブラートで変身できるなんて知らなかったな。。。今度やってみよ。
トリックは大したことないですが(というか「え、これミステリ?」って感じですが)
ヒロインのど根性が好きです。ホレます。
◆裁かれる女◆
翻訳ものミステリにありそうな話。
一人の人間の複雑な心情を破綻なく書き上げた筆力には感服。
ただ、〝妻〟って単語を使うのはちょっといやかなりアンフェアだろ。
あの登場人物にこの単語を使わせたいなら、あの人物をもっと変態風に書かなきゃ
どうしても違和感が拭えない。
◆死ぬ時は意地悪◆
ひと言で言えば「つまらない」。
出だしはいい感じで引き込まれたのに。。。この著者の書く話はほんと当たり外れ多いです。
ていうかこれ匠千暁シリーズだったんですね。。。この探偵も影が薄くて
今まで面白いと思ったためしがないんですが。。。
〝スコッチ・ゲーム〟が評判いいので見切らずに今度読んでみようと思います。
◆ポートレート◆
香菜里屋シリーズはあまり好きじゃないのでどうにも読んでいて乗り切れなかった。
ってことを抜きにしてもあまり面白いとは思わなかった。
オチは不服。写真の種類がどうであれ、それが最近撮られたものか昔のものかぐらい
見た目や触り心地でわかるだろ。
しかも十数年以上前の作品なのでジェネレーションギャップがあって到底真実に
たどり着けない。当時中学生だったのに流行ってた記憶ないんだけどなあ。。。
忘れてるだけ??
終盤の主人公の〝孤独の心理〟にだけはひどく共感しました。あーあ、私も
大人になっちゃったんだなあ。。。
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「治外法権なんだな。子宮は」
エンブリオ―それは受精後八週までの胎児。
天才産婦人科医・岸川は、人為的に流産させたエンブリオを培養し臓器移植をするという、
異常な「医療行為」に手を染めていた。
優しい院長として患者に慕われる裏で、彼は法の盲点をつき、倫理を無視した試みを重ねる。
彼が次に挑むのは、男性の妊娠実験…。
神の領域に踏み込んだ先端医療はどこへ向かうのか。
生命の尊厳を揺るがす衝撃の問題作。
***
本作の続編である〝インターセックス〟を先に読んでしまったので
なかなか手を出す気になれなかったのですが、ようやく読了。
岸川医師のマッドぶりはやはり第一作であるこちらのほうがすごかった。
ただ、続編のレビューにも書いたのですが、内容のほとんどを
セレブ同士の会話やカジノ等の娯楽やどうでもいい会話等に費やしてしまっているので
読んでいてだるだるでした。
どうせ蛇足を書くのなら、医学うんちくを書いてほしかった。
誰が医師としてではない、プライベートモードの主人公のことなんか知りたいもんか(でも
島田荘司氏の〝御手洗シリーズ〟の〝御手洗潔の一日〟的な話は大喜びで読んだ私です)。
平行して起こる数々のエピソードも、どれも中途半端に終わるし、
何だか小説と医者の日記の中間みたいな読み物を読んでいる気分にさせられた。
そして岸川医師、天才の癖に、中盤で起こるある事件の真相に気づくの遅すぎ。
まあだいたいが読み進めていくうちに、〝狂的な天才〟に見えていた彼がだんだん
〝腕のよさを笠に着る自己中なオッサン〟に自分の中で変化していったぐらいだしな。
やはり彼も、天才なれど人間なんでしょう。
オチなんかもう天才どころか〝ただの嫌がらせオヤジ〟だし(狂気より情けなさを感じた。
おまえは幼児か、と。偉そうに患者を救いたいとか言ってたプライドはどうした、と)。
帚木氏には今後もうちょっと、余計な描写をそぎ落としたシャープなものを書いてほしい。
料亭のエビの活けづくりとかモナコで買ったTシャツとかもうそういうネタはまじいらないから。
(そして水族館でのあのサメのダジャレ。正直殺意が湧いたのでほんとかんべんしてください)
というかこの著者、精神科医なのにどうして産婦人科ネタばっかり書くんだろう。
彼が全身全霊で書き上げた精神医療ものの長編を読んでみたいのに。
エンブリオ―それは受精後八週までの胎児。
天才産婦人科医・岸川は、人為的に流産させたエンブリオを培養し臓器移植をするという、
異常な「医療行為」に手を染めていた。
優しい院長として患者に慕われる裏で、彼は法の盲点をつき、倫理を無視した試みを重ねる。
彼が次に挑むのは、男性の妊娠実験…。
神の領域に踏み込んだ先端医療はどこへ向かうのか。
生命の尊厳を揺るがす衝撃の問題作。
***
本作の続編である〝インターセックス〟を先に読んでしまったので
なかなか手を出す気になれなかったのですが、ようやく読了。
岸川医師のマッドぶりはやはり第一作であるこちらのほうがすごかった。
ただ、続編のレビューにも書いたのですが、内容のほとんどを
セレブ同士の会話やカジノ等の娯楽やどうでもいい会話等に費やしてしまっているので
読んでいてだるだるでした。
どうせ蛇足を書くのなら、医学うんちくを書いてほしかった。
誰が医師としてではない、プライベートモードの主人公のことなんか知りたいもんか(でも
島田荘司氏の〝御手洗シリーズ〟の〝御手洗潔の一日〟的な話は大喜びで読んだ私です)。
平行して起こる数々のエピソードも、どれも中途半端に終わるし、
何だか小説と医者の日記の中間みたいな読み物を読んでいる気分にさせられた。
そして岸川医師、天才の癖に、中盤で起こるある事件の真相に気づくの遅すぎ。
まあだいたいが読み進めていくうちに、〝狂的な天才〟に見えていた彼がだんだん
〝腕のよさを笠に着る自己中なオッサン〟に自分の中で変化していったぐらいだしな。
やはり彼も、天才なれど人間なんでしょう。
オチなんかもう天才どころか〝ただの嫌がらせオヤジ〟だし(狂気より情けなさを感じた。
おまえは幼児か、と。偉そうに患者を救いたいとか言ってたプライドはどうした、と)。
帚木氏には今後もうちょっと、余計な描写をそぎ落としたシャープなものを書いてほしい。
料亭のエビの活けづくりとかモナコで買ったTシャツとかもうそういうネタはまじいらないから。
(そして水族館でのあのサメのダジャレ。正直殺意が湧いたのでほんとかんべんしてください)
というかこの著者、精神科医なのにどうして産婦人科ネタばっかり書くんだろう。
彼が全身全霊で書き上げた精神医療ものの長編を読んでみたいのに。
あんたは、神か?
この作品のあと、オウム真理教の事件が起きた――。
改造バイクで暴走するジョーは、麻薬漬けの知人を救出するため狂信者集団に潜入する。
性と麻薬と宗教を描いた長篇ハードボイルド 。
***
主人公とヒロイン・律子が教団に潜入するまでがやたら冗長できつかった。
ロードムービーならぬロード小説&バイクうんちく小説と化してたし。。。
(そのあたりについては終章で著者本人が同じことを書いていて笑ったけど)
潜入後は教祖とのやり合いが楽しめたし律子の空手は格好いいしで
一気にクオリティ上がりましたが。
ただひとつ疑問なのは、律子が男として生まれてこられなかったことに
コンプレックスを持ち、男という生き物に憧憬を抱いているなら、
男性器に興味を示すだけじゃなく、妬みや嫌悪をも同時に顕すだろうに
そういった描写がまったくなかったこと。
あそこまで精神が不安定で些細なことで狂ってしまう律子なのに、
そこだけ性格が単純で違和感を感じた。
まあともかく、オウム真理教が台頭し始める3年も前に
こんな作品が書ける萬月氏の慧眼(というか先見の明?)には感心させられる。
なかなかの良作なのではと思う。
この作品のあと、オウム真理教の事件が起きた――。
改造バイクで暴走するジョーは、麻薬漬けの知人を救出するため狂信者集団に潜入する。
性と麻薬と宗教を描いた長篇ハードボイルド 。
***
主人公とヒロイン・律子が教団に潜入するまでがやたら冗長できつかった。
ロードムービーならぬロード小説&バイクうんちく小説と化してたし。。。
(そのあたりについては終章で著者本人が同じことを書いていて笑ったけど)
潜入後は教祖とのやり合いが楽しめたし律子の空手は格好いいしで
一気にクオリティ上がりましたが。
ただひとつ疑問なのは、律子が男として生まれてこられなかったことに
コンプレックスを持ち、男という生き物に憧憬を抱いているなら、
男性器に興味を示すだけじゃなく、妬みや嫌悪をも同時に顕すだろうに
そういった描写がまったくなかったこと。
あそこまで精神が不安定で些細なことで狂ってしまう律子なのに、
そこだけ性格が単純で違和感を感じた。
まあともかく、オウム真理教が台頭し始める3年も前に
こんな作品が書ける萬月氏の慧眼(というか先見の明?)には感心させられる。
なかなかの良作なのではと思う。
今夜は震えて眠れ――。
闇に身を潜め続ける犯人。川崎市で起きた連続児童殺害事件の捜査は行き詰まりを見せ、
ついに神奈川県警は現役捜査官をテレビニュースに出演させるという荒技に踏み切る。
白羽の矢が立ったのは、6年前に誘拐事件の捜査に失敗、記者会見でも大失態を演じた
巻島史彦警視だった――。史上初の劇場型捜査が幕を開ける。
第7回大藪春彦賞を受賞し、「週刊文春ミステリーベストテン」第1位に輝くなど、
2004年のミステリーシーンを席巻した警察小説の傑作。
***
よくできた二時間ドラマでした。。。というのが率直な感想。
はっきり言って映画化されたり大きい賞を獲るほどの出来ではない。
面白くて一気に読めたけど、深みも含蓄も感じられない、単なるエンターテインメント。
だいたいが警察がテレビ局とタッグを組み、捜査官がテレビに出ることで
犯人をあぶり出そうというのが目的であるはずなのに、結局最後は
主人公(捜査官)がテレビに出ようが出まいが犯人捕まってたんじゃないの? オチ。
テレビを通しての主人公と犯人とのやり取りも、はじめは面白く読めるけれど
それが延々淡々と続くので後半に差し掛かるころにはダレてきた。
テレビ越しの正義VS.悪のバトルを楽しみたいなら、本作よりも
デスノートのほうがはるかにおすすめ。
ていうか、事件解決の決め手が奇跡的偶然二連発のおかげってどうよ?
二度目の偶然にはまあまだ眼をつぶるとしても、最初のはご都合主義すぎるだろ。
ちなみに個人的には、
犯人VS.主人公
より、
犯人VS.植草(主人公と同じく刑事)
のほうがよっぽど面白かった。
前にレンタルで映画版を借りかけたことがあるけど、借りなくてよかった。
最後に、重箱の隅をつつくようでなんですが、著者の雫井氏、ネーミングセンスやばいです。
犯人が〝バッドマン〟て。。。
主人公の若いころのあだ名が〝ヤングマン〟て。。。
犯人の手紙に毎回書かれている「フハハハハハ」も正直サムいし。。。
〝黄泉がえり〟で、原作では〝マーチン〟だった女性歌手が、映画では
〝RUI〟に変更されていたときの物悲しさを感じちゃったよ。。。
蛇足ですがこの小説、舞城王太郎氏がリメイクして書いたら
かなり面白いかもしれないと思ってみたり(いや真剣に)。
闇に身を潜め続ける犯人。川崎市で起きた連続児童殺害事件の捜査は行き詰まりを見せ、
ついに神奈川県警は現役捜査官をテレビニュースに出演させるという荒技に踏み切る。
白羽の矢が立ったのは、6年前に誘拐事件の捜査に失敗、記者会見でも大失態を演じた
巻島史彦警視だった――。史上初の劇場型捜査が幕を開ける。
第7回大藪春彦賞を受賞し、「週刊文春ミステリーベストテン」第1位に輝くなど、
2004年のミステリーシーンを席巻した警察小説の傑作。
***
よくできた二時間ドラマでした。。。というのが率直な感想。
はっきり言って映画化されたり大きい賞を獲るほどの出来ではない。
面白くて一気に読めたけど、深みも含蓄も感じられない、単なるエンターテインメント。
だいたいが警察がテレビ局とタッグを組み、捜査官がテレビに出ることで
犯人をあぶり出そうというのが目的であるはずなのに、結局最後は
主人公(捜査官)がテレビに出ようが出まいが犯人捕まってたんじゃないの? オチ。
テレビを通しての主人公と犯人とのやり取りも、はじめは面白く読めるけれど
それが延々淡々と続くので後半に差し掛かるころにはダレてきた。
テレビ越しの正義VS.悪のバトルを楽しみたいなら、本作よりも
デスノートのほうがはるかにおすすめ。
ていうか、事件解決の決め手が奇跡的偶然二連発のおかげってどうよ?
二度目の偶然にはまあまだ眼をつぶるとしても、最初のはご都合主義すぎるだろ。
ちなみに個人的には、
犯人VS.主人公
より、
犯人VS.植草(主人公と同じく刑事)
のほうがよっぽど面白かった。
前にレンタルで映画版を借りかけたことがあるけど、借りなくてよかった。
最後に、重箱の隅をつつくようでなんですが、著者の雫井氏、ネーミングセンスやばいです。
犯人が〝バッドマン〟て。。。
主人公の若いころのあだ名が〝ヤングマン〟て。。。
犯人の手紙に毎回書かれている「フハハハハハ」も正直サムいし。。。
〝黄泉がえり〟で、原作では〝マーチン〟だった女性歌手が、映画では
〝RUI〟に変更されていたときの物悲しさを感じちゃったよ。。。
蛇足ですがこの小説、舞城王太郎氏がリメイクして書いたら
かなり面白いかもしれないと思ってみたり(いや真剣に)。
……あなたを信じて。
同級生の宮前由紀子は俺の子を身ごもったまま、そして
俺の愛が本物だったと信じたまま事故死した。
俺にできる償いは本気の関係だったと皆に告白することと事故の真相を暴くことだけだった。
やがてある女教師が関わっていたことを突き止めるが、彼女の絞殺体が発見されるや、
一転俺は容疑者にされてしまう。
***
今や知らない人はいないであろうベストセラー作家のデビュー第二作。
部屋を掃除していたら高校時代図書室で借りパクしていたものが出。。。ゲフンゲフン
ので、とりあえず読んでみました。
やっぱり若書きだけあって(いや、関係ないかもだけど)、構成やストーリーの面白さが微妙。
謎を解くのに重要な鍵はほとんど後出しジャンケンだし、
警察が調べるに決まっているはずのところを調べなかったりするし(しかもそれが
事件解決の決め手だし)。
そもそも教師に追われて逃げているうちに車に撥ねられて死んだ少女、って設定も
あまり興味をそそられない。え? 別に逃げなくても適当にかわすなりしらばっくれるなり
すればいいんじゃ。。。としか思えず。
この少女が妊娠していたことも後々に何らかの伏線にでもなってくるのかと思いきや
なーんもないままジ・エンド。言い方が下品ですがこれじゃこの女の子ただの孕み損。
作中で主人公の少年を動かすための単なるファクターとしてしか使われておらず
女としてちょっとイラっときた。
というかこの主人公、思考も行動もやることなすことみんな癇に障る。まあ要するに
好きになれないタイプの主人公なんだよな。
あんまりおすすめできないです。
それにしてもこんな内容の小説がよく高校の図書館にあったな。
まさか「子供のくせに妊娠なんかする(させる)とこんな目に遭うぞおまえら」的な
教師たちの訓示が。。。???(((( ;゚Д゚)))ヒャー
同級生の宮前由紀子は俺の子を身ごもったまま、そして
俺の愛が本物だったと信じたまま事故死した。
俺にできる償いは本気の関係だったと皆に告白することと事故の真相を暴くことだけだった。
やがてある女教師が関わっていたことを突き止めるが、彼女の絞殺体が発見されるや、
一転俺は容疑者にされてしまう。
***
今や知らない人はいないであろうベストセラー作家のデビュー第二作。
部屋を掃除していたら高校時代図書室で借りパクしていたものが出。。。ゲフンゲフン
ので、とりあえず読んでみました。
やっぱり若書きだけあって(いや、関係ないかもだけど)、構成やストーリーの面白さが微妙。
謎を解くのに重要な鍵はほとんど後出しジャンケンだし、
警察が調べるに決まっているはずのところを調べなかったりするし(しかもそれが
事件解決の決め手だし)。
そもそも教師に追われて逃げているうちに車に撥ねられて死んだ少女、って設定も
あまり興味をそそられない。え? 別に逃げなくても適当にかわすなりしらばっくれるなり
すればいいんじゃ。。。としか思えず。
この少女が妊娠していたことも後々に何らかの伏線にでもなってくるのかと思いきや
なーんもないままジ・エンド。言い方が下品ですがこれじゃこの女の子ただの孕み損。
作中で主人公の少年を動かすための単なるファクターとしてしか使われておらず
女としてちょっとイラっときた。
というかこの主人公、思考も行動もやることなすことみんな癇に障る。まあ要するに
好きになれないタイプの主人公なんだよな。
あんまりおすすめできないです。
それにしてもこんな内容の小説がよく高校の図書館にあったな。
まさか「子供のくせに妊娠なんかする(させる)とこんな目に遭うぞおまえら」的な
教師たちの訓示が。。。???(((( ;゚Д゚)))ヒャー
私たちの心は壊れてなんかいない。
鈴虫だけが知っている、過去の完全犯罪。
蝶に導かれて赴いた村で起きた猟奇殺人事件。
いま最も注目を集める新鋭・道尾秀介が満を持して送り出す、初の連作短編集!
★収録作品★
鈴虫
犭(ケモノ)
よいぎつね
箱詰めの文字
冬の鬼
悪意の顔
***
導入部から物語に入り込める数少ない作家さん。
単行本化する前から雑誌の掲載作を読むほど好きな人ですが、
ここ最近は性虐待ネタが多く引き気味で、この短編もそうだったらどうしようと
少し心配していたけれど杞憂に終わった。
道尾氏の初短編集、最高に楽しめました。
ミステリというジャンルにおどろおどろしさや異常性、普通のミステリとは異質のラストを
この著者が持ってこられるのは、やっぱりホラー系の賞でデビューした人だからだろうか。
ミステリ畑一本でやってきた作家さんたちとは何かミステリの書き方、物語の運びが
違っているというか独特なんだよな。
だからこそ先が読めない、先が読めてもその一味違った描写力で
最後までがっつり読ませてくれるのですが。
今回なんかミステリ+ホラーに加えて何気に純文学的テイストまで入っているし。
異なる三つのジャンルをまったく違和感なく融合させられるセンスには脱帽のひと言。
ちょっとオチの弱い話もあったりしましたが、全体的にかなりの良作だと思う。
おすすめです。
それにしても、全編に〝S〟なる人物が登場するのは、これは〝somebody〟のS
なんだろうか。こういうことは誰にでも起こりうるよ、というメッセージ的な。。。
それとも罪を表す〝sin〟? 意表をついて道尾秀介のS?笑
全話にカラスが出てくるのはまあ不吉・不幸・死の象徴としても
こればかりは謎。誰かわかったら教えてください。答えなんてないんだろうけど。。。
あー、それにしても、久々にいい作品を読めて嬉しかったー。
いい出会いをしたな。
鈴虫だけが知っている、過去の完全犯罪。
蝶に導かれて赴いた村で起きた猟奇殺人事件。
いま最も注目を集める新鋭・道尾秀介が満を持して送り出す、初の連作短編集!
★収録作品★
鈴虫
犭(ケモノ)
よいぎつね
箱詰めの文字
冬の鬼
悪意の顔
***
導入部から物語に入り込める数少ない作家さん。
単行本化する前から雑誌の掲載作を読むほど好きな人ですが、
ここ最近は性虐待ネタが多く引き気味で、この短編もそうだったらどうしようと
少し心配していたけれど杞憂に終わった。
道尾氏の初短編集、最高に楽しめました。
ミステリというジャンルにおどろおどろしさや異常性、普通のミステリとは異質のラストを
この著者が持ってこられるのは、やっぱりホラー系の賞でデビューした人だからだろうか。
ミステリ畑一本でやってきた作家さんたちとは何かミステリの書き方、物語の運びが
違っているというか独特なんだよな。
だからこそ先が読めない、先が読めてもその一味違った描写力で
最後までがっつり読ませてくれるのですが。
今回なんかミステリ+ホラーに加えて何気に純文学的テイストまで入っているし。
異なる三つのジャンルをまったく違和感なく融合させられるセンスには脱帽のひと言。
ちょっとオチの弱い話もあったりしましたが、全体的にかなりの良作だと思う。
おすすめです。
それにしても、全編に〝S〟なる人物が登場するのは、これは〝somebody〟のS
なんだろうか。こういうことは誰にでも起こりうるよ、というメッセージ的な。。。
それとも罪を表す〝sin〟? 意表をついて道尾秀介のS?笑
全話にカラスが出てくるのはまあ不吉・不幸・死の象徴としても
こればかりは謎。誰かわかったら教えてください。答えなんてないんだろうけど。。。
あー、それにしても、久々にいい作品を読めて嬉しかったー。
いい出会いをしたな。
理論的には考えられるが、現実的にはありえない――。
男が自宅で毒殺されたとき、離婚を切り出されていたその妻には鉄壁のアリバイがあった。
草薙刑事は美貌の妻に魅かれ、毒物混入方法は不明のまま。
湯川が推理した真相は――。
***
〝容疑者Xの献身〟に比べるとトリックのインパクトは数段落ちますが、
本作の驚くべき点はトリックや謎解き部分にはあらず。
「そんなのミステリじゃないじゃん」という人もいるかもしれませんが、
こういうサプライズを与えてくれるミステリも斬新でいいのではないでしょうか。
少なくともミステリを死ぬほど読んできた私にも十分に楽しめました。
物語の裏側がすべて明るみに出たとき、トリックがわかったとき以上に驚き、戦慄もした。
ただ惜しむらくは、ヒロインの夫がどうしてそこまで子供を作ることにこだわったかが
不明瞭だった点。そこをもうちょっと詳しく書いてほしかった。
そもそもどうしても子供がほしいなら、結婚したい相手と婚姻手続きを踏む前に
事情を話して子供を産める身体かどうか前もって検査しに行ってもらえば
それで済むことなのに。
そのへんのリアリティの欠如がなければもっといい作品になったのにな、とちょっと
勿体なく思ってしまった。
ところで作中で内海薫刑事がipodで福山雅治を聴いていたのには笑ってしまった。
遊び心あるなあ東野氏。やっぱり大阪出身の人はノリがいいな^-^;
やーでも本作を読了後、タイトルを見返すと「ああ、だからか!!!」と
思い切りはっとさせられます。
島田荘司氏の〝斜め屋敷の殺人〟と同じ衝撃があったな、タイトルと内容のこの関連性には。
ヘタすると内容よりも感動したかも。
まるで時限爆弾にも似た救いの手、差し伸べられたらあなたはそれを握り返しますか?
男が自宅で毒殺されたとき、離婚を切り出されていたその妻には鉄壁のアリバイがあった。
草薙刑事は美貌の妻に魅かれ、毒物混入方法は不明のまま。
湯川が推理した真相は――。
***
〝容疑者Xの献身〟に比べるとトリックのインパクトは数段落ちますが、
本作の驚くべき点はトリックや謎解き部分にはあらず。
「そんなのミステリじゃないじゃん」という人もいるかもしれませんが、
こういうサプライズを与えてくれるミステリも斬新でいいのではないでしょうか。
少なくともミステリを死ぬほど読んできた私にも十分に楽しめました。
物語の裏側がすべて明るみに出たとき、トリックがわかったとき以上に驚き、戦慄もした。
ただ惜しむらくは、ヒロインの夫がどうしてそこまで子供を作ることにこだわったかが
不明瞭だった点。そこをもうちょっと詳しく書いてほしかった。
そもそもどうしても子供がほしいなら、結婚したい相手と婚姻手続きを踏む前に
事情を話して子供を産める身体かどうか前もって検査しに行ってもらえば
それで済むことなのに。
そのへんのリアリティの欠如がなければもっといい作品になったのにな、とちょっと
勿体なく思ってしまった。
ところで作中で内海薫刑事がipodで福山雅治を聴いていたのには笑ってしまった。
遊び心あるなあ東野氏。やっぱり大阪出身の人はノリがいいな^-^;
やーでも本作を読了後、タイトルを見返すと「ああ、だからか!!!」と
思い切りはっとさせられます。
島田荘司氏の〝斜め屋敷の殺人〟と同じ衝撃があったな、タイトルと内容のこの関連性には。
ヘタすると内容よりも感動したかも。
まるで時限爆弾にも似た救いの手、差し伸べられたらあなたはそれを握り返しますか?
もしもし、聞こえますか?
母親を刺し殺した“僕”は、自転車で家を飛び出し駅へ走る。
目的地もなく電車に乗り、終点で降りるが行くあてもない。
公園のトイレで自分を殴り、髪を切って自らの風貌を変え、見知らぬ街をさまよう。
やがて所持金が底をつき、空腹が限界に達したとき、わずか3円でパンを譲ってくれたのは
ホームレスのハタさんだった。
誘われるまま“僕”は、経歴を詐称してホームレスたちとテント小屋で生活を共にするようになる。
他人の事情には立ち入らないという暗黙の了解のうえで、なぜか親切にしてくれる彼らに、
“僕”は少しずつ心を開き始めるが――。
***
これは〝生まれることが出来なかった〟少年の物語。
本作の主人公はこの世に〝産まれた〟だけであって〝生まれる〟ことはできなかった。
ただ母親の腹の中から外へと排出されただけだった。
その原因は作品内では特に言及されてはいない。
母親の子の育み方、成長過程での環境、本人の器質・または気質的なもの、
そういった複合要素が複雑に絡み合って、子を生かしたり殺したりする。
まだ母親の胎内に宿っているうちに。そしてこの少年のように、外の世界に出されたあとに。
ラストシーンがそのことを明確に表していると思う。
それにしても、22、3歳の若さでここまで文章がうまいのはすごい。
正直読んでいて自分が小説書く気失くすほど。
二つの異なる情景が読み手の頭の中で交錯し、重なった瞬間の美しさと離れていく際の余韻は、
そこらのプロの比じゃない。
本作がデビュー作である天埜氏、すばる文学賞じゃなく純文学系の(たとえば文藝賞とか
新潮新人賞)賞に送ったほうが更に評価は高かったんじゃないか、むしろ
そっちのほうが作風的に合ってるんじゃないかと思うんだけど
本人はそこらへんどう思ってるんだろ?
すばるはちょこっとエンタメ方向だからな。
何にせよ今後に期待。
彼の実家も結構地元だし、街でばったり会えたらいいなー@
応援します。
母親を刺し殺した“僕”は、自転車で家を飛び出し駅へ走る。
目的地もなく電車に乗り、終点で降りるが行くあてもない。
公園のトイレで自分を殴り、髪を切って自らの風貌を変え、見知らぬ街をさまよう。
やがて所持金が底をつき、空腹が限界に達したとき、わずか3円でパンを譲ってくれたのは
ホームレスのハタさんだった。
誘われるまま“僕”は、経歴を詐称してホームレスたちとテント小屋で生活を共にするようになる。
他人の事情には立ち入らないという暗黙の了解のうえで、なぜか親切にしてくれる彼らに、
“僕”は少しずつ心を開き始めるが――。
***
これは〝生まれることが出来なかった〟少年の物語。
本作の主人公はこの世に〝産まれた〟だけであって〝生まれる〟ことはできなかった。
ただ母親の腹の中から外へと排出されただけだった。
その原因は作品内では特に言及されてはいない。
母親の子の育み方、成長過程での環境、本人の器質・または気質的なもの、
そういった複合要素が複雑に絡み合って、子を生かしたり殺したりする。
まだ母親の胎内に宿っているうちに。そしてこの少年のように、外の世界に出されたあとに。
ラストシーンがそのことを明確に表していると思う。
それにしても、22、3歳の若さでここまで文章がうまいのはすごい。
正直読んでいて自分が小説書く気失くすほど。
二つの異なる情景が読み手の頭の中で交錯し、重なった瞬間の美しさと離れていく際の余韻は、
そこらのプロの比じゃない。
本作がデビュー作である天埜氏、すばる文学賞じゃなく純文学系の(たとえば文藝賞とか
新潮新人賞)賞に送ったほうが更に評価は高かったんじゃないか、むしろ
そっちのほうが作風的に合ってるんじゃないかと思うんだけど
本人はそこらへんどう思ってるんだろ?
すばるはちょこっとエンタメ方向だからな。
何にせよ今後に期待。
彼の実家も結構地元だし、街でばったり会えたらいいなー@
応援します。
暗い場所で眠れ。
天災ですべてを失った中学生の信之。共に生き残った幼なじみの美花を救うため、
彼はある行動をとる。
二十年後、過去を封印して暮らす信之の前に、もう一人の生き残り・輔が姿を現わす。
あの秘密の記憶から、今、新たな黒い影が生まれようとしていた――。
***
要所要所にははっとさせられる台詞、描写があったりはするのですが、
全体的には模糊とした、テーマの見えづらい物語だった。
出来のあまりよくない純文小説、といったような。
各エピソードも過去にどこかで読んだようなものばかりだし、
この手の純文学的作品になくてはならない
狂的にインパクトのある見せ場がないことにも不満を感じた。
〝まほろ駅前多田便利軒〟でしをんさんの大ファンになり、期待していただけに残念。
「受けた傷は愛情では本当には癒えない」
という言葉の哀しさにはやられましたが。
よくテレビや何かでやっている「誰々の助けがあったから今の自分がいる」
みたいなドキュメンタリー、あれも結局、傷ついた本人が自分の力で回復したんであって
真の意味では他人に助けてもらうことは無理なんだよな。
余談ですが私の友人も、精神的に本当に参っていたときに恋人がアパートに訪ねてくるたび
「頼むから早く帰ってくれ」と内心思っていたそうだし(別に倦怠期とかいうわけでもないのに)。
何で皆こんなに独りぼっちなんだろう。
本作の登場人物たちを見て思いましたが、それは本の中の世界に限らず
言えることなんだろうな。
桜庭一樹さんの〝私の男〟に空気感が似ているので、あっちが好きな人は
読んでみるのもいいかも(私としてはあっちのほうがダントツで好きですが
まあそこは人それぞれだし)。
天災ですべてを失った中学生の信之。共に生き残った幼なじみの美花を救うため、
彼はある行動をとる。
二十年後、過去を封印して暮らす信之の前に、もう一人の生き残り・輔が姿を現わす。
あの秘密の記憶から、今、新たな黒い影が生まれようとしていた――。
***
要所要所にははっとさせられる台詞、描写があったりはするのですが、
全体的には模糊とした、テーマの見えづらい物語だった。
出来のあまりよくない純文小説、といったような。
各エピソードも過去にどこかで読んだようなものばかりだし、
この手の純文学的作品になくてはならない
狂的にインパクトのある見せ場がないことにも不満を感じた。
〝まほろ駅前多田便利軒〟でしをんさんの大ファンになり、期待していただけに残念。
「受けた傷は愛情では本当には癒えない」
という言葉の哀しさにはやられましたが。
よくテレビや何かでやっている「誰々の助けがあったから今の自分がいる」
みたいなドキュメンタリー、あれも結局、傷ついた本人が自分の力で回復したんであって
真の意味では他人に助けてもらうことは無理なんだよな。
余談ですが私の友人も、精神的に本当に参っていたときに恋人がアパートに訪ねてくるたび
「頼むから早く帰ってくれ」と内心思っていたそうだし(別に倦怠期とかいうわけでもないのに)。
何で皆こんなに独りぼっちなんだろう。
本作の登場人物たちを見て思いましたが、それは本の中の世界に限らず
言えることなんだろうな。
桜庭一樹さんの〝私の男〟に空気感が似ているので、あっちが好きな人は
読んでみるのもいいかも(私としてはあっちのほうがダントツで好きですが
まあそこは人それぞれだし)。
だいじょうぶ。ひとりじゃない。
だいじょうぶ。溶けている。
朝子は、活気あふれる19歳のロックシンガーだ。ライブで人気を集めるバンドを率いている。
騙されて行った京都で、そんな彼らが遭遇する愛と冒険の日々…。
切ない恋心に胸を焦がしたことのある人なら、
自分の不誠実な生き方に後ろめたい想いを抱いて生きている人なら、
読んで涙せずにはいられない、花村萬月、鮮烈のデビュー作。
第2回小説すばる新人賞受賞作。
★収録作品★
ゴッド・ブレイス物語
タチカワベース・ドラッグスター
***
絡みつくような性描写。
咳払い。
赤面(自意識の過剰)。
神という概念。
音楽。
母性。
「とーちゃん」「ねーちゃん」と伸ばす子供の台詞。
花村氏は大好きな作家さんなのですがデビュー作を読むのは初めてで、
それでもやっぱり花村氏を思わせる上記のようなキーワードは随所に散りばめられていて
人の根源はそうそう変わらないものだなと何だか嬉しく思ったり。
ただ、やっぱり文章はどこか若書きで、本作における花村氏の筆致は
どこか金原ひとみさんを髣髴とさせるものがあった。
まあ、暴力&性を描くことが多いという点は似てるからな。
ストーリーとしては、ややご都合主義的な部分が多かったけど、
&主人公の心の動きが読みづらいきらいはあったけど、
デビュー作でここまで書けるのはやはりすごいんじゃないかと思う。
本作で唯一腑に落ちないのは、ヒロインのボーカリストの
「英語の歌では日本人に伝わらない」
と英語の歌詞をわざわざ日本語に直して歌ってみたりするそのスタンス。
私も歌詞はすごく大事なものだと思うけど、歌声やメロディに比べたら
瑣末なものだと思うし、現に本当にいい曲は意味がわからなくても胸を打つから
やはりそのメロディに一番ぴったりはまるリズムの歌詞で歌うのが一番と思う。
もちろん、歌詞を理解した上で聴けば感動もひとしおだけど。
でもヒロインの、かわいくて色気があって男前なキャラは好きです。
ところで本作に登場するシスターテレジアは花村氏の別の作品にも出てくるのですが、
実際教護院で過ごした経験を持つ花村氏のことだから
実在の人物なのかもな、ひょっとしたら。
だいじょうぶ。溶けている。
朝子は、活気あふれる19歳のロックシンガーだ。ライブで人気を集めるバンドを率いている。
騙されて行った京都で、そんな彼らが遭遇する愛と冒険の日々…。
切ない恋心に胸を焦がしたことのある人なら、
自分の不誠実な生き方に後ろめたい想いを抱いて生きている人なら、
読んで涙せずにはいられない、花村萬月、鮮烈のデビュー作。
第2回小説すばる新人賞受賞作。
★収録作品★
ゴッド・ブレイス物語
タチカワベース・ドラッグスター
***
絡みつくような性描写。
咳払い。
赤面(自意識の過剰)。
神という概念。
音楽。
母性。
「とーちゃん」「ねーちゃん」と伸ばす子供の台詞。
花村氏は大好きな作家さんなのですがデビュー作を読むのは初めてで、
それでもやっぱり花村氏を思わせる上記のようなキーワードは随所に散りばめられていて
人の根源はそうそう変わらないものだなと何だか嬉しく思ったり。
ただ、やっぱり文章はどこか若書きで、本作における花村氏の筆致は
どこか金原ひとみさんを髣髴とさせるものがあった。
まあ、暴力&性を描くことが多いという点は似てるからな。
ストーリーとしては、ややご都合主義的な部分が多かったけど、
&主人公の心の動きが読みづらいきらいはあったけど、
デビュー作でここまで書けるのはやはりすごいんじゃないかと思う。
本作で唯一腑に落ちないのは、ヒロインのボーカリストの
「英語の歌では日本人に伝わらない」
と英語の歌詞をわざわざ日本語に直して歌ってみたりするそのスタンス。
私も歌詞はすごく大事なものだと思うけど、歌声やメロディに比べたら
瑣末なものだと思うし、現に本当にいい曲は意味がわからなくても胸を打つから
やはりそのメロディに一番ぴったりはまるリズムの歌詞で歌うのが一番と思う。
もちろん、歌詞を理解した上で聴けば感動もひとしおだけど。
でもヒロインの、かわいくて色気があって男前なキャラは好きです。
ところで本作に登場するシスターテレジアは花村氏の別の作品にも出てくるのですが、
実際教護院で過ごした経験を持つ花村氏のことだから
実在の人物なのかもな、ひょっとしたら。
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kovo
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女性
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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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