歩かなきゃ。
三十年前、松子二十四歳。教職を追われ、故郷から失踪した夏。
その時から最期まで転落し続けた彼女が求めたものとは?
一人の女性の生涯を通して炙り出される愛と人生の光と影。
気鋭作家が書き下ろす、感動ミステリ巨編。
***
男性がよくもここまで女性心理をリアルに書き上げられたものだと
まず何よりもそのことに驚かされた。
そして、確かに並々ならぬ不運の人生ではあるけれどとりたてて奇抜な展開もない、
ごくありふれたエピソードばかりで構成された物語であるにも関わらず、
ここまで面白い作品に仕上げられる著者の力量に脱帽。
468Pにもわたる長編(しかも二段組)なのに少しも疲れや飽きを感じず、
一気に読みきってしまった。
とにかく文章がうまい。読みやすく、それでいて斬新な表現がところどころにあったりして
(例えば相手にビンタすることを〝肉を打つ〟と表現したり)読み手の興味を惹きつけて離さない。
一度も会ったことのない伯母に徐々に興味を持ち、次第に共鳴するようになり、最後には
伯母のために彼女を殺した犯人を怒鳴りつけ涙する、甥の笙に同調して泣いてしまったのも
本作の主人公〝松子〟があまりにリアルに描かれているせいでしょう。
松子の人生をひと言で表すとしたら〝裏目〟以外に最早ないですが、
ここまで無償の愛情を(男性限定だけど)他者に与えながら生き続けたその姿は
ある意味キリストを思わせる。
単に男に依存しないと生きていけないというだけの女性には見えなかった。
(その点では、映画版の松子がジャニーズに入れあげる描写は余計だった気がする。
それとも彼女は神ではなく殉教者で、誰かを神として崇め献身することでしか
生きられなかったのかもしれないけど。。。そこは解釈が難しいな)
身も知らない人の死亡のニュースを観ても私たちは当然ながら「ふうん」としか思わないけど、
もっとその相手に近づいてその人間の人生を掘り下げてみれば
松子のような劇的な(いや、決して劇的じゃなく地味でもこちらの琴線に触れるような)エピソードが
必ずひとつやふたつは見えてくるものなんだろうな。
〝人〟を〝第三者〟としてじゃなく、あくまで〝人〟として捉えろと教えてくれる、
とてもいい物語だった。
映画版よりおすすめです(あっちはあっちでいい味出してるけど娯楽性が強すぎるからなー)。
ていうか〝嫌われ松子〟っていったらやっぱこれだよな。
三十年前、松子二十四歳。教職を追われ、故郷から失踪した夏。
その時から最期まで転落し続けた彼女が求めたものとは?
一人の女性の生涯を通して炙り出される愛と人生の光と影。
気鋭作家が書き下ろす、感動ミステリ巨編。
***
男性がよくもここまで女性心理をリアルに書き上げられたものだと
まず何よりもそのことに驚かされた。
そして、確かに並々ならぬ不運の人生ではあるけれどとりたてて奇抜な展開もない、
ごくありふれたエピソードばかりで構成された物語であるにも関わらず、
ここまで面白い作品に仕上げられる著者の力量に脱帽。
468Pにもわたる長編(しかも二段組)なのに少しも疲れや飽きを感じず、
一気に読みきってしまった。
とにかく文章がうまい。読みやすく、それでいて斬新な表現がところどころにあったりして
(例えば相手にビンタすることを〝肉を打つ〟と表現したり)読み手の興味を惹きつけて離さない。
一度も会ったことのない伯母に徐々に興味を持ち、次第に共鳴するようになり、最後には
伯母のために彼女を殺した犯人を怒鳴りつけ涙する、甥の笙に同調して泣いてしまったのも
本作の主人公〝松子〟があまりにリアルに描かれているせいでしょう。
松子の人生をひと言で表すとしたら〝裏目〟以外に最早ないですが、
ここまで無償の愛情を(男性限定だけど)他者に与えながら生き続けたその姿は
ある意味キリストを思わせる。
単に男に依存しないと生きていけないというだけの女性には見えなかった。
(その点では、映画版の松子がジャニーズに入れあげる描写は余計だった気がする。
それとも彼女は神ではなく殉教者で、誰かを神として崇め献身することでしか
生きられなかったのかもしれないけど。。。そこは解釈が難しいな)
身も知らない人の死亡のニュースを観ても私たちは当然ながら「ふうん」としか思わないけど、
もっとその相手に近づいてその人間の人生を掘り下げてみれば
松子のような劇的な(いや、決して劇的じゃなく地味でもこちらの琴線に触れるような)エピソードが
必ずひとつやふたつは見えてくるものなんだろうな。
〝人〟を〝第三者〟としてじゃなく、あくまで〝人〟として捉えろと教えてくれる、
とてもいい物語だった。
映画版よりおすすめです(あっちはあっちでいい味出してるけど娯楽性が強すぎるからなー)。
ていうか〝嫌われ松子〟っていったらやっぱこれだよな。
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「異議あり!」
有罪、それとも無罪?
被告人の運命は、あなたたち六人に委ねられた。
いわくありげな裁判員たち、二転三転する評議、そして炸裂する究極のどんでん返し!
裁判員制度のすべてがわかる、傑作リーガルサスペンス。
★収録作品★
審理
評議
自白
***
裁判員の通知書、受け取った人の四割が「断りたい」と言っているようですが。。。
じゃあ私と変わってください。ミステリ書きとしては是非参加したいと常々思っていたのに
そういう奴に限って選ばれないようで通知は届かないありさま。。。
といった御託はまあ置いといて、裁判員に選ばれた人はおそらく最低限
裁判、そして裁判員というものについて勉強してから法廷に臨むのでしょうが、
その手始めに本作を読んでみるのもいいかもしれません。
登場人物たちが多少デフォルメされて描かれてはいますが、裁判員制度の何たるかが
おおよそ掴める内容になっています(もちろんすべてを鵜呑みにしては駄目ですが)。
もちろん物語としても面白いので、下手な入門書を読むよりすんなりと頭に入る。
ただ、これだけのベテラン作家さんにこんなことを言うのは難なのですが、
芦辺氏の文章ってどこか悪文というか、難しい漢字や言い回しを使っているわけでもないのに
妙に読みにくいんですよね。。。お陰で、それぞれが独立した物語である三編のうち
一つ目と二つ目が続き物なのだと思い込み
「あれ? 何で一話目と被告人&被害者が違うの?」と違和感を覚えて初めて
二話目がまったく別の話だと気づいた(私がアホなだけかもだけど)。
それ以外にも、〝首実検〟〝使用前・使用後〟のくだりなんか一読ではわけがわからず
何度かページを行きつ戻りつしてようやく意味を理解する始末。
内容が面白いだけに(そして〝法廷物〟というスピード感がものを言うジャンルなだけに)
文章の読みにくさで読書速度が落ちてしまうのはちょっといただけなかった。
(ちなみに三話目は唯一内容がいまいちでしたが、代わりに別のサプライズが仕掛けられていて
著者の思惑どおりおっ! と叫ばされ、物語の締めにも「うまい!」と感心させられましたが)
割りとおすすめの一冊です。
ちなみに裁判員制度というものをもっと簡単に知りたい人は、
↓もおすすめ。
マンガですが、裁判員の登場頻度は本作よりこっちのほうが多い。彼らそれぞれの個性も強いし。
内容も非常に面白いです(主人公の女裁判官は嫌いですが)。
これらを読んで来たる日に備えて、少しでも正しい道に被告・原告を導く一端を
担ってくださいね、皆さん(断ったりしないで。。。勿体無いから。。。←勝手な主張)。

有罪、それとも無罪?
被告人の運命は、あなたたち六人に委ねられた。
いわくありげな裁判員たち、二転三転する評議、そして炸裂する究極のどんでん返し!
裁判員制度のすべてがわかる、傑作リーガルサスペンス。
★収録作品★
審理
評議
自白
***
裁判員の通知書、受け取った人の四割が「断りたい」と言っているようですが。。。
じゃあ私と変わってください。ミステリ書きとしては是非参加したいと常々思っていたのに
そういう奴に限って選ばれないようで通知は届かないありさま。。。
といった御託はまあ置いといて、裁判員に選ばれた人はおそらく最低限
裁判、そして裁判員というものについて勉強してから法廷に臨むのでしょうが、
その手始めに本作を読んでみるのもいいかもしれません。
登場人物たちが多少デフォルメされて描かれてはいますが、裁判員制度の何たるかが
おおよそ掴める内容になっています(もちろんすべてを鵜呑みにしては駄目ですが)。
もちろん物語としても面白いので、下手な入門書を読むよりすんなりと頭に入る。
ただ、これだけのベテラン作家さんにこんなことを言うのは難なのですが、
芦辺氏の文章ってどこか悪文というか、難しい漢字や言い回しを使っているわけでもないのに
妙に読みにくいんですよね。。。お陰で、それぞれが独立した物語である三編のうち
一つ目と二つ目が続き物なのだと思い込み
「あれ? 何で一話目と被告人&被害者が違うの?」と違和感を覚えて初めて
二話目がまったく別の話だと気づいた(私がアホなだけかもだけど)。
それ以外にも、〝首実検〟〝使用前・使用後〟のくだりなんか一読ではわけがわからず
何度かページを行きつ戻りつしてようやく意味を理解する始末。
内容が面白いだけに(そして〝法廷物〟というスピード感がものを言うジャンルなだけに)
文章の読みにくさで読書速度が落ちてしまうのはちょっといただけなかった。
(ちなみに三話目は唯一内容がいまいちでしたが、代わりに別のサプライズが仕掛けられていて
著者の思惑どおりおっ! と叫ばされ、物語の締めにも「うまい!」と感心させられましたが)
割りとおすすめの一冊です。
ちなみに裁判員制度というものをもっと簡単に知りたい人は、
↓もおすすめ。
マンガですが、裁判員の登場頻度は本作よりこっちのほうが多い。彼らそれぞれの個性も強いし。
内容も非常に面白いです(主人公の女裁判官は嫌いですが)。
これらを読んで来たる日に備えて、少しでも正しい道に被告・原告を導く一端を
担ってくださいね、皆さん(断ったりしないで。。。勿体無いから。。。←勝手な主張)。
きっと、もうすぐベルが鳴る。
児童相談所の所長・山野は、増え続ける児童虐待の報告に頭を抱えていた。
その増え方は、明らかに異常だ。児童虐待で始まった違和感は、刑事事件へと発展し、
京都の町は瞬く間に無差別殺人によるパニックに陥った。
だが、無差別に見えた殺人には、実はある一つの「法則」が隠れていた――。
人類進化の最終形態を、戦慄すべきヴィジョンで提示した、恐るべき予言の書。
第6回ホラーサスペンス大賞特別賞受賞作。
***
〝バイオハザード〟+〝ドラゴンヘッド〟+パラサイト・イヴ〟って感じの小説だったな。。。
SFというジャンルは多少発想がかぶってしまうのはしょうがないとしても、
それでも何だか既存の有名SF作品のいいとこどり、という印象は否めなかった。
まあよくいえば、スティーヴン・キングが好んで書きそうな感じの話。
文章や構成、伏線の張り方等はうまいです。これがデビュー作とは信じられないほど(もちろん
まるっきりの素人というわけではないようですが)。
ただ、登場人物たちのキャラや肩書き・関係性から、かなり早い段階で
今後どういう展開になるのか簡単に読めてしまったのが残念だった。
序盤は登場人物たちのうんちくトークがそのおおよそを占めており多少うざったく(しかも
映画〝ゲド戦記〟と同じく、本来キャラの生き様から自然と滲み出ていなければならない
〝テーマ〟を、彼らの口から直球で言わせちゃってる手抜き加減)、
中盤でやっと物語が動いてきたと思ったら、クライマックスに至る前に空気が抜けて
物語がしぼんで地味に終わってしまった点もちょっと。。。(ラストシーンだけはインパクト
強いですが、上に書いたようにもう既に予測できていた展開だったので
「ああやっぱりな」と思っただけ)
あとはところどころにクサい展開があるのもどうかと(おっさん二人が声を合わせて
狂おしく大声で歌を歌うところとか)。
決して駄作ではないんですが、取り立てて心に残るところのない話だったな。
まあただ、脳内物質が激しく変化するときに催す吐き気、というのはかなり共感できた。
たぶんこの著者、抗うつ剤飲んだことあるな(もしくは覚○ざ。。。ゲフンゲフン)。
あとは〝幼児虐待〟という内容が、かなり今のこの時代を反映しているものだから
フィクションとして割り切りづらかった。
親の子殺しが増加している理由がこの小説の通りだったら。。。
。。。嫌だな、やっぱりこんな〝進化〟。進化とも呼びたくない。
ちなみにラストは、つまりこういうこと↓なんだろうな。

どうなる? 地球の未来。。。
児童相談所の所長・山野は、増え続ける児童虐待の報告に頭を抱えていた。
その増え方は、明らかに異常だ。児童虐待で始まった違和感は、刑事事件へと発展し、
京都の町は瞬く間に無差別殺人によるパニックに陥った。
だが、無差別に見えた殺人には、実はある一つの「法則」が隠れていた――。
人類進化の最終形態を、戦慄すべきヴィジョンで提示した、恐るべき予言の書。
第6回ホラーサスペンス大賞特別賞受賞作。
***
〝バイオハザード〟+〝ドラゴンヘッド〟+パラサイト・イヴ〟って感じの小説だったな。。。
SFというジャンルは多少発想がかぶってしまうのはしょうがないとしても、
それでも何だか既存の有名SF作品のいいとこどり、という印象は否めなかった。
まあよくいえば、スティーヴン・キングが好んで書きそうな感じの話。
文章や構成、伏線の張り方等はうまいです。これがデビュー作とは信じられないほど(もちろん
まるっきりの素人というわけではないようですが)。
ただ、登場人物たちのキャラや肩書き・関係性から、かなり早い段階で
今後どういう展開になるのか簡単に読めてしまったのが残念だった。
序盤は登場人物たちのうんちくトークがそのおおよそを占めており多少うざったく(しかも
映画〝ゲド戦記〟と同じく、本来キャラの生き様から自然と滲み出ていなければならない
〝テーマ〟を、彼らの口から直球で言わせちゃってる手抜き加減)、
中盤でやっと物語が動いてきたと思ったら、クライマックスに至る前に空気が抜けて
物語がしぼんで地味に終わってしまった点もちょっと。。。(ラストシーンだけはインパクト
強いですが、上に書いたようにもう既に予測できていた展開だったので
「ああやっぱりな」と思っただけ)
あとはところどころにクサい展開があるのもどうかと(おっさん二人が声を合わせて
狂おしく大声で歌を歌うところとか)。
決して駄作ではないんですが、取り立てて心に残るところのない話だったな。
まあただ、脳内物質が激しく変化するときに催す吐き気、というのはかなり共感できた。
たぶんこの著者、抗うつ剤飲んだことあるな(もしくは覚○ざ。。。ゲフンゲフン)。
あとは〝幼児虐待〟という内容が、かなり今のこの時代を反映しているものだから
フィクションとして割り切りづらかった。
親の子殺しが増加している理由がこの小説の通りだったら。。。
。。。嫌だな、やっぱりこんな〝進化〟。進化とも呼びたくない。
ちなみにラストは、つまりこういうこと↓なんだろうな。
どうなる? 地球の未来。。。
きっと伝わる。
十八年間音信不通だった姉が、意識不明で救急病院に搬送された。
重傷の火傷、頭部の銃創。それは婚姻届を出した翌日の出来事だった。
しかも、姉が選んだ最愛の夫は、かつて人を殺めた男だという……。
姉の不審な預金通帳、噛み合わない事実。逃げる男と追う男。
「姉さん、あなたはいったい何をしていたんだ……」
慟哭の恋愛長編。
***
ミステリにも関わらず、下手な抽象画を見ているような終始薄らぼんやりとした印象の話だった。
姉が拳銃で撃たれた理由を必死で探し回る主人公の弟。長く音信不通だった姉の
空白の期間を知る人物を訪ね歩き、姉が事件に巻き込まれた経緯を解き明かしていく。。。というと
一見面白そうですが、その解き明かされた事実というのがすべて弟の憶測なので
「え? 本当にそうなの? あんたの勘違いじゃないの?」と今ひとつ話に入り込めない。しかも
極度の姉フェチである弟のシスコンフィルターを通してなので、なおさらその〝真実〟に
信憑性が感じられない。
しかもこの男、ことあるごとに「姉はなんて素晴らしいんだ」「姉はなんて強いんだ」と
自分の姉ちゃんを盲目的にベタボメするので(しかもその評価が完全に独り善がりなので)
だんだんイラついてくる。
あんたの姉は〝強い〟んじゃなく単に〝図太い〟だけなんだよ、と
本作に入り込んで怒鳴りつけてやりたい衝動に何度も駆られた。
さらに、著者はこの主人公を〝冴えないヘタレ男〟という設定にしているけど、だったら
彼の職業が医者なのは正直選択ミスなのでは? 正直主人公=医者、という先入観が、
著者の書きたい主人公像と読み手の解釈の間にズレを生じさせているので。
姉が銃撃されるに至った真相も到底納得いくものではないし(思わず「はぁ?」と声に出して
しまった)。納得いかないといえばもはや姉の行動・心理、すべてが納得いかないことづくめ。
何であの程度の男に、あんなつまらない理由でホレる?
何でそこまで無謀極まりないやり方で幸せを掴もうとする?
これが十代だというならまだしも、もう三十半ばのいい歳した女性の行動とはとても思えない。
挙げ句、アホか。。。と放心する読者を置いてけぼりにして、最後まで相も変わらず
「姉はすごい」と絶賛する弟のバカっぷり。ひどすぎて眼も当てられない。
主人公が姉と疎遠になった理由も、「まさか××じゃあるまいな。。。」と危惧していたことが
まんま正解で脱力したし。
登場人物も誰ひとりとして魅力ないし。
ラストはありがちもいいとこだし。
読むのに費やした時間と体力返せ。
ある一人の女性が生前何を思っていたのか、その身に何が起こったのか、
それを突き詰めていくというテーマの物語なら、こっち↓のほうがよっぽど面白い(マンガだけど)。
〝最愛〟というより〝最悪〟だった。
まじでおすすめしません。地雷小説。くれぐれも注意。
でも何となく、本作の内容と(タイトルも)合っているのでこの曲でも貼り付けておこう。
十八年間音信不通だった姉が、意識不明で救急病院に搬送された。
重傷の火傷、頭部の銃創。それは婚姻届を出した翌日の出来事だった。
しかも、姉が選んだ最愛の夫は、かつて人を殺めた男だという……。
姉の不審な預金通帳、噛み合わない事実。逃げる男と追う男。
「姉さん、あなたはいったい何をしていたんだ……」
慟哭の恋愛長編。
***
ミステリにも関わらず、下手な抽象画を見ているような終始薄らぼんやりとした印象の話だった。
姉が拳銃で撃たれた理由を必死で探し回る主人公の弟。長く音信不通だった姉の
空白の期間を知る人物を訪ね歩き、姉が事件に巻き込まれた経緯を解き明かしていく。。。というと
一見面白そうですが、その解き明かされた事実というのがすべて弟の憶測なので
「え? 本当にそうなの? あんたの勘違いじゃないの?」と今ひとつ話に入り込めない。しかも
極度の姉フェチである弟のシスコンフィルターを通してなので、なおさらその〝真実〟に
信憑性が感じられない。
しかもこの男、ことあるごとに「姉はなんて素晴らしいんだ」「姉はなんて強いんだ」と
自分の姉ちゃんを盲目的にベタボメするので(しかもその評価が完全に独り善がりなので)
だんだんイラついてくる。
あんたの姉は〝強い〟んじゃなく単に〝図太い〟だけなんだよ、と
本作に入り込んで怒鳴りつけてやりたい衝動に何度も駆られた。
さらに、著者はこの主人公を〝冴えないヘタレ男〟という設定にしているけど、だったら
彼の職業が医者なのは正直選択ミスなのでは? 正直主人公=医者、という先入観が、
著者の書きたい主人公像と読み手の解釈の間にズレを生じさせているので。
姉が銃撃されるに至った真相も到底納得いくものではないし(思わず「はぁ?」と声に出して
しまった)。納得いかないといえばもはや姉の行動・心理、すべてが納得いかないことづくめ。
何であの程度の男に、あんなつまらない理由でホレる?
何でそこまで無謀極まりないやり方で幸せを掴もうとする?
これが十代だというならまだしも、もう三十半ばのいい歳した女性の行動とはとても思えない。
挙げ句、アホか。。。と放心する読者を置いてけぼりにして、最後まで相も変わらず
「姉はすごい」と絶賛する弟のバカっぷり。ひどすぎて眼も当てられない。
主人公が姉と疎遠になった理由も、「まさか××じゃあるまいな。。。」と危惧していたことが
まんま正解で脱力したし。
登場人物も誰ひとりとして魅力ないし。
ラストはありがちもいいとこだし。
読むのに費やした時間と体力返せ。
ある一人の女性が生前何を思っていたのか、その身に何が起こったのか、
それを突き詰めていくというテーマの物語なら、こっち↓のほうがよっぽど面白い(マンガだけど)。
〝最愛〟というより〝最悪〟だった。
まじでおすすめしません。地雷小説。くれぐれも注意。
でも何となく、本作の内容と(タイトルも)合っているのでこの曲でも貼り付けておこう。
「……あたしは暴力を、否定も、肯定も、しない。
ただ、利用はする。あたしなりのやり方で、暴力をコントロールする」
木を見て森を見ず――。細部に注意しすぎ、肝心の全体を見失うことのたとえで、
事件捜査において、最も避けなければならないことである。
この小説に登場する刑事は皆、これを徹底し犯人を逮捕していく。
だが、彼らは気づかなかった。その森が想像以上に大きく深いということに……。
5つの殺人事件。果たして刑事は真実を見たのか? 果たして女は幸せだったのか?
今、注目を浴びる著者の連作警察小説。
★収録作品★
闇一重(やみひとえ)
蛍蜘蛛(ほたるぐも)
腐屍蝶(ふしちょう)
罪時雨(つみしぐれ)
死舞盃(しまいさかずき)
独静加(ひとりしずか)
***
〝ソウルケイジ〟はいまいち入り込めず序盤で投げ出し、
〝月光〟はあまりのつまらなさに読後ぶん投げ、
けれど最低三作その作家の著作を読まない限りは容易に見限ってはいけない、という
自分なりのモットーに準じて手にとった誉田作品の三作目である本作。
。。。見限らなくてよかった。
面白かった。(失礼だけど)同じ作家が書いたものとは思えなかった。
本作に収録されている物語は、最終章を抜かしてそれぞれが
独立したミステリ短編になっているので普通に連作短編集として楽しむこともできますが、
そのどの話にもある一人の人物が関わっており、その人物の正体や背景が
物語と物語を繋ぎながら徐々に明らかになっていく過程は手に汗握るものがあり、
一粒で二度おいしい構成になっています。
ただ。。。その人物があまりに陰に隠れすぎているというか、
本作で一番のキーパーソンの割りにその存在を印象付けるエピソードがほぼ皆無なので
あまり入れ込むことができず、衝撃的な(はずの)ラストもあまりインパクトがなかった。
マンネリな二時間サスペンスドラマを観ているような気持ちで、「あらあらお気の毒に」
と感じただけ。
そもそも、一章&二章はいかにも「これから何かが始まるぞ」的な期待を抱かせるに十分な
クオリティなのに三章以降からそれも徐々に失速し、最終章に至ってはあまりに話が
突飛な方向にすっ飛んでいってしまったので(というかそこに至るまでの過程がはしょられすぎ)、
「え? 何だったの?」ときょとんとしてしまった。
F1でたとえるなら、
「おー来たぞ来たぞものすごいスピードでこっちに来たぞ。。。ってあれ? 何か減速してね?
なんかトロトロこっちに向かってきてるんだけど。。。っておい今度は眼の前に来るなり
猛スピードで走り去っていったじゃんまったくマシン見えなかったよ何だったんだよ今のは」
みたいな感じというか。。。(非常にわかりにくいたとえですいません)
って結局文句言ってんじゃんて感じですが、そのキーパーソンの描写のバランスの悪さを
除けば、トリックも物語部分もしっかりしていて非常に面白く読めたのでおすすめです。
時おり挿入されるギャグも面白いし(「俺たちのデカ魂に……乾杯」は吹いた)。
オチはちょっと火サス&説教臭かったけどそのあたりは眼をつぶります。
ちなみに読後表紙を見ると「あっ、そういうことだったのか」とちょっと眼からウロコ落ちます。
。。。ああ、ずっと独りぼっちだった彼女は今もなお独り墓の中で眠ってるんだな。
〝独死塚〟、これが本当の最終章なのかもしれないな。
親子三代に亘って残酷な運命を強いられた女性たち、それが
彼女が自らの身を挺して抗ったことで断ち切られることを願って止まない。
ただ、利用はする。あたしなりのやり方で、暴力をコントロールする」
木を見て森を見ず――。細部に注意しすぎ、肝心の全体を見失うことのたとえで、
事件捜査において、最も避けなければならないことである。
この小説に登場する刑事は皆、これを徹底し犯人を逮捕していく。
だが、彼らは気づかなかった。その森が想像以上に大きく深いということに……。
5つの殺人事件。果たして刑事は真実を見たのか? 果たして女は幸せだったのか?
今、注目を浴びる著者の連作警察小説。
★収録作品★
闇一重(やみひとえ)
蛍蜘蛛(ほたるぐも)
腐屍蝶(ふしちょう)
罪時雨(つみしぐれ)
死舞盃(しまいさかずき)
独静加(ひとりしずか)
***
〝ソウルケイジ〟はいまいち入り込めず序盤で投げ出し、
〝月光〟はあまりのつまらなさに読後ぶん投げ、
けれど最低三作その作家の著作を読まない限りは容易に見限ってはいけない、という
自分なりのモットーに準じて手にとった誉田作品の三作目である本作。
。。。見限らなくてよかった。
面白かった。(失礼だけど)同じ作家が書いたものとは思えなかった。
本作に収録されている物語は、最終章を抜かしてそれぞれが
独立したミステリ短編になっているので普通に連作短編集として楽しむこともできますが、
そのどの話にもある一人の人物が関わっており、その人物の正体や背景が
物語と物語を繋ぎながら徐々に明らかになっていく過程は手に汗握るものがあり、
一粒で二度おいしい構成になっています。
ただ。。。その人物があまりに陰に隠れすぎているというか、
本作で一番のキーパーソンの割りにその存在を印象付けるエピソードがほぼ皆無なので
あまり入れ込むことができず、衝撃的な(はずの)ラストもあまりインパクトがなかった。
マンネリな二時間サスペンスドラマを観ているような気持ちで、「あらあらお気の毒に」
と感じただけ。
そもそも、一章&二章はいかにも「これから何かが始まるぞ」的な期待を抱かせるに十分な
クオリティなのに三章以降からそれも徐々に失速し、最終章に至ってはあまりに話が
突飛な方向にすっ飛んでいってしまったので(というかそこに至るまでの過程がはしょられすぎ)、
「え? 何だったの?」ときょとんとしてしまった。
F1でたとえるなら、
「おー来たぞ来たぞものすごいスピードでこっちに来たぞ。。。ってあれ? 何か減速してね?
なんかトロトロこっちに向かってきてるんだけど。。。っておい今度は眼の前に来るなり
猛スピードで走り去っていったじゃんまったくマシン見えなかったよ何だったんだよ今のは」
みたいな感じというか。。。(非常にわかりにくいたとえですいません)
って結局文句言ってんじゃんて感じですが、そのキーパーソンの描写のバランスの悪さを
除けば、トリックも物語部分もしっかりしていて非常に面白く読めたのでおすすめです。
時おり挿入されるギャグも面白いし(「俺たちのデカ魂に……乾杯」は吹いた)。
オチはちょっと火サス&説教臭かったけどそのあたりは眼をつぶります。
ちなみに読後表紙を見ると「あっ、そういうことだったのか」とちょっと眼からウロコ落ちます。
。。。ああ、ずっと独りぼっちだった彼女は今もなお独り墓の中で眠ってるんだな。
〝独死塚〟、これが本当の最終章なのかもしれないな。
親子三代に亘って残酷な運命を強いられた女性たち、それが
彼女が自らの身を挺して抗ったことで断ち切られることを願って止まない。
偲ぶと云うよりももっと強力な感情だろう――。
オカルトスポット探険サークルの学生六人は、京都山間部の黒いレンガ屋敷〝ファイアフライ館〟に
肝試しに来た。ここは十年前、作曲家の加賀螢司が演奏家六人を殺した場所だ。
そして半年前、一人の女子メンバーが未逮捕の殺人鬼ジョージに惨殺されている。
そんな中での四日間の合宿。ふざけ合う仲間たち。
嵐の山荘での第一の殺人は、すぐに起こった。
***
二年ぶりの再読。私は本作の呪いにかかっているので、どうしても定期的に思い出しては
読みたくなってしまう(いっそ買えばいいんだけど)。
いやーしかし。。。ここまで「読者を(いい意味で)欺いてやろう」という気概の伝わってくる
ミステリはそうそうないです。
〝読者の驚きのツボ〟を全部おさえようとでもいうのか、
ありとあらゆるトリック&(ミステリにおける)騙しのテクニックがてんこもり。
なので若干複雑な作りになっておりミステリ初心者にはあまりおすすめしませんが、
ここまでいろんな要素を詰め込んでおいてくどくならないのが麻耶氏のすごいところ。
ただ惜しむらくは、作中の数多のトリック同士がぶつかり合ってその驚きを相殺している箇所が
少なからず見受けられた点。「このトリックさえなければあのトリックがもっと映えたのに」と
思わせられることしばしばだったので。
でも全体的に非常に好きです。
ある程度以上のミステリ読みには是非お薦めしたい一品。
本書を手にとる人に予めひとつだけ忠告しておくとするなら、
この麻耶雄嵩という作家、決して文章が下手なわけじゃないんですよ、決して。。。
余談だけどこの物語、映画化されたら意外といい感じのホラーミステリになるんじゃないかと思う。
観客の興味をそそるB級描写やユーモアもありつつ、壮大なクライマックスと予想外のラストは
深い感動&戦慄を観る者に抱かせること請け合い(探偵役がちょっとショボいからそこは
変えざるを得ないだろうけど。。。いや、私は好きなんですが、絵面的にね)。
映画会社さん、山田○介とかを映画化するぐらいならどうかこっちをお願いしますよ。いやマジで
そろそろその場限りじゃない、次世代にまで残る名作撮りたいと思わない?←勧誘
オカルトスポット探険サークルの学生六人は、京都山間部の黒いレンガ屋敷〝ファイアフライ館〟に
肝試しに来た。ここは十年前、作曲家の加賀螢司が演奏家六人を殺した場所だ。
そして半年前、一人の女子メンバーが未逮捕の殺人鬼ジョージに惨殺されている。
そんな中での四日間の合宿。ふざけ合う仲間たち。
嵐の山荘での第一の殺人は、すぐに起こった。
***
二年ぶりの再読。私は本作の呪いにかかっているので、どうしても定期的に思い出しては
読みたくなってしまう(いっそ買えばいいんだけど)。
いやーしかし。。。ここまで「読者を(いい意味で)欺いてやろう」という気概の伝わってくる
ミステリはそうそうないです。
〝読者の驚きのツボ〟を全部おさえようとでもいうのか、
ありとあらゆるトリック&(ミステリにおける)騙しのテクニックがてんこもり。
なので若干複雑な作りになっておりミステリ初心者にはあまりおすすめしませんが、
ここまでいろんな要素を詰め込んでおいてくどくならないのが麻耶氏のすごいところ。
ただ惜しむらくは、作中の数多のトリック同士がぶつかり合ってその驚きを相殺している箇所が
少なからず見受けられた点。「このトリックさえなければあのトリックがもっと映えたのに」と
思わせられることしばしばだったので。
でも全体的に非常に好きです。
ある程度以上のミステリ読みには是非お薦めしたい一品。
本書を手にとる人に予めひとつだけ忠告しておくとするなら、
この麻耶雄嵩という作家、決して文章が下手なわけじゃないんですよ、決して。。。
余談だけどこの物語、映画化されたら意外といい感じのホラーミステリになるんじゃないかと思う。
観客の興味をそそるB級描写やユーモアもありつつ、壮大なクライマックスと予想外のラストは
深い感動&戦慄を観る者に抱かせること請け合い(探偵役がちょっとショボいからそこは
変えざるを得ないだろうけど。。。いや、私は好きなんですが、絵面的にね)。
映画会社さん、山田○介とかを映画化するぐらいならどうかこっちをお願いしますよ。いやマジで
そろそろその場限りじゃない、次世代にまで残る名作撮りたいと思わない?←勧誘
目には目を、殺意には殺意を。
幼時に父を亡くしてから、勅使河原冴はずっと不思議な力に護られてきた。
彼女が「ガーディアン」と名づけたその力は、彼女の危険を回避するためだけに発動する。
突発的な事故ならバリアーとして。悪意をもった攻撃には、より激しく。では、
彼女に殺意をもった相手は? ガーディアンに、殺されるのだろうか。
特別な能力は、様々な思惑と、予想もしない事件を呼び寄せる。
石持浅海流奇想ミステリー、開幕。
***
(ものすごい偉そうであることを十分に自覚した上で言いますが)石持氏、成長したなあー!
一皮剥けたというか、既存のどの著作にも見られた欠点が本作では改善されてた。
たとえばこれまでは探偵役を異様に持ち上げすぎだったのが今回はちゃんと等身大に
描かれていたし、第二章ではじめ天才格として描写されていた人物が
話が進むにつれボロボロメッキが剥がれ人間的粗を無様に晒していく様は
石持作品では(自分が知る限り)初だったので意表をつかれた。
なんだかんだで好きな作家さんなので「これさえなければ。。。」といつも苛々させられていた
欠点が払拭されていたのは予想外でかなり嬉しかった。
このクオリティが続いてくれれば、今後の氏の作品をもっと楽しく気持ちよく読めるし。
ただ人間描写に関してひとつだけ突っ込むなら、第二章の主人公の友人の
「美人は得だな」というひと言。え? そのせいで敵に要らない観察されて、
バレてほしくない特殊能力がバレて窮地に立たされてるんですけどあんたたち。。。
やはり〝価値観が普通と若干ズレている〟という欠点までは直っていなかったようです。
物語としては、第一章はそれなりにトリックもしっかりしていて面白かったのですが
(主人公の友人がつまらないことを大げさなトラウマとして抱えているのには閉口しましたが。
もとから精神を病みがちだった人間ならともかく、そうじゃない人があの程度のことを
いちいちトラウマにしてたら到底生きていけません。ていうかこの友達、こんな脆すぎる精神で
よくここまで普通に生きてこられたな。普通入院するか自宅に引きこもるよ?)
第二章は冗長極まりなく、展開も同じことが淡々と続くだけでほとんど変化がない。
ミステリ的要素もほとんど皆無。出来の悪いB級ホラーを観ている気分がして正直読むのが
苦痛だった。
ヒロインの〝特殊能力を持つが故に物事に動じない、賢くて常に沈着冷静〟ってキャラは
何だか〝20世紀少年〟の遠藤カンナの焼き直しといった感じだし。
銀行強盗の甲田というキャラなんか彼女のことカリスマ視して崇拝しちゃって、そんなところも
仄かに20世紀少年。まあ、何故彼が崇拝すべき相手を常に求めているのか、その理由には
ちょっと切なくなりましたが。。。
個人的には本作の登場人物の中では甲田が一番よかった。石持作品には珍しく人間臭い、
そして残虐なのにどこか憎みきれない性格。そして石持作品恒例の〝天才キャラ〟の
ショボさを見抜き、そいつに一発ブチかましてくれたときは、
「何でみんなこいつのこと崇拝してんの。全然大したことないじゃん」と憤っていた気持ちを
彼が引き受けてくれたようでものすごくスカっとした。
多少詰めの甘いところはあったけど、それなりに楽しめる作品でした。
あーところでどうでもいいけど、私は精神のガーディアンがほしい。
幼時に父を亡くしてから、勅使河原冴はずっと不思議な力に護られてきた。
彼女が「ガーディアン」と名づけたその力は、彼女の危険を回避するためだけに発動する。
突発的な事故ならバリアーとして。悪意をもった攻撃には、より激しく。では、
彼女に殺意をもった相手は? ガーディアンに、殺されるのだろうか。
特別な能力は、様々な思惑と、予想もしない事件を呼び寄せる。
石持浅海流奇想ミステリー、開幕。
***
(ものすごい偉そうであることを十分に自覚した上で言いますが)石持氏、成長したなあー!
一皮剥けたというか、既存のどの著作にも見られた欠点が本作では改善されてた。
たとえばこれまでは探偵役を異様に持ち上げすぎだったのが今回はちゃんと等身大に
描かれていたし、第二章ではじめ天才格として描写されていた人物が
話が進むにつれボロボロメッキが剥がれ人間的粗を無様に晒していく様は
石持作品では(自分が知る限り)初だったので意表をつかれた。
なんだかんだで好きな作家さんなので「これさえなければ。。。」といつも苛々させられていた
欠点が払拭されていたのは予想外でかなり嬉しかった。
このクオリティが続いてくれれば、今後の氏の作品をもっと楽しく気持ちよく読めるし。
ただ人間描写に関してひとつだけ突っ込むなら、第二章の主人公の友人の
「美人は得だな」というひと言。え? そのせいで敵に要らない観察されて、
バレてほしくない特殊能力がバレて窮地に立たされてるんですけどあんたたち。。。
やはり〝価値観が普通と若干ズレている〟という欠点までは直っていなかったようです。
物語としては、第一章はそれなりにトリックもしっかりしていて面白かったのですが
(主人公の友人がつまらないことを大げさなトラウマとして抱えているのには閉口しましたが。
もとから精神を病みがちだった人間ならともかく、そうじゃない人があの程度のことを
いちいちトラウマにしてたら到底生きていけません。ていうかこの友達、こんな脆すぎる精神で
よくここまで普通に生きてこられたな。普通入院するか自宅に引きこもるよ?)
第二章は冗長極まりなく、展開も同じことが淡々と続くだけでほとんど変化がない。
ミステリ的要素もほとんど皆無。出来の悪いB級ホラーを観ている気分がして正直読むのが
苦痛だった。
ヒロインの〝特殊能力を持つが故に物事に動じない、賢くて常に沈着冷静〟ってキャラは
何だか〝20世紀少年〟の遠藤カンナの焼き直しといった感じだし。
銀行強盗の甲田というキャラなんか彼女のことカリスマ視して崇拝しちゃって、そんなところも
仄かに20世紀少年。まあ、何故彼が崇拝すべき相手を常に求めているのか、その理由には
ちょっと切なくなりましたが。。。
個人的には本作の登場人物の中では甲田が一番よかった。石持作品には珍しく人間臭い、
そして残虐なのにどこか憎みきれない性格。そして石持作品恒例の〝天才キャラ〟の
ショボさを見抜き、そいつに一発ブチかましてくれたときは、
「何でみんなこいつのこと崇拝してんの。全然大したことないじゃん」と憤っていた気持ちを
彼が引き受けてくれたようでものすごくスカっとした。
多少詰めの甘いところはあったけど、それなりに楽しめる作品でした。
あーところでどうでもいいけど、私は精神のガーディアンがほしい。
もう一度、そこへ戻ってきたい、と願うだろう。
空で、地上で、海で…。望み、求め、諦め、憧れながらそれぞれの場所で生き続ける
「彼ら」が「スカイ・クロラ」の世界を語る。シリーズの番外短篇集。
★収録作品★
gyroscope ジャイロスコープ
nine lives ナイン・ライブス
waning moon ワニング・ムーン
spit fire スピッツ・ファイア
heart drain ハート・ドレイン
earth born アース・ボーン
doll of grory ドール・グローリィ
ash of the sky スカイ・アッシュ
***
これ絶対〝スカイ・クロラ〟シリーズのファンの人じゃなきゃ楽しくないだろうなあ。。。
ファンの私ですらあまり楽しめなかったぐらいだし。
ここ最近の森氏の著作からは「読者を楽しませよう」という気持ちが伝わってこない。
ただ思うままに自分の書きたいように書いている、そんな感じ。
本編では語られなかった特定のキャラの心情とかを知ることができたのは嬉しかったですが。
(いつもレストランの階段に座ってるじいさんが何を思ってあんなところで呆けてるのか、
普段いつも沈着冷静なカイが心の奥底には何を秘めているのか、
そしてあの〝ティーチャ〟はその後どうしているのか、そしてその最期は、etc.。。。)
ただ、本シリーズ自体元々ポエムと小説の中間みたいな作品なのに、本作では
それがなおさら顕著になっていて、そのあまりの抽象性に著者が結局何を言いたいのか
わからない点が多々あったりして、理解に多少(いやかなり)苦労を要した。
最終話〝スカイ・アッシュ〟なんてその最たるもの。如何様にも捉えられる、
アバウト極まりない描き方をされているので、自分なりに納得のいく解釈で補ってはみたものの、
そこはやっぱり著者本人に明確なひとつの答えを打ち出してほしかった。
本シリーズは後半に進むにつれて著者が中身の解釈を読者に委ねがちになっていったけど、
最後の最後でそのすべての曖昧な部分をびしっと結論づけてくれるものだと仄かに期待して
いたので、結局終わりまでこれかよ、と不服に思ってしまった。
個人的には〝ドール・グローリィ〟が一番好きです。
一作目の主人公、カンナミ・ユーヒチのどこか悲しげな魅力にやっぱり惹かれる。
出てきてくれるとほっとするような嬉しさがこみ上げてくる。それは本編の主人公である
少女と同じ心情でしょう、たぶん。
はじめに「楽しめなかった」とは書いたけれどやっぱり、
これまでシリーズ全作を通して読んできて登場人物たちの全てに思い入れがあったこともあり、
もうこの世に存在しない、もしくは二度と会えない遠い場所に行ってしまった人たちの写った写真を
見るような、もしくはそんな彼らを撮ったビデオを眺めるような、切ない気持ちにさせられたことは
確かです。
ああそうだな、この短編集は、物語世界に入り込むというよりは
あくまで傍観者の視点で彼らの何気ない(私たちの常識から見れば全然何気なくはないのですが)
日常を垣間見ている、そういう感覚に近いかもしれない。
空を飛ぶ、ただそのことだけに価値を見出す、
地上ではなく、遥か空中の高みでのみ自らの感情を解放できる。
そんな特殊な価値観を持つ〝キルドレ〟という存在を創り出した森氏はやはりすごいと思う。
新しい概念を生み出すというのはそうそう簡単にできることじゃないから。
シリーズ全作、本当に楽しませてもらいました。
ありがとう森博嗣さん。
もうこのシリーズが読めなくなるのは予想していた以上に寂しい。
本作の最終章を読み終えたとき、そう思いました。
空で、地上で、海で…。望み、求め、諦め、憧れながらそれぞれの場所で生き続ける
「彼ら」が「スカイ・クロラ」の世界を語る。シリーズの番外短篇集。
★収録作品★
gyroscope ジャイロスコープ
nine lives ナイン・ライブス
waning moon ワニング・ムーン
spit fire スピッツ・ファイア
heart drain ハート・ドレイン
earth born アース・ボーン
doll of grory ドール・グローリィ
ash of the sky スカイ・アッシュ
***
これ絶対〝スカイ・クロラ〟シリーズのファンの人じゃなきゃ楽しくないだろうなあ。。。
ファンの私ですらあまり楽しめなかったぐらいだし。
ここ最近の森氏の著作からは「読者を楽しませよう」という気持ちが伝わってこない。
ただ思うままに自分の書きたいように書いている、そんな感じ。
本編では語られなかった特定のキャラの心情とかを知ることができたのは嬉しかったですが。
(いつもレストランの階段に座ってるじいさんが何を思ってあんなところで呆けてるのか、
普段いつも沈着冷静なカイが心の奥底には何を秘めているのか、
そしてあの〝ティーチャ〟はその後どうしているのか、そしてその最期は、etc.。。。)
ただ、本シリーズ自体元々ポエムと小説の中間みたいな作品なのに、本作では
それがなおさら顕著になっていて、そのあまりの抽象性に著者が結局何を言いたいのか
わからない点が多々あったりして、理解に多少(いやかなり)苦労を要した。
最終話〝スカイ・アッシュ〟なんてその最たるもの。如何様にも捉えられる、
アバウト極まりない描き方をされているので、自分なりに納得のいく解釈で補ってはみたものの、
そこはやっぱり著者本人に明確なひとつの答えを打ち出してほしかった。
本シリーズは後半に進むにつれて著者が中身の解釈を読者に委ねがちになっていったけど、
最後の最後でそのすべての曖昧な部分をびしっと結論づけてくれるものだと仄かに期待して
いたので、結局終わりまでこれかよ、と不服に思ってしまった。
個人的には〝ドール・グローリィ〟が一番好きです。
一作目の主人公、カンナミ・ユーヒチのどこか悲しげな魅力にやっぱり惹かれる。
出てきてくれるとほっとするような嬉しさがこみ上げてくる。それは本編の主人公である
少女と同じ心情でしょう、たぶん。
はじめに「楽しめなかった」とは書いたけれどやっぱり、
これまでシリーズ全作を通して読んできて登場人物たちの全てに思い入れがあったこともあり、
もうこの世に存在しない、もしくは二度と会えない遠い場所に行ってしまった人たちの写った写真を
見るような、もしくはそんな彼らを撮ったビデオを眺めるような、切ない気持ちにさせられたことは
確かです。
ああそうだな、この短編集は、物語世界に入り込むというよりは
あくまで傍観者の視点で彼らの何気ない(私たちの常識から見れば全然何気なくはないのですが)
日常を垣間見ている、そういう感覚に近いかもしれない。
空を飛ぶ、ただそのことだけに価値を見出す、
地上ではなく、遥か空中の高みでのみ自らの感情を解放できる。
そんな特殊な価値観を持つ〝キルドレ〟という存在を創り出した森氏はやはりすごいと思う。
新しい概念を生み出すというのはそうそう簡単にできることじゃないから。
シリーズ全作、本当に楽しませてもらいました。
ありがとう森博嗣さん。
もうこのシリーズが読めなくなるのは予想していた以上に寂しい。
本作の最終章を読み終えたとき、そう思いました。
――ここよりも彼方へ。
両親を事故で亡くし、母方の実家に引き取られた中学1年生の如月タクマ。
が、そこではかつて魔術崇拝者の祖父が密室の蔵で怪死した事件が起きていた。
さらに数年前、祖父と町長の座をめぐり争っていた一族の女三人を襲った斬首事件。
二つの異常な死は、祖父が召喚した悪魔の仕業だと囁かれていた。
そんな呪われた町で、タクマは「月へ行きたい」と呟く少女、江留美麗に惹かれた。
残虐な斬首事件が再び起こるとも知らず……。
***
面白かったー!
長編二段組なのにあっという間に読めてしまった。
各章のはじまりがほぼポエム調なのには閉口しましたが、基本はあくまで現実に即した
フェアな本格ミステリでした。所々に挟み込まれる笑いも、全体のおどろおどろしさを
ほどよく中和していていい感じ。
読んでいる間中、物語の向こうにいる著者と知恵比べをしているようで、
「よっしゃここは読みのとおり! 勝った!」と得意になったり
「えっ、この伏線フェイクだったの? やられた。。。」と(いい意味で)腹を立てたり
最後までとても楽しかった。
悪魔をモチーフにしたストーリーも、無理なく現実と溶け合って違和感なく描かれていたし
ファンタジーやホラーが苦手なミステリ読みの人でも楽しく読むことができるはず。
ただ、主人公をはじめとする登場人物たちが皆、爬虫類的というか感情に起伏がなさすぎて
物語を動かすためのコマor記号に成り下がりがちなのが残念だったかな。
何でそこでそんな感情の動き方をするんだよ? と訝りたくなること少なからずだったので。
逆に本作中で一番人間的であってはならない、人間味がないからこそ魅力的である某人物が、
最後の最後で思い切り人間くささを出してしまったので
「ああ、この人もしょせん人間か。。。」とがっくりきてしまった。
人間味を出すべきところとそうじゃないところのポイントがズレていてちょっとバランス悪い感じ。
ほんと、あのエピローグは私的には要らなかったなあ。。。
あとは主人公にとって都合の悪い人物がうまい具合にバタバタ死にすぎ。
ご都合主義だな。。。と苦笑してしまいましたが、もしかして飛鳥部氏、物語をそう運ぶことで
暗に〝悪魔〟は実在することを仄めかしている?(やっぱ私の考えすぎかな。。。)
そして殺人のトリック。
可能なのかあ?! と突っ込みたかったですが、著者が前もって突っ込み逃れの逃げ道を
ちゃっかり用意してあるので、黙って納得するしかなかった。
これだけの長編であのトリックは正直どうかと思うんだけど。。。
あと、あのアナグラム! あれはどう考えてもアンフェアだろー。
あれをトリックを解く鍵にするなら、せめて序盤で振り仮名ふっといてほしかった。
アナグラムの謎が解明されるまでずっと違う読み方してたのに。。。私が無知なだけ??
いや、あれは普通読めないはず。。。(意味は本作を読めばわかります)
個人的に大好きなのは、不二男という少年が作った〝オススメモダンホラー〟という
近年のおすすめホラー小説を解説文と一緒に羅列したリスト。
これだけで一章使ってますからね。著者の小説というものに対する熱意がひしひしと
伝わってきます笑
なんだかんだ言って、近年出版されたものの中では〝オススメミステリ〟でした。

両親を事故で亡くし、母方の実家に引き取られた中学1年生の如月タクマ。
が、そこではかつて魔術崇拝者の祖父が密室の蔵で怪死した事件が起きていた。
さらに数年前、祖父と町長の座をめぐり争っていた一族の女三人を襲った斬首事件。
二つの異常な死は、祖父が召喚した悪魔の仕業だと囁かれていた。
そんな呪われた町で、タクマは「月へ行きたい」と呟く少女、江留美麗に惹かれた。
残虐な斬首事件が再び起こるとも知らず……。
***
面白かったー!
長編二段組なのにあっという間に読めてしまった。
各章のはじまりがほぼポエム調なのには閉口しましたが、基本はあくまで現実に即した
フェアな本格ミステリでした。所々に挟み込まれる笑いも、全体のおどろおどろしさを
ほどよく中和していていい感じ。
読んでいる間中、物語の向こうにいる著者と知恵比べをしているようで、
「よっしゃここは読みのとおり! 勝った!」と得意になったり
「えっ、この伏線フェイクだったの? やられた。。。」と(いい意味で)腹を立てたり
最後までとても楽しかった。
悪魔をモチーフにしたストーリーも、無理なく現実と溶け合って違和感なく描かれていたし
ファンタジーやホラーが苦手なミステリ読みの人でも楽しく読むことができるはず。
ただ、主人公をはじめとする登場人物たちが皆、爬虫類的というか感情に起伏がなさすぎて
物語を動かすためのコマor記号に成り下がりがちなのが残念だったかな。
何でそこでそんな感情の動き方をするんだよ? と訝りたくなること少なからずだったので。
逆に本作中で一番人間的であってはならない、人間味がないからこそ魅力的である某人物が、
最後の最後で思い切り人間くささを出してしまったので
「ああ、この人もしょせん人間か。。。」とがっくりきてしまった。
人間味を出すべきところとそうじゃないところのポイントがズレていてちょっとバランス悪い感じ。
ほんと、あのエピローグは私的には要らなかったなあ。。。
あとは主人公にとって都合の悪い人物がうまい具合にバタバタ死にすぎ。
ご都合主義だな。。。と苦笑してしまいましたが、もしかして飛鳥部氏、物語をそう運ぶことで
暗に〝悪魔〟は実在することを仄めかしている?(やっぱ私の考えすぎかな。。。)
そして殺人のトリック。
可能なのかあ?! と突っ込みたかったですが、著者が前もって突っ込み逃れの逃げ道を
ちゃっかり用意してあるので、黙って納得するしかなかった。
これだけの長編であのトリックは正直どうかと思うんだけど。。。
あと、あのアナグラム! あれはどう考えてもアンフェアだろー。
あれをトリックを解く鍵にするなら、せめて序盤で振り仮名ふっといてほしかった。
アナグラムの謎が解明されるまでずっと違う読み方してたのに。。。私が無知なだけ??
いや、あれは普通読めないはず。。。(意味は本作を読めばわかります)
個人的に大好きなのは、不二男という少年が作った〝オススメモダンホラー〟という
近年のおすすめホラー小説を解説文と一緒に羅列したリスト。
これだけで一章使ってますからね。著者の小説というものに対する熱意がひしひしと
伝わってきます笑
なんだかんだ言って、近年出版されたものの中では〝オススメミステリ〟でした。
この傷は私だけのものだ。
つらくて、どれほど切なくても、幸せはふいに訪れる。
かけがえのない祝福の瞬間を鮮やかに描き、心の中の宝物を蘇らせてくれる珠玉の短篇集。
★収録作品★
幽霊の家
「おかあさーん!」
あったかくなんかない
ともちゃんの幸せ
デッドエンドの思い出
***
今までで一番よく書けた作品であるとのよしもとばななさんの発言に興味をそそられ
手にとってみた本作。
(Wikipediaより↓)
出産し子供ができるともう悲惨な話は書けなくなるよと人に言われ、
今のうちに悲惨な事や辛い事などを清算しようと考えて書いたという。
妊娠中に悲惨な話を書くことは辛かったが、
「もう書けなくなるかもしれない」という思いの方が強かったと述懐している。
あとがきでも「辛い話ばかりでごめんなさい」と書いている。
。。。そうかあ? というのが私の率直な感想。
表題作〝デッドエンドの思い出〟は確かによくできた、人の人生や命の中にある
言葉にできないぐらい些細なきらめきを見事に文章に表した秀作であるとは思うけど、
ばななさんがそこまで言い切るほどの傑作だとは思えなかった。それなら
〝TUGUMI〟や〝N・P〟のほうがよっぽど胸に迫るものがあったし。
たぶん、〝デッドエンド~〟を書いていたときのばななさんの精神状態やら生活やらが
めっぽうよくて、だからこそ彼女はそう思ったんじゃないのかな、と思う。
人生の一番いいときに聴いた音楽、つけていた香水、そういうのがいつまでも自分の中で
最高の記憶として残るのと同じで。
それにこの短編集が「辛い話ばかり」とも思わなかった。
これぐらいの話は(悲しいけど)フィクションどころか現実世界にもごろごろ転がっているし、
どの短編も設定が悲惨である割りにどこか甘いというかリアルに伝わってくるものがなかったので、
妙に淡々と最後まで読み進めてしまった。だからあとがきを読んだとき
「いや、そんな謝られても。。。」と逆に恐縮してしまったぐらい。
純文学やそっち寄りの小説というのは著者の実体験が元になっている場合が本当に多く、
それでいくとよしもとばななさんは実体験で物語を書いてないなというのが読んでいて直感的に
わかったし、だからこそ〝それを本当に味わったものにしかわからない悲しみ、苦しさ〟というのが
伝わってこなかったんじゃないかなと思う。もちろん彼女も生きていく上で辛い目に遭ったことは
いくらでもあるだろうけど、著作から読み取れる限り彼女が大きな欠落(たとえば幼少期のトラウマ
だったり大きな病気をしたり等)を抱えているとは到底思えないし、仮にそれがあったとしても
彼女にはそこからくる精神的不安定さというものを感じない。最後には自分の足で立てる力を
持つ人だと思う。だからそれが主人公たちにも反映されて、
彼らがどんな不幸に見舞われようと過去にどんな深い傷を負った人間であろうと
「いや、彼らなら何とかなる」と思わせられてしまうんだよな。危うさがないというか。
だから繰り返しになるけど、著者本人が言うほど〝辛い〟小説とは思わなかった。
よく言えばよしもとばななさんは〝強い〟人であり、ちょっと嫌な言い方をすれば
〝お嬢様〟なんだろうな。
表題作〝デッドエンドの思い出〟も、いい話ではあるけどどうにもマンガっぽさが拭えず、
純粋ですれていない人が書いた小説、という印象を受けたし。
ただ、このよしもとばななという人は、他人の抱える苦痛に気づく才能に長けた人だと強く思う。
たとえ自分自身はこの短編集の主人公たちのような経験をしたことがなくても、
そういう経験をした第三者の隠された傷を見抜き、理解し受け止める能力は並じゃないなと。
これは非常に稀で特殊な才能だと思うので今後も大切にしていってほしい(偉そうだけど)。
ところで〝ともちゃんの幸せ〟ですが、これは男の(場合によっては女もだけど)の
バカさ加減を実に的確に書き表していて非常に小気味いい。
世の中の男どもに読ませて回りたいぐらいです。
まあ人間、誰でも「直球で来てくれなきゃわからない、言葉にして言ってくれなきゃ気づけない」
ことのほうが往々にして多いけどね。。。
それにしてもばななさんの書く小説には食べ物の出てくるシーンが多い。
そしてそれがすごい美味そう。
そして〝透明〟という単語がよく出てくる。
これだけ見ても、彼女が真っ直ぐで前向きな心の持ち主であることがわかる。
文章ってほんと怖いぐらい書き手の性格が出るよなあ。。。
つらくて、どれほど切なくても、幸せはふいに訪れる。
かけがえのない祝福の瞬間を鮮やかに描き、心の中の宝物を蘇らせてくれる珠玉の短篇集。
★収録作品★
幽霊の家
「おかあさーん!」
あったかくなんかない
ともちゃんの幸せ
デッドエンドの思い出
***
今までで一番よく書けた作品であるとのよしもとばななさんの発言に興味をそそられ
手にとってみた本作。
(Wikipediaより↓)
出産し子供ができるともう悲惨な話は書けなくなるよと人に言われ、
今のうちに悲惨な事や辛い事などを清算しようと考えて書いたという。
妊娠中に悲惨な話を書くことは辛かったが、
「もう書けなくなるかもしれない」という思いの方が強かったと述懐している。
あとがきでも「辛い話ばかりでごめんなさい」と書いている。
。。。そうかあ? というのが私の率直な感想。
表題作〝デッドエンドの思い出〟は確かによくできた、人の人生や命の中にある
言葉にできないぐらい些細なきらめきを見事に文章に表した秀作であるとは思うけど、
ばななさんがそこまで言い切るほどの傑作だとは思えなかった。それなら
〝TUGUMI〟や〝N・P〟のほうがよっぽど胸に迫るものがあったし。
たぶん、〝デッドエンド~〟を書いていたときのばななさんの精神状態やら生活やらが
めっぽうよくて、だからこそ彼女はそう思ったんじゃないのかな、と思う。
人生の一番いいときに聴いた音楽、つけていた香水、そういうのがいつまでも自分の中で
最高の記憶として残るのと同じで。
それにこの短編集が「辛い話ばかり」とも思わなかった。
これぐらいの話は(悲しいけど)フィクションどころか現実世界にもごろごろ転がっているし、
どの短編も設定が悲惨である割りにどこか甘いというかリアルに伝わってくるものがなかったので、
妙に淡々と最後まで読み進めてしまった。だからあとがきを読んだとき
「いや、そんな謝られても。。。」と逆に恐縮してしまったぐらい。
純文学やそっち寄りの小説というのは著者の実体験が元になっている場合が本当に多く、
それでいくとよしもとばななさんは実体験で物語を書いてないなというのが読んでいて直感的に
わかったし、だからこそ〝それを本当に味わったものにしかわからない悲しみ、苦しさ〟というのが
伝わってこなかったんじゃないかなと思う。もちろん彼女も生きていく上で辛い目に遭ったことは
いくらでもあるだろうけど、著作から読み取れる限り彼女が大きな欠落(たとえば幼少期のトラウマ
だったり大きな病気をしたり等)を抱えているとは到底思えないし、仮にそれがあったとしても
彼女にはそこからくる精神的不安定さというものを感じない。最後には自分の足で立てる力を
持つ人だと思う。だからそれが主人公たちにも反映されて、
彼らがどんな不幸に見舞われようと過去にどんな深い傷を負った人間であろうと
「いや、彼らなら何とかなる」と思わせられてしまうんだよな。危うさがないというか。
だから繰り返しになるけど、著者本人が言うほど〝辛い〟小説とは思わなかった。
よく言えばよしもとばななさんは〝強い〟人であり、ちょっと嫌な言い方をすれば
〝お嬢様〟なんだろうな。
表題作〝デッドエンドの思い出〟も、いい話ではあるけどどうにもマンガっぽさが拭えず、
純粋ですれていない人が書いた小説、という印象を受けたし。
ただ、このよしもとばななという人は、他人の抱える苦痛に気づく才能に長けた人だと強く思う。
たとえ自分自身はこの短編集の主人公たちのような経験をしたことがなくても、
そういう経験をした第三者の隠された傷を見抜き、理解し受け止める能力は並じゃないなと。
これは非常に稀で特殊な才能だと思うので今後も大切にしていってほしい(偉そうだけど)。
ところで〝ともちゃんの幸せ〟ですが、これは男の(場合によっては女もだけど)の
バカさ加減を実に的確に書き表していて非常に小気味いい。
世の中の男どもに読ませて回りたいぐらいです。
まあ人間、誰でも「直球で来てくれなきゃわからない、言葉にして言ってくれなきゃ気づけない」
ことのほうが往々にして多いけどね。。。
それにしてもばななさんの書く小説には食べ物の出てくるシーンが多い。
そしてそれがすごい美味そう。
そして〝透明〟という単語がよく出てくる。
これだけ見ても、彼女が真っ直ぐで前向きな心の持ち主であることがわかる。
文章ってほんと怖いぐらい書き手の性格が出るよなあ。。。
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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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