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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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うずまくような光の中に。



平均年齢世界最高齢! 梅が岡交響楽団!!

老人ばかりで構成された平均年齢世界最高齢のアマ・オーケストラ
「梅が岡交響楽団」(略称・梅響)に、ひとりの高校教師・中島が
間違って入り込んでしまうところから物語は始まる。彼は、全く演奏など論外のはずの
ど下手くそな「オケ老人」たちのなかで勿論一番若く、力も備わっていると目され、
いきなり指揮者になってくれと皆から懇願される。
その後、彼が本当に門を叩きたかった同じ町にある人気のアマオケ
「梅が岡フィル」(略称・梅フィル)との確執、
梅フィルの怜悧で完璧主義のコンマス・大沢が熱望する
ロシアの人気指揮者・ゴルゴンスキーの来日騒動などを経て、
日本・ロシアの国家機密の情報漏洩にまで話は大きく展開していくが――。

***

小説すばる(及びすばる系文学賞出身作家)。
音楽話(天使にラブ・ソングを…、のだめカンタービレ、スウィングガールズetc.)。

のうちどちらかが(もしくはどちらも)好きな人は絶対にハマること請け合い。
タイトルは一歩(というか一文字)間違えたらヤバいですが(笑)、その名の表すとおり、
老人たちの面白オーケストラ話。
クライマックスまでは割りと地味に話は進みますが、著者の構成力・文章力が
非常にしっかりしているので、安心して物語世界に入り込めます。
それにまあ中盤までが地味だからこそ、ラストの演奏シーンがものすごく迫ってくるって
いうのもある。正直泣きそうになってしまった。
文章なのに音楽が聴こえてきました、はっきり。

(すばる繋がりで)〝小説すばる新人賞〟でデビューした荻原浩氏の著作
あの日にドライブ〟で、
「人の人生を甘く見てはいけない」的な一文が出てくるのですが、本作も
最初は愚にもつかないヨボヨボ集団にしか見えなかった老人オケメンバーたちが
実はそれぞれに悩みや葛藤、そして何より圧倒的な個性や魅力を持っていることが
徐々にわかってきて「歳とるのも捨てたもんじゃないな」と思わせてくれる。
こういう老人たちがもっと増えれば、若い子たちが将来を悲観することもきっと
なくなるに違いないのにな。

出てくる人物が皆魅力的で、それぞれの人生も丁寧に書き込まれていて、
非常に読み応えのある一冊です。
映画化してほしいなー。絶対ヒットすると思う。

あ、でもラストの〝マトリョーシカの中身〟のオチには納得いかなかった。
中身に入ったメモの解釈の仕方も無理がありすぎだし、何より解釈した人物が
この小説で唯一嫌いな人物だったせいで余計「ふざけんな」と思ってしまった。
ヤツさえ出てこなければ最高の小説だったのにな。ち。

でもとにかくおすすめ。是非読んでみてください。



そういえば余談ですが実在しました、
ダイコン笛。いい感じ。是非ダイコン協奏曲吹いてみてほしい。
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今度? そんな日来るの?

 

「兄貴は無実だ。あたしが証明してやる!」
誕生日と夏休みの初日を明日に控え、胸弾ませていた中学生の渚。
だが、愉しみは儚く消えた。ストーカーに襲われ重態だった兄嫁が他界し、さらに、
同時刻にそのストーカーも変死したのだ。
しかも、警察は動機充分の兄良輔を殺人犯として疑っている!
はたして兄のアリバイは? 渚は人生最悪のシーズンを乗り切れるか。

***

クールっていうかドライなんだよな、この小説に出てくる子供たちは。。。

何はともあれ非常に楽しめた中編ミステリでした。
子供向け小説であるためか文章が簡潔でテンポもよくとても読みやすい。
ただ。。。子供にこんなもの読ませていいのか?^^;
と麻耶雄嵩氏の著作〝神様ゲーム〟を読んで以来久々に思ってしまった。
ダークすぎだろ。まあ人生勉強だと思えばいいかな。。。(夢もなくすかもだけど)
読了後読者は確実に学べますからね、
〝人を外見で判断してはいけない〟
と。嫌になるほど。
案外こういう道徳観念を人に教えるには、いかにもな正統派(文部省推薦的な)図書じゃなくて
ミステリというジャンルのほうが向いているのかもしれない。

基本的に「人は見かけによらないな。怖!」と思わせられる本作ですが、
ひとつだけ「人は見かけによらないな。切な。。。」と複雑な気持ちにさせられるところがあり、
著者の巧みな人間描写を堪能することができた(ちょっと悲しかったけど)。
だって名字がアレってことはきっとあの子は彼女の。。。ねえ?(ネタバレにつき抽象コメント)。

人はその裏側に何を隠し持ってるかわかったもんじゃない。
おすすめミステリです(ただし人間不信に陥らないよう要注意)。



そして私事で恐縮ですが若竹先生、昨年のミステリーズ!新人賞では
拙作に的確かつ誠意あるアドバイス、本当にありがとうございました。
この場を借りてお礼申し上げます(いつかデビューしてご本人に改めて申し上げたいですが)。
先生に読んでいただき非常に光栄でした。今後もプロ目指してがんばります。
永遠にバイバイ――。



純愛か裏切りか。結婚式当日の凌辱から、わたしとユウ君の物語は始まった。
そして「十三番目の生け贄」という凄絶なAV作品に関わる猟奇殺人。
ユウ君と再会したとき、不可解なジグソーパズルは完成した!
全編に謎と伏線を鏤めた新本格ミステリの快作、驚嘆の魔術師・黒田研二の手で、
メフィスト賞に誕生! 
第16回メフィスト賞受賞作。

***

マンガ版〝逆転裁判〟↓を読んだとき、



「ものっすごいトリック考えつくなー。でもマンガにしてはトリックがしっかりしてるな」と思い
ふと見てみたらシナリオ担当が彼、黒田研二氏。
「あーメフィスト作家かー! 道理でねー!」
と妙に納得、興味を持って氏のデビュー作である本書を手にとってみたわけですが。。。

あー、やっぱメフィスト最高。
奇抜で最高。
ミステリを読みなれている人ならすぐに、全体の構成から
「あ、この小説、例のトリック(若干ネタバレにつき未読の人は見ないでください)が
仕掛けられてるな」
とすぐに気づいてしまうでしょうが(読みの鋭い人ならオチにも)。
そしてそのトリックが同メフィスト作家・森博嗣氏の某著作(完全にネタバレにつき
氏の著作を読んだことのない人は見ないで以下略)並にくどくて込み入っているので、
終盤で探偵がスカっと謎を暴いてくれるミステリが好きな人、もしくは
ミステリをあまり読みつけてない人にはちょっときついかもなので注意が必要(まあ、
そんな人たちはそもそもメフィスト賞系のミステリなんて手に取らないと思いますが)。

でもトリックは大したもんです。アンフェアすれすれだろという人もいるかもしれませんが、
私はそれよりも「こりゃすごい」のほうが上回り、うならされ賞賛の拍手を送った。
ミステリ部分以外を見ると、登場人物が主人公の周りにあまりにご都合主義的に
配置されすぎ、行動しすぎ、といった感はありましたが、まあそれも許容範囲内かな。
何より犯人の狂人っぷりが相当にツボで個人的には大満足。←やばい

ラストはそれまでの毒々しさが嘘のようにさわやか。
ある意味これは至高のラブストーリーとも言えるかも。
館系ミステリが好きな人にもおすすめです。



ていうか新書版裏表紙の著者。。。これ何の衣装? 何してるとこ?
何だか妙に気になるんだけど。。。ご存知の方は是非ご一報を。
もうすぐ夢が叶うというのに。



愛美は事故で死んだのではありません。このクラスの生徒に殺されたのです――。
我が子を校内で亡くした女性教師が、終業式のHRで犯人である少年を指し示す。
ひとつの事件をモノローグ形式で「級友」「犯人」「犯人の家族」から、
それぞれ語らせ真相に迫る。第29回小説推理新人賞受賞作。

★収録作品★

 聖職者
 殉教者
 慈愛者
 求道者
 信奉者
 伝道者

***

去年雑誌に掲載された受賞作〝聖職者〟(本作第一章にあたります)を読んだ際、
「面白!」「レベル高!」
と驚いたことが記憶に鮮明ですが、あっという間の単行本化。
語り部や視点が話ごとに変わっているとはいえ、ひとつの話をここまで膨らませても
読み手を飽きさせることなく最後まで一気に読みきらせてしまう実力は
とても新人とは思えない(プロフィールを見る限り、まったくの新人というわけでも
なさそうですが)。
実際ネット上の各サイトの書評等でも話題になっていて、売れ行きも好調なようです。
女流作家の書く小説は基本的に敬遠している私も、さすがに本作にはうならされました。
文章力や構成力はもちろん、キャラや世界観も非常にしっかりしているし
ミステリ部分も各登場人物の心理描写もリアルで非の打ち所がない。

本作を読み終えてまず思ったのは、人の心というのは他人が思っているよりずっと
複雑なのだな、ということ。
それを互いが読み取れない、もしくは自分勝手に解釈してしまうものだから
そこから次第に齟齬が生じて次々と予測不能の事態を生み出していってしまう。
それがいい方向に向かえばいいのですが、本作ではもう見事なまでにすべてが
マイナスへマイナスへと作用してしまっている(まあ現実もそんなものなのでしょうが)。
相手の真意を理解できない、これは人間の何より悲しい性だなと改めて、切実に思う。
そしてもうひとつ、子供というのはどんなことがあっても母親というものを慕うんだな、と
いうこと。
世の中のクサレ虐待ババアども(失礼)に是非読んでほしい一冊です。

かなりの秀作なので今年度の〝このミス〟でも上位を狙えそうな本作。
ただ、ひとつだけ突っ込みたいのは(ネタバレにつき薄字にしますが)、
森口先生、あんた第一章でHIVウィルスを本当に子供たちに飲ませていたとして、
彼らが感染していたとして、ヤケになった彼らがガンガン何の罪もない人間たちに
HIVをうつしていたらどうなってたかわかってるのかよ、と思ってたら
なーんだ本当は飲ませてないんだ、そりゃそうだよな、先生だってそれぐらいの常識は
あるよないくらなんでも、と安心してたら、今度は大学爆破って。。。
死ぬのが一人ならいいけどそれはまずありえないだろ。あなたも娘の死のせいなのか
元からなのかはわからないけれど少なからず狂ってるよ、あなたの娘を殺した二人と
同類
だよ。
物語のインパクトとしてはこれ以上ないほど強烈なラストだったけど、
あくまで常識にのっとって考えると相当ヤバい終わり方な気が。旦那の説得まるで意味なし。
母親は(いろんな意味で)強し、というところなんでしょうか、やっぱり。。。
まあ、森口先生は多少行き過ぎの感はあるものの、これぐらい子供に対して
強気に出られる大人がいてもいいよな、とは思ったけど(いないから子供にナメられるんだし)。

どの話も面白かったけど、個人的には第一章〝聖職者〟と第二章〝殉教者〟で
終わっていたら神小説になっていたと思う(まあそれじゃ単行本化できないけど)。
この二作の独特の雰囲気はそれ以降の短編たちとは一線を画している気がするので(特に
第五章を読んだときは、第二章の神秘的な雰囲気をぶち壊された気がして若干
鼻白んだので)。

文句なしにおすすめの一冊。
著者にはこのままの実力を保ってガンガン突き進んでいってほしいです。
――何になさいますか?――



2008年に小説誌などに発表された数多くの短篇ミステリーから、
プロが選んだ傑作15本を収録。
ミステリー各賞の歴代リストなども付いた唯一無二の推理年鑑。

★収録作品★

 傍聞(かたえぎ)き/長岡弘樹
 堂場警部補とこぼれたミルク/蒼井上鷹
 退出ゲーム/初野晴
 悪い手/逢坂剛
 選挙トトカルチョ/佐野洋
 薔薇の色/今野敏
 初鰹/柴田哲孝
 その日まで/新津きよみ
 ねずみと探偵―あぽやん―/新野剛志
 人事マン/沢村凛
 点と円/西村健
 辛い飴 永見緋太郎の事件簿/田中啓文
 黒い履歴/薬丸岳
 はだしの親父/黒田研二
 ギリシャ羊の秘密/法月綸太郎

***

作品ごとのレビュー。

◆傍聞き◆

うまいなあー! の一言に尽きる。
人間の心の隙を巧妙についた斬新なトリックに
ちょっと泣けてしまう人情オチ(でもクサくない)。
シンプルなのにインパクトが強く、
物語としてもクオリティが高いのでいつまでも心に残る。
紛れもなく傑作です。さすが賞をとるだけはあるな。

◆堂場警部補とこぼれたミルク◆

まあなかなかに趣向をこらしたミステリではあるんだけど。。。
物語自体にあまり惹かれるものがなかったせいか、トリックがわかったあとも
もう一度読み返してみる気にはならなかった(本当なら再読することで
「あーなるほどそういうことだったのか!」と楽しめる物語なのでしょうが)。
だいたい最初の数字が日付けだってわかりにくいよ(私だけか?)。

◆退出ゲーム◆

こういうライトなノリの話は決して嫌いじゃないんですが、途中まではどうにも
読んでいてだれる感じで「なんでこれがベストミステリーズに収録されてんの?」と
半寝で読み進めていたところ、終盤で怒涛のたたみかけ。
一発で目が覚め一気に読破、見事してやられた爽快感と、物語内にひっそりと隠された
悲しくも深いテーマにすっかり感服。拍手を送りたくなった。
かなりの傑作と思う。好き嫌いは分かれるだろうけど。

◆悪い手◆

大脳生理学や臨床心理学をモチーフにした話を得意とする著者の短編。
カウンセラーとクライアントのやり取りから次第に一つの真実が浮かび上がっていく様は
非常にスリリングで一気に読みきってしまった。
作中の仕掛けはちょっと使い古された感があるけど、こういう何ともいえないオチは
すごく好き。後味が悪いんだけど妙に格好よくてぞくりとくる。
やっぱり狂気のキャラって読み手を惹きつけるものがあるよなー(私だけ?)。

◆選挙トトカルチョ◆

シンプルなんだけどきれいにまとまっていて面白い。
二段オチになっているのもおっと思わせられて著者のサービス精神を感じた。
でも本編のヒロインて、主人公が言うような〝勘のいい〟女性というよりは、
〝小ざかしい〟〝あざとい〟と表現したほうがしっくりくるような。。。
何がどうというわけでもないけどなんか好きになれないヒロインでした。
しかもいくら仕事のためとはいえ、若い女が自分の亭主のところに頻繁に通ってくるのを
何とも思わない(むしろ気に入っている)奥さんにも違和感。こんな心の広い女いないよ。
あと別に文体を手紙形式にしなくても普通に面白かったのでは、と個人的には思う。

◆薔薇の色◆

シンプルで短いながらに面白い。
本編が好きな人はハリイ・ケメルマン〝九マイルは遠すぎる〟も好きだと思う。
ほんのわずかな手がかりから真実を探り出していくパズラー掌編。
オチのマスターの台詞も粋です。
ていうかよくよく考えてみるとこの店の常連みんな名探偵だな。

◆初鰹◆

土地や食べ物の描写が非常にうまく、読んでいて「鰹食いてー」「旅行してー」などと
ついつい思わせられる作品。
ミステリとしてはちょっと地味かな。
あと主人公の奥さんが個人的に好きになれなかった(男性はこういう女に弱いのかも
しれないけど)。ナイショナイショうるさいよあんたと内心で突っ込みまくり。

◆その日まで◆

〝世にも奇妙な物語〟にありそうな話。面白くて一気読み。
ただ、主人公パートが妙に冗長だった気が。すぐに主人公の友人・秀美の描写に
移ったほうが、もっとテンポよく話が進んでまとまりもよかったと思う。

◆ねずみと探偵―あぽやん―◆

ただ長いだけ。ミステリとしてのオチも弱い。のであまり楽しめなかった。
むしろ著者の個性的な経歴と作中の登場人物・古賀恵の〝自分探しトーク〟のほうが
よっぽど興味深く読めた。この著者、女性のことよくわかってます。
あちこちを放浪している時期に知り合った女性にでも聞いたんだろうか。
登場人物たちの心理描写はやたらリアルで「そうだよなあ。。。」と納得させられるものが
あり、ミステリとして読まなければまあまあの秀作なのではと思う。

◆人事マン◆

うーん。。。世知辛いミステリだあ。。。
団塊世代って確かにそういうところあるよなと(自分の父親を見る限り)思うけど。
ストーリーそのものよりも、女々しくて簡単にグチをこぼす男性が増えている昨今、
本編の主人公が今後どういった新システムを開拓していくかのほうが興味深い。
にしても犯人、人生はもうちょっと長い目で見なきゃ駄目だろうと思ったのは私だけ?

◆点と円◆

犯罪プロファイリングは大好きな分野なので楽しく読めた。
時おり挟まれる登場人物たちのコミカルなやり取りもくすりとさせられる。
中盤での主人公のマヌケさに思わず顔をしかめたものの、それが終盤で逆に
事件解決に活きてきたときは「作者、うまい!」と思ってしまった。
でも。。。前半の坂道のプロファイリング正直必要なかったよね。。。(突っ込み)
そして今ならGoogleのストリートビューで簡単に検索できるね。。。(再突っ込み)
どうでもいいけどなんだか読んでいてラーメンが食べたくなる話だった。

◆辛い飴 永見緋太郎の事件簿◆

本編が収録されている本のレビューはこちら
音楽ミステリの傑作です。音楽の知識が特にない人でも十分に楽しめます。
個人的にはシリーズ第一作〝落下する緑〟のほうが好きなので、こちらをまずは是非
読んでください。

◆黒い履歴◆

文句なし、本短編集の中で一番面白かった!!!
被害者が殺害された理由は比較的簡単にわかったけど、それ以外ははっきり見えてこず、
終始テンション上がりっぱなしのまま一気に読破。
二転三転する展開が、少ないページ数の中で実に無理なくきれいにまとまっていて、
ドラマ部分もミステリ部分も最後の最後で完璧なまでの収束をみせる。そして
読む者の心に強いインパクトを残して終わる。
私なら日本推理作家協会賞は〝傍聞き〟よりも本編に進呈するな、きっと。

◆はだしの親父◆
本格推理08にも収録されているのでその際のレビューをそのままペーストします)

私はてっきり父親も昔クラウン(道化)をしていて、息子たちの心もそれで開いた、というオチを
想像していたのですが(たとえば長男とケンカしたときは道化のメイクをほどこした貌で息子を
追いかけた
、三男の飼っている魚の鉢が割れたときは人間ポンプになって飲み込んで家まで
持ち運んだ
、とか)結果はまったくあさっての方向だった。
でも落ち着いて考えたら本当にそんなトリックだったらバカバカしすぎたかも。私は喜びますが笑
家族愛をクサくなく描いた秀作。
小ネタの〝キンギョゥバーチィ〟には笑った。

◆ギリシャ羊の秘密◆
本格推理08にも収録されているので以下略)

主人公たちの推理の過程&オチに多少強引なところがあったものの楽しく読めた。
それにしても、ギリシャ神話の神々の名前ってほんっと覚えにくいよなあ。。。
ラストのトリックはありがち。



レビューは以上!
しかしそれまでは、生まれ変わった自分を楽しもう。



セネックス工業開発部の主任研究員である木島は、社長と間違えられて、誘拐される。
山深い廃村に監禁された彼は、いつしか犯人たちと心の交流を持つようになり、
身代金奪取を手伝うことに。しかし、この誘拐の裏には……。
主人公の木島は、家族との関係が希薄なワーカホリック。
仕事から強制的に引き離されたことにより、次第に自然の中で自分らしさを取り戻していく。
現代人の再生をテーマに、『ミッドナイトイーグル』の著者が贈る久々の長篇小説。

***

丁寧に書かれた物語ではあるのですが、どうにもこうにも
ミステリ部分がありがち、ドラマ部分もありがち、会話や情景描写もベタでクサくて(環境汚染に
ついてああも熱く語られると逆に苦笑いが浮かんでしまう。家族の孤立化、というモチーフも
今さら感がありあり。しかも主人公の家族全員が皆大人で自立していて理解もあって。。。と
あまりにご都合主義キャラだし)あまり物語に入り込めなかった。
登場人物たちの会話だけでもオチがどうなるのか簡単に予測できてしまうし。
主人公たちが窮地に追い詰められたときの脱出方法なんてデスノートのパクリだし。
映画化までされた著作を持つ人が書いたものとは思えなかったなあ。。。(まあ山田〇介の
小説も映画化される時代だからな。ってさすがに一緒にしちゃまずいかな。
ミッドナイトイーグルファンの方すみません)
可もなく不可もなく、そんな小説でした。



ftree.jpg




ホタルの木。
いつか見てみたい。






たとえ狂うことになったとしても。



愛する者を失った「私」は、他人が知れば驚愕するような、ある物を持ち歩いている。
しかし、それは狂気なのか――。
新世代作家の鋭利な意識が陰影濃く描き上げた喪失と愛の物語。芥川賞候補作。

***

虚無・孤独・狂気。
本作の著者の著作には、必ずといっていいほど含まれている三つのモチーフ。
主人公は絶えずそれに怯え、戦い、ときには無意識のうちにその中に取り込まれてしまう。
芥川賞受賞作〝土の中の子供〟の主人公は、敢えて恐怖にぶつかっていくことで
長く抱えていた恐怖に打ち勝つことができた。
けれど、本書の主人公は、恐れていた狂気に自ら身を委ねてしまうことで恐怖から逃れ、
彼と妄想上の〝彼女〟のみが存在する世界での幸福と安楽を手に入れる道を選んでしまう。
視点を変えることによってハッピーエンドにも、バッドエンドにも取れる、
何とも形容しがたい感情を読む者に抱かせる物語だ。

本作は著者がノイローゼになるほどに魂を削って書いた半ば自伝的な物語で、
それを安易にひとつのカテゴリーでくくることははばかられるのですが、それでも
私の中で純文学界における二大傑作ラブストーリーといえば本著と〝火薬と愛の星〟。
男性は女性より単純とよく言われるけれどそのぶん一途で、特にこの二作の主人公は
容易には埋めることのできない深い孤独を抱えているが故に
〝恋愛感情〟とひと言で表すにはあまりに切実すぎる感情を相手に抱いてしまい、
一人の女性に恋をしたときにこうして痛々しいほどの狂気が垣間見えてしまうんだろう。
ある意味羨ましく思える。リスクが高いから少し怖いけど。

たとえ本作の主人公の恋愛感情が真実ではなく彼の脳内で作り上げられた幻想に
過ぎなくても(つまりは主人公が自分の創り上げた恋愛世界に陶酔しているだけで
本当の〝彼女〟のことなど何一つ見えていないのだとしても)、そんな実体のない相手をも
そこまで狂おしく想える、そのぞっとするほどの純粋さにある種の魅力を感じてやまない。

おすすめです。
そう思いたい、切実に。



28歳のフリーライター、佐倉明日香は、ある朝目覚めると見知らぬ白い部屋にいた。
そこは「クワイエットルーム」と呼ばれる、女子専用の精神病院の閉鎖病棟。
明日香はそこに来た理由を思い出せずにいたが、個性的な患者達と接し、
次第に馴染み始める。

***

悔しいことに最近読んでいて胸を衝かれ触発される小説というのが
私が専門としているミステリではなく純文学のほうに多い。
本作もまさにそれ。してやられました。

精神を病んだ面々が実にコミカルかつシュールに描かれている本作、
もう一年近く心療内科のお世話になっている私が読んでも不快感を感じない。
実際には見るに耐えないはずであるシーンも、著者独特の言い回し&表現で
さらりと読める。時には吹き出してしまうこともしばしば。
それは、この物語を覆う空気感が単にチャラけているだけじゃなく、その根底に
碇のように根を下ろした〝重さ〟がちゃんと感じ取れるからでしょう。
それは深いところに沈んでいて読み手には見えないけどちゃんと感じる。

ラスト一ページは、清々しさと切なさがないまぜになった何とも言えない感覚に
思わず「うおー」とか声をあげてしまいました。最高。鳥肌立った。

タイトルの割りにクワイエットルームがほとんど出てこないのは若干気になるところですが。
単に著者が〝クワイエットルーム〟という単語をタイトルに使いたかっただけなのか、
それとも(ありきたりな表現をすれば)誰もが発狂しそうな静寂の部屋を胸の内に抱えている、
という意味合いでもあるのか。作中に
たまたま運悪く高価な壺を割って多額の借金をしてしまう人がいるように、
わたしもたまたま正気を踏み外した場所に精神病院があって、
身動きが取れなくなっているだけなのだ

という記述があるように、たまたまクワイエットルームへの扉を開けてしまう人がこの世には
少なからずいる、そういうことなんだろうか。
著者に訊いてみたいところです。

何はともあれ久しぶりに出会えた傑作。
おすすめです(あまりに繊細な人はやめといたほうがいいかもしれないけど)。



quiet.jpg




映画化もされてます。近いうち観てみる予定。

 

彼はモンスターです
あなたはモンスターのいる病院で働いているのです――




性の尊厳を巡る書き下ろし医学サスペンス!
「ひとは男女である前に人間だ」。
インターセックス(男女どちらでもない性器官をもっていること)の人々の魂の叫び。
高度医療の聖地のような病院を舞台に、医療の錯誤と人間の尊厳を問う書き下ろし長編。

***

性同一性障害とは異なり、精神ではなく身体そのものがその人本来の性別とは異なる、または
心身共に両方の性を持ち合わせている、いわゆる〝両性具有者〟――インターセクシャル。
詳しくない人はこちらを見るか、↓このマンガがおすすめです。



というのはまあいいとして。。。
昔から男女間だけではなく生物学としての〝性〟を描き続けてきた作家さんだけあって、
本作もインターセクシャルという特殊な病(障害?)を軸に、
その他女性が(場合によっては男性も)抱える性的な葛藤、日本における性差医療の極端な遅れ、
産婦人科医が減少し続けている日本の現状、そういった諸々を見事に描き出していて
非常に読み応えがあります。
ただ、そういったことにページを割いてしまっているぶん〝物語〟部分が薄っぺらい。
ヒロインが終始淡々と様々な医師や患者たちと上記のような問題について語り合うだけで
ストーリー部分がまったく進まず、それどころか彼女がいろいろな場所に行っては
おいしいものを食べるグルメ紀行的展開が始まり(食べ物の描写がおいしそうなのです、実に)。。。
ヒロインと周囲の人間関係も、誰もかれもがただひたすら彼女をちやほやするだけなので
登場人物たちの関係性に緊張感もなければ当然面白みも見出せず、
終盤でやっとはじめからなかったも同然のミステリ部分の真相が明らかになり、
でもそれもとりたてて驚くほどのものでもなく、気づけば何だか半ば無理やり小綺麗に
風呂敷を畳んで終わった、といった印象。
クライマックスのサプライズ、あれも(確かに驚いたけど)ちょっと卑怯だろ。
プロの作家ならあんな一発ネタじゃなく物語そのもので読み手をあっと言わせてほしかった。
受精〟を読んだときの衝撃はハンパじゃなかったのになあ。。。

本作を読んだ一番の感想は
「本当のモンスターは本作で五人の命を奪った〝犯人〟ではなく、
我が子の命を奪ってまで生きようとする、そして
第一子が遺伝性疾患を持って生まれたにも関わらず
『二人目の子供が健常者として生まれてくれれば上の子を助けてくれる』と
身勝手極まりないエゴで第二子を作ろうとする、それに何より
自分の子供が特殊な疾患を持って生まれたということから目を逸らし、
関わりを避け、罪もない子供を責め立て、あまつさえは見捨ててしまう、
そんな〝親〟たちである、ということ。

その点では〝犯人〟は、歪んではいるけれど決して間違ってはいないのだと思う。
本作の前作〝エンブリオ〟から読んでいればもっと犯人である〝彼〟の考えが
わかったのにとひどく後悔中なので、本作に興味を持った人はまずはこちらからどうぞ。



オマケ:
本作にぴったりの曲。映画も名作です。
これでも私たちは、恋をしたといえるのですか。



他者にその存在さえ知られない罪を完全犯罪と呼ぶ。では、
他者にその存在さえ知られない恋は完全恋愛と呼ばれるべきか?
推理作家協会賞受賞の「トリックの名手」T・Mがあえて別名義で書き下した
究極の恋愛小説+本格ミステリ1000枚。

舞台は第二次大戦の末期、昭和20年。福島の温泉地で幕が開く。
主人公は東京から疎開してきた中学二年の少年・本庄究(のちに日本を代表する画家となる)。
この村で第一の殺人が起こる(被害者は駐留軍のアメリカ兵)。凶器が消えるという不可能犯罪。
そして第二章は、昭和43年。福島の山村にあるはずのナイフが
時空を超えて沖縄・西表島にいる女性の胸に突き刺さる、という大トリックが現実となる。
そして第三章。ここでは東京にいるはずの犯人が同時に福島にも出現する、という
究極のアリバイ工作。
平成19年、最後に名探偵が登場する。
全ての謎を結ぶのは究が生涯愛し続けた「小仏朋音」という女性だった。

***

戦後から現代までに起きた様々な実際の事柄を交えつつ淡々と描かれた、
ミステリというよりは一人の男の半生記、とでも言うべき作品。
大きく全三章に分かれたストーリー中でそれぞれ展開される〝謎〟も、どれも
既に本格作家が書いているようなもので、真相も特に驚くに値するものじゃないので、
ミステリとして読むと肩透かしを食らうかも。
特に第三章のトリックは、「別にそんな設定にしなくても画家なんだから絵で
書いておけばいいだけじゃん」と突っ込みたかった(意味は読めばわかる)。
どうしてもあのトリックを使いたいのなら、序盤でもうちょっと読み手にフェアな伏線を
張っておいてほしかった(たったあれだけのヒントでそこまでわかるかよTT!)。
荻原浩氏の〝お母さまのロシアのスープ〟みたいな時代設定なら途中で気付けたかもだし
まだ納得もいくけど。
最後の最後で明かされる最大の〝真相〟も、序盤での伏線の張り方があまりに
あからさまなのですぐに気付いてしまい、「ああ、やっぱり」としか思えなかったし。
けれどその直後、はっと「あっ、だからこの小説はこのタイトルなのか!!!」と
悟ったときの衝撃と戦慄は生半可なものじゃありませんでしたが。
ここまで見返りを求めない、献身的な恋愛感情はそうそうないです。
〝容疑者Xの献身〟の石神どころか、かの人魚姫すら敵わないのでは。
ラスト部分だけは近来稀に見る驚きトリックだったことは確かです。
あまりのことにしばらく呆然としたあと、切なくて泣きそうになってしまった。

文章表現が非常にうまく、キャラクターも皆最高にいい味出している
読んでいてとても気持ちのいい物語。
非常におすすめの一作です。

註:ただ、これを読んで感動した人は読まないほうがいいかも。
どちらの世界観も壊れます。完全に別物と割り切れる自信のある人だけどうぞ。



オマケ:
yasu.jpg




犯人はヤス。






プロフィール
HN:
kovo
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女性
自己紹介:
80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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