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読書&執筆ホリックの書評&書き物ブログ。
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「君はこれまでに何度もその台詞を言った。だが一度でもぼくがはずしたことがあるかい?」



進化し続ける天才、最強の新作!!
ボスニア・ヘルツェゴヴィナで、心臓以外の臓器をすべて他の事物に入れ替えられる、
凄惨な切り裂き事件が起きた!
MMORPG(オンライン・ゲーム)の闇を御手洗潔が暴く!

中世クロアチアの自治都市、ドゥブロブニク。
ここには、自由の象徴として尊ばれ、救世主となった「リベルタス」と呼ばれる
小さなブリキ人間がいた――。
ボスニア・ヘルツェゴヴィナの一都市モスタルで、心臓以外の臓器をすべて
他の事物に入れ替えられるという、酸鼻をきわめる殺人事件が起きた。
殺されたのはセルビア人の民族主義グループの男たちだが、なぜか
対立するモスリム人の男の遺体も一緒に残されていた。
民族紛争による深い爪痕と、国境を越えて侵食するオンライン・ゲームによる
仮想通貨のリアル・マネー・トレード。
2つの闇が交錯するとき、複雑に絡み合う悲劇が起こる。

同じく民族紛争を題材とした中編「クロアチア人の手」も同時収録。

***

。。。初期の御手洗を返してほしいなあ。。。
自分の足で駆けずり回って、周りに変な目で見られても意にも介さず、
相棒の石岡に突っ込まれながらも終盤で華麗に、そして得意げに謎を解明してみせる
御手洗潔が大好きだったのに。。。
まあ、御手洗が石岡を捨てて海外に行ってしまってから私の中で御手洗シリーズは
半ば終わってはいるのですが(いくら石岡との別離が彼の自立のためだとはいっても)、
御手洗は本格ものでは一番好きな探偵なので新作が出ると手にとらずにはいられない。

でも、最近の御手洗シリーズはまずはじめに基盤となる社会問題ないし
既存のストーリー(童話や伝承等)ありきで、著者の島田氏がそれに手を加えて
ミステリ仕立てにしているだけ、といった感がある。
初期の〝占星術殺人事件〟〝斜め屋敷の犯罪〟なんて、100%島田氏の創作で
書かれていたし、真相がわかったときの驚きといったらもうハンパじゃなかったのに。。。
そもそもやっぱり御手洗と石岡、この二人は絶対一緒にいなきゃ駄目です。
だって、ドラマ〝相棒〟の右京さんと亀ちゃんがコンビ解消してそれぞれに活躍してる話なんて
誰が読みたい?

一話目〝リベルタスの寓話〟も、トリックはどうせやるなら
犯人が中身を全部くり抜いた他人を着ぐるみにして中に入って別人として殺人を犯す〟ぐらい
やってほしかった。
二話目〝クロアチア人の手〟は、相変わらずおとぼけで小心で優しい石岡君を見れたのは
嬉しかったけど、あのアンフェアすれすれの殺人方法。。。
あれは賛否両論分かれるだろうなあ(私はちなみに否定派です)。

だいたいどちらの事件も警察があまりに無能すぎ。
もっと入念に調べれば誰かしら真相に気づくだろうにいったい何をやっているのかと。
もしかして島田氏はもうその程度のトリックしか考えられなくなっちゃったから、
御手洗を海外に飛ばして敢えて安楽椅子探偵にすることで、御手洗の天才性を保っているん
だろうか。。。(御手洗が現場にいたらあまりの事件の簡単さに拍子抜けして
「この程度は君たちでやりたまえ」と言い捨ててとっとと帰っていくに決まってるし)。

御手洗シリーズ、という肩書きさえなければまあまあ読めるミステリなんだけどね。
オタク発言ですいませんが、本作には読後、FF12をやったときと同じ憤りを感じました。
「これ、タイトルにFF(ファイナルファンタジー)って書いてなきゃ絶対売れてないよな。。。」と。
「これ、タイトルにFFって書いてなきゃここまで腹も立たなかったのにな。。。」とも。

次回作に(うっすら)期待。
次はどうか病気ネタと童話ネタと時事問題ネタ以外でよろしく、島田先生。
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あぁ。秘密の匂いだ。



消費されて終わる恋ではなく、人生を搦めとり、心を縛り支配し、
死ぬまで離れないと誓える相手がいる不幸と幸福。
優雅で惨めで色気のある淳悟は腐野花(くさりのはな)の養父。
物語はアルバムを逆から捲るように、二人の過去へと遡る。
震災孤児となった十歳の花を若い淳悟が引き取った。空洞を抱え愛に飢えた親子には、
善悪の境も暗い紋別の水平線の彼方。そこで少女を大人に変化させる事件が起き……。
黒い冬の海と親子の禁忌を、圧倒する恐さ美しさ、痛みで描ききる著者の真骨頂。

***

すれ違ったりケンカしたり別れたり。。。そんなとき
愛し合って結婚したはずの男女が口にするのは決まって
「夫婦なんてしょせん他人だから」。
それでいくと本作の主人公二人の恋愛の形はある意味究極形なのだろうと思う。

親子。
同じ傷を持つ。
共犯者。

これだけの繋がりがあれば離れられないのは当然で、だけどそのぶん残酷だ。
万一片方が消えてしまったときに、残された側の心の修復が利かない。
だから男と女は他人で、完璧には分かり合えない、愛し合えないようにできているのかも
しれない。

本作は直木賞を受賞しているだけあり確かに名作ではあるのですが、
終わり方(といっても本作の構成上エンディングは冒頭にきています)が
やや尻切れトンボであったり、
書くべきところを書いていない、その割りに読者が自分の想像で補える部分を
わざわざ書いてしまっていたりと少々描写のバランスが悪い(「おかあさん」のくだりは
ああ何度も書かないほうがやりきれなさが増すし〝父親〟のミステリアスさが保てて
よかった気が)、
そして〝感情らしき感情を持たない、父親以外の人間には無関心〟なはずである
ヒロインの花が、ありがちな嫌悪感を別の女性に抱いたりといったキャラづけの不明確さ、
そういった点が惜しい作品だとも思う。

似たテーマで書かれた物語なら↓のほうがおすすめ(マンガですが)。

 

ところで作中に登場する〝チェインギャング“という絵画、実在はしませんが
この物語を読むとこの絵が(植物じゃなく人間ではあるけど)主人公二人の関係性を
実に的確に表現している気がしてならない。
chaingang.jpg














そしてこの歌も聴くたび彼ら二人の関係性を思い起こさずにはいらない。




それにしても。。。寂しいんだな、皆。
闇が来る。



美しいものは恐くなければならない。恐いものは美しくなければならない。
美しさの中に恐怖の構図が仕組まれていた「失鷺飛来図」。
絵の秘密をめぐり、女と男がたどる愛と恐怖の旅路。ホラー長編。

***

著者本人もあとがきで書いているように、本作は単なる〝ホラー〟というジャンルに
簡単に押し込めるような作品ではないです。
冒頭の静謐な闇を思わせる描写、それが物語が進むにつれ次第にサスペンスの様相を増し、
クライマックスでは〝スクリーム〟〝チャイルド・プレイ〟等のB級ホラー的展開をしますが、
全体を通してみれば非常に大きな〝哲学〟――
「人はこの生きづらい世の中にあって、どこまで己自身と向き合い、
恐怖と孤独に打ち勝って自分にしかできない何かを成し遂げ、遺せるか」
が見えてきます。
本作に登場する〝朱鷺飛来図〟という絵は、
視点を変えて見ることで地獄絵図に変化するといういわゆる〝騙し絵〟なのですが、
この物語も数年前初めて読んだときは私には単なる〝朱鷺の絵〟にしか見えなかったものが、
今回改めて再読してみてようやく、そこに隠された真実の絵が浮かび上がって見えてきた次第。
それにしてもこれに気づかないとは。。。幼かったなあ当時の自分。。。(言い訳すると初読が
相当大昔だったので。。。いや、でも気づく人は一回で気づくか。まだまだ修行が足らないな自分)。

何か夢があってそれに向かってがんばっている人、
苦しいことがあって前に進めずつらい思いをしている人、
そういった人たちに是非一度手にとってみてほしい作品です。
前者には〝一つのことを成し遂げるというのがいかに覚悟のいることか、けれど同時に
いかにやりがいがあり誇らしいことか〟を、
後者には〝生きる恐怖というのは己が生み出した妄想に過ぎない、
共に立ち向かえる相手を探し出すことができれば何も恐れることはない〟ということを、
本作は教えてくれるはずです。



追記:
表紙がこっちのほうが好きなのでハードカバーを紹介しましたが
文庫版も出てます。

追記2:
本作が書かれた15年前時点では生き残りが二羽、と書かれていたトキの現状が
このサイトで見れます。興味のある方はどうぞ。


ibis.jpg








人間なんてそんなもんなんだから。



ほら、人間という生き物は、こんなにも愚かで、哀しい。
数多のエピソードを通して浮かび上がる、人間たちの愚行のカタログ。

***

このブログにもいつも書いていることですが、
私がこの世で一番嫌うのは〝悪〟よりも〝俗悪〟な人間で、それはたとえば
何人もの人間を街中で殺傷した人間よりも、それによる被害者を
悪びれもせず平然と写メールで撮っているような無神経な連中のことです。
先日我が家の隣家の人が変死したのですが、それを面白おかしく話してまわっている
近所の中年女(主婦、とかおばさん、とか呼ぶ気にもなれないので。すいません)たちにも
正直心からの軽蔑を感じて吐き気がしたし。
綿矢りささんのデビュー作〝インストール〟でも、
主人公の少女が出会う小学生の少年の義理の母親が似たような感じで、
思春期の息子に向かって「男の子と女の子どっちが欲しい?」と訊ねてみたり
生理のときには風呂場の前にショーツとナプキンの組み合わせを一列に並べたり。。。
悪意がないから注意できない。でも悪意がないぶんよっぽどタチが悪い。
本作にはそういった連中ばかりがこれでもかと登場します。
初めて読んだときはあまりの苛立ちに本をぶん投げてやろうかと思いましたが、
ある程度年月が経っていい大人になった今読み返してみるとある意味面白い。
バカな人間たちを斜め上から見下ろしているような感覚で読んだ。

悪意なき悪意、法に触れない愚行のほうが、よほど人間を不快にさせることがあるよなと
本作を読んで改めて痛感。
本作を読み終えて、人間として一番〝愚か〟ではないと感じられたのが
一家皆殺し犯である、という滑稽さ。
犯人は純粋な〝悪〟だった。だから法の下に裁かれる(おそらく極刑)。
けれど人間としてより軽蔑に値するのは、その犯人よりも周囲の人間たちのほうなのだから
もう笑っちゃうしかありません。

ただひとつ疑問なのは、冒頭から既に惨殺された状態で登場する友季絵、彼女が
作中の〝愚行〟を本当にやりたくてやったのか、ということ。
案外彼女は人間そのものをこの物語の読み手と同じように高みから見下ろす立場にいて、
だから人間になどはじめから何の感情も抱いていなくて、
単に科学者がマウスでやるように「自分がこうしたら相手はどうするか」という〝実験〟を
無感情に淡々と行っていただけなような気がしてならない。
(〝ハサミ男〟に登場する女子高生が正にそんな感じでしたが、
友季絵にも彼女と同じ匂いをどうにも感じる)

なのでさまざまな人間が語る〝友季絵〟という一人の女性の人物像を、
その語りを疑うこともなく「そうか、彼女は本当に嫌な人間だったのだな」と思ってしまった時点で、
読み手側も自分の頭で考えるのではなく単なる情報だけで相手を判断してしまうという
〝愚行〟を犯してしまったも同じ。
おそらく友季絵があの世で笑っているでしょう。
「私たちを信じて」



心霊現象が絡む事件を捜査する「R特捜班」の連絡係を務める大悟は、
初めて体験する心霊現象にとまどいながらも事件を解決していく。青春警察小説。
山本周五郎賞・日本推理作家協会賞受賞第一作。

★収録作品★

 死霊のエレベーター
 目撃者に花束を
 狐憑き
 ヒロイン
 魔方陣
 人魚姫

***

数馬――古い神道の伝承者の家系。
鹿毛――修行を積んだ、密教の寺の息子。
里美――沖縄の神事に関わるノロの一族。
そんな三人の霊能力者と、その手の能力は持たないものの
何事にも動じず常に冷静沈着(というとかっこいいけど単に極度のマイペース人間)に
彼らの指揮をとるR(霊)特捜班のリーダー・番匠。
そしてそんな彼らに振り回されっぱなしの、刑事課の便利屋的存在である狂言回しの大悟。
それぞれがそれぞれに魅力あるキャラクターで(主人公はちょっと弱いかな)、
特に霊能者たちが事件を解決する際に見せる、やる気がないのに妙に格好いい連携プレーは
なかなかの見もの。
ほろっとさせられたりゾクっとさせられたり、普通の警察ミステリとは一味違った
コミカルな連作短編集です。
全部が軽めの話なので、ふと時間が空いたときにでも手にとって読んでみることを
おすすめします。

反対にミステリとしては、
オチがかぶっている話があったり
心霊をネタにしている割りにはオカルトミステリならではの謎やトリック等がほとんどなかったり(
あってもすぐに気づけてしまうレベル)、
あまり読み応えはなかった。なので本格的なミステリを期待している人にはおすすめしません。
あくまでのほほんと楽しんで読むことを推奨したい物語です。
(特捜班が霊と戦うシーンも、あまりにも描写不足で「いや、もうちょっと書いてくれても。。。」と
ちょっと拍子抜けだったので。まああんまりそこにページを割いても物語の趣旨が
変わっちゃうけど、それにしてもあまりに読者に想像を委ねすぎだったので。。。いや、
委ねる気すらなかったような?)

霊能者三人組はすごく好きですけどね。
いつか彼らそれぞれの視点で書かれた短編で構成された続編を読んでみたいもんだー。
何もない世界だ。



「精神鑑定」に真っ向から挑む感動作!
「心神喪失」の通り魔犯に娘を殺された夫婦。
運命を大きく狂わされた二人はついに離婚するが、事件から4年後、
元妻が街ですれ違ったのは〝あの男〟だった……。

***

江戸川乱歩賞出身の作家さんの割りにはライトな文章を書く作家さんなので、
どの世代の人にも読みやすい薬丸作品。
扱うテーマの面白さ、卓越した構成力と、一見ベタでありがちな内容を
魅力溢れる描写で最後まで一気に読ませてしまう表現力は東野圭吾氏に通ずるものがある。
私の中では薬丸氏はポスト東野です(同賞出身者だし。。。)。

〝統合失調症〟という病気についての描写があまりに浅いのと
全体的に少し物語の掘り下げが足りない感があったことは否めませんが、
なかなかの良作だと思います。
ただ、娘を殺された親があまりに社会派すぎるというか、
子供を失った悲しみよりもそれをいかに世の中に訴えるか、ということにばかり向いていた点が
ちょっと感情移入しにくかったかな。
よく我が子を殺された親御さんが「もう二度と新たなる犠牲者を出さないために」と
自費出版等で手記を書いたりしていますが、正直私はあまりああいうのは好きではなく、
そんなものを書くよりも子供の棺にすがりついて号泣している姿のほうが
よほどこちらの心を打つのに、何故文章のプロでもない素人が自分の筆で人の心を
動かそうなどと思うんだろう。。。と(申し訳ないけど)思ってしまう性質なので、
本作でも著者はそういった両親の心情をより細かく描写したほうがもっといいものに
なったのに、とおせっかいにも思ってしまった。
つまりは娘を殺された両親の言動に、書き手の主張が透けてみえてしまってるんだよな。
だから彼らが〝被害者の両親〟ではなく著者の分身――著者の心情を代弁する人形に
見えてしまうこともしばしば。
終盤での母親のある〝決意〟にはちょっと胸をうたれましたが。
でも現実の警察はたぶんそう甘くないと思うからいざあの〝決意〟を実行しようとしても
難しいだろうなあ。。。悲しいことに。

作中に登場するゆきという少女の抱える秘密にはかなり早い段階で気づいてしまったので
オチを読んでも驚けず残念。ただ、その秘密が明かされる際の彼女の台詞には
切なさでちょっと泣きそうになってしまいましたが。
クライマックスで加害者の味方・被害者遺族の味方が
それぞれの大切な相手を守るために同時に「逃げろ」と叫ぶシーンでも。

心の病は目に見えないしいくら言葉を尽くしても相手も同じ経験をしていない限り
その苦しみを理解してもらうことはとても難しい。
この物語の登場人物たちには皆幸せになってもらいたいと切に願う。

統合失調症に限らず、心の病を抱えた人が共通して見ているのは〝虚夢〟、正に
〝虚〟しくて〝虚ろ〟な〝夢〟だ。
想像にすぎないのに、現実の出来事ではないのに、
次々と頭の中から湧き出してはその人間を苦しめる。闇の中に捉えて決して離さない。
そうして苦しむ人たちのすべてが、悪夢――いや、悪夢よりずっと残酷で苦しい、
虚ろで何もない〝虚夢〟の世界から揺り起こして現実に引き戻してくれる存在を
手に入れられることを、心から願ってやまない。
その現実が、たとえ造り上げられた偽物の現実でもいいから。
彼らを揺り起こした人間が優しい嘘で造り上げた、虚飾の楽園でもいいから。
何もない世界よりは、ずっと。



本作に興味を持った人は、同じテーマで書かれたこちら↓もおすすめ。
純文学ですが非常に読みやすく、いろいろと考えさせられます。

「長い沈黙の終わりだ」



旬なミステリ作家の魅力発見!最新ベスト10を一気読み!!
結末まで読まずにいられない、美しき謎の数々!
本格ミステリ作家クラブが選んだ2007年のベスト本格ミステリ短編&評論のすべて!

★収録作品★

 はだしの親父/黒田研二
 ギリシャ羊の秘密/法月綸太郎
 殺人現場では靴をお脱ぎください/東川篤哉
 ウォール・ウィスパー/柄刀一
 霧の巨塔/霞流一
 奇偶論/北森 鴻
 身内に不幸がありまして/米澤穂信
 四枚のカード/乾くるみ
 見えないダイイングメッセージ/北山猛邦

***

作品ごとのレビュー。

◆はだしの親父◆

私はてっきり親も昔クラウン(道化)をしていて、息子たちの心もそれで開いた、というオチを
想像していたのですが(たとえば長男とケンカしたときは道化のメイクをほどこした貌で息子を
追いかけた
、三男の飼っている魚の鉢が割れたときは人間ポンプになって飲み込んで家まで
持ち運んだ
、とか)結果はまったくあさっての方向だった。
でも落ち着いて考えたら本当にそんなトリックだったらバカバカしすぎたかも。私は喜びますが笑
家族愛をクサくなく描いた秀作。
小ネタの〝キンギョゥバーチィ〟には笑った。

◆ギリシャ羊の秘密◆

主人公たちの推理の過程&オチに多少強引なところがあったものの楽しく読めた。
それにしても、ギリシャ神話の神々の名前ってほんっと覚えにくいよなあ。。。
ラストのトリックはありがち。

◆殺人現場では靴をお脱ぎください◆

主人公が二人とも大金持ちの家系という設定は多少鬱陶しかったものの、
これだけ短い話の中にばらまかれた伏線たちが最後で一気にひとつに収束する様は見事。
作者の力量を感じました(主人公はいったい誰なんだよ? と突っ込みたくなるところは
置いといて)。
ちなみに蛇足ですが、私だったらずかずか平気で歩きます(意味は読めばわかります)。

◆ウォール・ウィスパー◆

長い割りにいまいちパッとせず。。。
犯人の特定方法も、相手が人間という〝動く生き物〟であることと、目撃者が
幼い少女でしかもその目撃記憶自体が数十年前のものであることを踏まえれば
断定にまで踏み切ることは到底無理だし。
全体的にぼんやりとした印象のミステリ。

◆霧の巨塔◆

登場人物全員、知り合いが殺されたっていうのに(いくらミステリにしても)淡白すぎだろ。
でも俳優・真中の見た〝霧の塔〟の正体がわかったときは鳥肌が立ってしまった。
そして泣けた。本当に大きい、大きすぎる塔だよ。。。立派な塔だよ。。。(TT)
でも似たようなトリックがマンガ版〝逆転裁判〟にあったなあ。。。原案の黒田研二氏は
いったいどう思ってるのか。。。(奇遇にも同じこの本に収録されてるし)

◆奇遇論◆

犯人が自分がS駅付近に詳しいことを積極的にアピールするのはアホすぎだと思ったけど
やっぱり連丈那智シリーズは面白い。
初期の那智シリーズより文章から硬さがとれていて読みやすくなっているのもいい感じ。
フィールドワーク(外の世界を歩き回っていろんな事柄について知ること)に興味のある人には
おすすめのシリーズ。
ちなみに蛇足ですが私はいつか廃墟めぐりがしてみたい。

◆身内に不幸がありまして◆

雑誌〝Story Seller〟に収録されていた同氏の著作と空気感が非常によく似た作品。
美しい大家の女性に仕える少女、というのが今の米澤氏のマイブームなのでしょうか。
と、どうでもいいことは置いといて。
まだ若いのに文章うまいよなあと相変わらず驚嘆。
タイトルセンスも相変わらず抜群。
内容も面白くどんどん読めてしまいましたが、犯人が殺人を犯した理由に
かなりの無理があったような。。。だってむしろ毎年同じ日に身内が死んだってほうが
よっぽど周りの不審を買う
だろ←ネタバレにつき薄字で。
オチも、二人が双子というならともかくまったくの他人であそこまでの偶然の一致は
いくらなんでも不自然。小説だからと言われてしまえばそれまでだけど。
でも最後まで結構楽しく読めた。彼の短編なら〝心あたりのある者は〟のほうが
おすすめですが。

◆四枚のカード◆

。。。困ったことに浮かばない、感想らしき感想が。
「へー、そう」としか思えなかった。
序盤の手品のくだりは文章だと把握しづらくてだるいし、
短い話の中に大勢の人間が出てきすぎて、しかも彼らが細かい時間でうろちょろしすぎて
そこのところもだるいし、
犯行動機があまりにバカバカしすぎて(むしろ今の若者はバカで幼稚だとでも風刺してるのか?)
失笑。
しかも語り部はその大バカ極まりない動機を〝犯人の心を蝕む闇〟とか大げさに表現してて
噴飯ものだし(彼は作中で動機を知る術がなかったので仕方ないのかもしれないけど)。
これぐらいのことでいちいち殺人してたら私はいったい何人の人間を殺さなきゃなんないんだよ。
乾くるみ氏は決して嫌いな作家じゃないし、期待していただけに残念。

◆見えないダイイングメッセージ◆

さすが本書のトリを飾るだけあって面白かった!
しかもこの著者、この作家陣の中で最年少なのだからすごい(才能に年齢は関係ないとはいえ、
小説、しかもミステリというジャンルに置いては生きた年数や経験は少なからずそれを左右すると
思うので)。
同じダイイングメッセージネタでも(こう言っちゃ失礼ですが)、乾氏のものとは比較にならない
クオリティの高さ&面白さだった。
突っ込みたい部分はいくつかあったけど。たとえば(ネタバレにつき薄字で)、
ダイイングメッセージを書き残してから死ぬように加減して殴る、なんて都合のいいことが
果たしてできるものなのか? そもそも頭を殴ったりしたら思考が飛んでまともにメッセージを
残すなんて発想も頭から消し飛んでしまうのでは?

被害者はピアニストでもないのに何故朦朧とした意識の中指紋でメッセージを残すことを
思いつけた? 音楽やっている管理人もあんなもん即座には思いつきません。

被害者は息子にやられたことがわかっているのだから、息子が絶対に気づかないやり方で
メッセージを残す可能性もある。そのリスクを息子は考えなかったのか?

。。。まあこれ以上は野暮なのでやめておきます。純粋に楽しまなくちゃね。



レビューは以上!
覚醒。



三人の人間を殺す。
完璧な準備を整え、自らには一切嫌疑がかからないような殺害計画を整えて……。
そんな決意をした男に降りかかる、思わぬ災厄。ターゲットを殺す前に、
別の人間を殺してしまった……。
人気ミステリー作家石持浅海の新境地。

***

着想はいつも斬新で興味深いものの、いざ読んでみると
登場人物たちの思考の筋道が支離滅裂だったり(「普通そこでそう考える?」
「いや、その考えはおかしいだろう」ということがしばしば)、
とりたてて大したことでもないことがやたら大げさに書かれていたり、
意味もなく美形ばかり登場したり(〝整った顔〟〝美しい顔〟という表現が
作中で連発されるのでだんだん鬱陶しくなってくる)、
と、読むたびに肩透かしばかりくわされている石持作品ではあるのですが、最近はむしろ
そのおかしな部分に突っ込みを入れながら読み進めるのが面白くなってきてしまい、
「それおかしい」「ここ変」等と心の中で言いながら物語を追っています(←嫌な読者)。

本作も。。。
穴だらけの(というか方向性がアサッテすぎる)殺人計画、主人公の独りよがりな憶測、
そういった一連に辟易しながらも敢えてそのアホっぷりを楽しむことで読破(←とことん嫌な読者)。
もちろんそれまでにも数多の突っ込みポイントは登場しましたが。
無意味に多い性描写(しかも表現が稚拙)。
見合いの仲介が趣味のオバサンのようにやたらと周囲の男と女をくっつけたがる
登場人物たち(一応それには理由が設定されているのですが、それにしてもあまりにしつこすぎ)。
ミステリとしても、主人公が〝最後の標的〟と絡み出したときにはもう完全に
オチは読めてしまっていたので、緊迫感も何もなく読み進め、予想通りのことが起きたときには
「ああやっぱりな」。
さらにその後、ある一人の人間の遺体が特殊な方法で処理されるシーンも、それが
最近実際にあった事件で犯人が行った手法とまったく同じだったので
別段驚きもなく新鮮味に欠けた。
挙げ句〝独白〟の終章なんか狙いすぎで興ざめもいいとこだし。

〝覚醒〟といういかにも興味をそそる表現も、結局は〝反社会性人格障害〟もしくは
境界例(ボーダーライン)〟という精神病理を面白おかしく脚色しただけのもので
(ある精神疾患の文献に、一人のカウンセラーが
『治療者がクライアントを心理的に抱きとめ、その結果、面接場面が快適で、
真に安心のできるうつわ(容器)として機能しはじめたとき、往々にして
治療者だけがよきものとなり、他はすべて邪悪であるというように世界を一方的に
分割(分裂機制)してしまうことがある』
と書いてはいますが、いくらフィクションでも〝覚醒〟という設定は極端にすぎる)
それも今のこの世の中では〝覚醒〟した状態と寸分違わない人間なんてそこら中に
ごろごろいるし。それも本作中に登場する〝覚醒者〟たちとは違って、
何の理由もきっかけもなくごく生まれつきにその資質を備えた連中が。
もう一昔前に本作が書かれていたならだいぶ印象は違ったんでしょうが、今この手の物語を
読まされても時代の後追いとしか感じられなかった。

そして本作最大の突っ込みどころはやはり
「あかね、おまえめちゃくちゃやり手の臨床心理士なら
いきなり自分の対立相手を殺そうとしないで
その技術でマインドコントロールでもして相手をうまく懐柔してみせろよ!」

です。それで駄目だったら殺せよ、と。
まあ、だいたい往々にして石持氏の著作は肩書きだけ大層で実力がそれに伴っていない人間が
必ず出てくるので、今さら言ったところでどうしようもないのですが。

と、さんざんボロクソ書きはしましたが、最初に言ったとおり物語自体の発想はいいので
結構面白く読めます。
ただ、あまり真剣に読みすぎると矛盾点にいらんほど気づいてしまってうんざりするので
あくまで娯楽作品として内容を深く追求しないで読むことをおすすめしますが。

alraune_mandrake.jpg











アルラウネ。
誰が誰を捉えたのか。



最愛の息子が失踪した直後、愛人の男が事故で死んだ。もしかして、息子が殺した…?
亡霊のように現れる過去の絆。
第5回ホラーサスペンス大賞受賞作品に加筆して単行本化。

***

数年前に一度読んだものを再読。
やっぱうまいなあ。。。と読後感慨に浸っていました。
自分が歳くったぶん〝母親〟としての年輩(というと失礼ですが)女性の心理が
以前より読み取れるなっていて嬉しい。

著者が割りと(ってこれまた失礼ですが)年齢のいっている人なので
〝新人〟といってもそれなりに小説読み書きの鍛錬は積んでいる方なんでしょうが、
これがデビュー作というのが信じられないほど文章がうまい。そしてミステリとしての
構成力が非常にハイレベル。
最後まで真相が掴めない、勘に頼ろうにもその勘すらうまく働かない、
そんな巧妙な物語世界に最後まで緊張感を保ったまま読み進めることができた。

一人一人のキャラの立ち方もすごいし(ナズナの父ちゃん最高に好きです。この著者は
こういう所帯くさい&人間くさいおっさんの描写がほんとうまいよなー)、
それぞれに魅力があるので誰が登場するシーンも楽しい。それだけじゃなく
誰もがその内に何かしらの狂気を秘めているのでどの人物がどこでどういう行動に出るか
わからない、いい意味でキャラを〝信頼できない〟、その読者と登場人物たちとの間の
距離感も、馴れ合いがなくてすごく心地よかった。

そしてラストで主人公・佐知子が目にする〝気の狂いそうなほど奇妙な光景〟。
私なら本当に気が狂ってしまうかもしれない。
人を本当に狂わせるのは恐怖や孤独じゃなく〝切なさ〟なのかもしれない。
そんな風に思った。

少し難を言うなら主人公が(いくら息子が心配とはいえ)ちょっと自己中心的に過ぎること、
(まあ、だからこそあのラストシーンが光るんでしょうが)
&三人称で書かれた小説とはいえほとんど主人公・佐知子視点の文章なので
佐知子の思考に読み手であるこちらが誘導されてしまいがちなこと(つまり佐知子が
「~に違いない」と断定するように思考するので(しかもそれが地の文で書かれているので)、
読み手は自分で推理するより先にその考えに無意識に従ってしまうこと)。
そしてつまらないケチをつけるなら擬音が全部カタカナなこと。〝メソメソ〟〝ヒタヒタ〟
〝トボトボ〟。。。意外とダサいんですね、小説でこういう表現をすると。

でも相変わらずの傑作でした。
さらに歳とったらまた再読してみるつもりです。
読むたびに新しい発見がある、非常によくできた小説ですこれは。

それにしても佐知子の息子の文彦はかっこいい。。。
これは何歳になって読んでも変わらないだろうなあ。。。(変わらなきゃショタでやばいけど)。

sotoori.jpg







衣通姫。






「今度こそ、終わりにするよ」

 

1000年後の日本。
一見のどかに見える学校で、徹底的に管理されている子供たち。
何も知らずに育った彼らに、悪夢が襲いかかる!
いつわりの共同体が隠しているものとは。
3年半ぶり書下ろし長編小説。

***

貴志祐介氏は唯一私がノンストップでその著作を最後まで読みきってしまうほど
大好きな作家さんで、しかも全作何度も何度も読み返しているので
カバーはよろよろ、文章もところどころ暗記してしまっている始末。
なので本作も予約までして買い、あまりの期待に戦慄さえおぼえながら
読み始めたのですが。。。

今や手元にありません。読後、光速でオークションで売り払ってしまったから。

ひと言で言うなら〝ダークにしたハリー・ポッターの劣化コピー〟。
はっきり言ってまったく面白くない。
「貴志さん、貴志さん。。。!」と心の中ですがるような叫びをあげながら(笑)
読み進めても読み進めても一向に面白くならない。
何だか貴志氏が「どうだ、1000年後の世界をここまで描き出せる俺の想像力は
すごいだろ!」と言いたいがためだけに書かれた、そんな印象を正直受けた。
物語の面白さなんて二の次といったような。

やっぱりベテランの作家さんだけあって、物語世界に独特の雰囲気はあったけど。
でも同じ1000年後の日本を書いた話なら、本作と比べたらぶっちゃけ
リアル鬼ごっこのほうがよっぽどおもしr(以下略)。

何年も待たされた新作だっただけに相当にがっくり来ました。
その後刊行された〝硝子のハンマー〟の続編〝狐火の家〟も全然だったし。

三度目の正直を信じて待ちますよ、貴志さん。
頼むから貴志さんあなたが新世界から帰ってきてくれ。。。
 

本作のテーマ曲、ドヴォルザークの〝家路〟。もし読むのならBGMにどうぞ。
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80年代産の道産子。本と書き物が生きる糧。ミステリ作家を目指し中。
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