様々な事情から、家庭では暮らせない子どもたちが生活する児童養護施設「七海学園」。
ここでは「学園七不思議」と称される怪異が生徒たちの間で言い伝えられ、
今でも学園で起きる新たな事件に不可思議な謎を投げかけていた。
孤独な少女の心を支える“死から蘇った先輩”。
非常階段の行き止まりから、夏の幻のように消えた新入生。
女の子が六人揃うと、いるはずのない“七人目”が囁く暗闇のトンネル…。
七人の少女をめぐるそれぞれの謎は、“真実”の糸によってつながり、美しい円環を描いて、
希望の物語となる。
繊細な技巧が紡ぐ短編群が「大きな物語」を創り上げる、第十八回鮎川哲也賞受賞作。
★収録作品★
今は亡き星の光も
滅びの指輪
血文字の短冊
夏期転住
裏庭
暗闇の天使
七つの海を照らす星
***
新人賞の途中選考でよく見かける名前だったので、「おーついにこの人もデビューかー」と
知り合いでも何でもないのになんだか嬉しい気持ちになった。おめでとう七河さん。
本作は長編というよりは連作短編集、という印象。
現に四話目〝夏期転住〟は、以前七河氏が某新人賞に応募されていた
〝夏の幻の少女〟という作品を改稿したものと思うし(内容からいっても、作中にそのまま
〝夏の幻の少女〟という言葉が出てくることからも、この推測は当たってる可能性大。
昔書いた短編から話を膨らませて長編に仕上げる、という手法は、
道尾秀介氏もデビュー作〝背の眼〟や〝片眼の猿〟でやっているし(ちなみに
前者のオリジナルはこちらで、後者のオリジナルはこちらで読めます)。
物語別に言うと、一話目と二話目はとても面白く読めたのですが、それ以降は
若干ダレてしまっているというか全体に締まりがなくテーマも地味で(というか既にどこかで
読んだことのあるような新鮮味のない話で)、何より導入部・構成・オチがかぶり気味で
マンネリしてしまっていたのがもったいなかった(出だしが素晴らしいだけに)。
すべてが繋がる最終章も、「なるほどなあ」と関心はしたものの、「そうだったのかー!」と
驚くまでには至らなかった。ちょっと各話のこじつけ感が強かったせいと、
登場人物たちのキャラが一見強いようで実はそうでもないところがその要因かな。
児童養護施設等についてはよく勉強しているなあと関心しました。
文章は新人さんとは思えないハイレベルなものだし、物語も今の時代の問題を紐解くに
絶好の内容と思うのでおすすめです。
それにしても七河氏、回文の才能ありすぎ。本作には正直そんなに必要なかったと思うし
むしろくどいような気もしたけど、中の一つは感動で涙が出そうになってしまった(よくここまで
すごいものが思いつけたな、という感動&単純に俳句か何かのようできれいだった)。
凄いよ迦南、マジに参った企図。時経つ、今二時真ん中、宵越す。
。。。あーダメだ。下手な回文。
蛇足:
本作を読み終えたあと著者の名前をよく見るとあっと言わされます。
あー最初に気づきたかったー!
やーしかし物語以外のところにまでサプライズがあるとは思わなかった。好きだなーこういうの。
22歳だった。次の日、ぼくは53歳になっていた。
空白の31年。
ぼくは。きみは。ぼくたちは。
少しは幸せだったのだろうか。
銀色の雨にうたれ、肉体を乗っ取られた男。
彼を襲ったのは、不条理でやりきれない、人生の黄金期の収奪。
あらかじめ失われた、愛しい妻との日々。
おぼえのない過去を振り返る彼に、さらなる危険が迫る!
***
〝たったひとつの冴えたやりかた〟もしくは〝寄生獣〟っぽい作品。
前者はバリバリのSF、後者はSF+人間ドラマ、けれど
SF+本格ミステリ、っていうのはつくづく相容れないものだなーと本作を読んで改めて痛感。
まあそういったジャンル的なことを差し引いても、上に挙げた二作と本作ではそもそも
物語としてのレベルが違うので、本作を読むぐらいなら正直上記二つをおすすめします。
31年後の自分の身体の中で自我を覚醒させた21歳の本物の主人公。
その彼が31年後の世界を見て、自分の過ごした時代とのギャップに逐一驚くわけですが、
そんなもの既にその〝31年後〟の世界を生きている読者には「当たり前だろ」としか思えず
読んでいて退屈極まりない。その手の描写がちょっとだけなら「そりゃそうだろうなあ」と
微笑ましい気持ちにもなりますが、未来の世界に驚く主人公のエピソードがやたら多いので
次第に「もういいよ」と食傷気味に。
ミステリにつきものの殺人パートも、被害者たちが一人を除いて
皆まったく思い入れのない人物ばかりなので(だって初登場時に既に死体だし)、
殺されようがどうしようがまったく何の感慨もない。連続殺人もののミステリなら、普通
殺される人は少なからず生前に主人公と何かしらの絡みがあって、だからこそ殺されたときに
探偵役と一緒に憤ったり感情移入できるわけだし。
でも本作にはそれがないせいで読み進めるのがだるかった。
犯人の動機もえ、そんなこと? という感じだし。
なぜ年齢が高い順に殺していったのか、という、序盤からさんざん引っ張り続けた謎も、
もうコメントする気にもならないくらいありきたりな理由だし。
主人公が、自分の身体を乗っ取っている〝もう一人の自分〟にやたら協力的なのも
不自然に思えた。普通もっと葛藤なり何なりあるでしょ、と。
もちろんそういった描写も出ては来るのですが、彼が抱くどんな不平不満も
所詮は駄々っ子レベルで重みがない。
「あまり不満を抱え続けたりいろいろと考え詰めるとそれがストレスになって寿命が縮まる」
という設定が本作にはあるのですが、それも上記の矛盾を封じるための
著者のこじつけとしか思えなかった。
それだけならまだしも、最後なんかもうご都合主義の王道。ハリウッド映画もびっくりです。
フィクションにしてもあまりに主人公に都合のいい展開に開いた口が塞がらなかった。
ていうか著者、ひょっとして女をバカにしてる?
婚約者にフラれたばかりで男性不信になっている女がゴム無しで男とヤるわけないだろ。
それは主人公にしてもそう。婚約者の両親に挨拶に行く前日に、浮気するだけならまだしも
ナマでって。
浮気相手の女も、ただでさえきつい状況なのに、普通そんな行きずりもいいところの、しかも
もうすぐ結婚する男の子供なんて生むわけないし。彼女がベツバオリになっていたのなら尚更。
将来人格が変貌してしまうかもしれないのに(妊娠が判明した時点ではそこまで考えが
至らなかったのはわかるけど、あんな異様な雨に打たれた自分は
どこかおかしくなってしまったかもと少しでも考えるはず、という前提でいけば
子供を生むという行為がいよいよ不自然になってくる)。
私ならこんな両親から生まれたくない、絶対に。
最後に西澤氏、基本的に文章が落語・漫談調なので、シリアスなシーンも
何かコミカルで緊迫感に欠けるので、そこをどうにかしてください。
デビュー当時はそんなことなかったのになあ。文章に変なクセがついてしまってる(それは
島田荘司氏もそうなんだけどね。。。)。
あと最後に、もう今の携帯には普通にテレビ電話機能ついてますよ西澤先生。
読んでいてちょっと気になったもので。
〝Snatch〟っていうのは簡単に言うと〝奪い去る〟みたいな意味だけど、
本作からは期待&読むのに費やした時間と体力奪い去られたような気がする。
楽しみにしてたのに。残念。
ミステリの醍醐味と言えば、終盤のどんでん返し。中でも、
「最後の一撃(フィニッシング・ストローク)」と呼ばれる、ラストで鮮やかに真相を引っ繰り返す技は、
短編の華であり至難の業でもある。
本書は、その更に上をいく、「ラスト一行の衝撃」に徹底的に拘った連作集。
古今東西、短編集は数あれど、収録作すべてがラスト一行で落ちるミステリは本書だけ!
★収録作品★
身内に不幸がありまして
北の館の殺人
山荘秘聞
五十鈴の誉れ
儚い羊たちの祝宴
***
↑とネットに紹介文が書かれてましたが、これじゃまるでフィニッシング・ストロークだけが
売り物の小説みたいで何かキライ。
本著がすごいのはそれだけじゃないです。文章力も構成力も何より物語の内容が素晴らしい。
まだ若い著者がここまでのものを生み出せたことに戦慄すら覚えたほど。
米澤氏の著作は結構読んできましたが、この作家さんは現代を舞台にしたものよりも
本作のような、ほんの一昔前が舞台の、少し和を感じさせる雰囲気のストーリーのほうが
格段に上手い。
各話とも基本的に、高貴な家柄の人間とそれを支える世話役、という立場の二人が
主人公の本短編集。
と書くと何だかお上品な時代物、的な印象ですが、もうバリバリにミステリです。しかも
ちょっとホラーがかった。けれど怖いのは怪奇の類等ではなく人間そのものなので尚怖い。
話ごとのレビュー。
◆身内に不幸がありまして◆
既読にて感想はこちらで。
◆北の館の殺人◆
文句なしの最高傑作。
どうしてこんなものが書けるの? と、ミステリ作家を目指す者として強烈な嫉妬心が湧いたほど。
いや、もう嫉妬心というか畏怖心といったほうがいいかなこれは。
最近ここまで唸らされるミステリ小説に出会わなかったので久々の興奮だった。
登場人物たちの個性と彼らの心理描写、ドラマ性にトリック、どれを取っても申し分なし。
日本推理作家協会賞、もし私が選考委員なら間違いなくこの作品に獲らせる。
ちなみに本編を読んで気に入った人には↓に収録されている〝画家とワイン〟も
ぜひ読んでほしい。
◆山荘秘聞◆
長い割りに。。。といった感じ。
オチもだいたい読めたし。
ラストの〝凶器〟にはちょっとびびりましたが(まさか中盤の伏線がそう来るとは
思わなかった。あの伏線がミスリードだっていうのはさすがにすぐわかったけど。。。)。
主人公が用意したベッドの数から真相に気づく、というのはちょっと無理がある気がした。
だってもし遭難者が見つかれば、ベッドに寝かせるよりもまず先に病院に搬送する可能性のほうが
高いし(ネタバレにつき薄字で)。
あまり楽しめなかったかな。
◆五十鈴の誉れ◆
焼肉焼いても家焼くな♪。。。←古い
。。。歌って場合やそのときの心理状態によって、同じ歌詞やメロディでも
まったく違う響きを持つんだよな。
一番ホラーの要素が強い(というか怖い)物語。
作中に故事か何かからの引用文が多すぎるのはいささか鬱陶しかったですが、
非常に面白く読めます。
本作は〝Story Seller〟という雑誌で読んだのですが、本雑誌はいい物語が
たくさん入っているのでおすすめです。
◆儚い羊たちの祝宴◆
延々日記調の文体はメリハリがなくてちょっとだるかった。
すべての短編の総まとめ的な話。
それにしても、総じて雑誌に掲載された物語より書き下ろしのほうがつまらないのは
やっぱり時間制限があったほうが人は実力を発揮できるってことの顕れなのかもな。
〝アミルスタンの羊〟についてはこの本を読めば意味がわかりますが、
ネタバレになってしまうので手に取るにしても先に本編を読んでからのほうがいいかも。
でも主人公はともかくなんで料理人がアミルスタンの羊を知ってるんだ? それが最大の謎。
非常におすすめの短編集です。
現時点で既にここまでのものを書ける米澤氏、今後どうなっていくのか末恐ろしいよ、ほんと。
正直に言うと、僕にも忘れられない人が一人だけいる――15年前の夏、中学生だった僕は
“ひなた”と名づけた虎猫と柚原という少女にまつわる忘れられない体験をした。
29歳、料理人をやめてフードライターとして日銭を稼ぎ、夫のいる女性と続けている関係が
危うくなってきた今、僕は当時の夢を繰り返し見るようになる。
柚原とその兄の秘密、彼女の祖父と隕石の不思議な話、二人で見た奇跡のような流星群…。
時を経て、偶然にも再び訪れることになった思い出の地で、僕が出会ったのは――。
猫と料理と流れ星がつなぐ、“夢と現実”“過去と現在”のあわいに命の希望を描いた
気鋭作家の書下ろし長編小説。
***
精神的に追い込まれていく主人公の心理がそのまま伝わってくるような鬼気迫る描写、そして
自分を取り巻く世界がどんどんと遠ざかっていくような疎外感・寂寥感を怖いほどに感じさせた
氏のデビュー作〝さよならアメリカ〟と比べるとどうもインパクトに欠け、
甘ったるいファンタジックさも鼻につく本作ですが、まあたまにはゆったり読める、
それでいて読後に静かで心地いい孤独感と小さな爽快感を残してくれるようなこういう物語も
いいかもしれないな、と思った。
ただ、気になった点がいくつか。
★言葉の表現がおかしいところがままある(例:〝細いタイトジーンズ〟。細いからタイトジーンズ
なのでは?)。
★陳腐な表現が目立つ。
ネット小説に出てくるような、到底プロが書いたとは思えない稚拙な単語で組み立てられた文章が
かなり多い。その合間合間にはっとさせられるような表現が出てくるからどうにか最後まで
読めたけど、読んでいて結構きつかった。
★余計な雑学の羅列。
〝スノウドロップ〟という花の名前の由来とか、荘子の〝胡蝶の夢〟についてとか、
無駄な雑学を登場人物たちが頻繁に口にするので読んでいて気恥ずかしくなった。
著者が過去に齧った知識の中で気に入ったネタを単に盛り込んでいるだけとしか思えない。
本作にわざわざ組み込む必然性を感じない内容ばかりだし。
しかも普通の人ならまず知らないようなことを披露するならまだしも、
ちょっと本を読む人なら大抵知っていることばかりだし。
そして一番突っ込みたいのが〝ナルコレプシー〟という病気について。
ノゾミさん、普通あんな簡単に相手を「あなたナルコレプシーじゃない?」なんて思いません。
症状だって全然違うし。
そしてナルコレプシーの病識間違ってます。あれはそんな簡単な病気じゃありません。
★料理の描写が下手。
著者が元料理人だからといって、料理の描写が必ずしも美味しそうとは限らないんだなー。
実際に作るのとそれを文章で表現するのは別物。
私ももう何年も歌をやっていて時々仕事にもしていますが、それでも音楽ミステリ書いて
新人賞に送った際、選考委員の先生に「音楽の表現が陳腐」って言われたしな。。。
以前読んだ某女性作家の料理描写のほうがよっぽど美味しそうだった。やはり女性強し。
(でも故・藤原伊織氏のホットドッグの描写がミステリ読みの間では「美味しそう」と評判
なんだよな。。。今度読んでみよう)
★主人公の女性との絡みが劣化村上春樹。
会話も女性たちのキャラクターも。そこまで顕著ではないけど気になった。
というかこの著者に限った話じゃないけど、なんで男性作家って女キャラにやたらワンピース
着せたがるんだろう? それも避暑地で見かけそうな清楚系ばっか。
そして男と話すときにいちいち相手の顔を覗き込む女なんてよっぽどの自信家かぶりっ子だけ
だよ。
全体で見ればほんのりと暖かくそれでいてときに切ない、素朴ながらに素敵な物語でしたが、
柚原のお兄ちゃんへの気持ちが今ひとつわかりにくかったのでもうちょっとそのへんを書き込んで
ほしかったな。そうすればラストがもっと活きた気がする(まあ、主人公と二度目にホテルに
泊まった際に柚原が異様にフェラチオが巧かった、というのが、兄にも同じことを何度もしてきた、
つまり兄を拒否せず倫理の許すギリギリの範囲で受け入れていた、という伏線になっているのかも
しれないけれど←ネタバレにつき薄字で)
星のきれいなこの季節に読むにはいい小説なのではと思います。
BGMはやっぱりこれ↓かな。
ちなみに私は今から七年前に来た流星群を一晩中眺めていたとき、
ひと際大きい流れ星が横切って消える瞬間〝ジュッ〟と音を立てるのを確かに聴いた。
これだけは断言できる。
あと一年。死ぬ日を待ち続ける。それだけが私の希望――。
誰にも求められず、愛されず、歯車以下の会社での日々。
簡単に想像できる定年までの生活は、絶望的な未来そのものだった。
死への憧れを募らせる孤独な女性にかけられた、謎の人物からのささやき。
「本当に死ぬ気なら、一年待ちませんか? 一年頑張ったご褒美を差し上げます」
それは決して悪い取り引きではないように思われた――。
***
本多作品にしては珍しく恋愛ものじゃないまっとうな(って言い方は誤解を招きそうですが)
ミステリ。。。かと思いきや、中盤を越したあたりから本多氏特有の甘ったるい恋愛臭が
ほんの薄っすらとですが漂いだして、「やっぱり嗜好っていうのは変えられないものだな」と
ちょっと苦笑いしてしまった本作。
ドラマ部分はまあまあよく描かれてはいるものの、これまでの氏の著作に共通してあった
神秘性が、前作〝正義のミカタ〟あたりから消えてしまっていて、全体にベタに感じられた。
終わり方も教訓めいていてちょっとクサいし。
ミステリ部分は。。。テーマや構成的には本格ものっぽいのに、やはり
本物の本格推理作家と比べると足元にも及ばない感じ。
犯人の動機もインパクトがないし真相が明かされるタイミングも後出しジャンケン的&
読者が推理するには伏線が少なすぎだし(その割に本作最大の〝仕掛け〟は
描写があからさますぎてすぐに「あ、そういうことか」と気づいてしまうし)。
というかこの手の仕掛けが施されたミステリはもういい加減食傷気味。
同じ系統のミステリなら、断然これかこれをおすすめします(ネタバレかもなので閲覧注意)。
文章は相変わらず非常に読みやすく物語自体は決してつまらないものではないので
一気に読んでしまいましたが、特に印象に残る部分なし。
電車の中でサクっと読むぶんにはいいかもしれない(でもあまりに適当に読み流していると
〝仕掛け〟に気づかないまま読み終えるはめになるかもなので注意が必要)。
これが発表されたのが20年ぐらい前だったら革新的だったかもしれないんだけどな。
本多氏に限らずミステリ作家さんには、そろそろこの手のトリックに頼らず次のサプライズを
考え出してほしいものです(ってミステリ作家志望のおまえもな、という感じなのですが)。
何より、本書を読んで伝わってくるものが「結局運と精神が強いやつが勝つ」ということだけ
だったのがやたら虚しい。それぐらいならいっそベタ中のベタでいいから
「あきらめないものに光は射す」みたいなことをテーマにしてくれたほうがよっぽどよかった。
最近の本多作品は正直あまり好きじゃないです。
まあ、次回に期待。
おまけ:
これ↓がゲルセミウム・エレガンス(ヤカツ)の花らしい。
見てるだけのぶんには奇麗なのになー
「爆弾持ってこい。あんたを殺してわたしも死ぬ」
「落ち着いて、落ち着いて」
穂村チカ、高校一年生、廃部寸前の弱小吹奏楽部のフルート奏者。
上条ハルタ、チカの幼なじみで同じく吹奏楽部のホルン奏者、完璧な外見と明晰な頭脳の持ち主。
音楽教師・草壁信二郎先生の指導のもと、廃部の危機を回避すべく日々練習に励む
チカとハルタだったが、変わり者の先輩や同級生のせいで、
校内の難事件に次々と遭遇するはめに――。
高校生ならではの謎と解決が冴える、爽やかな青春ミステリの決定版。
★収録作品★
結晶泥棒
クロスキューブ
退出ゲーム
エレファンツ・ブレス
***
デビュー作〝水の時計〟ととはまったく違うポップでリズム感のいい文体&内容に
まずは驚かされさた。しかもシリアスものもいいけど、初野氏はこの手の小説のほうが断然うまい。
某アンソロジーで読んだ表題作〝退出ゲーム〟に惹かれて本作を手に取った次第なのですが、
全編楽しく読むことができた。
登場人物はそれぞれキャラが立ってるし、美形で天才的頭脳を持っているのにどこか抜けてる
ハルタとそんな彼の尻拭いをいつもさせられる幼馴染で主人公の少女・チカの関係が絶妙。
幼馴染で気の置けない関係で姉と弟のようででも基本的には認め合っているライバルで。。。って
ほんと最高の関係だよな(いや、でも、チカも作中で言っているように、たったひとつだけ
最低な関係性がありますが。。。)。
この二人(に限りませんが)の掛け合いに何度爆笑させられたことか。
ていうか小説を読んで声をあげて笑ったのって久しぶり。しかも数え切れないほど。
かと思えばホロリとさせられるし、本当によく出来たミステリ短編集ですこれは。
音楽ミステリ・演劇ミステリ・美術ミステリといった〝芸術系ミステリ〟をくまなく堪能できるのも
本作のいいところ。全部が好きな私はかなり満喫させてもらいました。
まあ、最終話〝エレファンツ・ブレス〟はちょっと皆高校生なのに知識ありすぎ、と
軽く思わないでもありませんでしたが、目をつぶります。この面白さに水はさせない。
加藤実秋氏の〝Club Indigoシリーズ〟や金城一紀氏の〝ゾンビシリーズ〟が好きな人は
特におすすめ。ノリや空気感が似ているので。
ところで本作、最後の一行を読んだ限りじゃ続編が遠からず出るみたいなので楽しみです。
おまけ:
作中に出てきた「水野晴郎が出ていたころの金曜ロードショーのテーマ曲」とはこれ↓です。
口ずさめる人、少なくとも二十代半ばは超してるはず(^皿^)
(ちなみに私はバリバリに口ずさめました)
2006年に小説誌等に発表された数多くの短篇ミステリーの中から選ばれた15篇。
2006年推理小説界の概況、ミステリー各賞の歴代受賞リストも付いた、
50年を超える歴史を誇る国内唯一無二の推理年鑑。
★収録作品★
罪つくり/横山秀夫
ホームシック・シアター/春口裕子
ラスト・セッション/蒼井上鷹
あなたに会いたくて/不知火京介
脂肪遊戯/桜庭一樹
標野にて 君が袖振る/大崎梢
未来へ踏み出す足/石持浅海
ラストマティーニ/北森鴻
エクステ効果/菅浩江
落下る/東野圭吾
早朝ねはん/門井慶喜
オムライス/薬丸岳
スペインの靴/三上洸
心あたりのある者は/米澤穂信
熊王ジャック/柳広司
***
作品ごとのレビュー。
◆罪つくり◆
トリックはそこまですごいものじゃないけど、さすがにベテラン作家、
単なるミステリとしてだけじゃなく、人間ドラマとしても読ませる。
ただ、作中に登場するある女性の心理にはあまりリアリティが感じられなかった。
普通の女はあそこまで人間できてません。よってあそこまでしません。
彼女の心理描写にもっとリアリティを感じられたら、本編の主人公である兄弟二人の
絆にももっと感動できたんだけどな。
◆ホームシック・シアター◆
デビュー以来とんと見かけないのでどうしてるんだろう。。。と思っていた作家さんの作品。
こんなところでお目にかかれるとは思いもしなかった。
面白かった。主人公の性格の悪さもここまでくるといっそ清々しい。
ただ、普通これほどの事態になったら、大家さんが「皆さんが迷惑してます」と訪ねて
こないか? そこだけがちょっと納得いかず。
ラストで性格最悪の主人公の印象ががらりと変わる描写のほうが
ミステリ部分よりインパクトが強く、驚きつつも物悲しい気持ちになった。
◆ラスト・セッション◆
正直言って蒼井氏の著作はデビュー作〝キリング・タイム〟からあまり好きじゃなかったんですが、
今回で見方変わりました。面白い! 本編が音楽ミステリで、私が音楽好きだからというわけでは
決してなく(むしろ音楽好きなぶん点が辛くなる)、本当に面白かった。冒頭数行から引き込まれる。
トリックは決して斬新ではなく既に使い古されている感があるものだけど、それを差し引いても
十分にミステリとして、そして何より物語として最初から最後まで惹きつけられた。
(ちょっと登場人物たちがご都合主義的に動きすぎなところもあったけど)
音楽がわかってる人だなーとも思った。昔何かやってたのかな?
おすすめ。
◆あなたに会いたくて◆
男性の最愛の人はいつだって。。。というやつですね。
ミステリとしてはかなりシンプルですが、語りかけるような二人称の文体が
内容と絶妙にマッチしていて、ラストは泣きそうになってしまった。
もうちょっと主人公の背景を書き込んでくれていたらその感動もひとしおだったんですが。
でも良作です。
◆脂肪遊戯◆
〝あまりにも有触れた罪悪〟と作中でも言っているとおり、この手の犯罪をモチーフにした
ミステリはもううんざりするほど多く、本編も読んでいて一度は「またか」と思いかけたのですが、
その犯罪が露呈する(真実が明らかになる)に至るまでの描写が非常に独特で、
単なるミステリを超えた深みを感じさせるものに仕上がっているところはさすが桜庭さん。
ラスト一行は背中に寒気走りました。少年少女の心理を書かせたらうまいよなあーこの人は。
◆標野にて 君が袖振る◆
。。。この作家さんの著作はどうも生理的に受け付けずコメントもしたくないほどなので割愛。
著者の方、そしてファンの皆さんごめんなさい。
◆未来へ踏み出す足◆
既読につき、本編の詳細なレビューはこちら。
◆ラストマティーニ◆
好きな作家さんなのですが、本編にやたらめったら出てくる食べ物描写とクサい会話は
読んでいて正直つらかった。
キャラにも魅力らしき魅力がないし(シリーズをはじめから読んでいないせいも
あるのでしょうが)。
ただ、〝犯人〟の〝動機〟には、女ながらに男のロマンを感じてぞくっときた。
他人を欺き利用する、それは本来マイナスにとられることですが、本編のそれは格好いい。
自分も将来こういう人の騙し方をしてみたいなーと思わせられた作品。
◆エクステ効果◆
こんなオチ予測つくかよ! と、真相に驚くより先にちょっと苛だってしまった。
作中に何度も何度もサブリミナルのように出てくる〝二律背反〟という言葉も
鬱陶しくて仕方なかったし(しかもその言葉の使われ方も素人女のヘタなポエムみたいで
大げさでなく寒気が走ったし)。
さらには主人公が疲れ果てて突っ伏す様を表す擬音が〝へちょーっ〟って。。。昔のマンガか?
ラストはまるで教科書のような、悪い意味できれいすぎる終わり方。
はっきり言って本作を〝ベスト・ミステリーズ〟とは呼びがたい。
それに主人公が客の髪を切る際、敢えて度数の合わないメガネをかけるって。。。
客をナメてんのかと言いたい。
◆落下る◆
知る人ぞ知るガリレオシリーズ。
これまでは出てこなかった内海薫が登場するのは、やはり著者がドラマに合わせた結果
なのでしょうか。
トリック自体もさるものながら、なぜ湯川準教授がそのトリックを考え出したのか、というのが
最大の見所。やっぱり湯川は格好いいなあ。。。
ちなみに本編は、今年十月に放映されたドラマ〝ガリレオΦ(エピソード・ゼロ)〟の元ネタでも
あります。三浦春馬主演のあのドラマを観て興味を持った人はおすすめ。
◆早朝ねはん◆
本編が収録されている〝天才たちの値段〟は発売直後に読んだものの、
主人公が「~だもの」という言葉遣いを連発するのでウザい、という至極どうでもいい記憶しか
残っていなかったので読み直し。
美術ミステリを書く作家陣の中では多少地味な感はありますが、構成・真相、共に素晴らしい。
オチのつけ方も見事のひと言。
「角度を変えてみると真実が見えてくる」、これは〝ギャラリーフェイク〟のフジタも言ってたよな、
そういえば。美術を鑑識する上での共通項なのかもしれないな。
◆オムライス◆
薬丸氏にしてはあんまり。。。という感じ。
何よりすべてにおいて浅はかな主人公がどうしても好きになれず
気づけば一刻も早く読み終えようとページを繰る手が速くなっていた。
オチも簡単に読めちゃったし。。。
内容のインパクトより「あーオムライス食べたくなってきた」と感化された記憶のほうが強い←あほ
ミステリとしてはいまいちでした。子供やそれを取り巻く大人の心理描写は
相変わらずうまいけど。
◆スペインの靴◆
ミステリに出てくる狂人は好きですが変態は好きじゃありません。
よって本編の主人公が終始キモくて仕方なかった。
魅力を感じる登場人物が一人もいないし(しかもほとんどが個性のカケラもない
ステロタイプなキャラばっかりだし)。
変態は変態同士どうぞ仲良くやっててください、としか思えず。
同じ著者でも〝マリアの月〟はクオリティ高かったのになあ。。。
◆心あたりのある者は◆
既読につき、本編の詳細なレビューはこちら。
◆熊王ジャック◆
かのシートンを探偵役にしているところは面白い。
でもあまりにも伏線が分かりづらく、ここから真相を解明するのははっきり言って至難の業。
しかもラストのシートンの語りがあまりに説教臭くてベタでしらけた(いや、彼の考えそのものには
心から同意なのですが)。
本アンソロジーのトリを飾るほどの作品ではないと思う。
以上、レビュー終わり!
蛇足:
本作の表紙↑の銀色の部分、よく見ると人影らしきものが写ってる。
たぶん撮影した人だろうな。気づいたときちょっと吹いた笑
ミステリーだ笑
新進作家、待居涼司の出世作「凍て鶴」に映画化の話が持ち上がった。
監督に抜擢された人気脚本家の小野川充は「凍て鶴」に並々ならぬ興味を示し、
この作品のヒロインには、かつて伝説的な自殺系サイト「落花の会」を運営していた
木ノ瀬蓮美の影響が見られると、奇抜な持論を展開する。
待居の戸惑いをよそに、さらに彼は、そのサイトに残された謎の解明が
映画化のために必要だと言い、待居を自分のペースに引き込もうとしていく。
そんな小野川に、待居は不気味さを感じ始め――。
全篇に充ちた不穏な空気。好奇心と恐怖が交錯する傑作心理サスペンス!
***
〝流○の絆〟をドラマ化で台無しにしたク○カンを彷彿とさせる冒頭には思わず失笑。
自己中で無能な脚本家が、原作者である小説家の著作をじわじわと蹂躙・侵食していき、
精神的に追い詰めていく過程を描いたホラーものなのか? と最初は思ってしまったほど。
けれど雫井氏がそんなものを書くわけないし。。。と思いながら読み進めていくと、
自己中脚本家・小野川が次第に本格ものに出てくるような、変わり者で人間受けは悪いけど
天性の洞察力を持った名探偵的な雰囲気をかもし出したので、「ああそういう話か」と
納得しかけたところ、今度はその彼が不穏な空気を身に纏い出し。。。
と、読み手の推理をことごとくすり抜けていく展開にはなかなかハラハラさせられましたが、
登場人物たちの推理があまりに突飛すぎること(飛躍を通り越してもはや跳躍)、にも関わらず
それがほぼ当たっていること等に次第にうんざりしてくる始末。
展開も最初から最後まで、「そりゃないだろ」と読者に言わせないギリッギリのラインだし。
犯人が殺人を犯した理由も、「それぐらいで問題が解決すりゃ誰も苦労しねえよ」と
思わずあきれてしまうようなものだし。そもそも殺人なんて麻薬と一緒で、
一回やっただけでそのときの高揚が一生続くなんてことはありえない。なのに
手にかけた相手がたった一人だけというのもリアリティがない。
本作の登場人物である作家の待居の著作(謂わば作中作)も、
本筋に直接関係してくるものじゃないにしてもあまりにひどすぎる内容。
その著作に小野川が手を加えた脚本も上に同じ。
今時こんな小説&脚本書いて、何であんたら売れっ子作家になんかなれるの? と
読みながら突っ込んだ人は多いはず。
著者の雫井氏は彼ら二人(特に小野川)の天才性を描きたかったんだと思うけど、
あの作中作を読まされた時点でもうどうやってもまったく天才に見えない。なので
一瞬鳥肌立ちかけたクライマックスの決闘シーンも、
「でもあんな作品書く人間だしなあ。。。」と即座に興ざめ。
ベテラン作家の雫井氏でもたまにははずすんだな、と思わざるを得ない作品だった。
だいたい本作、気づく人は一番最初の時点でオチに気づいてしまうと思うし(私は気づいてしまった
ので、ラストも予想どおりで「やっぱりな」としか思えなかった)。
ただ、出版業界については細かく描写されているので、作家志望の人は読んでみると面白いかも。
それにしても、〝リリー〟という人物がメインのサイトって。。。どうしても〝リリイ・シュシュ〟が
先に浮かんじゃうよなあ。
小学校生活最後の夏休みが始まろうとしていたあの日。辻貴雄と横田純は
いつものように森の中にある秘密の空き地で遊んでいた。
その時、空き地に建てられていた古い小屋の中から泣き声が聞こえてくる。
二人がそこで見つけたのは赤ちゃんだった。周りには置き手紙も何も残されていない。
そこで貴雄と横田は、赤ちゃんをロビンと名づけ母親が戻ってくるまで面倒をみることにする。
だが、しばらくして横田が家の事情で引っ越すことになり、貴雄は孤立無援の状態に。
ロビンの母親はまだ帰ってこない。誰にも相談はできない。
そもそも、信じられる大人などいるのだろうか。
貴雄の一人だけの子育てが始まった――。
***
デビュー作〝チューイング・ボーン〟がかなり好きだったので喜び勇んで手に取った
数年ぶりの新作である本作。
前作のミステリ性・暗さはすっかり鳴りをひそめ、読んでいて気恥ずかしくなるほどの
初々しい青春物語。。。と思えたのは序盤までで、物語が進むにつれ次第に
著者の大山氏のホラー節が炸裂します。
ただ、〝チューイング・ボーン〟の登場人物たちが、皆倒錯した性格ながらも
どこか共感できるキャラであったのに対して、
本作の登場人物たちは思考や行動に納得のいかない部分が多い。
主人公たちがまだ十二歳だということを踏まえても、あまりに一般常識を知らなすぎたり、
かと思えばある部分では大人顔負けの知識を持っていたりと、著者に都合よく描かれすぎていた
気がする(というか都合がいい悪い以前に、主人公の少年の思考回路なんてかなり支離滅裂だし)。
どうして彼らに、あの女を傷害罪で訴えるという発想が浮かばなかったのは未だに謎。
ただ、主人公たちにある大事件が起こってからの少年の底辺人生の描写はリアルで、
彼の心理や第三者たちとの触れ合いの描写も巧みで非常に面白く読めた。
ところどころ印象的なフレーズもあったりして、大山氏の著作に見られる純文学性を堪能できた。
デビュー作も底辺に近い人生を送る主人公の描写がハンパじゃなく上手かったので、
そういうのを軸にした物語を書かせたらこの作家さんは右に出る者なしだよなあと思う。
ただ、そのぶんその終盤だけが序~中盤のファンタジックな展開から浮いてしまっていて、
全体で見るとバランスが悪かった気も。
あと、中盤のミザリー女はなかなかいい狂いっぷりだったけど、この女をはじめ主人公二人も
ラスト間際に出てくる男性も皆が皆打たれ強すぎ。殴られても蹴られても何度も何度も起き上がる。
B級ホラーの敵役じゃないんだから、とシリアスな暴力シーンもときどき笑いそうになってしまった。
しかも主人公たちがあれだけの怪我を負って周囲の大人が誰も気づかないというのもありえないし。
改めて考えてみると、中盤はほんと著者に都合のいい展開だったな。。。
赤ん坊や横田というキャラクターが本作中であまり意味を成していないのも残念なところ。
あっさり退場してそれっきり。彼らがもうちょっと主人公のその後にいろいろな意味で影響しても
よかったんじゃないかなと思う。
ちなみにラストは解釈が難しいですが、
きっと主人公は〝自分で時計を操る術〟を身につけてしまったために、
現実にはもうこだわらなくなってしまったんじゃないか、というのが個人的見解です。
つまりは妄想に逃げ込んでしまった、悪く言えば〝狂って〟しまった。
ずっと独りきりでいたことで時計の針を修正してくれる人間もいなくなってしまったしね。。。
著者の言わんとすることも伝わってこなかったし、私の中でデビュー作は超さなかったな。
読んで損した、ということは絶対にないですが。
大山氏はまだまだ若いし、これからに期待します。
無数の時計が配置された不思議な回廊。その閉ざされた施設の中の時計はすべて、
たった一つの例外もなく異なった時を刻んでいた。
すなわち、一分ずつ違った、一日二四時間の時を示す一四四〇個の時計――。
正確な時間を示すのは、その中のただ一つ。夜とも昼とも知れぬ異様な空間から脱出する条件は、
六時間以内にその“正しい時計”を見つけ出すことだった!?
神の下すがごとき命題に挑む唯一の武器は論理。奇跡の解答にはいかにして辿り着けるのか。
極限まで磨かれた宝石のような謎、謎、謎!
名手が放つ本格ミステリ・コレクション。
★収録作品★
使用中
ダブル・プレイ
素人芸
盗まれた手紙
イン・メモリアム
猫の巡礼
四色問題
幽霊をやとった女
しらみつぶしの時計
トゥ・オブ・アス
***
某アンソロジーで読んだ〝使用中〟があまりに面白かったので、
それが収録された短編集がついに発売されたのは嬉しい限り。
全体としては、面白いけれど少しひねりすぎで一発ではわかりづらい話が多かった印象。
真相解明の瞬間の「そうだったのか!」という驚きが何よりの醍醐味であるミステリにおいて、
一度脳内で租借しなければ意味を汲み取れない内容が多いというのは問題な気が。
〝盗まれた手紙〟や、何より表題作〝しらみつぶしの時計〟は、もはやミステリを通り越して
〝頭の体操〟状態だし(あのシリーズは子供のころから大好きで読んでいてとても楽しいですが、
それはあれがあくまでクイズ本だからで、物語を置き去りにして謎だけをポンと提示されても
小説を読んでいる気になれない)。
特に表題作のほうは文系の私にはきつかった。読んでて意識が朦朧としてきたし。。。(オチには
おっと思わせられましたが。でも、この手の話と〝小説〟という文章のみの表現手段は
正直相性が悪い気がする。映画か、せめてマンガ等の絵(ビジュアル)が伴う媒体だったら
もっとわかりやすく面白くなったはず)。
〝猫の巡礼〟は平山夢明氏や遠藤徹氏あたりが書きそうな、妙な世界観に妙な登場人物、
挙げ句オチらしきオチもないまま終わる「著者はこの作品を通して何を言いたかったんだろう」的な
何とも言えない話だし、〝四色問題〟は面白いは面白いけれど、「何でその程度の手がかりで
そんなことまでわかるんだよ」と言いたくなるほどの超能力(もしくはご都合主義的)推理だし、
本短編集の中で(〝使用中〟を除いて)一番まともかつシンプルに本格ミステリしていたのは
〝幽霊をやとった女〟ぐらいだったような。。。
まあそれなりに楽しめましたが。
でも私の中では〝使用中〟を超す話は本作の中にはなかったな。
あー、理系の人に解答編だけ隠して表題作を読ませて、解けるかどうか試してみたい。
ところでこの小説にも本作の表題作とまったく同じ時計ネタが出てくるのですが、
出典はやっぱりどっちも〝頭の体操〟?
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