「あたしは絶対、人とは違う。特別な人間なのだ」――。
女優になるために上京していた姉・澄伽が、両親の訃報を受けて故郷に戻ってきた。
その日から澄伽による、妹・清深への復讐が始まる。高校時代、妹から受けた屈辱を
晴らすために…。
小説と演劇、二つの世界で活躍する著者が放つ、魂を震わす物語。
***
映画版を先に観てしまったのですが、原作のほうが数十倍、いやもっと面白かった。
若い女性著者ならではの細密な、そして(いい意味で)あざとい描写に脱帽しつつ、
一気に読みきってしまった。
映画はちょっとわかりにくい部分が多かったのですが(たとえば
なぜあの人物は自殺したのか、とか←自殺したようにしか見えなかった
なぜあの人物は超能力?をいきなり使えるようになったのか、とか)、
原作を読んですべて解消。
根拠もなく自信満々の姉にいかにして現実を教えるか、という妹の苦心に、
マンガ〝行け!稲中卓球部〟にあった
主人公たち三人が勘違いブスにいかにして己を悟らせるか、という話が重なって
思わず吹き出した。
まあ、稲中のほうが完全にギャグであるのに対して、本作は結構辛辣で
読んでいて痛かったですが。。。
それにしても、ここまでジャンルで括れない物語も珍しいな。
笑えるけど単なるコメディとも言いがたいし、ホラーや官能のようでもあるし、
純文学的味付けがされているかと思いきや突如としてエンタメに様変わり。
千変万化。不思議な小説だ。
登場人物たちもそれぞれに魅力とリアリティがありすぎて鳥肌が立つ。
むちゃくちゃおすすめの一作です。
謎の語り手“あたし”がまことしやかに語るのは、百年/七大陸に及ぶ
「ロックンロールの流転」。
「ロックなるもの」に邂逅した人間たちが織りなす、パワフルでポップな20世紀神話。
***
大っ好き。なのでまた読んでしまった。
音楽、特にロック好きの人は必読、と言いたいところなのですが、
本作、基本的に時代や国を流転(ロール)する物語で、ロック部分はあんまりない(最終話に
登場する、語り部の母親だけかも。しっかりロックしてたのは。同じく最終話に出てくる少年も
惜しいところなんですが、彼の場合はもうロック通り越してパンクになっちゃってるからな)。
どの短編も流転、流転、ただひたすら流転の繰り返し(ループ)。
なので〝Rock'n'Roll〟というよりは〝Loop'n'Roll〟と言ったほうがいいんだけど、
でも面白い。文体も物語も独特の味とリズムがあってすごく楽しい。
ていうかこれ、七編のうちどれでもいいから、大学生が改編して卒論として提出してみて
ほしい。絶対普通に通る気がする(しかも高評価で)。
まさに音楽を読んでいるような小説。
非常におすすめ、というか個人的に大好きな作品です。
BGMは当然これ↓(意味は読めばわかります)。
それは、記憶の連鎖。
暴力と幻想。絡み合う二つの世界の謎に迫る本格ミステリ!
武闘派暴力団をターゲットにする謎の連続殺人犯『ガネーシャ』。
一方、歓楽街の暗渠に住み着く七人の浮浪者たち。
ある日怪我をした『わたし』は、『王子』と名乗る浮浪児に助けられ、
暗渠へと踏み込んでゆくが・・・。
***
懲りすぎて逆に面白くなくなっている小説の典型、という印象を受けた。
初野作品(といっても彼の著作はまだ三冊しか刊行されていませんが)の中では
異例とも言うべき凡作。
やたら設定に懲りすぎて気が散ってしまい結局どれも印象に残らないまま
終わってしまう(の割りにひねるべきところはそのまんま)、という欠点のほかにも、
伏線があまりに土中深くに埋め込まれすぎていて気づきづらいのも
読んでいてストレスが溜まった。
吃音の暴力団幹部も、その残虐性・頭脳の明晰さとのギャップを狙って
そんな設定にしたんだろうけど、まったく功を奏していない。
これだけ大勢の人間が登場する物語で、魅力を感じるのが水樹という男ただ一人、
というのも正直何だかなあという感じ。
そもそも初野氏のデビュー作〝水の時計〟と違って、
本作はファンタジー部分と現実部分があまりうまく溶け合っていない気がした。
まったく違う小説を読んでいるような。片方の世界にハマりかけたころになると
章が変わって別世界のほうに舞台が移るので、いまいちのめり込みづらかった。
唯一おおっと思ったのは、暴力団員たちの不審死の原因と、そのやり方が判明した瞬間。
そこだけはしっかりミステリしていました。
落ち着いて考えればわかりそうな単純なトリックなのに気づけなかった悔しさ、それは
東野圭吾氏の〝容疑者Xの献身〟を読んだとき以来の感覚だったな。
それにしても初野氏、
水
時計
眠り
というファクターが好きだよなあ。いや別にいいんだけど。
高齢者の家を狙った空き巣が頻発。
犯行のあった時間帯、目の下に大きな傷のある男が目撃されていたことを知った刑事・啓子は、
かつて自分が手錠をかけた男を思い出すが…。
表題作を含む全4話を収録した短編集。
★収録作品★
迷い箱
899
傍聞き(かたえぎき)
迷走
***
某アンソロジーで読んだ表題作〝傍聞き〟が非常に面白かったので
手にとってみたのですが。。。
残りの三作は正直及第点のレベルを超えるものではなかった気がする。
〝迷い箱〟なんてオチも微妙ならそもそもミステリですらないし。
〝899〟も、かつて子供を亡くした経験を持つ人間ならあんなこと絶対しないと思うし。
〝迷走〟に至っては「はいはい、室伏さん男らしい男らしい」としか思わなかったし(だいたい
あんなゴミを助けるためにフラフラ走り回ってる間にほかの急患があったら
どうする気だったんだろう? むしろそっちを優先して助けてほしいぐらいなのに
ああやってぶらぶらしていたらそっちを処置する時間がどんどん遅れるのでは?
だし、あんな方法で患者を見つけ出すぐらいなら、とっとと警察に連絡して
GPSで居場所を掴む、もしくは患者の勤め先か家に電話して目ぼしい場所をあたってもらう、
そのほうがずっと効率がいいはず。室伏のあのやり方は要領悪すぎとしか思えなかった)。
暇つぶしに読むには丁度いいのでは、それが個人的感想です。
亡き妻に謝罪したい――引退した不動産業者・方城兵馬の願いを叶えるため、
長男の直嗣が連れてきたのは霊媒だった。
インチキを暴こうとする超常現象の研究者までが方城家を訪れ騒然とするなか、
密室状況下で兵馬が撲殺される。
霊媒は悪霊の仕業と主張、かくて行なわれた調伏のための降霊会で第二の惨劇が起こる。
名探偵・猫丸先輩登場!
***
いわく本格推理小説というジャンルにおいて、読者は事件が展開していく間中ずっと
「早く出てこい、早く出てこい」と名探偵の登場を心待ちにし、いざ現れようものなら
「キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!」
と大歓喜するものですが、私の中でその興奮が一番強いのが本作の探偵・
猫丸先輩(本名不明)。
奇人で弁が立つ、というところは既存の名探偵と同じなのですが、
妙な愛嬌やマヌケな一面もあるところが一味違ってかなり魅力的。
短編でももちろんその魅力は健在なのですが、シリーズ初長編である本作は
そんな彼の魅力が数割増しで読み応え十分の一作に仕上がっています。
実はこの作品を読むのはこれで二度目なのですが、
やっぱり本当に面白いものは何度読んでも面白い。
一人ひとりのキャラ立ちが非常にしっかりしていて臨場感があり、
トリックや犯人も見破りづらい。
良質のマジックでも見せられているかのような高揚を、
読んでいる間ずっと感じていました。
ただ、首にナイフを突き立てられて死んだ某登場人物のあの死に様。。。
もしあの状態で首にナイフが刺さったのなら、テーブルの上に仰向けにひっくり返った状態で
死んでいると思うのですが。。。それだけがどうにも腑に落ちず。
それと、眼の見えない左枝子の勘違いを正すのも気の毒だからと黙っていた
大学院助手コンビ。。。親切なつもりかもしれないけど、バレるのは時間の問題なんだし
後になって真相に気づいたほうが左枝子もショックが大きいと思うんだけど。
トリックのために不可欠だったとはいえ、これが小説であることを無視して言わせてもらえば
〝小さな親切大きなお世話〟の王道だよなあ、この要らない気遣いは。。。
まあ、左枝子の一人称パートでの語りがポエム過ぎてサムいので(&多少イラっとくるので)
こいつなら別にいっか、と邪悪なことを考えてしまいましたが。
左枝子といえば、人間いくら眼が見える人と見えない人で相手に抱く印象に差があるとはいえ
左枝子の感じる助手コンビへの印象のほかの皆との正反対っぷりはあまりにアンフェア
だよなー。本作においてこれだけは悪い意味で「騙された!」と思った。
でも非常におすすめの一冊です。
少年刑務所で看守として働く「私」の前に現れた一人の受刑者。
彼は子供のころ「私」を標的にして執拗に繰り返されたいじめの煽動者だった。
人間の悪の根源に迫り、「ここに文学がある」と絶賛された97年上半期芥川賞受賞作。
***
こういう仲直りの仕方もあるんだなあ。。。
それが、ラストシーンを読んだとき真っ先に思ったこと。
悪を偽善で覆い隠し、揺ぎ無い計算高さで学校という世界のカリスマとなり、それでもなお
主人公に「その顔は嘘だ」と看破されてしまう不完全さをも併せ持った花井という人物には、
太宰治の〝人間失格〟の冒頭とも相通じるものがある。
18年が経ち、刑務官となっていた主人公の下に服役囚として現れた花井。
そんな彼が高い外壁の作り出す日陰に頭部の前半分だけを埋める印象的なあのシーンは、
〝仮面〟を表していたのではと思う。
学校という小世界の王となり、しかし社会という巨大な枠組みの中では
とても同じようにはいかず(彼はヒトラーになり得るほどの器、もしくは思い切りの良さを
持つには至らなかった)、刑務所という枠組みの中に再び君臨することを夢見て
やって来たに違いない花井は、だからこそ最後にあんな行動をとった。
小さな、閉ざされた世界こそが彼にとって安心できる〝日溜まり〟だった。
どんな場所でもいいから頂点に立ちたいという気持ちが九割、けれど残りの一割には、
少なからずこれまでの自分に対する贖罪の気持ちがあったのでは、と
読んでいてそんな風にも感じさせられるところもあったけど。
文章自体は、はっとさせられる表現があったかと思えば陳腐な言い回しも見受けられたりと
少し安定を欠いている気がしないでもなかったけれど、やっぱりうまいよなあと思う。
特に最近の芥川賞受賞作にはタッチの軽いものがやたら多くて少し辟易していたので
(今回の芥川賞受賞者も、私がダントツで推していた田中慎弥氏じゃなかったし。。。
最近女に甘くないか? 芥川賞)
こういう淡々とした、けれどどっしり読ませてくれる物語に出会えたことは嬉しかった。
まあただひとつ難を言うなら、子供時代と比べ大人になった花井の刑務所内での
いじめ煽動描写、頂点に君臨するまでの描写がほとんどなく今ひとつ現在の花井の
キャラが掴みにくかったので、そのあたりをもうちょっと描いてほしかったな、ということ。
大人と子供じゃ周囲の掌握方法も違ってくると思うし。
とにかく花井が〝閉鎖社会への逃避〟を選んでくれてよかったと思う。
もし彼が主人公が一度夢想したような〝二重世界〟を生きる道を選んでいたら、
被害は格段に増えていたろうし。
でも、今の自分ではない自分をどこか別の場所に見出そうとするあたり、
この二人は似ているのかもしれない。だからこそ主人公も花井の本性に気づけた。
そういう解釈もありかもしれない。
『花まんま』で直木賞を受賞し、ノスタルジックホラーの旗手として
多くのファンを魅了する朱川湊人氏が、ほぼ一年ぶりに刊行する待望の短編集。
いっぺんしか願いを叶えない神様を探しに友人と山に向った少年は
神様を見つけることができるのか、そして、その後友人に起きた悲しい出来事に対してとった
少年の行動とは……。感動の作品「いっぺんさん」はじめ、
鳥のおみくじの手伝いをする少年と鳥使いの老人、
ヤマガラのチュンスケとの交流を描く「小さなふしぎ」、
田舎に帰った作家が海岸で出会った女の因縁話「磯幽霊」など、
ノスタルジーと恐怖が融和した朱川ワールド八編。
★収録作品★
いっぺんさん
コドモノクニ
小さなふしぎ
逆井水
蛇霊憑き
山から来るもの
磯幽霊
八十八姫
***
大好きな作家さん。。。でした。
好きな作家さんがたとえ「。。。え?」と思うような本を書いても、
人間いつも好調なはずがないし、三作目までは続けて新作を読んでみて
それからその著者の真価を問う、それが私的なモットーでした。
これで四作目です。
見限ります。
ワンパターン化したストーリーにオチ、
それどころかヘタをするとオチすらなく「え? で結局何が言いたかったの?」という話も
中にはあるし、
文章力は生来のクオリティを保ってはいるものの以前のように琴線に触れてくるような
斬新な表現もなく、読んだ端から忘れてしまうような内容ばかり。
〝都市伝説セピア〟や〝かたみ歌〟に収録されていた話なんて
読んで数年経った今でも鮮明に憶えているのに(〝白い部屋で月の歌を〟なんて、
最後の文章までそらんじられるほど)。
けれど〝わくらば日記〟あたりからあれ?と違和感を抱くようになり、
〝赤赤煉恋〟で「なんか朱川さん質落ちてきたな。。。」とはっきりと確信し、
〝水銀虫〟では苦笑い→無表情、
〝スメラギの国〟はわずか十数ページでリタイア。
本作収録の〝小さなふしぎ〟なんて乙一氏の〝失はれる物語〟に収録されてる
某短編とかぶりまくってるし(あっちのほうが遥かにいいですが。知人のプロ作家さんも
心を動かされた、と言っていたぐらいだし)。
駄作ではないし作品の質を保ち続けるのがいかに難しいかもわかってはいますが、
それでも過去のあの傑作たちを知っている身としては本作は読んでいて哀しかった。
あんなにいい作家だったのにな、と朱川氏には失礼ですが思わずにいられなかった。
。。。白い石探しに行ってこようかな。
いっぺんさん、いっぺんさん、朱川湊人氏をデビュー当時の彼に戻してください。
造花の蜜はどんな妖しい香りを放つのだろうか…その二月末日に発生した誘拐事件で、
香奈子が一番大きな恐怖に駆られたのは、
それより数十分前、八王子に向かう車の中で事件を察知した瞬間でもなければ、
二時間後犯人からの最初の連絡を家の電話で受けとった時でもなく、
幼稚園の玄関前で担任の高橋がこう言いだした瞬間だった。
高橋は開き直ったような落ち着いた声で、
「だって、私、お母さんに…あなたにちゃんと圭太クン渡したじゃないですか」。
それは、この誘拐事件のほんの序幕にすぎなかった――。
***
。。。。。。
どうしよう、何もコメントできない。
ものすごい駄作なら欠点をあげつらうこともできるしその逆もまた然りなのですが、
なんていうかこう、音痴なんだけど笑えるほどじゃないからネタにしづらい微妙な音痴、的
中途半端な〝ダメだこりゃミステリ〟なので感想を述べるのが難しい。。。
ただひとつ言えるのは、駄作なら壁に本をぶん投げるところですが、
本作は読んでいる最中、投げるほどにはむかつかないものの
何度も閉じてしまいそうになった。ページと目蓋を。
要するにつまらない。
ストーリー展開もどこかで読んだようなものなら文章表現もひどく陳腐。
これがあの〝戻り川心中〟を書いた連城三紀彦? と途中で表紙の著者名を
確認してしまったほど(実話)。
登場人物たちの挙動や心理描写もむちゃくちゃだし(たとえば
★自分の店に来てくれたら自分を本当に信頼してくれた証拠、って偽水絵は言ってたけど
店にいるのは単なる水絵のそっくりさんだと思っている川田がそこに来たからって
信頼した証拠にはならないだろ。
★愛人のそっくりさんを水商売の店で指名する男なんてあんまりいないと思うんだけど。
★で、結局、序盤で紙で作った蜂つきの造花が出てきたのと
香奈子が実の子じゃない圭太にあそこまで執着した理由はいったい何だったんだ?
まだまだまだまだありますがこれ以上突っ込んでもきりがないので
このへんにしておきますが。
ラスト間際で「片方の肩を持てばもう片方を裏切ることになる」と悩む少女の葛藤を
納得のいく形で見事に収束させてみせる手腕には唯一おっと思わせられましたが。
あまりおすすめできないです。
本作が初連城三紀彦という人は、必ず〝戻り川心中〟読んでください。お願いですから。
蛇足:
私なら最終章のあれを〝和洋混乱〟じゃなく〝和洋混沌〟って表現するけどな。
そのほうが字面も語呂も何となくいい気が。
人口千三百余、三方を山に囲まれ樅を育てて生きてきた外場村。
猛暑に見舞われたある夏、村人たちが謎の死をとげていく。
増えつづける死者は、未知の病によるものか、それとも、
ある一家が越してきたからなのか…。
***
上下二段組&トータル1271Pを読破する余裕と情熱と根性がある方には
ぜひおすすめしたい一作。
化け物vs人間、というとどうも子供っぽく稚拙に感じてしまうものですが、
本作にはそういった印象はまったく受けず。これもひとえに著者の圧倒的なまでの
筆力があってこそ。
人が化け物に変異していく過程を医学的見地から描いているのも功を奏しているし、
人間一人ひとりの心理描写が非常に巧みで、一歩間違えば子供騙し的になりかねない物語に
実際にあったことを目の当たりにするようなリアリティを与えている。
ただしその〝キャラ立ち〟があまりに素晴らし過ぎるせいで、誰がどう動くか
多少読めてしまう部分もあるにはあるのですが。
あ、でもそれとは反対に、「この人は終盤で絶対に活躍するな」と確信していた人が
いつの間にかフェードアウトしていて「あれ? 結局最後まで出てこなかった。。。」と
拍子抜けするという逆現象もありましたが(まあ、でも絶対起き上がると思っていた
夏野が起き上がらなかったのは、一番正しい〝人としての生〟を全うしたのだ、と
今となっては思っていますが)。
改めて、戦っているのは正義と悪、なんて単純な図式はこの世にないよな。
終盤に差し掛かるころにはもう、自分が誰を憎んでいるのか、誰の死を悲しんでいるのか、
自分自身わからなくなってきていたし。
まあ、本作が屍鬼という存在を通して人間の〝習性〟〝性(さが)〟といったものを
巧妙に描き出し皮肉ってみせていることは確かです。
怖さと切なさが同時に漂ってくるようなラストはすごく好き。
複雑な精神の持ち主は、自分を一番理解してくれる、そして自分と一番近い人間と
共鳴してしまうものなんだな、やっぱり。。。
映画化してほしいな。変にCGとか使わず、それぞれのキャラの内面を深く掘り下げる形で。
ちなみに本作を読んだ人には、新井素子さんの著作〝グリーン・レクイエム〟に
収録されている〝週に一度のお食事を〟もぜひ読んでほしいところ。
蛇足:
それにしてもこれだけ長い物語を読んでいると、その作家のよく使う単語がわかってくる。
本作は
〝瞬く〟
〝呻く〟
〝摂理〟
だった。
大型スーパー“デイリータウン”のマネージャー袖山剛史は、
クレーマー・岬圭祐、万引き常習犯・マンビーという二人の“悪魔”に悩まされていた。
ある日岬が、クマ型ペットロボット“テディ・バディ”のケンタを診てほしいと現れた。
治療法を教えて切り抜けたのも束の間、マンビーにデスクトップパソコンを盗まれる。
そして岬が再びやって来た、「電子レンジでケンタを温めたら死んだ」と――。
岬の嫌がらせはエスカレートする一方。
袖山の心の支えは恋人・美乃の存在だったが…。
***
オチはかなり予測不可能で物語にどう決着がつくのかわからず、
意表をつきまくりのラストにはいたく驚かされましたが。。。
冷静になって振り返ってみると、そのオチに至るまでの経緯が支離滅裂すぎ。
逆に本作のオチを読めた人がいたらお眼にかかりたいぐらい、
全体にこじつけ感や矛盾が多かった。
たとえば、
なぜ主人公は岬のぬいぐるみはあくまでぬいぐるみとしてしか見ていないのに
自分はあそこまで偏執的になっているのか、という人格面での非統一性。
そしてどうしてわざわざぬいぐるみのために部屋を借りてやらねばならないのか。
普通に同棲すればいいのでは?
主人公の好きな女性を岬がストーキングしてたっていうのも偶然にしても
ちょっとご都合主義すぎるのでは。
極めつけ、警察が杜撰すぎ。
主人公と美乃がただの友人じゃないなんて美乃の両親にちょっと聞き込みすれば
簡単にわかることだし、人を殺した現場にいた人間が単なる目撃者か殺人犯かなんて
わからないはずがない。岬が主人公の犯罪をチクらないのもおかしいし(しかも
自分に嫌疑がかかってるのに)。
って伏字だらけで全然感想にならないよこれじゃ。
主人公が接客するいろいろなタイプのクレーマーたちはリアルで面白かったですが。
(著者は以前主人公と同じ業種で働いていたらしいのでそのせいでしょうが)
そういえば蛇足ですが、私がバイト時代一番難儀したクレーマーは
数分待たせたことを根に持って「私をバカにしてるんですか。私はヒマじゃないんです」
と延々二時間ねちねち語っていったおっさん。
忙しいなら早く帰ろうよ。
ちなみにクレーマーネタでは荻原浩氏〝神様からひと言〟がダントツに面白いです。
冒頭の会議のシーンは少々だるいですが、あとはひたすら笑いの連続。おすすめです。
。。。少なくとも本作よりは。
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S | M | T | W | T | F | S |
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