「名探偵は『正しい』?」
推理作家の白瀬は、とっても気弱な友人・音野順が秘める謎解きの才能を見込んで、
仕事場の一角に探偵事務所を開いた。今日も白瀬は泣き言をいう音野をなだめつつ、
お弁当のおにぎりを持った名探偵を事件現場へ連れてゆく。
殺人現場に撒かれた大量のトランプと、凶器が貫くジョーカーが構成する驚愕の密室トリック、
令嬢の婿取りゆきだるまコンテストで起きた、雪の豪邸の不可能殺人など
五つの難事件を収録。
★収録作品★
踊るジョーカー
時間泥棒
見えないダイイング・メッセージ
毒入りバレンタイン・チョコ
雪だるまが殺しにやってくる
***
理系ミステリの名手である北山氏の連作短編集ですが、
ほんとこの人の考え出すトリックを見ていると
「でん○ろう先生もその気になれば完全犯罪やれるんじゃ」と思ってしまう(先生すいません)。
不謹慎な言い方だけど、〝やってみよう! 楽しくできるみんなの殺人〟的な、
遊び心溢れるミステリなんだよなー、この作家さんの書くものは。。。
こう言っちゃなんだけどそこが面白いのですが。
そして名探偵=変人で傲岸不遜で自信家、というお約束を(もちろん著者狙ってるでしょうが)
裏切る探偵・音野順の情けないキャラも可愛くていい感じ。
随所に盛り込まれた小ネタ(〝知的敗者〟発言、探偵が腰掛ける机の前の座布団に座る依頼人、
森博嗣やジェイムス・ティプトリー・ジュニア等の著書のタイトルの一部パクリ、)も楽しい。
非常におすすめの一冊なのですが、個人的に納得がいかなかった部分は、
◆毒入りバレンタイン・チョコ◆
普通、手作りチョコって市販の鋳型の紙に溶かしたチョコを流し込んで作るから
あんな外の紙とチョコが分離した状態のものを作るのは不自然だと思う。
しかもチョコを持ち歩いているときに振動で毒が付着してしまう危険性も大いにあるはず。
それに毒を付着させるのに協力磁石を使っているなら、机の下を音もなく、速やかに
動かすのは相当難しいのでは?
そして警察の机なんかスチール製が多そうだから誰も仕込まれた磁石に気づかないなんて
ありえないし(そもそも科捜研がすみずみまで調べるはず。。。って言ったら野暮?)、
ちょっとトリックに無理がある気がした。そういう点に眼をつぶれば面白かったけど。
◆雪だるまが殺しにやってくる◆
〝雪の結晶はあちこち尖ったミクロの刃〟って著者本人が書いているように、
雪だるまを風船で代用なんかしたりしたら吹雪&寒さによるゴムの劣化で
あっという間に割れるはず。このトリックは本作中一番実行不能な気がした。
しかも犯人、もし風船がさして遠くにいかないうちに割れてすぐそばに落ちたりしたら
どうやって誤魔化す気だったのか?
そして他の短編に比べてどうも間延びした感じがするのでどうしてだろうと思っていたら
本編だけ書き下ろしなんですね。やっぱり雑誌掲載のために書かれた原稿のほうが
ほどよく締まるものなのかも(ほかの作家さんの短編集にもそういうことが多いので)。
北山氏の著作は結構世紀末的な雰囲気の漂うものが多かったけど、
こういうのほほんとしたミステリもうまいんだな、と新境地を見せられた気分でした。
推理作家の白瀬は、とっても気弱な友人・音野順が秘める謎解きの才能を見込んで、
仕事場の一角に探偵事務所を開いた。今日も白瀬は泣き言をいう音野をなだめつつ、
お弁当のおにぎりを持った名探偵を事件現場へ連れてゆく。
殺人現場に撒かれた大量のトランプと、凶器が貫くジョーカーが構成する驚愕の密室トリック、
令嬢の婿取りゆきだるまコンテストで起きた、雪の豪邸の不可能殺人など
五つの難事件を収録。
★収録作品★
踊るジョーカー
時間泥棒
見えないダイイング・メッセージ
毒入りバレンタイン・チョコ
雪だるまが殺しにやってくる
***
理系ミステリの名手である北山氏の連作短編集ですが、
ほんとこの人の考え出すトリックを見ていると
「でん○ろう先生もその気になれば完全犯罪やれるんじゃ」と思ってしまう(先生すいません)。
不謹慎な言い方だけど、〝やってみよう! 楽しくできるみんなの殺人〟的な、
遊び心溢れるミステリなんだよなー、この作家さんの書くものは。。。
こう言っちゃなんだけどそこが面白いのですが。
そして名探偵=変人で傲岸不遜で自信家、というお約束を(もちろん著者狙ってるでしょうが)
裏切る探偵・音野順の情けないキャラも可愛くていい感じ。
随所に盛り込まれた小ネタ(〝知的敗者〟発言、探偵が腰掛ける机の前の座布団に座る依頼人、
森博嗣やジェイムス・ティプトリー・ジュニア等の著書のタイトルの一部パクリ、)も楽しい。
非常におすすめの一冊なのですが、個人的に納得がいかなかった部分は、
◆毒入りバレンタイン・チョコ◆
普通、手作りチョコって市販の鋳型の紙に溶かしたチョコを流し込んで作るから
あんな外の紙とチョコが分離した状態のものを作るのは不自然だと思う。
しかもチョコを持ち歩いているときに振動で毒が付着してしまう危険性も大いにあるはず。
それに毒を付着させるのに協力磁石を使っているなら、机の下を音もなく、速やかに
動かすのは相当難しいのでは?
そして警察の机なんかスチール製が多そうだから誰も仕込まれた磁石に気づかないなんて
ありえないし(そもそも科捜研がすみずみまで調べるはず。。。って言ったら野暮?)、
ちょっとトリックに無理がある気がした。そういう点に眼をつぶれば面白かったけど。
◆雪だるまが殺しにやってくる◆
〝雪の結晶はあちこち尖ったミクロの刃〟って著者本人が書いているように、
雪だるまを風船で代用なんかしたりしたら吹雪&寒さによるゴムの劣化で
あっという間に割れるはず。このトリックは本作中一番実行不能な気がした。
しかも犯人、もし風船がさして遠くにいかないうちに割れてすぐそばに落ちたりしたら
どうやって誤魔化す気だったのか?
そして他の短編に比べてどうも間延びした感じがするのでどうしてだろうと思っていたら
本編だけ書き下ろしなんですね。やっぱり雑誌掲載のために書かれた原稿のほうが
ほどよく締まるものなのかも(ほかの作家さんの短編集にもそういうことが多いので)。
北山氏の著作は結構世紀末的な雰囲気の漂うものが多かったけど、
こういうのほほんとしたミステリもうまいんだな、と新境地を見せられた気分でした。
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いつかは、とどく。
神父や修導士の厳しい監督のもと、社会から完全に隔離した集団生活――
修道院とは名ばかりの教護施設で、混血児イグナシオは友人を事故に見せかけ殺害した。
修道女・文子は偶然現場を目撃するが、沈黙することをイグナシオと約束する。
“人を裁けるのは、神だけです。”
静謐に言い放つ文子にイグナシオは強く女性を意識し、施設を脱走する最後の晩、
初めて文子と結ばれる。
そして、己の居場所を探して彷徨い新宿歌舞伎町に辿り着いたイグナシオは、
新たな生活を始めるが…。
芥川賞受賞作と対なす記念碑的名作、待望の文庫化。
***
私のバイブルであり、小説を書く上で一番影響を受けているであろう
花村萬月氏の著作〝王国記〟シリーズの原点ともいうべき作品。
確かに上記の一連のシリーズのプロトタイプであることを感じさせる内容でした。
ただ、萬月氏の初期の作品であるためか、シリーズに比べると多少
ストーリー展開や登場人物たちの挙動がオーバーで鼻白む部分もあったり。
それとは逆に、荒削りなぶんシリーズよりずっと生々しい表現が随所に見られて
何度もどきりとさせられるのですが。
本作で頻繁に言及される〝そうである人間と、そうでない人間〟、
これは〝そうである人間〟には読み終えたときに深い共感を覚えさせ、対して
〝そうでない人間〟には、賢すぎるが故に不器用で、一片の曇りもない愚かさを持った
イグナシオという一人の少年の哀しい物語、としか感じられないだろうと思う。
私は〝そうである人間〟なので、この物語の言わんとしていることが読み取れてしまった。
本当は読み取れないほうが幸せなことであるはずなんだけど。
読後「結局著者は何が言いたかったんだろう? イグナシオは何がしたかったんだろう?」
そう思って首をひねることができる人間でいたかった。
それにしても。。。
相手の哀しみを絶妙のタイミングで癒す能力、
危険の只中にあってもぴくりとも揺らぐことのない精神力、
イグナシオはやっぱり神だったのだな、と思う。
本当の神は彼のように、どこか突き抜けた存在ながらも
欠点も弱さも卑怯さも人間と同じように併せ持っているものだと思うから。
ちなみに本作は重松清氏の〝疾走〟と非常によく似ています。
なので片方が肌に合った人はもう片方もどうぞ。
聖イグナシオ教会。
神父や修導士の厳しい監督のもと、社会から完全に隔離した集団生活――
修道院とは名ばかりの教護施設で、混血児イグナシオは友人を事故に見せかけ殺害した。
修道女・文子は偶然現場を目撃するが、沈黙することをイグナシオと約束する。
“人を裁けるのは、神だけです。”
静謐に言い放つ文子にイグナシオは強く女性を意識し、施設を脱走する最後の晩、
初めて文子と結ばれる。
そして、己の居場所を探して彷徨い新宿歌舞伎町に辿り着いたイグナシオは、
新たな生活を始めるが…。
芥川賞受賞作と対なす記念碑的名作、待望の文庫化。
***
私のバイブルであり、小説を書く上で一番影響を受けているであろう
花村萬月氏の著作〝王国記〟シリーズの原点ともいうべき作品。
確かに上記の一連のシリーズのプロトタイプであることを感じさせる内容でした。
ただ、萬月氏の初期の作品であるためか、シリーズに比べると多少
ストーリー展開や登場人物たちの挙動がオーバーで鼻白む部分もあったり。
それとは逆に、荒削りなぶんシリーズよりずっと生々しい表現が随所に見られて
何度もどきりとさせられるのですが。
本作で頻繁に言及される〝そうである人間と、そうでない人間〟、
これは〝そうである人間〟には読み終えたときに深い共感を覚えさせ、対して
〝そうでない人間〟には、賢すぎるが故に不器用で、一片の曇りもない愚かさを持った
イグナシオという一人の少年の哀しい物語、としか感じられないだろうと思う。
私は〝そうである人間〟なので、この物語の言わんとしていることが読み取れてしまった。
本当は読み取れないほうが幸せなことであるはずなんだけど。
読後「結局著者は何が言いたかったんだろう? イグナシオは何がしたかったんだろう?」
そう思って首をひねることができる人間でいたかった。
それにしても。。。
相手の哀しみを絶妙のタイミングで癒す能力、
危険の只中にあってもぴくりとも揺らぐことのない精神力、
イグナシオはやっぱり神だったのだな、と思う。
本当の神は彼のように、どこか突き抜けた存在ながらも
欠点も弱さも卑怯さも人間と同じように併せ持っているものだと思うから。
ちなみに本作は重松清氏の〝疾走〟と非常によく似ています。
なので片方が肌に合った人はもう片方もどうぞ。
聖イグナシオ教会。
――レエ……オグロアラダ……ロゴ………
「レエ、オグロアラダ、ロゴ…」
ホラー作家の道尾が、旅先の白峠村の河原で耳にした無気味な声。
その言葉の真の意味に気づいた道尾は東京に逃げ戻り、
「霊現象探求所」を構える友人・真備のもとを訪れた。
そこで見たのは、被写体の背中に二つの眼が写る4枚の心霊写真だった。
しかも、すべてが白峠村周辺で撮影され、後に彼らは全員が自殺しているという。
道尾は真相を求めて、真備と助手の北見とともに再び白峠村に向かうが…。
未解決の児童連続失踪事件。自殺者の背中に現れた眼。白峠村に伝わる「天狗伝説」。
血塗られた過去に根差した、悲愴な事件の真実とは?
第5回ホラーサスペンス大賞特別賞受賞作。
***
道尾秀介さん初直木賞候補おめでとう!
ということで(いや、単に偶然なんですが)、久々デビュー作を再読。
道尾氏、このころはまだバリッバリの本格ミステリ書いてたんだなーと思い出して
懐かしくなった。
主人公の独り言がやたら多いのも、
探偵役とワトソン役のキャラや全体的な文体がまんま島田荘司の御手洗シリーズなところも、
中年男性の登場人物だけやたらキャラが立っていて物語の中で浮いているのも、
デビュー当初ならではの道尾作品の特徴。
ギャグセンスのよさは今と変わらずですが。
でもやっぱり、29歳でここまでのものを書けるのはすごいと思う。
というか不思議なのが、どうして著者はこの作品を〝ホラーサスペンス大賞〟に
送ろうと思ったんだろ?
この内容はどうみても〝鮎川哲也賞〟だと思うのですが(賞金目当て。。。?)。
何にせよ、デビュー作である本作を読んですっかりファンになってしまった私としては
(まあ最近、幼女性虐待ネタを乱発するので若干引き気味でもあるのですが。。。)
直木賞受賞を支持したいところです。
作風が少し似た感じで、ずっとファンだった伊坂氏はノミネートを辞退してしまったし、
それ以前に彼の最近の作風は正直あまり好きじゃないので。。。
ちなみに本作の大元となった掌編というのがデビュー前の道尾氏によって
ネット上で公開されているのですが、読みたい方はこちらをどうぞ(若干ネタバレ入ってるので
本作を読み終えてからのほうが可)。
「レエ、オグロアラダ、ロゴ…」
ホラー作家の道尾が、旅先の白峠村の河原で耳にした無気味な声。
その言葉の真の意味に気づいた道尾は東京に逃げ戻り、
「霊現象探求所」を構える友人・真備のもとを訪れた。
そこで見たのは、被写体の背中に二つの眼が写る4枚の心霊写真だった。
しかも、すべてが白峠村周辺で撮影され、後に彼らは全員が自殺しているという。
道尾は真相を求めて、真備と助手の北見とともに再び白峠村に向かうが…。
未解決の児童連続失踪事件。自殺者の背中に現れた眼。白峠村に伝わる「天狗伝説」。
血塗られた過去に根差した、悲愴な事件の真実とは?
第5回ホラーサスペンス大賞特別賞受賞作。
***
道尾秀介さん初直木賞候補おめでとう!
ということで(いや、単に偶然なんですが)、久々デビュー作を再読。
道尾氏、このころはまだバリッバリの本格ミステリ書いてたんだなーと思い出して
懐かしくなった。
主人公の独り言がやたら多いのも、
探偵役とワトソン役のキャラや全体的な文体がまんま島田荘司の御手洗シリーズなところも、
中年男性の登場人物だけやたらキャラが立っていて物語の中で浮いているのも、
デビュー当初ならではの道尾作品の特徴。
ギャグセンスのよさは今と変わらずですが。
でもやっぱり、29歳でここまでのものを書けるのはすごいと思う。
というか不思議なのが、どうして著者はこの作品を〝ホラーサスペンス大賞〟に
送ろうと思ったんだろ?
この内容はどうみても〝鮎川哲也賞〟だと思うのですが(賞金目当て。。。?)。
何にせよ、デビュー作である本作を読んですっかりファンになってしまった私としては
(まあ最近、幼女性虐待ネタを乱発するので若干引き気味でもあるのですが。。。)
直木賞受賞を支持したいところです。
作風が少し似た感じで、ずっとファンだった伊坂氏はノミネートを辞退してしまったし、
それ以前に彼の最近の作風は正直あまり好きじゃないので。。。
ちなみに本作の大元となった掌編というのがデビュー前の道尾氏によって
ネット上で公開されているのですが、読みたい方はこちらをどうぞ(若干ネタバレ入ってるので
本作を読み終えてからのほうが可)。
かつてみんなは何かであったのだ。
とある精神科病棟。
重い過去を引きずり、家族や世間から疎まれ遠ざけられながらも、明るく生きようとする患者たち。
その日常を破ったのは、ある殺人事件だった…。
彼を犯行へと駆り立てたものは何か? その理由を知る者たちは――。
現役精神科医の作者が、病院の内部を患者の視点から描く。
淡々としつつ優しさに溢れる語り口、感涙を誘う結末が絶賛を浴びた。
山本周五郎賞受賞作。
***
帚木作品の中ではかなり評判がいいので読んでみましたが、
確かに素朴ながらも非常によくできた作品。
著者が現役の精神科医であるせいもあって、患者一人ひとりの個性が際立っており、
けれど著者は決して彼らを奇抜にデフォルメして描いたりはしておらず、
帚木氏の医師として、作家としての温かな視線を文章を通してずっと感じました。
それぞれの患者の過去も丁寧に描写されていて、彼らはちゃんと名前も人格もある
一人の人間なのだという書き手の、そして患者たちの切実な訴えが聞こえてくるようでした。
ただ、患者たちの過去が書かれている割りになぜ彼らがその病気を発症するに至ったかは
ほとんど触れられておらず、ちょっと彼らのバックボーンが想像しづらい感はあった。
そして中盤の殺人シーンがあまりにも唐突で、これまで淡々と、でもリアリティ溢れる描写で
展開してきた物語から浮いてしまっているようにも思えた。
実際にあんな事件が起こりうるなら、閉鎖病棟は相当杜撰な施設だと言わざるを得ない(まあ
今の時代においては〝閉鎖病棟〟という言葉自体死語に近いですが)。
本作においてあの殺人事件は必要だったのかな? どうも唐突に感じた。
退院していく者に対してのほかの患者の喜びと嫉妬が混じった複雑な感情、
そして患者と医師との相性、
そのあたりの描写は非常にリアルで何度もうんうん頷きながら読みましたが、
殺人を犯して精神病院送りになった登場人物の周囲の(病を持っていない普通の)人間が
その彼を少しも恐れない描写があったりして、偏見ではなくその点には疑問を持ちましたが。
病気うんぬんではなくやっぱり殺人者で初対面なら少しは警戒するはずだろうに。
作中にはやはり退院してきた元患者の身内を警戒し、そばで暮らすことに難色を示す
親族たちも出てはくるのですが。。。
何で場合によって無警戒だったりそうじゃなかったりするんだろう? と、その不統一感が
少し気になった。
義父にレイプされた少女が簡単に病棟の患者である中年の男たちと仲良くなる、というのも
違和感があった。まあ人によるんだろうけど。。。
個人的に一番切なかったのは、メインキャラたちのエピソードよりも、
殺された男が死の間際の一瞬に見せた表情。
(自分で言いたくはないけど)同じ心を病む者として、彼の心情が痛いほどわかって
泣きたくなった。
つい最近、統合失調症の母親を思い余って手にかけてしまった17歳の男の子のことが
ニュースになっていたけど、この病気ほど本人の苦しみが周囲に伝わりにくい病気も
ないと思う。看病をする周囲もつらいし。
この病に罹っている人すべてが寛解し、家族ともども少しでも楽になってくれるよう願います。
とある精神科病棟。
重い過去を引きずり、家族や世間から疎まれ遠ざけられながらも、明るく生きようとする患者たち。
その日常を破ったのは、ある殺人事件だった…。
彼を犯行へと駆り立てたものは何か? その理由を知る者たちは――。
現役精神科医の作者が、病院の内部を患者の視点から描く。
淡々としつつ優しさに溢れる語り口、感涙を誘う結末が絶賛を浴びた。
山本周五郎賞受賞作。
***
帚木作品の中ではかなり評判がいいので読んでみましたが、
確かに素朴ながらも非常によくできた作品。
著者が現役の精神科医であるせいもあって、患者一人ひとりの個性が際立っており、
けれど著者は決して彼らを奇抜にデフォルメして描いたりはしておらず、
帚木氏の医師として、作家としての温かな視線を文章を通してずっと感じました。
それぞれの患者の過去も丁寧に描写されていて、彼らはちゃんと名前も人格もある
一人の人間なのだという書き手の、そして患者たちの切実な訴えが聞こえてくるようでした。
ただ、患者たちの過去が書かれている割りになぜ彼らがその病気を発症するに至ったかは
ほとんど触れられておらず、ちょっと彼らのバックボーンが想像しづらい感はあった。
そして中盤の殺人シーンがあまりにも唐突で、これまで淡々と、でもリアリティ溢れる描写で
展開してきた物語から浮いてしまっているようにも思えた。
実際にあんな事件が起こりうるなら、閉鎖病棟は相当杜撰な施設だと言わざるを得ない(まあ
今の時代においては〝閉鎖病棟〟という言葉自体死語に近いですが)。
本作においてあの殺人事件は必要だったのかな? どうも唐突に感じた。
退院していく者に対してのほかの患者の喜びと嫉妬が混じった複雑な感情、
そして患者と医師との相性、
そのあたりの描写は非常にリアルで何度もうんうん頷きながら読みましたが、
殺人を犯して精神病院送りになった登場人物の周囲の(病を持っていない普通の)人間が
その彼を少しも恐れない描写があったりして、偏見ではなくその点には疑問を持ちましたが。
病気うんぬんではなくやっぱり殺人者で初対面なら少しは警戒するはずだろうに。
作中にはやはり退院してきた元患者の身内を警戒し、そばで暮らすことに難色を示す
親族たちも出てはくるのですが。。。
何で場合によって無警戒だったりそうじゃなかったりするんだろう? と、その不統一感が
少し気になった。
義父にレイプされた少女が簡単に病棟の患者である中年の男たちと仲良くなる、というのも
違和感があった。まあ人によるんだろうけど。。。
個人的に一番切なかったのは、メインキャラたちのエピソードよりも、
殺された男が死の間際の一瞬に見せた表情。
(自分で言いたくはないけど)同じ心を病む者として、彼の心情が痛いほどわかって
泣きたくなった。
つい最近、統合失調症の母親を思い余って手にかけてしまった17歳の男の子のことが
ニュースになっていたけど、この病気ほど本人の苦しみが周囲に伝わりにくい病気も
ないと思う。看病をする周囲もつらいし。
この病に罹っている人すべてが寛解し、家族ともども少しでも楽になってくれるよう願います。
夢の中でまた夢を見よう。
団地の奥から用水路をたどると、そこは見たこともない野原だった。
「美奥」の町のどこかでは、異界への扉がひっそりと開く――。
消えたクラスメイトを探す雄也、衝撃的な過去から逃げる加奈江…
異界に触れた人びとの記憶に、奇蹟の物語が刻まれる。
圧倒的なファンタジー性で魅了する鬼才、恒川光太郎の最高到達点。
★収録作品★
けものはら
屋根猩猩
くさのゆめがたり
天化の宿
朝の朧町
***
圧倒的な想像力で創り上げた異世界を文章で描写する手腕は相変わらず、しかも
デビュー当時に比べ文章も圧倒的に上達している恒川氏ですが。。。
。。。何て言うんだろう、これまでは、荒い雑草が生い茂っていて景観は悪くても
その中にぽつ、ぽつとこちらの胸を衝いてくる言葉が小石のように散らばっていたのが、
雑草が全部刈られて全体的に洗練されても、その土地がアスファルトで均されてしまったせいで
宝石の原石みたいだった無骨だけれど魅力に溢れた〝小石〟までなくなってしまった、
本作にはそういう印象を受けた。
これだったらどんなに文章が拙くても〝夜市〟のほうがずっとよかった。
あの物語は未だに私の中にしっかりと残っているし、思い出すたびに心を締め付けてくるほど
なのに、今回のこの短編集は読み終えたばかりなのにもう既に内容が朧になってる。
〝天化の宿〟は、大人が読めば静かな勇気が胸の内に満ちてくるような秀作だと思うけど、
全体的には恒川氏独特の個性というのが今回はあまり感じられなかった。
同じ短編集なら、〝秋の牢獄〟のほうが圧倒的によかった。
今回はただ文章が整っていてきれいだというだけで、静謐さの中に垣間見える
荒々しく野性味溢れた表現が魅力の恒川作品から逸脱してしまっている印象。
これまでの彼の作品を読んでいなければこんな風には思わないのでしょうが。
。。。まあこれまでの氏の著作のレベルが高すぎたってことでしょう。こういうときもあるよな。
と、偉そうながらに思っておきます。
団地の奥から用水路をたどると、そこは見たこともない野原だった。
「美奥」の町のどこかでは、異界への扉がひっそりと開く――。
消えたクラスメイトを探す雄也、衝撃的な過去から逃げる加奈江…
異界に触れた人びとの記憶に、奇蹟の物語が刻まれる。
圧倒的なファンタジー性で魅了する鬼才、恒川光太郎の最高到達点。
★収録作品★
けものはら
屋根猩猩
くさのゆめがたり
天化の宿
朝の朧町
***
圧倒的な想像力で創り上げた異世界を文章で描写する手腕は相変わらず、しかも
デビュー当時に比べ文章も圧倒的に上達している恒川氏ですが。。。
。。。何て言うんだろう、これまでは、荒い雑草が生い茂っていて景観は悪くても
その中にぽつ、ぽつとこちらの胸を衝いてくる言葉が小石のように散らばっていたのが、
雑草が全部刈られて全体的に洗練されても、その土地がアスファルトで均されてしまったせいで
宝石の原石みたいだった無骨だけれど魅力に溢れた〝小石〟までなくなってしまった、
本作にはそういう印象を受けた。
これだったらどんなに文章が拙くても〝夜市〟のほうがずっとよかった。
あの物語は未だに私の中にしっかりと残っているし、思い出すたびに心を締め付けてくるほど
なのに、今回のこの短編集は読み終えたばかりなのにもう既に内容が朧になってる。
〝天化の宿〟は、大人が読めば静かな勇気が胸の内に満ちてくるような秀作だと思うけど、
全体的には恒川氏独特の個性というのが今回はあまり感じられなかった。
同じ短編集なら、〝秋の牢獄〟のほうが圧倒的によかった。
今回はただ文章が整っていてきれいだというだけで、静謐さの中に垣間見える
荒々しく野性味溢れた表現が魅力の恒川作品から逸脱してしまっている印象。
これまでの彼の作品を読んでいなければこんな風には思わないのでしょうが。
。。。まあこれまでの氏の著作のレベルが高すぎたってことでしょう。こういうときもあるよな。
と、偉そうながらに思っておきます。
そして過去は現在となり、現在は未だ見ぬ時となる。
ドイツ現代史の権威、ホーエンハイム教授の邸宅・蝙蝠館に招待されたゼミ生たち。
住民たちが先祖返りして獣同然の姿になったと伝えられる狗神窪にひっそりと佇むこの館が
吹雪に降り込められた夜、恐怖の殺人劇が幕を開ける――。
心理学やナチズム、中世の魔女裁判などにまつわる豊富な知識と、
鮮やかな仕掛けでミステリ・シーンに殴り込みをかける驚異の新人のデビュー作。
***
こう言っちゃ作者に失礼なのですが、ネット上のレビューサイトでの評価が
あまりに酷評なので逆に読みたくなって手にとった一作。
結論から言えば、そこまで言うほどひどくなかった。
突っ込みどころは異様に多かったけど、眼を覆いたくなるほどではまったくなかった。
むしろ楽しめた。
心理学うんちくを登場人物たちが語る部分も、大部分は(私は心理学オタクなので)
既に何かの文献で読んだことのあるものばかりだったけど、
異系交配が天才を生み出す、なんてくだりは初耳で興味深かったし、
探偵役が心理学の知識で犯人を追い詰めていくというのも斬新でよかったと思う。
ただ、どうしても眼を潰れない点はやはりあるので、以下に列記。
★フリッツの強迫神経症の原因を読者が推理するのはあれだけの材料じゃ到底無理。
せめて杏子のディナーのメニューだけソーセージにするとかしてくれないと(シモネタで
すいませんが本心です)。
★あの喋り方でホーエンハイム教授が女だと気づくのもやはり絶対無理。ていうか
アンフェア。もう片方は気づいた、というか最初からそうだと思っていたので別段驚くに
値しませんでしたが(むしろ「え、著者この人を女に見せかけてるつもりだったの?!」
と別の意味で驚いた)。
★根津が序盤で教授に取り入ろうと画策していたのが、途中からまったくなかったことに
なっていたのは一体何だったんだ? 伏線でもなんでもなくストーリーにも直接絡まないなら
別に描写する必要はなかったのでは?
★いろんなものを詰め込みすぎ。吹雪の山荘、過去の因縁、
精神病理学に臨床心理学に悪魔学にナチズム、叙述トリック。。。
本格推理によくある要素を手当たり次第ぶち込みすぎでまるで闇鍋のようだった。
★秀美の性格がありえない。精神病や虐待、そういった重い要素を軽く語るKYキャラ(ていうか
ただのバカ?)。そういう性格設定だとしてもありえない。こいつ物語が終わるまでに殺されろ、と
思わず願ってしまった。
★被害者が殺される際の描写が稚拙。まったく緊迫感がなく、〝小学○年生〟
とかの付録でついてくる『犯人を当ててみよう!』的な子供向け推理マンガでも読んでいるような
気持ちになった。
★中盤で探偵役が〝植物〟と言い出したときから嫌な予感はしてたんですが。。。
まさかあの植物は出てこないよな、まさか出てこないよなあんなベタな植物、と思っていたら
ほんとに出てきた。。。
ミステリではあまりにも使い古されたネタですよ、倉野先生。。。
有名作家でいったら乙一氏のこの本に入ってる短編とか。
〝スノウブラインド〟というタイトルが本筋にどう絡んでくるのかと思ったら
ラストに無理やり持ってきただけ、って感じなのもどうかなと。。。
そしてメフィスト作家でもそうそうやらないあのSF展開は何だったのかと。。。
でも本当に、皆が酷評するようなものではなかったと思う。
面白かったです。
ちなみに冒頭に出てくる曲はこれ↓ですね。
BGMにどうぞ(全然内容に合わないけどな。。。)。
ドイツ現代史の権威、ホーエンハイム教授の邸宅・蝙蝠館に招待されたゼミ生たち。
住民たちが先祖返りして獣同然の姿になったと伝えられる狗神窪にひっそりと佇むこの館が
吹雪に降り込められた夜、恐怖の殺人劇が幕を開ける――。
心理学やナチズム、中世の魔女裁判などにまつわる豊富な知識と、
鮮やかな仕掛けでミステリ・シーンに殴り込みをかける驚異の新人のデビュー作。
***
こう言っちゃ作者に失礼なのですが、ネット上のレビューサイトでの評価が
あまりに酷評なので逆に読みたくなって手にとった一作。
結論から言えば、そこまで言うほどひどくなかった。
突っ込みどころは異様に多かったけど、眼を覆いたくなるほどではまったくなかった。
むしろ楽しめた。
心理学うんちくを登場人物たちが語る部分も、大部分は(私は心理学オタクなので)
既に何かの文献で読んだことのあるものばかりだったけど、
異系交配が天才を生み出す、なんてくだりは初耳で興味深かったし、
探偵役が心理学の知識で犯人を追い詰めていくというのも斬新でよかったと思う。
ただ、どうしても眼を潰れない点はやはりあるので、以下に列記。
★フリッツの強迫神経症の原因を読者が推理するのはあれだけの材料じゃ到底無理。
せめて杏子のディナーのメニューだけソーセージにするとかしてくれないと(シモネタで
すいませんが本心です)。
★あの喋り方でホーエンハイム教授が女だと気づくのもやはり絶対無理。ていうか
アンフェア。もう片方は気づいた、というか最初からそうだと思っていたので別段驚くに
値しませんでしたが(むしろ「え、著者この人を女に見せかけてるつもりだったの?!」
と別の意味で驚いた)。
★根津が序盤で教授に取り入ろうと画策していたのが、途中からまったくなかったことに
なっていたのは一体何だったんだ? 伏線でもなんでもなくストーリーにも直接絡まないなら
別に描写する必要はなかったのでは?
★いろんなものを詰め込みすぎ。吹雪の山荘、過去の因縁、
精神病理学に臨床心理学に悪魔学にナチズム、叙述トリック。。。
本格推理によくある要素を手当たり次第ぶち込みすぎでまるで闇鍋のようだった。
★秀美の性格がありえない。精神病や虐待、そういった重い要素を軽く語るKYキャラ(ていうか
ただのバカ?)。そういう性格設定だとしてもありえない。こいつ物語が終わるまでに殺されろ、と
思わず願ってしまった。
★被害者が殺される際の描写が稚拙。まったく緊迫感がなく、〝小学○年生〟
とかの付録でついてくる『犯人を当ててみよう!』的な子供向け推理マンガでも読んでいるような
気持ちになった。
★中盤で探偵役が〝植物〟と言い出したときから嫌な予感はしてたんですが。。。
まさかあの植物は出てこないよな、まさか出てこないよなあんなベタな植物、と思っていたら
ほんとに出てきた。。。
ミステリではあまりにも使い古されたネタですよ、倉野先生。。。
有名作家でいったら乙一氏のこの本に入ってる短編とか。
〝スノウブラインド〟というタイトルが本筋にどう絡んでくるのかと思ったら
ラストに無理やり持ってきただけ、って感じなのもどうかなと。。。
そしてメフィスト作家でもそうそうやらないあのSF展開は何だったのかと。。。
でも本当に、皆が酷評するようなものではなかったと思う。
面白かったです。
ちなみに冒頭に出てくる曲はこれ↓ですね。
BGMにどうぞ(全然内容に合わないけどな。。。)。
ひどい話だ。
「オレの愛する妻を殺した犯人がここにいる。犯人には密かに毒を盛った。
自白すれば解毒剤をやる」
「え、え、まさかオレを疑ってないよね…え、苦しい、ウソ、まじ!?」
袋小路に入った主人公と、思わず一緒になって手に汗にぎる「野菜ジュースにソースを二滴」ほか、
短編掌編合わせて12編の傑作コージーミステリー。
「情けない男の滑稽さを書かせたらピカイチ」と、デビュー単行本が各紙誌で取り上げられ、
ノリにノッている著者が贈ります。話題になった、あの各編ごとの「参考文献」も健在。
また、それぞれの作品間にビミョーな繋がりを仕掛けてあります。そちらも併せてお見破りを。
★収録作品★
野菜ジュースにソースを二滴
値段は五千万円
青空に黒雲ひとつ
天職
世界で一つだけの
待つ男
私のお気に入り
冷たい水が背筋に
ラスト・セッション
懐かしい思い出
ミニモスは見ていた
二枚舌は極楽へ行く
***
もともとあまり好きな作家ではなかったのですが、某ミステリ・アンソロジーにて
蒼井氏の〝ラスト・セッション〟を読んでいたく感動、同作が収録されている
本短編集を手にとった次第なのですが。
どうもこの著者の作品は、話が長くなればなるほどダレる傾向にある気がする。
表題作〝二枚舌は~〟なんて途中で読むのがだるくなってきたし(オチも大したことないし)、
同じく本書では比較的長い部類に入る〝青空に黒雲ひとつ〟〝待つ男〟も
ミステリにも関わらずメリハリがなくてのめりこみづらい(唯一の例外である傑作
〝ラスト・セッション〟を抜かせば、〝野菜ジュースにソースを二滴〟が
長い話の中では一番読めた。というかこれもかなりハイクオリティな出来栄えだと思う)。
掌編は妙に味があってかなりのセンスを感じるのにな。
ネタには独特の個性がある作家さんなので、そういうところはもったいない気がする。
系統的にはどことなーく石持浅海氏に似ている気がするので(あっちのほうがアクは
強いですが)、片方が好きな人はもう片方も読んでみてもいいかも。
シュールめなミステリが好きな人におすすめです。
「オレの愛する妻を殺した犯人がここにいる。犯人には密かに毒を盛った。
自白すれば解毒剤をやる」
「え、え、まさかオレを疑ってないよね…え、苦しい、ウソ、まじ!?」
袋小路に入った主人公と、思わず一緒になって手に汗にぎる「野菜ジュースにソースを二滴」ほか、
短編掌編合わせて12編の傑作コージーミステリー。
「情けない男の滑稽さを書かせたらピカイチ」と、デビュー単行本が各紙誌で取り上げられ、
ノリにノッている著者が贈ります。話題になった、あの各編ごとの「参考文献」も健在。
また、それぞれの作品間にビミョーな繋がりを仕掛けてあります。そちらも併せてお見破りを。
★収録作品★
野菜ジュースにソースを二滴
値段は五千万円
青空に黒雲ひとつ
天職
世界で一つだけの
待つ男
私のお気に入り
冷たい水が背筋に
ラスト・セッション
懐かしい思い出
ミニモスは見ていた
二枚舌は極楽へ行く
***
もともとあまり好きな作家ではなかったのですが、某ミステリ・アンソロジーにて
蒼井氏の〝ラスト・セッション〟を読んでいたく感動、同作が収録されている
本短編集を手にとった次第なのですが。
どうもこの著者の作品は、話が長くなればなるほどダレる傾向にある気がする。
表題作〝二枚舌は~〟なんて途中で読むのがだるくなってきたし(オチも大したことないし)、
同じく本書では比較的長い部類に入る〝青空に黒雲ひとつ〟〝待つ男〟も
ミステリにも関わらずメリハリがなくてのめりこみづらい(唯一の例外である傑作
〝ラスト・セッション〟を抜かせば、〝野菜ジュースにソースを二滴〟が
長い話の中では一番読めた。というかこれもかなりハイクオリティな出来栄えだと思う)。
掌編は妙に味があってかなりのセンスを感じるのにな。
ネタには独特の個性がある作家さんなので、そういうところはもったいない気がする。
系統的にはどことなーく石持浅海氏に似ている気がするので(あっちのほうがアクは
強いですが)、片方が好きな人はもう片方も読んでみてもいいかも。
シュールめなミステリが好きな人におすすめです。
「どこにいるのかは問題ではありません。
会いたいか、会いたくないか、それが距離を決めるのよ」
孤島のハイテク研究所で、少女時代から完全に隔離された生活を送る
天才工学博士・真賀田四季。
彼女の部屋からウエディング・ドレスをまとい両手両足を切断された死体が現れた。
偶然、島を訪れていたN大助教授・犀川創平と女子学生・西之園萌絵が、
この不可思議な密室殺人に挑む。
新しい形の本格ミステリィ登場。
***
何を今さら。。。というぐらい、森作品(いや、ミステリ小説)の中では有名な作品ですが、
氏の作品をさんざん読み倒してきた今、原点にかえって読み返してみたら
どんな風に感じられるのかなーと思い再読に至った一冊。
いやーまさに〝原点〟でした。
理論的ながらもちょっとキザな台詞回し、
個性は強いけどどこかイラつく女性キャラ(森先生ごめんなさい)、
たまに地の文に表れるやたらポエティックな表現、
死ぬときは自分に近しい他者の手によって殺されたい、という登場人物のスタンス(当時から
これには共感している。←ヤバいかな)
やっぱり人間の本質っていうのは変わらないものなんだなーと。
現在の森作品は上に書いた特徴が全部(悪い意味で)パワーアップしてしまっているので、
デビュー作である本作はとてもすんなりと読めて気持ちがよかった。
いかにも理系の人間が書いた臭みのないミステリ、といった感じで。
もちろん12年前の作品なので、パソコンやインターネットの描写には
相当古めかしいものを感じますが(〝チャット〟の名前が〝トーク〟だし、電話回線だし)、
逆に言えば12年も前、まだネットというものがまったく世間に浸透していなかった時代に
ここまでのものを書ける著者がすごいってことなんだよな(まあ、森氏は現役の大学講師
ですが。。。)。
それに初めて読んだときは「人を殺すのにこんな動機があっていいんかい」と
子供ながらにびびったものです。
こんな理由で人を殺す犯人を見たのは初めてだった気がする。
ただ改めて読み直してみて疑問に思うのは、
たとえ腕を切り落として指紋を隠しても、DNA検査で正体はバレてしまうんじゃないのか?
ということ。当時の科学捜査ってそこまで進んでなかったっけ? そんなことないと
思うのですが。。。
まあ、何度読んでも楽しめる作品でした。
やっぱりメフィスト作家は好きだなあ、突拍子もなくて。。。
今さらですがおすすめです。
会いたいか、会いたくないか、それが距離を決めるのよ」
孤島のハイテク研究所で、少女時代から完全に隔離された生活を送る
天才工学博士・真賀田四季。
彼女の部屋からウエディング・ドレスをまとい両手両足を切断された死体が現れた。
偶然、島を訪れていたN大助教授・犀川創平と女子学生・西之園萌絵が、
この不可思議な密室殺人に挑む。
新しい形の本格ミステリィ登場。
***
何を今さら。。。というぐらい、森作品(いや、ミステリ小説)の中では有名な作品ですが、
氏の作品をさんざん読み倒してきた今、原点にかえって読み返してみたら
どんな風に感じられるのかなーと思い再読に至った一冊。
いやーまさに〝原点〟でした。
理論的ながらもちょっとキザな台詞回し、
個性は強いけどどこかイラつく女性キャラ(森先生ごめんなさい)、
たまに地の文に表れるやたらポエティックな表現、
死ぬときは自分に近しい他者の手によって殺されたい、という登場人物のスタンス(当時から
これには共感している。←ヤバいかな)
やっぱり人間の本質っていうのは変わらないものなんだなーと。
現在の森作品は上に書いた特徴が全部(悪い意味で)パワーアップしてしまっているので、
デビュー作である本作はとてもすんなりと読めて気持ちがよかった。
いかにも理系の人間が書いた臭みのないミステリ、といった感じで。
もちろん12年前の作品なので、パソコンやインターネットの描写には
相当古めかしいものを感じますが(〝チャット〟の名前が〝トーク〟だし、電話回線だし)、
逆に言えば12年も前、まだネットというものがまったく世間に浸透していなかった時代に
ここまでのものを書ける著者がすごいってことなんだよな(まあ、森氏は現役の大学講師
ですが。。。)。
それに初めて読んだときは「人を殺すのにこんな動機があっていいんかい」と
子供ながらにびびったものです。
こんな理由で人を殺す犯人を見たのは初めてだった気がする。
ただ改めて読み直してみて疑問に思うのは、
たとえ腕を切り落として指紋を隠しても、DNA検査で正体はバレてしまうんじゃないのか?
ということ。当時の科学捜査ってそこまで進んでなかったっけ? そんなことないと
思うのですが。。。
まあ、何度読んでも楽しめる作品でした。
やっぱりメフィスト作家は好きだなあ、突拍子もなくて。。。
今さらですがおすすめです。
あんたは、もう動けない。
42歳の青山は、再婚相手を探すため「オーディション」を行う。
4000人の応募者の中で青山の目をひいたのは、24歳の山崎麻美だった。
不思議な魅力に惹かれる青山と、素直に心を開く麻美。青山は麻美にのめりこんでゆくが、
彼女が求めたのは完璧な愛だった。
愛と愛の凶器が嵐のクライマックスを呼び起こす、迫真のサイコホラー・ラブストーリー。
***
ハリウッドのホラー映画にありそう、とか思っていたら、既に映画化されてるんですね。
でも小説じゃなく映画が媒体だと、せっかくの繊細な心理描写も全部はしょられてしまっている
だろうから、あまり観る気にはなりませんが。
単なる娯楽小説として読むぶんには面白いですが、細かい部分まで見ていくと
瑕疵が多い印象。
主人公・青山の元妻の良子の回想も、やたら出てはくるけれど最後までその回想が活かされる
展開がなくて拍子抜けだし、10年前の小説なのでしょうがないのかもしれないけれど
ヒロイン(といっていいのかどうか。。。)・山崎麻美のトラウマも「え? その程度?」という感じで、
それだけであそこまで壊れたキャラになるのはどうも納得がいかない。
(まあ、人間はどんな些細な理由でも人格が破綻する生き物ですが)
基本的にはホラーの本作、でも実のところ一番怖かったのは、ほかの誰でもない
青山だったのでは、と思う。
だってラストであれほど大事に思っていた息子に「そいつを殺せ」とか命令するし。。。
いくら切羽詰った状態だからって息子を殺人者にしちゃだめだろ。お父さんしっかりしてよ。
苦しみを抱えた人間の心理描写はひどくリアルで、さすが純文作家だなあと
感銘は受けましたが。ホラーものとしては、私的には及第点。
世の男性にはぜひ読んでほしいと思った一作。
限りなく透明に近い、でもよーく眼を凝らすと見えてきますよ、女の黒い部分が薄っすらと。。。
42歳の青山は、再婚相手を探すため「オーディション」を行う。
4000人の応募者の中で青山の目をひいたのは、24歳の山崎麻美だった。
不思議な魅力に惹かれる青山と、素直に心を開く麻美。青山は麻美にのめりこんでゆくが、
彼女が求めたのは完璧な愛だった。
愛と愛の凶器が嵐のクライマックスを呼び起こす、迫真のサイコホラー・ラブストーリー。
***
ハリウッドのホラー映画にありそう、とか思っていたら、既に映画化されてるんですね。
でも小説じゃなく映画が媒体だと、せっかくの繊細な心理描写も全部はしょられてしまっている
だろうから、あまり観る気にはなりませんが。
単なる娯楽小説として読むぶんには面白いですが、細かい部分まで見ていくと
瑕疵が多い印象。
主人公・青山の元妻の良子の回想も、やたら出てはくるけれど最後までその回想が活かされる
展開がなくて拍子抜けだし、10年前の小説なのでしょうがないのかもしれないけれど
ヒロイン(といっていいのかどうか。。。)・山崎麻美のトラウマも「え? その程度?」という感じで、
それだけであそこまで壊れたキャラになるのはどうも納得がいかない。
(まあ、人間はどんな些細な理由でも人格が破綻する生き物ですが)
基本的にはホラーの本作、でも実のところ一番怖かったのは、ほかの誰でもない
青山だったのでは、と思う。
だってラストであれほど大事に思っていた息子に「そいつを殺せ」とか命令するし。。。
いくら切羽詰った状態だからって息子を殺人者にしちゃだめだろ。お父さんしっかりしてよ。
苦しみを抱えた人間の心理描写はひどくリアルで、さすが純文作家だなあと
感銘は受けましたが。ホラーものとしては、私的には及第点。
世の男性にはぜひ読んでほしいと思った一作。
限りなく透明に近い、でもよーく眼を凝らすと見えてきますよ、女の黒い部分が薄っすらと。。。
人生最後の大仕掛け。
“詐欺”を生業としている、したたかな中年二人組。
ある日突然、彼らの生活に一人の少女が舞い込んだ。戸惑う二人。
やがて同居人はさらに増え、「他人同士」の奇妙な共同生活が始まった。
失くしてしまったものを取り戻すため、そして自らの過去と訣別するため、
彼らが企てた大計画とは。
***
出だしは非常に面白いのですが、中盤でダレてきて読むのがつらくなってくる。
同じコミカルタッチの同氏の著作
と比べると、キャラの個性もスピード感もサプライズ感もとうてい及ばない印象だった。
主人公たちが敵に仕掛ける詐欺作戦も大したものじゃないし(これはマンガ
〝クロサギ〟を読んでしまっている弊害かもしれませんが)、
「実は○○が××であることを誰々は既に知ってた」ってネタが多すぎるのもアンフェア。
序盤で主人公のタケさんが新しい携帯で相方のテツさんに電話をかけようとして
番号を登録していないことに気づき、結局まだ持っていた古い携帯でテツさんに電話を
かけなおすシーンがあるのですが、この時点で古い携帯の電波を入れると敵に場所を
察知される危険があるっていうのに何してんの? と突っ込みたくなったし。
古い携帯の番号を新しいほうに移し変えてからかけりゃいいじゃん、と。
でもわざわざこういう描写にするってことはこのミスが後々の伏線になるのか? と
思いきや結局最後まで何もないし。一体何のための描写だったんだろう。。。
だいたいネコのトサカのことも、普通死体が捨てられてたら弔ってやるなりなんなり
するだろうに、どうしてそのとき誰も(特にまひろ)死体がぬいぐるみだって気づかないわけ?
(ネタバレにつき薄字で)
違和感ありすぎ。
今回は道尾氏、妙に文章やストーリー展開がヘタだなーと思っていたら
それこそが最大の伏線になっていたことには驚かされましたが、
全体的にはしょぼい連ドラによくあるような、ただ次週も視聴者に観させるためだけに
用意された、伏線というよりハッタリに近い描写のオンパレードで
道尾作品にしてはレベル低いな、と感じてしまった。
あとどうでもいいけど、〝大ガラス〟なら最終章のタイトルは〝Raven〟のほうが
格好よかったのでは? と個人的には思う。それまでのタイトルも皆馴染みのない
鳥の英語名だったし。
トリックそのもののセンスはいいだけに、それをもうちょっとうまく味付けしてくれていたら
もっと傑作になっただろうになあ、というのが率直な感想。
蛇足:
①第一刷のみ(だと思いますがたぶん)、作中にとんでもない誤植があります。
ちょっと驚いたあと笑いました。担当さんと写植の人、しっかりしろよ。
②〝片眼の猿〟を読んだことがある人には、ちょっとしたサプライズが本作には
用意されています。ヒント:もやし
“詐欺”を生業としている、したたかな中年二人組。
ある日突然、彼らの生活に一人の少女が舞い込んだ。戸惑う二人。
やがて同居人はさらに増え、「他人同士」の奇妙な共同生活が始まった。
失くしてしまったものを取り戻すため、そして自らの過去と訣別するため、
彼らが企てた大計画とは。
***
出だしは非常に面白いのですが、中盤でダレてきて読むのがつらくなってくる。
同じコミカルタッチの同氏の著作
と比べると、キャラの個性もスピード感もサプライズ感もとうてい及ばない印象だった。
主人公たちが敵に仕掛ける詐欺作戦も大したものじゃないし(これはマンガ
〝クロサギ〟を読んでしまっている弊害かもしれませんが)、
「実は○○が××であることを誰々は既に知ってた」ってネタが多すぎるのもアンフェア。
序盤で主人公のタケさんが新しい携帯で相方のテツさんに電話をかけようとして
番号を登録していないことに気づき、結局まだ持っていた古い携帯でテツさんに電話を
かけなおすシーンがあるのですが、この時点で古い携帯の電波を入れると敵に場所を
察知される危険があるっていうのに何してんの? と突っ込みたくなったし。
古い携帯の番号を新しいほうに移し変えてからかけりゃいいじゃん、と。
でもわざわざこういう描写にするってことはこのミスが後々の伏線になるのか? と
思いきや結局最後まで何もないし。一体何のための描写だったんだろう。。。
だいたいネコのトサカのことも、普通死体が捨てられてたら弔ってやるなりなんなり
するだろうに、どうしてそのとき誰も(特にまひろ)死体がぬいぐるみだって気づかないわけ?
(ネタバレにつき薄字で)
違和感ありすぎ。
今回は道尾氏、妙に文章やストーリー展開がヘタだなーと思っていたら
それこそが最大の伏線になっていたことには驚かされましたが、
全体的にはしょぼい連ドラによくあるような、ただ次週も視聴者に観させるためだけに
用意された、伏線というよりハッタリに近い描写のオンパレードで
道尾作品にしてはレベル低いな、と感じてしまった。
あとどうでもいいけど、〝大ガラス〟なら最終章のタイトルは〝Raven〟のほうが
格好よかったのでは? と個人的には思う。それまでのタイトルも皆馴染みのない
鳥の英語名だったし。
トリックそのもののセンスはいいだけに、それをもうちょっとうまく味付けしてくれていたら
もっと傑作になっただろうになあ、というのが率直な感想。
蛇足:
①第一刷のみ(だと思いますがたぶん)、作中にとんでもない誤植があります。
ちょっと驚いたあと笑いました。担当さんと写植の人、しっかりしろよ。
②〝片眼の猿〟を読んだことがある人には、ちょっとしたサプライズが本作には
用意されています。ヒント:もやし
プロフィール
HN:
kovo
性別:
女性
自己紹介:
80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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